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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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過去――討伐隊編成の経緯

 転生前の記憶は、年齢を重ねるごとに徐々に思い出していったが、ユティスは幼少の頃から理解していた――病弱な体を持つ自分は、このまま何もしなければきっと転生前より不幸になると。

 王家の遠縁という血筋に生まれ確かに恵まれた境遇ではあった。対する前世はそれなりという人生だった。けど、今の境遇で何もしなければ、そんな人生も望めなくなるのではないかと体が理解していたのかもしれない。


 だからユティスは体が弱くとも使える魔法に目を向けた――まだ思い出せない部分があるためやや曖昧ではあったが、誰かの鼻を明かしてやろうと思ったことも魔法を手に取った理由の一つだった。その二つがあったからこそ――強くなろうと、ユティスは『精霊式』の魔法にまで手を出した。

 それに関する経緯も不明瞭だったが、ある事を思い出した。『精霊式』を手に入れたことにより、聖賢者と関わることができたのだ――


「いや、こうして弟子と一緒に行動できる日が来るとはなあ」

「……弟子、ですか」


 ユティスは苦笑しつつ彼に返事をする――馬上、討伐隊が目的地へ向かう途中。隊の中でも最後尾でユティス達は会話をしていた。

 ユティスが討伐隊に参加したのはヨルクの仕業であり――彼自身ゴリ押ししたのだろうとユティスは思う。参加させた意図としては『精霊式』魔法の訓練の成果をこの目で確認したいというものだろう。それについてはユティス自身もどこかで検証したいと考えていたので、今回の話については丁度良かったということもある。


 加え、ユティスは他にも討伐隊に参加する理由があったはず――ただ、この点についてはまだ思い出せない。しかしユティスは討伐隊の情景を思い出しながら確信する。その理由こそが、ユティスを討伐隊に参加させた重要な理由であると――


「何だ? そっちは弟子と思っていないのか?」


 ヨルクが問う。ユティスが苦笑したためか、その表情は多少不服そうだった。


「……確かに魔法や剣術の訓練を受けたのは確かですけど……その」

「何だ、はっきり言ってくれよ」

「えっと、ですね」

「言いたいことがあるならきちんと言った方がいいぞ」


 横槍を入る――その人物は騎士シルヤ。彼女は隊の後方で他の騎士達を後方から見守るような形で馬を進めている。


「ユティス殿、どうやらあなたはヨルク殿に遠慮しているようだが、その必要はない……というのは、多少ながら付き合いのあるならわかるだろう」

「ええ、まあ」

「ま、言いたいことはなんとなくわかるけどな」


 ヨルクは肩をすくめた。どうやら色々と自覚はあるらしい。


「つまりあれだな? 俺の指導は大雑把で、実際の所勉強になったのは基礎的な部分だけとか言いたいわけだな?」

「はい」

「即答かよ……正直、ちょっとショックだ」

「無理もない」


 はあ、とため息をつくシルヤ。


「私も実際指導を受けたことがあるのだが……それはもう、形容しがたかった」

「どういう意味だよ」

「そのままの意味だ」

「ほう、そのままとはどういうことだ?」


 喧嘩腰で返答するヨルク。とはいえ本気で怒っている様子ではなく、雑談に興じるつもりなのだとユティスは理解する。

 それより騎士シルヤのことが気に掛かった。ヨルク相手にタメ口で話すのは大丈夫なのかとユティスは一瞬不安になったりもしたのだが――彼がそんな細かいことを言うような性質ではないと思い直し、結局何も言わなかった。


 ヨルクとシルヤが延々と会話をしている中で、行軍は進む。街道を進む討伐隊は理路整然としており士気も高いのだが、周囲は非常に牧歌的な陽気であり、ユティス達の物々しさがひどく浮いているようにも思えた。

 すれ違う旅人が何事かと驚き目を見張る姿もあれば、物珍しさに農夫が視線をやり他の人と会話を成す光景が遠目から確認できたりもする。ただこうした部隊を見慣れているのか商人が、興味深そうに視線を送る姿も見える。もしかすると何か商売になるかも、などと考えているのかもしれない。


 ユティスはそうした光景を一瞥した後、前を進む隊の面々を見据える。こうした隊に配属されるのは初めてであり、最初は緊張していたのだが――ヨルクの態度によってそれも氷解し、今では騎士達を眺めて寸評するくらいの余裕ができていた。

