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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
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風の弾丸

 魔人の動きは人数が増えたとはいえ直情的で、真っ直ぐオズエルへ向かって突撃を行う。

 理性があるのかないのかわからない態度――あるいは油断させるためにわざとそうしているのか。ユティスはあらゆる可能性を考えながら、左手に握る拳銃に魔力を収束させる。


 魔力は節制しなければならない。とはいえ生半可な魔法では相手に通用しない――だからこそ、この銃が使える。

 ティアナやリザはユティスの握る物が果たして何なのか一瞥し疑問を持ったようだが、問い掛ける暇はなく魔人が迫る。


 まず先んじて魔法を放ったのはアリス。ユティスが生み出すような光の槍を数本生み出し、魔人へ向け放つ。

 最初の槍を魔人は体を逸らし避けた――が、突撃する姿勢を中断することがなかったため、後続の槍を避けられず、直撃する。


 今度は爆散しなかった。槍が直撃すると衝撃波が生じたようだったが、空圧的なもので粉塵などは生じず魔人が僅かに後退する様がはっきりと見て取れた。

 しかしそれでも向かってくる魔人。そこへ、今度はティアナが矢を放つ。


 狙いは確実で、光の矢は魔人の胸部に当たる。しかし一時動きを止めただけに過ぎない。

 だが、今のユティスとしてはそれで十分だった。


 風の弾丸を放つ。アリスとティアナの攻撃は狙いを定めるのに十分な時間を作った。

 さすがに撃鉄と鉛玉が放つ轟音とは比べ物にならないが――銃声が生じた。リザやアシラが顔を向けたのをユティスは気配で察知する間に、風の弾丸は魔人へ突き進む。


 風なので弾丸自体は見えないと思ったのだが、その実魔力の塊であるためか青い光を放っていた。それは吸い込まれるように魔人へと向かい、直撃。

 刹那、轟音と風が爆散し魔人を大きく吹き飛ばす。


「おお……!?」


 撃ったユティスが驚くくらいの威力。幾重もの風の刃が魔人の体を撫で、大きくすっ飛ばす――が、やはり耐久性が相当なためか、大きく吹き飛ばしただけでダメージはほとんどないように見える。

 魔人は空中でどうにか体勢を整え、地面に着地。とはいえ衝撃が残っているのか、執拗に突撃していた魔人が動きを止めた。


 ――そこへ、今度はオズエルの砲撃。足を止めた魔人に弾がしかと直撃し、さらに大きく硬直した。


「風と組み合わせたか。なるほど、相当なものだ」


 その時、感嘆の声をオズエルが放つ。一方のリザやアシラはユティスやオズエルが持つ銃に興味を示したようだったが、説明している暇はない。


「ユティスさん。俺が持ち得るやつで強力なのを使う。これで倒せば万事解決だが……時間稼いでくれるか?」

「わかった」


 承諾と同時に、オズエルの右腕が光り変形し始める。それが形を成すと、紅蓮の銃身に翼をあしらった装飾品が存在する銃へと変ずる。

 明らかに機能的な形状ではないが――その間に魔人が吠える。威嚇している様子。


 先ほどの風の銃弾も動きを鈍らせる程には効いていない。やはり倒すにはより強力な攻撃が必要。オズエルの攻撃は通用するのか。


「……先ほどと比べ、魔力が落ちているな」


 ふいにジシスが呟いた。


「内包する魔力が常人より多いため気付きにくいが……おそらく、膨大な魔力を使って無理矢理障壁を形成しているのじゃろう」

「とすると、その魔力がなくなれば……」


 ユティスの言葉にジシスは首肯。


「こちらが力尽きるのが早いか、それとも相手が……といったところじゃろう」

「それほどの魔力を内包するとなると、相当な化け物ですね」


 ティアナが言う。ユティスとしてはそれだけ莫大な魔力を抱えた手法が気になったが――魔人が走る。

 またも無策な突撃。さすがにここまでくればわざとだろうとユティスはなんとなく察した。となればいつか別の動きを見せるはず。それはいつなのか――


 オズエルが魔力を収束させる。発射するのに時間が掛かるらしく、銃口を相手に向けつつ動かなくなる。

 魔人が近づく。どこまでもその狙いは彼であり――進撃を押し留めるべく、ユティス達は動いた。


 先ほどと同様先陣を切ったのはアリス。広範囲に拡散する光で、もし魔人が回避したとしても動きを止められる――そういう算段だったはずだ。

 だが、光を受けて魔人は超然とし、走り続ける。ただでさえ耐久性の高いものを、さらに――そんなことをすれば消耗が早くなるはずだが、短期決戦で勝負を仕掛ける方針に変更したのか。


