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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
170/411

魔術師の猛攻

 跳ぶ魔人を見て、ユティスは空中から一気に狙おうという算段なのかと推測した。

 直後、アリスが先んじて動いた。光の剣が幾重にも放たれる。なおかつユティスが発砲し、さらに戻ってきたシズクの『詠唱式』による魔法によって、魔人の跳躍による攻撃は阻まれ、吹き飛んだ。


 戦況は優勢――というより、魔人にとっては多勢に無勢な状況。今の所怪我を負った者もいないため、観客がいたとしたら一方的な展開と断定したはずだ。

 しかし、ユティス達も魔人に有効的な攻撃を加えることができていない。よって味方側が優勢でありながら、膠着(こうちゃく)状態に陥ろうとしていた。


 だがそれがほんの一時であることはユティスも理解できた。


(オズエルさんが魔具を作成し始めたと同時に動きが変わったと考えていいだろう。そうした戦局を判断する理性は残っている……つまり、何か仕掛けてくる可能性は高い……)


 ユティスが思考する間に魔人が走る。やはり無策な突撃ではなく、リザから剣を受け取ったアシラやジシスの剣を多少ながら避けつつ、一気に踏み込む。

 回避優先となれば、ユティス達は魔法を撃つのが難しい。一度撃てば確実に隙が生じる故――ジシスとアシラはそれを理解しているためか、魔人へ追従する。だが、魔人の動きはさらに増し、的を絞らせないよう動く。


 なおかつ、アシラ達の剣を捌き腐蝕により対応できなくする――両者の腕は魔人よりも上なのはわかり切った事実ではあったが、剣を強制的に破壊してしまう相手ではその技量を発揮するのは非常に難しく、魔人の動きが変化したことにより対応に苦慮している様子。


 シズクが魔法を放つ。広範囲に拡散する風の刃であり、魔人へと容赦なく突き刺さる。相手は回避できなかったのだが、攻撃を受けてもさらに攻めようとする。生半可な魔法では通用しない。

 オズエルはまだ時間が掛かる。ユティスは相手を接近させて避けられない距離で対応するべきか――そう考えた直後、アリスが動いた。


 ユティスの前に立ち、右手を差し向ける。魔人はそれに反応し回避に転じようとしたが、その寸前彼女の動きを察したジシスが、リザから受け取った剣を犠牲にして動きを押し留めた。

 腐蝕し崩れ落ちる刃と共に、アリスの魔法が放たれる。青白い光は見事相手に直撃し、それなりに威力があったのか僅かに動きが止まる。


「――いくよ!」


 そこで、アリスが叫んだ。誰に言ったというわけでもなさそうだったその声音は――おそらく、体の内に存在しているイリアに対し放ったものなのだろうとユティスは察した。

 例え『潜在式』の魔術師であっても、魔法を立て続けに行使することはできない。アリス達は『潜在式』であるが故に無詠唱魔法をすんなり行使することができるが、一度に放出できる魔法は一つであることに加え、無詠唱魔法であっても一度放出すれば魔力を整えるまでに多少の時間を要する。その時間は魔人にとって近づくには十分な時間であったはずだった。


 だが、アリスは左手をかざすと体勢を立て直そうとした魔人へと魔法を放った。今度は白い光。魔人もこれは予想外だったのかまともに直撃すると大きく身じろぎした。

 その動作は無詠唱魔法にしてもあまりに早いタイミングの攻撃だった。魔具だって魔力を加えなければ効果を発揮しない以上、あのタイミングで普通なら魔法を使用することはできない。しかし――


 魔人が動く。間髪入れずにアリスは右腕から青白い光を生み出し、魔人の進撃を押し留める。この時点でオズエルやシズクも異様な状況だと気付いていた様子だった。他の面々も様子に気付いたらしくアリスへ驚いた視線を向ける。

 ユティスは先ほどアリスと会話したことを思い出す。二人の意識が入っている体だからこそできる所業。それをアリス達は実践し、確実に時間を稼いでいる。


「……彼女もまた、普通の人とは少し違うということか」


 リザが呟く。そういえばアリスの件については詳しく話していなかった。事情を知らない彼女には、そういう見解となるのは至極当然だろう。

 魔人はどうにか動こうとするが、それよりも圧倒的にアリス達の魔法が早かった。アシラやジシスがいつでも援護できるよう左右に並び立っているが、アリス達はそんな必要はないと言いたげに魔法を放ち続ける。


 二種類の魔法を交互に放つことによって、完全に動きを止めている――が、彼女の魔力がどの程度でなくなるのかが最大の問題だった。後どれだけもつかわからない。ユティスは彼女の援護に立ち回るべきかと銃を握りながら近づこうとした。その時、


「――ユティスさん」


 オズエルが告げる。見ると、魔法で生み出した白く光る糸によって繋がれた魔具を携える彼の姿が。


「見てくれはあまりよくないが」

「もう、できたのか?」

「急場である上、魔石などによって無理矢理増幅させる以上、一度限りしか使えない大技だが……いいか?」

「ああ」


 ユティスが頷くと、オズエルが握る魔具に目を向ける。魔法で生み出された糸によって様々な魔具を連結させている。

 彼は繋がれた魔具の先端部分を差し出す。それを受けとり強く握った瞬間、右腕から魔力が伝わって来た。


「少々見た目はアレだが、それを腕に巻き付けてくれ」


 言われるがまま魔具が繋がれたままの糸を巻きつける。不格好であるが、見た目は気にしてられない。


「魔力に呼応して魔法の威力が増幅される……ただし、魔具の力を無理矢理引き出すため、さっきも言った通り一度使えばおそらく魔具が壊れる。よって、チャンスは一度だけだ」

