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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
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闘士への言葉

 ――やがて、闘技大会の最終日の朝を迎えた。


 ユティス達は結局闘技大会を通して人を雇うことはできなかったが、加わった面々のことを考えれば、割り切ることはできた。

 それにユティス自身最後まで大会を観戦しなかったため、最終日だからといって感慨があるわけでもないのだが――今ユティスの目の前にいる人物は違うだろう。


「まずは、おめでとうございます」

「まだ確定したわけではないけどね」


 ユティスの目の前には、コーデリア。今回彼女の部屋を訪れ、なおかつ朝食をともにするという形で話をすることとなった。なぜ今日なのかという理由は、レオが優勝が決まればさすがにゆっくりと彼女達と話をすることができなくなるだろう、という考えから。

 今回はレオも同席し、コーデリアの隣で食事をしている。話によると彼女は家臣と朝は食事をしているらしく、レオ自身リラックスしていた。


「ですが、話によると騎士レオに勝てる人物はいないとのことで」

「……きちんと実力が出せれば、勝てると思うわ」


 コーデリアは告げる。決勝戦におけるレオの相手は有名な闘士とのことではあるが、彼の地力ならまず勝てるとのことだった。


「騎士ヴィレムと手合わせてできなかったのは少々心残りだけど……しかし、彼の境遇などを加味すれば、これで良かったのかもしれないわね」


 語りながら彼女はお茶を飲む。


「ともかく、私は手土産を持参して本国に帰ることができる……ユティス様」

「はい」

「お互い、大陸の東西で離れた位置にいるけれど……異能者との戦いは、間違いなく国を跨いでの激しい戦いとなるはず。私達は互いに連携し合わなければならないと思うわ」

「だと思います」

「公的に何かをすることは現段階ではできないけれど……今後とも、よろしくお願いするわ」

「はい」


 ユティスが強く頷くと、コーデリアも強く頷き返した。


「……とはいえ、僕の方はまず自国での立場を確保しなければなりませんが」

「それは私達も同じ……レオ」

「はい」

「今回の件を糧にして、さらに強くなること。そして、異能者と戦えるよう確固たる地盤を確保する……頑張りましょう」

「はい」


 強い返事をするレオ。二人は大丈夫――そうユティスは心の中で呟いた後、コーデリアへ告げた。


「お互い、次再会した時はきちんと国に認められた公的な場で」

「ええ」


 にっこりとコーデリアが笑み――朝食の時間は終了した。


 その足でユティスは、別の部屋へと向かう。やっておかなければならないこと――とうとう最後の一つとなった。

 ある客室の前に立ちどまり、ノックする。


「はーい」


 女性――リザの声。ユティスは「入るよ」と一言告げて、扉を開けた。

 中を見ると、椅子に腰掛け外を眺めるリザの姿。ユティスは彼女に視線を向けつつ扉を閉め、近づいていく。


「リザさん、少しいい?」

「いいわよ。まだ何かあるのかしら?」

「やるべきことはほぼ終わったよ……アシラやオズエルという部下も得た。ネイレスファルトでの活動は、大成功だと言っていい」

「オズエルって魔術師さんも相当な力を持っているようだし……ま、少数精鋭という組織の中でもかなりの面々じゃない?」

「そうだね」


 ユティスは同意し――途端、リザはクスリと笑う。


「ユティスさん、気付いてる?」

「え? 何を?」

「正直、私が最初に出会った時と比べて、ずいぶんと様子が変わっているわ」

「……具体的には?」

「なんだか自信がついたみたい」

「……仲間が増えたからかな? それとも、『精霊式』の魔法を思い出したからかな」

「それもあるんだろうけど……少し、違うと思うわ」

「どういうこと?」


 首を傾げたユティスに対し、リザは肩をすくめた。


「なんというか……色々と体が思い出し始めて、それまで溜まった経験値がユティスさんの中から出て、雰囲気が変わったという感じ」

「……全然具体的じゃないな」

「けど、そう表現するしかないもの」


 そこでユティスは歎息し――動きが止まる。


 具体的な事はまだ思い出せない。けれど確信はできた。前世の記憶は年齢を重ねるごとに思い出していたが、頭の中には生まれた時から前世の記憶は全て眠っていたのだろう――病弱な体に不満を抱いたこともあったが、記憶を失くす前の自分は、そうした境遇でもどうすればいいのか必死に考え、懸命になっていた。それは間違いない。

 病弱であったことは確かにハンデだった。しかし、魔法の勉強をしてなおかつ『精霊式』の魔法まで――まだ具体的に思い出せないが、誰かを見返すというのが大きな理由の一つであったはず。しかしそれだけではない。多少なりともリスクがあったにも関わらず精霊と契約しようとしたのは、間違いなく前世の記憶が眠っていて、今の境遇を良くしようと頑張っていたからだ。


(もう一つの、見返してやるという理由……それも、思い出せるといいな)


 同時にユティスは思う。記憶を失くしていた今のユティスは、境遇に押し潰されそうだった。しかし、記憶があった時は違う――見返してやるという感情は、前世の記憶と共にユティスを懸命にした理由だったはずだ。だからこそ、思い出したいと感じた。


