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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第七話
179/411

王家遠縁の動き

 話をラシェンから振られることになり、ユティスは一時考える。


「……僕は」


 声を発するユティス。視線が集まり、少し沈黙が生じ――


「……これについては、僕に一任させてもらってもいいかな」

「何か考えが?」


 フレイラが問う。ユティスは彼女に対し頷き、


「どうするか、考えてはいたから……ただ、ティアナと直接話をしないと判断はできないな」

「パーティーの参加者を聞いたところでは、彼女も出席者に入っていたはずだ」


 これはラシェンの言葉。それにユティスは「なら」と前置きをして、


「その場で話ができるのなら……考えていることを含め、検討したいと思います」

「わかった。経済的援助の面は私がなんとかすると言ってくれ」

「……良いのですか?」

「これは私の考えだが、聖騎士候補をこういった形で失うのは国家的な損失になると思ってね。もしユティス君達が彩破騎士団に入れないとしても、何かしら仕事を与えて活動させようと思っていた」

「……わかりました」


 それなら――ユティスは頭の中で決心。


「彼女については、僕が対応します」

「よし……ただ、ブローアッド家が関わっている以上、何かしらちょっかいをかけてくる可能性が考えられる。そもそも私達にはあの家がなぜエゼンフィクス家に援助を行い、なおかつティアナ君に干渉しようとしているのかわかっていない。その理由によっては衝突する可能性もゼロではない」

「……ラシェン公爵。一つ確認ですが」


 そこでユティスは声を発する。いくつもあるブローアッド家に関する噂。その内の一つに、今のユティスにとって嫌な噂が存在していた。


「ブローアッド家は、色々と裏の家業をしているという話がありますよね?」

「あくまで噂、だがな。証拠はない」

「……その中で裏には国があるという話がありましたよね」

「ああ、確かに噂として存在しているな。陰謀論めいた話だが……ロゼルスト王国にはさまざまな国のスパイが紛れ込んでいる。で、その中の一つでマグシュラント王国の間者がブローアッド家と接触しているという――」


 そう語った瞬間、オズエルやジシスが渋い顔をした。いち早く反応したのは、ネイレスファルトでマグシュラントと関わったためだろう。


「……そこにいる二人はずいぶんと険しい顔だが」

「ラシェン公爵。そういった具体名が出るのには何か理由がありましたか?」


 質問を無視しユティスは問う。するとラシェンは一考し、


「……マグシュラント王国は特別な暗殺者などを所持しているという話はあるだろう? それが眉唾だとしてもあの国は大規模な諜報機関が存在している。その組織の人間がロゼルストに潜入し活動しており、また元々汚い仕事をするという噂の合ったブローアッド家と関わりがあるのでは、という風に繋がったのではないかと思っている」

「書面で事前に報告しているはずですが、僕らはマグシュラント王国の敵と戦った経緯がある」

「ああ、あったな……なるほど、もしティアナ君に干渉しマグシュラントと繋がりがあるという噂が本当なら、仕掛けてくる可能性が十分あるというわけか」

「パーティー当日は、警戒しないといけないかな」


 フレイラが言う。それにユティスは頷き、


「ラシェン公爵。パーティー当日……いえ、今後はある程度警戒した方がいいかもしれません」

「そうだな。話を聞く分には……あくまで噂レベルでの話だが、少なくともマグシュラントの手勢が仕掛けてくる可能性はありそうだ」


 そう述べたラシェンは、ユティス達に提言する。


「こうやって屋敷に戻ってから言うのは申し訳ないが、しばらく私の屋敷を利用するといい」

「ラシェン公爵の屋敷を?」

「私の屋敷ならば私自身の権限で兵をある程度自由に動かせる。なおかつ、私の屋敷は襲撃にあっても大丈夫なよう扉などが相当に補強されている。ここよりは安全なはずだ」

「ですが、僕らが勝手にラシェン公爵の屋敷に移動したとなると、怪しまれるのでは?」

「理由はどうとでもできるだろう。そうだな、こうして新たな団員が集まったのだ。この屋敷自体騎士団の機能を充実させるべく改装しようと考えていた。このタイミングで改装作業に入ろう」