「急場である以上十分だけど……その場合、動きを止める必要があるな」

「それには策がある」


 オズエルは右腕を一度見据えながら言った。


「とはいえ一人で策を実行するのははかなり危ない。できれば援護が欲しい……接近してきた時、攻撃を浴びせ動きを鈍くしてほしい」

「わかった。ティアナ」

「はい」

「私も援護する」


 ユティスの指示にティアナは頷き、なおかつシズクも手を上げた。ユティスは「わかった」と返事をした後、右腕に魔力を収束させ始める。

 途端、右腕が僅かに身震いするほどの魔力が迸った。さらに背筋もゾクリとなる。感覚的に理解できる。これほどの魔力を収束させた一撃。途轍もない魔法になるのは間違いない。


 アリスの攻撃はなおも続いている。それはユティスが魔法を収束させる間も続き――リュウトが構築した結界内に、ユティスの右腕から発する魔力が漂い始める。


「これは、ヤバそうね」


 リザでさえそう呟く。同時にユティスは魔力を外部に引き出す。光が生じ、第二領域相当の魔物を倒した時のように、槍の形状となる。

 だが、生じる魔力は段違いだった。それに魔人も気付いたかアリスの魔法を受けながらもどうにか立て直そうとするのがユティスにもわかったが――彼女の猛攻が完全に魔人を押し留めた。


 そして準備が整ったと同時に、ユティスは叫んだ。


「アシラ! 騎士ジシス!」


 名を呼びさらに指示を出そうとした直後、ジシスが先んじて動いた。魔法を放っていたアリスの肩を掴み、一気に後退。次いでアシラは殿としてか二人を守るように剣を構えながら後退する。

 合わせてリザも後退。ここで魔人は襲い掛かって来てもおかしくない状況ではあったが――体勢を立て直すと、動かなくなった。さすがにユティスの魔力収束に対し、警戒を抱いている。


 その間にユティスはアリスを見る。さすがにあれだけ魔法を乱発した以上疲労はあるようだが、それでも魔法が撃てないというレベルではなさそうだった。


「来ないのか?」


 オズエルが問う。だが、さすがに魔人も罠だとわかって飛び込むような真似はしない。

 だが、ここで周囲の状況が慌ただしくなる。騒ぎに駆け付けた騎士や宮廷魔術師が到着し始め、結界の外を囲み始めた。


 彼らは魔人を倒すべく戦闘準備を――いかに魔人とはいえ、騎士団や宮廷魔術師達を相手にするのは現状より遥かに面倒なはず。いくら能力が高かろうとも数が多すぎる。魔力が尽きる方が早いだろう。

 そして、騎士達が動き出せばオズエル達も退避する――そう魔人は理解したのだろう。最後の勝負をするつもりか、全身に魔力を高めた。


 それは、明らかに命を捨てるつもりのような全身全霊のものだとユティスには理解できた。その魔力だけなら――今までだって第三領域相当の膨大な力を保有していた。しかし、この一瞬だけ見て取れば、それを上回る、第四の領域に到達したかもしれない。


「ユティスさん、覚悟はいいか?」

「うん」


 ユティスはオズエルの問いに頷く。そして彼は、左手を懐に突っ込み、これ見よがしに水晶球を見せつけた。


「南西部にある魔力は偽物だ。本物はここにある……最後の勝負といこうじゃないか。奪えるか?」


 挑発に――魔人は走った。罠であることは明白だったが、迷いのない動き。


 跳躍する程の勢いでユティス達へ迫る。魔力が迸り、一個の塊となって水晶球を奪おうと迫りくる。

 そこに、ジシスとアシラが足を動かす。策を明示されたわけではないが、その動きは明らかにオズエルやユティスの考えを読んでいた。彼らは魔人を左右から挟み込む形となり――もし逃げたのならば、その体を弾き押し留めようとする動き。


 同時、オズエルが操る『召喚式』の天使が魔人を阻んだ。すると魔人は即座に体当たりを仕掛けた。真正面から受けるオズエルの天使。直後腐蝕によって天使の体が消滅していく。だが阻んだ分だけ、動きが鈍くなる。

 そこへティアナとアリスがそれぞれ矢と魔法を放った。最大限に魔力収束を果たした魔人は攻撃を食らっても物ともしなかったが――天使の邪魔立てに次ぐ攻撃であったためか、確実に足が鈍った。


 さらにシズクの風の魔法。刃ではなく魔人の周囲を取り巻くような旋風であり――ティアナ達の攻撃によって動きを鈍くした魔人を、しっかりと捉えた。


「――上出来だ」


 オズエルはシズクに告げる。気付けば彼の右手には銃。だがライフルのような砲身の長いものではない、新たな形状。

 接近した魔人へ向け銃を放ち。今までと比べ遥かに重い音が生じ、銃弾は直撃し、衝撃波が生じた。


 一連の連携攻撃によって、魔人の足がとうとう足が止まる――刹那、ユティスは光の槍を射出した。


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