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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
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第三勢力と異能者

 まずユティス達は騎士団へと挨拶へ向かう。その目標は、


「……騎士バルゴ」

「ああ、ユティス殿か」


 気さくな笑みを向けるバルゴ。それに対しユティスは内心では嘆息しつつも、微笑で応じた。


「此度、銀霊騎士団創設の壮行会に参加できて、嬉しく思います」

「君達にとっては面倒なことになったと思っているかもしれないが、これも国の方針だ。仲良くやろうじゃないか」


 バルゴは豪快に笑いつつ語ると、視線をリザへ移した。


「彼女は――」

「あ、はい。ネイレスファルトで登用しました闘士。リザ=オベウスです」

「よろしくお願いします」

「闘士、か」


 バルゴは挨拶を行ったリザを観察。


「そうか。見た目の上ではそう強い気配も感じないが、闘士となれば話は別かもしれんな。実は先日開催された闘技大会に出場した騎士がいてな。闘士相手に手を焼いていたという話があったよ」

「そうですか」

「リザ君、よろしく頼む」

「はい、こちらこそ」


 丁寧に応じるリザ。ユティスはバルゴに視線を送りつつ、話を進める。


「彩破騎士団としては、今後銀霊騎士団と連携を図っていきたいと思っております」

「こちらもそれは同じだ。異能者や難敵と幾度となく戦った経験は私達としても欲しい」


 幾度、というのはネイレスファルトに関することが入っているのか入っていないのか――とはいえその辺りを話すつもりはないのか、微笑を浮かべるだけ。


「こちらとしても、少数であるが故に大規模な戦いとなれば非常に対処が難しい……異能者は脅威です。お互い、協力していきたいですね」

「ああ。その辺りに関してはいずれ協議をしようじゃないか」


 ここでユティスは思う――言葉尻から、例えば彩破騎士団を銀霊騎士団に取り込むなどと考えている様子はなさそうだった。


(陛下直轄の組織ということで、そういう手が使えないと思ったのか……魔法院が今以上に権力を有したのであれば、そうした強引な手が取られる可能性は否定できないけど……)


 今すぐにそのようなことを実行する気配はない――ユティスは思いつつ視線を変えた。


「ところで、騎士バルゴ」

「ああ、エドルのことかい?」


 図星だったので即座に頷く。すると彼はにこやかに笑い、


「今は……別の貴族に捕まっているな。君も気になっているだろう。話は自由にしてもらっていいよ」

「ありがとうございます……では私はこれで」

「うむ」


 頷いたのを見計らい、ユティスはバルゴから離れる。


「……イヤミがないというのも、面倒な感じよね」


 リザが言う。そこでユティスは訊いた。


「『霊眼』は効いた?」

「そこそこ訓練はしているみたいだけど、完全ではないわ……そうね、私に対しては警戒は薄かったわ。私の気配を探り、そう判断したんでしょう」

「気配を探り……か」

「どの程度認識したのかはわからないわね。その辺りは上手く隠された……ま、油断はしないことね」


 結論を出し、ユティスは頷いて別の人物に声を掛ける――それを幾度となく続け、ユティス達はとりあえず何か食べようということで小休止を行う。


「挨拶するだけも大変なのね」

「まあね」


 ユティスはリザの言葉に応じつつ、現時点での状況を振り返る。

 リザは会話を終えると会話に色を紛れ込ませ敵意があるのかないのかを告げる。まだ会話を成していない面々の方が多いが、今のところは赤――つまり敵対しそうな雰囲気を持つ人物が多い。


「というか、私からすると怖いわねぇ」


 感想を述べるリザ。それにユティスは首絵を傾げた。


「怖い?」

「だって、ユティスさんに対しずいぶんと丁寧に応じているのに、内心ではびっくりするぐらい敵意を持っていたりするのよ? 正直、疑心暗鬼になるわ」

「それが、社交界というものだよ」

「面倒なのね。上流階級の人って」

「……ここには現場で剣を振るような人も多いから、まだマシだと思う。もっと商人とか貴族とかが集まるような場所だと――」

「想像するだけで気分悪くなりそうだわ」


 深いため息をつくリザ。普段超然としている彼女を知るユティスには、ずいぶんと新鮮に映る表情。


「なるほど、これはユティスさんも大変だと言うわけだ……と」

「ん?」


 急に言葉を止めたためユティスはリザに問い掛けようとした。だが寸前で止まった。ユティス達に近づく人影を発見したためだ。


「初めまして、ユティス様」


 黒い瞳と一重まぶたを瞳を持つ人物。長い茶髪を後ろで一本に束ねており、なおかつ柔和な微笑を浮かべる姿――とはいえユティスとしてはずいぶんと不気味に見えた。


「ニデル=アルオンと申します」

「ニデル……どうも」


 返事をすると彼はリザへ視線を送り、


「そちらの方は、見覚えがあります。騎士フレイラと共にいた方ですね」

「あら、あなたはスカウトに行っていた人かしら?」

「そういうことです。ユティス様、今後ともよろしくお願いします」

「あなたも銀霊騎士団に?」

「残念ながらそうした枠に入れる技量ではありませんが……もしかすると異能者との戦いに参加するかもしれません」


 そこまで言うと、彼は一礼して立ち去った。彼を見送ったユティスは、リザに問う。


「明らかに赤色っぽいけど……リザ、どうだ?」

「そうねぇ、強いて言えば」


 と、リザは神妙な顔つきを見せ、


「青色、かしら」

「……青?」

「なんだか赤色の人達にも敵意を向けているような感じだったのよねぇ」

「闘技大会の時に見かけたけど、マグシュラント王国の騎士が発する気配と似ているのよね」


 その指摘に、ユティスは思い出した。


「彼はブローアッド家の騎士……なるほど、物的証拠はないにしろマグシュラントと関連する家柄と見ていいのかな」

「彼がここに呼ばれたのには、何か理由があるのかしら?」


 リザの言葉に、確かに疑問だとユティスは思う。

 魔法院側だってマグシュラントに関する人間など銀霊騎士団には入れないのは当然。加え、こうした場に呼ぶことすら敬遠しそうなものだが、こうして呼ばれたのは何を意味しているのか――


