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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
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光の槍

 全てを結集した一撃――ユティスは心の中で思うのと同時に、放った光の槍の行方を目で追う。

 右腕から放たれたその魔法は、シズクの風やオズエルの銃弾によって押し留められた魔人の胸部に着弾した。


 刹那――アシラとジシスが足を引き返し魔法の効果範囲を脱した直後、光が爆散。閃光が周囲を覆い、ユティスも反射的に目を瞑る。

 視界を閉ざす直前に見えたのは、黄金色の光の中吹き飛ぶ魔人の姿。さらに周囲に轟音がもたらされ、結界内に膨大な魔力が渦巻いた。


 リュウトの結界がなければ、間違いなく大惨事となっていただろう――ユティスは閉じた目の奥で光が収束していくのを理解し、ゆっくりと目を開ける。爆発とは違うためか粉塵などは上がっていなかった。だが光がまだ残っており、それがようやく収束した時、魔人の姿がはっきりと見えた。


 相手は、立ち尽くしている。そして体の表面に、ヒビが入っていた。


「……終わりだな」


 オズエルが宣言。ユティスも彼がそう言う理由がはっきりとわかる。相手から感じられる魔力が、もうほとんどなかった。限界を超えてしまったらしい。

 だがジシスは結界外にいる騎士や兵士達に指示を出す。最後の抵抗としてユティス達に仕掛ける可能性もある上、リュウトの結界があるとはいえ場合によっては腐蝕の能力を活用し、突破を試みる――そんな可能性もゼロではない。だからこそ、周囲の騎士達に警戒するよう告げる。


 しかしそれは取り越し苦労だった。少しして魔人は倒れる。同時、その体がゆっくりと形を失くしていく。彼の体は黒い砂のようなものとなり、最後には人間であった姿も消失した。


 倒した――それと同時に、ユティスは呟いた。


「……黒い砂、か」


 目の前の光景は、ネイレスファルト来訪初日で遭遇した騒動でも、目にしていた。自身が戦ったジェドという人物――魔具を無理矢理埋め込まれた彼の最期もまた、同じような結末だった。


「イドラと名乗ったあの能力者の実験と酷似している……彼と今回の人物は関係があるのか?」

「けど、今回の敵はずいぶんとその技術が洗練されていたようにも思えるわね」


 リザが砂を見ながら発言する。


「イドラのそれが未完成としたならば、今回戦った相手は完成形という感じじゃないかしら?」


 ユティスはその言葉を聞きながら黒い砂を見据える。そういえばジェドの時は埋め込まれた魔具が黒い砂の中に存在していたが、今回は一切見受けられない。

 彼自身理性が多少なりとも吹き飛んでいたことや、魔具が最後に残っていたという事実は、初日の彼に使用された技術が未完成であることを意味しているのではないか。


「今回の敵、素質だけなら間違いなく第三……耐久性だけなら第四領域に相当していたようにも思えます」


 リザに続いてティアナが言及する。それにはジシスも同意したようで、無事だった再度の剣を鞘にしまいながら発言した。


「今目の前で砂と化したこの人物は、間違いなくマグシュラント王国の間者じゃろう……となれば、ユティス殿イドラという人物は――」

「その関係者。あるいは、彼らの技術を取り込もうと動いている人間ということかかもしれません」


 ユティスが発する。それにジシスは黙り込んだ。


 間者としてネイレスファルトに潜り込んでいたということは、目の前の魔人自身はずいぶん前からこうした能力を保有していただろう。となればジェドは――彼には違う技術を試していたのか、それともユティス自身発言した通りマグシュラントの技術を奪おうと動いている人間が、あるいは――


 その時、今度はオズエルが声を発した。


「どちらにせよ、今回の件についてはマグシュラントと関わっている可能性は極めて高いだろう」


 結論を出す。それと共に彼はリュウトに首を向け、


「もう大丈夫だろう。結界を解いてもいい」

「ああ」


 結界が解除。それと共に兵士や騎士達が動き始める。


「……ともかく、ご無事で良かったです」


 ここでティアナが息をつく。それにユティスは苦笑し、


「なんだか、また騒動に首を突っ込んだことになるけどね……まあ、無事解決したしよしとしよう――」


 返答した直後、ゆっくりとユティスの体が傾く。それを慌ててアシラとオズエルが支えた。


「お、おい!?」

「ユティスさん!?」

「……さすがに、限界だったみたいだ」


 気付けば、足に力が入らない。慌ててティアナも駆け寄り、さらにアリスも駆け寄ってくる。

 リザが苦笑し、リュウトは心配そうにユティスを見据える。さらにシズクがほっと胸を撫で下ろしジシスが周囲の騎士達に指示を送っているのをユティスは見つつ、一つ思い出した。


(……ああ、そうだった。僕は――)