 即断即決。なんだかあっさりと決まってしまったが、ユティスとしては理由としてそれなりだと思ったので頷いた。


「わかりました……では、それで」

「うむ。そうと決まれば準備に入ろう」


 ――帰った直後からバタバタしてしまいそうだったが、文句は言っていられない。ユティス達は一度互いに顔を見合わせた後、ラシェンの提案に従い行動を開始した。



 * * *



 ティアナがユティス達と離れ城に辿り着いたのは、ユティス達がラシェンと話し合いを開始したほぼ同時刻。そして訪れたのは、ロイが使用している執務室だった。


「ご苦労だった」


 ロイは労うが――ティアナとしては特別何かをしたというわけではないため、そんな言葉を掛けられること自体、違和感を覚える。


「微妙な顔をしているな……ほら、異能者との戦いに参加したりなどあったそうじゃないか」

「……ご存知なのですか?」


 ティアナの問いにロイは微笑を浮かべる。それだけだったが、ティアナとしては彼が彩破騎士団が行動していた内容は把握しているのだろうと察することができた。


「さて、ここまで彩破騎士団と共に行動してきたわけだが……ここで、少し彼らと距離を置いて欲しい」


 そしてロイは告げる。ティアナとしては頷く以外の選択肢はない。


「とはいえ、だ。おそらくパーティーの時に話をすることになるだろう」

「……パーティー?」

「銀霊騎士団の発足に関する壮行会だよ。まあ壮行会とは名ばかりの単なる騎士主催のパーティーになるだろうけれど」

「それに私も参加するのですか?」

「ああ」


 にべもなく頷くロイ。ティアナとしてはもう騎士団と関係のない自分がそうしたパーティーに参加できるとは思えないのだが――


「彩破騎士団と共に活動していたことにより、参加が許されたというわけだ。君からも異能に関する話を聞きたいという騎士もいるし」


 理由としては微妙だが、ティアナは「わかりました」と答えるに留めておく。


「では……私は一度屋敷に戻るということで――」

「ああ。ちなみにだが、現在君のご両親のいる屋敷には城から騎士団が派遣されている」


 寝耳に水だった。ティアナは目を大きく開け、


「なぜ、ですか?」

「事情があってね」


 それだけ。とはいえさすがに流すことはできず、さらに問い掛ける。


「事情……両親が何かしたと?」

「彼らではないよ……言ってしまうと、護衛だ」

「護衛?」


 ティアナが聞き返すとロイは神妙な顔つきとなり、


「……場合によっては、ブローアッド家の人間が干渉してくる可能性があった」


 ――その家の名が出た瞬間、ティアナは思わず身震いした。


 身辺調査を行っている以上、エゼンフィクス家とブローアッド家とが関わっているという事実を知っているのは至極当然。だが、ここでその名が出たということは――


「……ティアナさん、エゼンフィクス家は経済的に苦境に立たされた段階でブローアッド家と関わりを持った。そうだね?」

「はい」

「そして、経済的援助をする代わりに相手は何を要求した?」


 ロイの問いにティアナは一時沈黙。しかし答えなければ先に進まないと判断し、


「……私が、ブローアッド家の養女となることです」

「その辺りの理由は、わからないね?」

「はい。なぜ私を養女とする必要があるのかなど……心当たりはありません」


 そうした返答を聞いた直後、ロイは納得の笑みを浮かべた。


「具体的な理由はこちらもわからない……しかし、ブローアッド家の動向を探っていると、何か色々と物騒な動きをしている気配がある」

「物騒……?」

「武装した人間を屋敷に引き入れたりとかね……まあ、さすがに城に直接殴り込むわけではないだろうし、街中で騒動を起こすような真似はしないだろうから、屋敷にいれば護衛もいるし安全だろう。その動きと君を養女にすることについて関連があるのかどうかはわからないが、一応警戒しておこうと思ったわけだ」


 ――そもそも、なぜそこまでエゼンフィクス家にロイを始めとした魔法院側の人間が干渉するのかが理解できない。聖騎士候補だった経験がそうさせているとは到底思えない――ただ一つ言えるのは、ロイはブローアッド家が何をしようとしているのかを理解している。そしてエゼンフィクス家に危機が迫っていると判断し、護衛を置いた。でなければブローアッド家の動きを見て騎士を派遣するはずがない。

 もっとも、そこまでしてエゼンフィクス家を守ろうとする理由はわからない。これも魔法院と共謀した何かの策なのか――


「そういうわけで、屋敷には騎士がいるけど驚かないようにしてくれ」

「……わかりました」


 ティアナは頷く。話していてわからないことばかりだったが、ここで疑問を解決することはできないというのは把握していた。

 なので、ティアナはそのまま一礼し退出する。城の出口まで行こうと歩き始めた時、ふいに声を掛けられた。


「待った」


 中性的な――ただし女性だとなんとなくわかる声。ティアナにとっては聞き覚えがあったので立ち止まり、声のした横に体を向ける。


「……騎士、シルヤ」


 短い茜色の髪を所持し、近衛騎士団を示す金と青の装飾が施された鎧を身にまとった女性騎士――名をシルヤ=ネヴァビス。ユティスと同じ王家の血を所持する家柄の人物であり、単純に血の濃さだけを言えばファーディル家よりも王家に近い存在である。


「私が君の護衛を仰せつかった。屋敷まで送ろう」


 ハキハキとした男性口調でシルヤは告げる。ティアナは戸惑う他なかったが「お願いします」と告げ、彼女と共に歩き出した。


 ――ティアナは一度、彼女と行動を共にした経験がある。といっても聖騎士として実力を図る魔物討伐の一員だったというだけで、彼女と深く接していたわけでもない。そもそもあの時ティアナは全身鎧姿で、女性であることを露見されないようにして、なおかつ一言も喋らなかったので至極当然と言える。


 なので、ティアナ自身は意識していたとしても、シルヤの方は知らないはずで――


「……君の事は、多少ながらロイ殿から聞いた」


 唐突に話しかけられた。


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