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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
183/411

彼女に対する意思

 ユティスは目を凝らして会場をくまなく観察。するとテラス近くにティアナがいるのを発見。シルヤと共に行動しているようで、近づこうと足を踏み出す。


「あ、ユティスさん待って」


 そこで、おもむろにリザが動きを制した。


「ん? どうした?」

「ティアナさんの所に行くのよね?」

「うん、そうだけど」

「たぶん近づけないわよ」

「……どうして?」


 リザはティアナ達のいる方向に視線を送りつつ、語る。


「どうも私達のことを見て、距離を置いているようだから」

「……ああ、なるほど」


 ユティスも理解できた――つまり、さすがのティアナもこんな所でリザとかち合うわけにはいかないということだ。

 ティアナはこれまで散々リザに色々と言われ続けてきた。なおかつ今は彩破騎士団を離れエゼンフィクス家の人間としてこの場にいる。心の内が複雑なのは明白で、リザのことを警戒するのは至極当然と言える。


「となると、リザと共に動く場合は絶対に近寄れないと」


 ユティスの発言に、リザはティアナ達に視線を送りながら首肯した。


「隣にいる騎士さんの仕業のようね。結構あの人やるわよ」

「……わかった。それならリザはいったん離れてもらえるかな」

「了解。私は入口付近にいるから、用が済んだら声を掛けて」


 リザが離れていく。そこでユティスは小さく息をつきつつ、ティアナのいる方向へと歩み出す。

 この状況で離れていくのならばここで話す機会はない――のだが、逃げられるようなことはなかった。程なくしてユティスはティアナ達と鉢合わせとなり、声を掛ける。


「ティアナ……」

「あ、ユティス様。どうも」


 お辞儀をする。態度がよそよそしいのは周囲の目もあるからだろうか。

 改めて二人を観察すると、シルヤが騎士服なのもあってか、まるでお姫様をエスコートするような感じに見える。また立ち姿は男装の麗人そのもので、不思議な迫力に満ちている。


「えっと、その、申し訳ありません」


 まずティアナは謝る。リザのことだろうと推測し、ユティスは首を振る。


「いや、今のティアナからすれば当然の行動だよ……それで」


 彼女を見ながら、ユティスは提案。


「少し話をしないか?」


 その言葉にティアナはシルヤを見る。彼女の方は何も発さなかったが「好きにしたらいい」とでも言いたげに肩をすくめた。


「……わかりました。こちらへ」


 ティアナは承諾し、移動。話し合いの場として設けられたのは、近くのテラスだった。


「……どうぞ」


 ティアナが催促。よって、ユティスは話を始めることにする。


「まず……えっと、騎士シルヤと同行しているのは?」

「護衛、だそうです」

「護衛?」

「少々事情がある」


 答えたのはティアナではなくシルヤ。


「それについては、申し訳ないが部外者であるあなたに申し上げることはできない」

「一応訊くけど、席を外すのは?」

「できない。このまま話してもらえると助かる」

「そうか……わかった。それじゃあ次の質問。ティアナが今回の壮行会に参加した理由は?」

「それは、私もよくわかりません」


 曖昧な回答。順当に考えればロイに言われたためということになりそうだが、ティアナにもその真意がわからないのだろう。


「……うん、なら次」


 淡々と進めるユティスにティアナとシルヤはずいぶんと驚いている様子。だがユティスは構わず口を開き、


「――ティアナが僕らに接近していたのは、経済的な問題が関与していると考えていいのか?」


 ――沈黙が、テラスを包んだ。


 ティアナは何も言えず、なおかつシルヤはなんとも微妙な表情。とはいえ何を言い出すかと怒り出すような様子でもない。彼女は事情を知らなかったのかもしれない。


「どうなんだ?」

「え、っと……」

「で、それにはブローアッド家が関わっている」


 その言葉により、今度はシルヤが僅かに反応した。そちらに注意を払っていなければわからなかった程度の身じろぎ。けれどユティスはその一事により理解する。


「……なるほど、騎士シルヤはブローアッド家絡みで護衛をしていると」

「なぜそう言い切れる?」

「態度に出たから」

「……思ったよりも洞察力があり、また頭の切れる御仁だな」

「そうかな?」


 ユティスは呟きつつ、その事実がどういった結論をもたらすのか考える。ラシェンからもたらされた情報と、ティアナの立場。彼女がブローアッド家からの脅威に対し護衛されている状況――これはおそらくロイの差し金のはずだが、なぜ彼女を護衛するのか理由が思いつかない。


 そして、ブローアッド家の黒い噂――正直な所情報がひどく断片的で推測も難しいが、これらは全て繋がっていると考えた方がいいとユティスは心の中で断じた。


(だとすると、もし次戦うのは魔法院じゃなくてマグシュラントに関連する人物達ということか……? そういう一派の脅威を退けるために、ロイ兄さん達はティアナの護衛を?)


