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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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報告と忍び寄る影

 ユティスはティアナ達と会話を行った後、リザが待っている入口付近へと来た。するとそこには彼女以外にフレイラやオズエルの姿もあった。


「全員集合か」


 ユティスが呟くと、フレイラから質問が飛んできた。


「ティアナと……話はついた?」

「それについてだけど、明日詳しく話すことになった」

「明日?」

「結論から言わせてもらうけど」


 前置きをして、ユティスは語り出す。


「どうやら……僕とティアナは以前から知り合いだったみたいだ」


 その事実にフレイラは驚いた様子だったが、一方でリザとアシラは何をいまさらという態度を見せた。


「二人は……ティアナ達と僕らが出会ったことを知らないから、それほど違和感はないかな」

「それは封じられていた記憶からの情報ってことでいいのかしら?」


 リザが問うと、ユティスは深々と頷いた。


「うん……簡単に言うと、今から一年と少し前、僕が『精霊式』の魔法を手にしたことで、討伐隊に組み込まれることになった」

「討伐隊、ねえ」

「その中でティアナと出会った。素性は隠していたが僕にはバレて、以後話をすることになったはずなんだけど……まだ、詳細は思い出せない」


 その言葉により、リザは首を傾げた。


「完全に記憶が戻っていないのは敵の仕業かしら……事情はなんとなくわかったけど、今日はこれ以上話さず仕切り直しってこと?」

「そんなところ……というわけで、頃合いだし退出してもいいかな。フレイラ、そっちは何かある?」


 問いにフレイラは首を左右に振った。


「なら、脇役はさっさと帰るに限る……というわけで出よう」

「ユティス、このまま帰るの?」

「そうするつもりだけど……何かある――?」


 と、問い掛けた時点でユティスはあることに気付く。フレイラの顔がずいぶんと強張っている。

 その理由がわからないユティスとしては思わず問い掛けそうになったのだが――フレイラが途端に視線を逸らしたため、結局訊くタイミングを逃してしまった。


(……何か、言われたのか?)


 オズエルに目を向けてみる。彼はどうという態度を見せたわけではないので、会場内で変なことになったわけではないと認識。なので改めて皆に告げた。


「さて、それじゃあ帰ろう」

「挨拶とかはしなくていいのか?」


 オズエルの問いにユティスは「大丈夫」と答えた。

 それからユティスを先頭にして会場を出る。それから兵士達に見送られ、外へと出た。


 まだ深夜に差し掛かるような時間帯ではないが、闇が濃いのは間違いなく、なおかつ夏にも関わらず多少ながら気温が低いように感じた。

 停車させていた馬車に乗り込み、ユティス達は城を出る。外は不気味な程静まり返っており、石畳の床を走る車輪の音がこれ以上にないくらい響き渡っている。


「で、ティアナさんをどうするの?」


 車上、先んじてリザが問い掛ける。ユティスは彼女と目を合わせた後、結論を述べる。


「まず……彼女の最大の問題は経済的な所にある。それさえ解決すれば彼女がロイ兄さん達に協力する必要はなさそうだし、勧誘自体はそれほど難しくないと思う」

「うんうん」

「ただ、なんだか別所からスカウトが来そうな雰囲気なんだよなぁ」

「別? あのお隣にいた騎士のこと?」

「そう」


 ユティスはシルヤについて説明。するとフレイラが苦い顔をした。


「ユティスと同じ王家の血筋か……」

「騎士をやっているし、正式な通達があるのであれば僕としては止めようがない」

「それを押し切って交渉するという手段は?」


 今度はオズエルが問う。


「立場的にティアナさんが微妙なのは理解できる……だが、こちらは王直下の組織だろう? 公爵の力を借りれば、こちらに引き込むことができるんじゃないか?」

「それはそうなんだけど……戦力としては確かに欲しい、というより必要なレベルの人材だとは思うんだけど、無理矢理引きこむのはそれこそブローアッド家と同じようなものだろ?」

「そうかしら」


 リザが言う。違うと言いたげだが――


「ま、いいわ。そこら辺はユティスさんが納得するやり方でいいんじゃないかしら。私達としては団長であるユティスさんの判断に従うまで」

「ありがとう。で、明日都の中にあるティアナの屋敷に向かおうと思っている。エゼンフィクス家は北部に領土を構えているけど、中央と関係のある家柄は都に屋敷を保有していたりもする。エゼンフィクス家の場合は経済的面もあって借りているだけみたいだけどね」

「そう。なら明日からが勝負というわけね」


 リザがそう述べ、話し合いが終わる。やがてラシェンの屋敷に戻り、ユティスとフレイラはラシェンの部屋に通された。

 それから椅子に座り仕事をしていた彼に報告を行う。リザが見た魔法院側とは違う勢力の存在。さらに討伐隊の記憶に関することを話すと、ラシェンは小さく息をついた。


「私の推測……マグシュラントに関する件は考え通りなのかもしれないな……そして、封印された記憶というのはどこまでの範囲に及んでいるのか」

「正直、ここばかりは敵の……つまり魔法院の計略に従っているのでしょう」

「かもしれないな。だが、その状況下で私達は少しでも良い立場を得なければならない」


 ラシェンは告げると、静かに立ち上がった。


「ユティス君。討伐隊についてだが、それは私にも憶えがある。確か第三領域相当の魔物の討伐で、ヨルク殿も加わっていたはずだ」

「はい」

「さすがに隊員の名は記憶にないが……その時ユティス君も従軍していたのか。とはいえ、そんな出来事があれば騎士団の面々が憶えていてもおかしくない。いや、そればかりか――」