「どうしたの?」


 リザが問う。そこでユティスは「ごめん」と一言添えた後、リザに告げた。


「えっと、話を戻すよ……さっきも言ったけど、やるべきことはほとんど終わった」

「ええ……ほとんどってことは、まだあるのね?」

「ああ」

「それを手伝って欲しいと?」

「そうだ……リザさん」

「ええ」


 ユティスは一拍置いて、彼女に告げる。


「――彩破騎士団に、加わってもらえないだろうか」


 提案した直後、一時沈黙が訪れる。彼女は目をぱちくりとさせ、しばしユティスと見つめ合う。

 やがてユティスの語った内容を理解したらしいリザは、わざとらしく大きな息を吐き、口を開いた。


「……確認だけど、それは何のため?」

「騎士団の戦力として」

「私は……言う程戦力的に価値はないと思うのだけど」

「何で急に卑屈になっているんだ?」


 問い掛けに、リザはビクッとなる。若干挙動が怪しく、ユティスはこれまでに見たことのない態度だと思い、ちょっと新鮮に感じた。


「まあ、そうだな……リザさんを採用しようと思った要因はいくつもあるんだけど、ティアナと互角に戦える能力と……なおかつ、その相手の心情を察する力とかが気になったからかな」

「ああ、なるほど……つまり『霊眼』を使って色々諜報活動をしろと」

「そこまでは言っていないけど、アシラなんかとは違う技能を持っているリザに団員として加わって欲しいと思ったのは間違いない」


 そこまで語ったユティスは一呼吸置いた。


「……断られたら素直に引き下がるよ。ビジネス上のやり取りならこの城で完結しているし、何より色々と助けてもらった手前、そう強く言える立場でもない」

「私としても、あなた達に助けられた面があるわね」


 リザは言う。それと同時に微笑を見せる。


「ユティスさんがネイレスファルトを訪れた直後の事件はその最たるものね。どういう理由であれ、ユティスさんは町のために戦ってくれた……さらに言えば、学院での騒動も解決した」

「それって、リザさんとはほとんど関係ないけど」

「そう? けど、あのまま色々と騒動が拡大したら、いずれ私にも来るとは思わない?」

「まあ、確かに」


 リザはクスリと笑う。理由はどうあれ、リザが助けられたと思っているのは間違いないのだとユティスは思う。


「さて、僕はリザさんに要望を提示したわけだけど……答えを聞きたい」

「そうね」


 リザは頷き、ユティスと向き合う。いつもはどこか斜に構えている様子が垣間見られたのだが、今この時においてはずいぶんと殊勝な態度だった。


「……一つ、確認したいのだけれど」

「いいよ」

「行く場合、さすがに私が根城にする北東部の面々には言わないとまずいのだけれど」

「……準備が必要ならその時間は用意するよ。闘技大会はもう終わるため僕らとしても後は帰るだけだけど……そのくらいの融通は効く」

「そう」


 リザは返事をした後、小さく息をついた。


「私は……本音を言えば、テオドリウスのことも気になっていた」

「うん」

「けどまあ、それを理由にユティスさんの騎士団に入ろうなどとは思わなかったわ。むしろ、ユティスさんから言われるとは思わなかった」

「……リザさんの『霊眼』を使えば、わかったんじゃないの?」

「あれには掴みやすい感情と把握しにくい感情の流れがあるのよ……それに、私は別に誰彼かまわずあの力を使っているわけじゃないわ。基本、身内とか味方には使わないようにしているわよ。当然でしょ?」

「……ティアナはいいの?」

「彼女はどっちなのかわからないじゃない」


 つまり、ユティス達とは少し違い立場だからああして色々干渉しているということか。


「けどまあ、もし請われたら従うつもりではいたわ」

「……それじゃあ」

「先に言っておくけど、私はどれくらい立ち回れるかわからないわよ?」

「リザさんにはリザさんにしかできないことがあるさ」

「相手の心を読むとか?」

「それだけじゃないよ。むしろ戦力として加わって欲しいという思いが強い。もし『霊眼』を使うのが嫌だと言うなら――」

「とんでもないわ。それが異能者……ひいてはテオドリウスに近づくための手段なんでしょう?」


 ユティスは頷く。するとリザは微笑を見せ、


「なら、私はあなたについていくわ。よろしく、ユティス様」

「……今更様付けはなんだか微妙だな。呼びやすいようにしてもらえればいいよ。ただ、対外的には敬ってくれよ」

「なるほど、わかったわ」


 了承したリザは、唐突に歩き始めた。


「それじゃあ、私は町の人間に言いに行くわ」

「……どのくらいかかる?」

「明日には終わるわよ。準備もそう長くはない……荷物だってそうたくさんあるわけじゃないし、安心して」


 ――そう告げ、彼女は部屋を出た。合わせて退出したユティスはそのままリザと分かれ、城の中を歩き出す。


「……これで」


 やるべきことは終わった――後は、ロゼルスト国内で決着をつけるだけだ。


「きっと、こっちに滞在している間に状況は変わっているだろうな……まあいいさ」


 そこまで語ったユティスは立ち止まり、敵となった兄の姿を想像する。


「ロイ兄さん……どういう経緯かはわからないけど、記憶を封印した経緯を含め、絶対に喋ってもらうからな」


 両の拳を握り締め、ユティスは改めて進み始める。その背中は、確固たる意志がしかと刻み込まれていた。



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