 先ほどの光の槍。完全に思い出せない記憶の中で、一つ言われたのを思い出す。

 異名――ユティスは『神槍』という名を、誰かから貰っていた。


(大層な異名だけど……まあ、悪い気分じゃないな)


 アシラ達に支えながら、ユティスは戦場だった大通りを後にする。時刻は気付けば夕刻近く。いよいよ空が茜色に染まろうとする時間だった。



 * * *



 ヴィレムと共に赴いた戦地で、フレイラはユティス達の戦いを見た――とはいえ、見たのは最後の場面だけ。得体の知れない相手の進撃をティアナを含めた面々が阻みつつ、ユティスが生み出した光の槍が、敵を貫いた光景。

 そして黒い砂と化し――ユティスが倒れそうになり皆に支えられた。そしてゆっくりと歩き出す光景を、フレイラはやや遠くから呆然と立ち尽くしながら眺めていた。


 ユティス達は気付かない。幾人かの兵士や騎士がフレイラの様子を見て声を掛けようとする様子を見せたが――結局、話しかけては来なかった。


(……どうして)


 フレイラは心の中で呟く。そんな風に心の中で声を発したのは、なぜユティスがああした力を持っているかについて疑問を抱いたからではない。

 なぜ自分の心が――ユティスの力を見てざわつき、悲しくなるのかわからなかったためだ。


 まだ思い出せてはいない記憶の中にその答えがあるのは間違いない。けれど、それを探るのさえ、今のフレイラにとっては恐怖だった。


「私は……」


 声を漏らす。同時、背筋に冷たいものが走る。


 胸が押し潰されるような感覚が訪れる。ユティスがティアナやイリアに声を掛けられながら戻っていく。近づいて呼び掛ければ、間違いなくユティスは申し訳なさそうな顔をして、心配を掛けたことで謝罪の言葉を告げるだろう。

 それを想像すると同時に、フレイラは気付いた。あの場所に、自分はいなくてもいい。


 今までの戦いで、フレイラはユティスと共に戦ってきた――けれど、ネイレスファルトへ来てその状況が一変しようとしている。

 いや、それは違うのかもしれない――ウィンギス王国との戦争だって、結局はユティスの力で勝ったようなものだ。続くリーグネストやスランゼルの戦いも、ユティスが策を考え、最後まで戦い勝利した。結局、自分は――


 そう考えた直後、フレイラの脳裏に何かがよぎった。そう昔の事ではない。今のような姿をしたユティスが、フレイラ自身に話す姿。


『……討伐隊?』


 ユティスの言葉を、フレイラはそう聞き返した。


『うん。聖賢者であるヨルクさんが僕の精霊式の魔法を見込んで、討伐隊に参加して欲しいと』


 ――思い出すと同時に、その時フレイラは今と同様複雑な気持ちになったことを思い出した。また同時にユティスは聖賢者のヨルクと過去繋がりがあったのだと、フレイラは理解する。

 そして過去のユティスはフレイラに微笑む――きっと彼は、力をつけたが故に嬉しかったのだと思う。どういう経緯で『精霊式』の魔法を彼が手にしたのかは思い出せないが、それでも力を得て彼は満足だったはずだ。


 小さい頃、ユティスはフレイラに宣言した。いつか見返してやると。けれど討伐隊のことを話した時のユティスは、フレイラを見返すつもりで言ったわけではないのはわかった。

 その時点でフレイラは騎士として戦っていた。魔物への復讐のために『強化式』の力も得た。そうしたフレイラのように力をつけ並び立ったなどと思ったかもしれない。


 ユティスのことだから、きっと嫌味などはなかっただろう。けれどその時のフレイラは悲しくなった。ユティスは強くなって、根拠はなかったが自分の手から離れていってしまうような気がして――


 ふと、考える。その時、自分はユティスをどう想っていたのか。

 なんとなく想像しようとして、怖くなってやめた。なぜか――


 それを思い出すと、取り返しのつかないことになってしまうような気がしたから。


「……ユティス」


 名を呟き、またも背筋が寒くなる。なぜ、こうまで不安に陥るのか――結局答えが出ないまま、ただ不安だけが心の中に積み重なっていく。それがさらなる不安を呼び、負の連鎖に陥る。

 一体、自分の中に眠っている過去には何があったのか。わからないからこそさらに不安が募る。こうやって悩むこともまた、敵の計画通りなのだろうか。


 フレイラはその後少しの間その場に佇んでいたが――やがてユティス達が見えなくなり、小さく息をつく。

 ゆっくりと歩き始めた。まだ混乱する大通りの中をフレイラは一人歩く。


 そして、思う。自分は、彩破騎士団の一員として、役に立っているのだろうか。


「……そんなの」


 答えは決まり切っていると思った。だからこそフレイラはそれ以上心の中で語ったりはせず、ただ両の拳を強く握りしめながら歩き続けた。


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