 色々と首を傾げたくなるが――ユティスはそこで一度思考を中断し、話を進めことにした。


「で、ティアナ。話を戻すけど経済的な面で問題があって、例えば以前保有していた立場を捨てたということでいいのか?」


 シルヤが事情を知っているか不明瞭であったため、やや婉曲的にユティスは尋ねる。すると、


「私は彼女についてある程度知っている」


 そういう返答。ならばと、ユティスは話を進める。


「聖騎士候補だったという点……それを放棄した理由が、経済的問題?」

「……以前、私はユティス様に申し上げたはずです」


 ティアナはひどく悲しそうに語る。


「これは、エゼンフィクス家の問題であると」

「……当然、僕らに援助を申し出ることなどできないな。理由はどうあれ、商家である以上そうした問題は自ら招きよせたということだろうから」


 ティアナは頷いた――結局の所、それが問題だった。


 彼女がブローアッド家と関わってどうなるかわからない――しかし、その原因は元を正せばエゼンフィクス家の中にある。放漫な商売でもしていたか、投資に失敗したか――ともあれ、経済的な事由ならばそうしたことだろうとユティスにも推測できた。


 しかし、


「……それでも」


 ユティスは、言葉を紡ぐ。


「それでも、ラシェン公爵は支援を行うと申し出た」


 ティアナは何も答えない。それについては、予測していたのかもしれない。


「勝手に調べたことについては謝る。けど、事情を知ったのなら、僕らは――」

「それは……」

「無論、相手がラシェン公爵である以上無償で助けるなんて虫のいいことにはならないよ……けど、ブローアッド家に頼るよりはずっといいと思う」


 ティアナは再度沈黙。同時に俯いた。


「……正直、支援を理由に色々言うのは僕としてもあまりよくないと思っている。本来ならばもっと別の形でこうやって話をしたいとは思っていた」

「……ユティス様」

「けど、言ってみればこれは先行投資のようなものでもある」


 ユティスは語る――そこでなぜかシルヤが目を見開いたのだが、無視した。


「ティアナの聖騎士候補としての力……これを失うのは国家的損失だと思うんだ。だからラシェン公爵は助けるつもりでいる……つまりは、そういうことだよ」

「……それで、ユティス様は」


 ティアナは顔を上げる。不安を抱いた子供のような顔だった。


「私に、何を望んでおられるのですか?」


 決まりきった答え――ユティスは思いながら、告げる。


「まず、ティアナがどうしたいかを訊きたい」

「え……?」

「経済的な問題を解消し、その上でティアナはどうしたいかを訊きたい……剣を握ることを辞めたいというのなら、それも答えとしてはアリだと思う。また本格的に聖騎士となるべく訓練を重ねたいというのなら、その答えでもいい」

「……つまり、ユティス殿は自身の持っている交渉材料を捨てると?」


 シルヤの声。ユティスは即座に顔を向け、


「そういうことになるかな」

「……全てをまっさらにした上で、改めて彼女と話がしたいと?」

「経済的援助を理由にして、というのは僕としても心苦しい。まあラシェン公爵は助力を交換条件にするんだろうけど……そんな風に交渉しないよう説得、してみるよ」

「……御人好しだな」


 手厳しい言葉。けれどユティスは気にする風もなく肩をすくめた。


「二心ありで騎士団に加わった方が、将来的に厄介だと思わない?」

「そういう考えもあるな……しかし」


 と、そこで突如シルヤは笑い出した。


「そういう説得の仕方か……これは面白い」

「面白い?」

「いや、単に経済的援助を利用して旗下に加えようとしたなら、私は物申そうと思ったわけだ」


 シルヤは肩をすくめる。


「私も王家の端くれ……その上で、私としても彼女の武力を失くすのは惜しいと考え、色々と手を打とうかと考えた」

「え……?」


 目を瞬かせるティアナ。こういう展開は予想していなかったらしい。


「まあ、それだけの価値があなたにあるということだ」


 シルヤは笑う。ユティスもまたそうだと言わんばかりに頷いた。

 ティアナはなおも押し黙ったままだったが、それでも認められて嬉しかったのか少しばかり顔を赤くする。そんな様子を見て、ユティスはどういう結末であれ彼女が不幸になることはないと安堵した気持ちも抱き――


 刹那、ユティスは硬直した。


「……え?」


 呟く。それを見て取ったシルヤは首を傾げ、


「ユティス殿? どうした?」


 彼女が問い掛ける。だがユティスは答えられなかった。


「……こんな光景が」

「え?」

「こんな光景……以前にも、なかった?」


 誰に質問をしたというわけではない。ティアナとシルヤは首を傾げ――いや、直後にシルヤは顔を強張らせた。

 それは紛れもなく、ユティスの質問を肯定する顔つき。


「……討伐隊」


 そしてキーワードを呟く。それにティアナも反応し、口元に手を当てた。


「あの討伐隊の時に……こうした会話を……したような気がしますね」


 それがいつ、どういった時なのかはユティスにもわからない。これは完全に記憶が戻っていないためだろう。

 しかし、断言できる――こういう会話があったのは間違いない。


「……今思い出したというのも摩訶不思議だが」


 シルヤが、口を開く。


「討伐隊の時、こういう話をしたような気がするな……詳細はまだ思い出せないが」

「はい」


 頷くユティス――それと同時に、記憶から討伐隊の情景が蘇り始めた。


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