「……検証は後にするか」


 ユティスは思考を中断し、リザに一応解説を行う。


「彼は僕が噂を耳にするくらいの技量を持っていたはずだけど……採用されなかったのは、マグシュラント絡みの人物という結論に至ったからだろう」

「腕が立つといっても、危ないと判断したわけね」

「その可能性が高い……実際、騎士シルヤなんかも相当な腕を持っていたけど、今まで騎士達が語っていた話では銀霊騎士団に参加していない……これは僕と同じように王家の遠縁で、僕ら側につく可能性を危惧したのかも」

「つまり、命令に忠実な……魔法院が制御できるメンバーを集めたと」

「そういうこと」


 返事をしつつ、ユティスはふと思う。なぜニデルがこの場で接触をしてきたのか。


(まあその辺りも、検証は後にしよう)


 まずは方々に挨拶を――ユティスは決断し、再度動き始めた。






 やがて挨拶が一通り終わった段階で、リザと話し合い。結果、現状味方になりそうな人物は少ないと判断。


「やっぱり状況的に苦しいか……けどまあ、嘆いても仕方がないか」

「ずいぶんとあっさりしているのね」

「リザ達が加わってくれたことが大きいかな?」


 少数とはいえ精鋭がいる――それがユティスにとって多少なりとも肩を楽にしていたのは事実。


「最初敵だらけだったことを考えれば十分だよ……さて、いよいよ本題に入ろうか」

「本題? ティアナさん?」

「いや、それよりも先に……エドルだ」


 視線を移すと彼もまた挨拶を一通り終えたらしく、ホールの隅で食事を行っていた。


「行こう」


 ユティスは指示。そしてリザと共にエドルへと歩み寄って行った。

 近寄っていくと、エドルはそれに気付いたか顔を向ける。直後ユティスであることを認めて、少しばかり顔が硬直した。


「なんだか、申し訳ないって感じの雰囲気ねぇ」


 遠目から見た段階でリザが感想を漏らす。その言葉でユティスはエドルがどのように考えているのかを理解しつつ――話しかけた。


「エドル、久しぶり」

「は、はい」


 緊張した声音。貴族服姿なのだが、正直に似合っていないとユティスは思う。


「銀霊騎士団に参加したらしいから、挨拶にと」


 その言葉で――エドルは申し訳なさそうに俯いた。


「……その」

「何か理由があるのは、僕も理解している」


 彼は沈黙。その間にユティスは続ける。


「だからその件については、何も話さなくていいよ……ただ、一つ。銀霊騎士団の立ち位置というのは、理解できている?」

「おぼろげながら、ですけど」


 顔を上げ、神妙な態度でエドルは応じた。


「この城で過ごし、少しだけですが自分の立場や、ユティスさんの立場を理解できてきました」

「それなら……もしかすると、戦うことになるかもしれないと考えているはずだ」


 エドルは、躊躇いがちに頷く。


「その、こうなった経緯については話すことができません。ただ……」

「わかっているよ。僕としてもエドルの行動を止める権利はない。だけど、場合によっては……悲しいけれど、対立することになる」


 エドルは険しい顔をした。そこでユティスは強い瞳を伴い、


「そうなった場合は……僕がエドルと共に戦えるようにするさ」


 ――決意の言葉に、エドルが驚いた表情を示した。


「それは……」

「現在、僕ら彩破騎士団の立場が弱いのは確かだ。けど、これが改善され宮廷の人々から認められれば、いずれ銀霊騎士団の面々と和解できる日だってくるだろう」


 もっとも、和解するといってもあくまで権力的に上をいった場合に限るが――ともかく、


「そうなるよう、僕は動くまでだ」


 述べると同時に、ユティスはふとネイレスファルトで出会った面々のことを思い出す。

 敵味方含めた面々との出会い――ユティスは少なくともこうして国内で分裂している状態ではまずいと考えていた。だからこそ、どのような形であれ異能者と戦うべく一つになる必要があると考える。


「その時になったら、こうなった原因は改めて話してもらえればいいよ」

「……ユティスさん」


 名を告げたエドルは、ユティスをなおも驚愕した視線で見据え、


「なんだか、ずいぶんと変わりましたね」

「……変わった?」

「その、すごく自信をつけたというか……あ、その。以前は全然そういうのがなかったと言いたいわけでは」

「わかってるよ」


 ユティスは苦笑する――仲間が増えたこともあるが、一番の変化はやはり『精霊式』の魔法と記憶を思い出したことだろう。


「それについても、いずれ話す機会があれば」

「は、はい」


 エドルは頷き、ユティス達はその場を離れる。途端、リザが口添えした。


「なんだか、すごく後ろめたい隠し事をしているって感じ」

「僕に対して敵対感情はあるのか?」

「まったく。正直拍子抜けしたくらい」

「そっか……けど、そうであれば心の内にある問題を解決すれば共に戦ってくれるはずだ」


 ユティスは言いつつ――ふと、エドルに関することで一つ推測を立てた。けれどこれは確定ではなくあくまでユティスの勝手な考えなので、口には出さず頭の隅にしまっておくことにした。


「さて、次は……」


 ティアナの方へ――そう思い、ユティスは会場を見回した。


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