 討伐内容から、騎士団の中でも技量は平均より上の面々が集まっている。そうした人物達が集ったためか、戦闘態勢に入っているわけでもないのに相当な気配が生じている。


(……戦力としては間違いなく十分だろうな。とはいえ、魔物の強さは未知数である以上、注意する必要はあるけれど)


 ――今回討伐隊が倒すべき存在は、山岳地帯に出現した魔物である。ただしその強さは第三領域相当とまで評価されており、だからこそこうした討伐隊の編成を行った。

 その中でユティスは『精霊式』の魔術師として隊の加入を認められた。ただ騎士達がどう考えているのかまったくわからない。ユティスに対し一定の評価を下しているのか、それともいないものと扱われているのか。


(……彼の方もきっと、同じような感じだろうか)


 チラとユティスは隣で移動をする騎士を見る。全身鎧姿の彼――ディーナは、ただただ無言で馬を進めている。

 ヨルクによると、相当な実力者らしく――彼の噂を聞いたことがなかったユティスとしてはその存在に何より驚いた。


(ヨルクさんが認めた技量である以上、相当なものなんだろうけど……その実力が拝見できればいいな)


 そんなことを思っていると――前方から馬の駆ける音。見れば、地方騎士らしき人物が討伐隊に近づいてくる光景がユティスの視界に入る。


「お、さては魔物が出現したな?」


 ヨルクが言う。本来魔物が出現したのならば、管轄する地方騎士がまず対処するのだが――


「今回討伐する魔物に関連しているのでしょうか?」


 ユティスが問い掛けると、ヨルクは「おそらく」と答える。


「普通の魔物と見分けがつくって話だからな。地方騎士が駆け寄って来たのなら、おそらくそうなんんだろう」


 ヨルクが言う。普通ならば地方騎士が治安維持活動として魔物を狩るが、今回の場合少々事情が異なっている。

 騎士が近づいて先頭にいるメドジェと話を行う。彼は報告を受けると騎士達へ呼び掛けた。


「どうやら子供が出現したらしい! まずはそちらを叩く!」


 彼の言葉。それに隊はすぐさま応じる気配を見せ、ユティスもまた心の中で覚悟を決める。


 ――単なる第三領域の魔物ならば、人に危害を加えない限りは無視してもいい。むしろ下手な行動を起こせばさらに魔物を呼び寄せる結果となるかもしれないため、その方がいい場合もある。

 だが今回の場合は事情が違った。討伐を行う魔物の子供とでも言うべき魔物が、根城とする山岳地帯を中心として動き回っている。現在の所人的被害は出ていないが、家畜などを襲っている報告は上がっており、このままではいずれ人が――だからこそ、国も討伐を決定し今回ユティス達が動いている。


「さて、メドジェ達はユティス達を動かすかな……?」


 ヨルクは呟く。ここは微妙な所だった。最初の戦いである以上、騎士達の士気を高めるためメドジェ達が先陣を切るという考えもあるし、最初の戦いでユティス達が使えるどうかを判断するため戦わせるというやり方もある。

 その時、前方から連絡役の騎士が。彼はシルヤと話を行い、すぐさま先頭へと戻っていく。


「ユティス殿、ディーナ殿。どうやら二人にも役目があるらしい」


 シルヤが言う。どうやらユティス達の能力を確認することから始めるらしい。


「ユティス。本来の実力を出せれば加勢は容易なはずだ」


 ここでヨルクがユティスへ述べた。


「緊張や油断はなさそうだな……ま、ユティス達はあくまで補助的な役割だ。基本は騎士団に任せておけばいい。実力をしっかり見ておくのもいいだろうな」

「それはこちらにも同じことが言えるな」


 シルヤが棘のある声音でヨルクへ言う。


「ヨルク殿の推薦である以上、実力については私達も相当あると理解している……だが、その程度がどれほどなのかを知らなければ、私達も彼らを使うことはできない」

「ま、それも一理あるな」

「というわけで、働いてもらうぞ」


 シルヤの言葉に幾人かの騎士が後方に目を移し――すぐさま戻した。ユティスは彼らの後ろ姿を見つつ、返答する。


「お任せください」

「準備万端というわけだな……それじゃあユティス」


 と、ヨルクは笑みを浮かべユティスに語る。


「思う存分、暴れてやれ」

「はい」


 言われなくとも――実戦で『精霊式』を用いるのは初めてで、訓練通り動けるかなどの不安要素はあった。だが、それ以上にどこまで戦えるか――その高揚感がユティスを支配していた。

 ヨルクも感じ取ったのか、笑みを浮かべる。ユティスはそれに小さく頷き返し――ディーナと共に前方へと馬を進めた。


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