 と、ラシェンはユティス達に背を向け、漆黒が映る窓の外に目をやった。


「ティアナ君に関する記憶も誰の所にもない……これは、異常だと言っていいだろう」


 ラシェンの言葉にユティス達は沈黙。その間に彼はなおも話す。


「これは捕捉なのだが……ユティス君。君が『精霊式』の魔法を手にした経緯について調べてみた」

「経緯?」

「病弱な体で契約できるような魔力のある秘境に辿り着けるとは……ユティス君も思っていないだろう?」

「そうですね」

「それについて調べたんだが、君が『精霊式』の魔法を手にする経緯が見つかった。二年前、アングレシア領内で多量の魔力が噴出したケースがあった」


 ――魔力は大気中や大地に含まれており、場合によっては川や風など自然の流れに沿って魔力は様々な場所へと移る。この場合、地下水脈などによって流れてきた魔力がアングレシア領内で噴出した、ということだろうか。


「記録によるとそれより半年前に西方の火山で噴火が起きた。魔力の質を調査した記録によると、その場所の魔力と酷似していたらしく、地底内で魔力の移動があったものと推測される」

「その魔力と、僕は契約を?」

「そういうことになるな……記憶操作と言えど、その辺りの記録に関しては隠滅されていなかったというわけだ」


 ラシェンは振り向き、ユティス達と視線を合わせる。


「ここで疑問なのだが、記憶を封じたこと自体は手法に疑問点があるとはいえ実行している以上可能だと解釈しよう。だが、その範囲がわからない。どういった記憶操作を施したのか……ユティス君が『精霊式』のことを思いだせなかったり、なおかつ討伐隊にユティス君が参加したという事実自体が消えている」

「となると、ファーディル家に関する何かが消えているということですよね?」

「おそらくな。問題は、この記憶操作が敵対する異能者と関連しているかということなのだが……私は、その可能性は低いと思っている」


 ラシェンは語るとまた振り返り窓の外を眺める。


「ユティス君の異能に関して知れ渡ったのは式典以後だ。だが今回の記憶操作は式典前に関することばかり……となると式典、ひいては異能者の存在と関連付ける根拠はないと考えていいだろう」

「確かに……となると、元々何かがあって封印していたものを、今回策として用いることになった、と」

「その解釈でいいだろう」

「……どう使おうと考えているのでしょうか?」

「記憶の全容がつかめていない以上、私としても言及できないな。とはいえ、これは一つの不安を抱えている。記憶をここまで封印させた理由……それが一体何なのか」

「もし記憶が復活したなら……それは策が発動したと同義でしょうね」

「だろうな。ティアナ君をユティス君達に近づけたことから、ロイ君が荷担しているのは間違いない。となると、例えばファーディル家自体が大きくダメージを受けるような記憶を策によって戻す、というのは考えにくいが……調べても出てこない以上、これは記憶が戻らなければわからないな」


 ラシェンは息をつく。ユティスは背を向ける彼を見つつ、思考する。


 都に帰ってきてまだ数日の段階であり、他の兄弟と再会はできていない。問題は他の兄弟達がそうした記憶を思い出しているのか――余裕があれば確かめたい所だった。


「……ひとまず、明日ティアナの屋敷を伺いたいと思います」


 だが今は目先の問題を一つずつ解決していく――ユティスはそう口にした後、同意を得ようとフレイラに視線を送った。

 そこで、気付く。彼女の表情がずいぶんと強張っていることに。


「……フレイラ?」


 名を呼ぶと、彼女は突如我に返り、


「あ、うん。ごめん」

「どうした? 何か気になることが?」


 問い掛けたがフレイラは煮え切らない表情。ユティスとしては何かあるのならきちんと話して欲しいと思い、再度呼び掛けようとした。


「……あの」


 だがそれより前にフレイラが声を発する。意を決し、という態度でありユティスとしては何か重大なことが――という感情で彼女が話し出すのを待っていた。だが、


「――ユティス君」


 フレイラの声を、ひどく重い声音でラシェンが遮った。彼に目を戻すと窓の外を見据え立ち尽くしている。


「屋敷の外に、誰かいるぞ」


 その言葉に、ユティスは眉をひそめる。


「誰か?」

「客人ではないな……これは」


 ラシェンは口元に手を当てた後、窓から距離を置く。


「……すぐに、ナデイル君を呼んでもらえないか?」

「……誰かとは、もしや」


 ユティスの言葉に、ラシェンはなおも重い言葉で、


「もしかすると……先んじて敵が仕掛けてきたのかもしれん」


 言葉と同時――ユティス達は弾かれるように動き出した。


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