 さらにティアナが矢を放つ。狙いはまたも正確だったが、直撃しても怯まない。

 ユティスは銃口をかざすが、今度は狙いが上手く定まらない――その時、


 オズエルの前に、アシラが立った。


 魔人が構わず腕をかざす。対するアシラはそれに応じるべく剣を振った。先んじて仕掛けたのは間違いなく魔人であったが、アシラの剣戟速度は相当なもの――よって、双方の中間地点で衝突するだろうとユティスは一瞬考えた。

 だが、予想外の出来事が生じる。魔人の拳が中間地点に到達するよりも早く、アシラの剣が魔人の胸部に触れた。 根本的に速度が違う――ユティスが察した間に魔人は吹き飛ばされた。


 直後、アシラが握る剣の半ばから先が腐蝕し始める。どの部位に触れても能力が発動するらしい。

 そこへ、オズエルが間髪入れずに発射した。弾丸の色は太陽を想起させる赤。それは発射直後に炎をまとわせ――


 突如弾丸を中心して炎が舞う。それはあたかも不死鳥が翼を広げ出現したような形となり――そこから炎が回転を始め、翼が槍のように鋭利なものへと変じていく。

 変化の直後、魔人が弾丸が直撃した。途端、火柱が魔人を中心に吹き荒れる。さらにその体が炎に包まれることによって魔人は身動きが取れなくなった。


 業火はユティスを呻かせる程であり、魔人もその威力に翻弄されるしかなかった。これはもしや決まったかなどと考えたが、炎の中でどうにか動こうとする魔人を見て、決着はついていないと悟る。


 炎が途切れる。魔人はいくらかダメージが抜けたか数歩よろけた。しかし、倒せたわけではない。


「……弾丸が直撃した直後、相当魔力を消費したな」


 オズエルが述べる。それはつまり――


「腐蝕能力以外に、自身が保有する魔力を相当精密に制御、放出することができるようだな……とはいえあの弾丸を押し留めるだけの魔力だ。燃料切れが迫っているのは間違いないだろう」

「攻撃し続ければ、いずれは突破できるってわけ?」


 リザが問う。だがオズエルはそれに首を振った。


「元々の外皮がかなりの強度を持っていることを踏まえれば、生半可な魔法では単に弾き返されるだけだな。さっきの弾丸は相当魔力を消費するため乱発もできない……よって、今以上に強力な手段がいる」

「で、その方法がユティスさんの魔法ってわけ?」

「そういうことだ」


 告げる間に魔人の体勢が整う。さすがに鈍った体で仕掛ける様子は無かったが、復帰も早い。

 オズエルの一撃で勝利条件はある程度理解できたが、魔人の魔力を上回る攻撃をしなければならないというのは非常に厄介であり、ユティスの策が通用するかどうか――


「――お待たせ!」


 そこに、シズクの声。結界から抜け出た彼女が、魔具を収めていると思しき袋を抱えて戻ってきた。


「むしろ早いくらいだろう」


 オズエルが告げたと同時、剣を手に入れるべく駆けた兵士が数人引きつれて戻ってきた。その面々は、荷車のようなもので剣を運んでくる。


「ど、どうにか数は……」

「うむ、ご苦労」


 答える間に、魔人が走った。だがそれをユティスの風の弾丸とアリスの魔法が放たれ、進撃を押し留める。

 そこでオズエルは一度銃を消した。次いで、詠唱を行う。


 風の炸裂によって魔人は大きく後退。さらにティアナの追撃や間髪入れずに放ったアリスの魔法がなおも動きを縫い止めることに成功し、


「出でよ――天界の戦士」


 言葉と共にオズエルの『召喚式』の魔法が生じた。


 彼の正面に光が生まれ、それが形を成すと、大剣を持った男性と思しき鉄仮面をかぶった天使が出現。背中の翼は鋼のように固そうに見え、なおかつジシスを超える身長――相当な威圧感を持つ。


「俺の手札の中でも上位のやつだ。ある程度自律的に動くようになっている。魔具を作成する間はこいつを使ってくれ」

「魔具の作成はできるのか?」


 南西部で戦っていた時に魔具を作成していた時は魔法を使用しなかったはず――ユティスが疑問に思っていると、オズエルは頷いた。


「結界をすり抜ける魔具はなんだかんだで生成難度が高かったまでだ。それにユティスさん、あんたの魔力は戦いを通して把握している……『召喚式』を維持するくらいの余裕はある」


 そこまで答えた後、オズエルはユティスに要求する。


「増幅器を統合して使えるようにする。シズクが持ってきた分で奴にも通用する魔法を構築できるはずだ。時間を稼いでくれ」

「わかった」


 承諾と共に、ユティス達の前にアシラとジシスが立った。両者共兵士が持ってきた剣を握り締めている。

 なおかつ、自然な流れでリザがその後ろに立つ。なおかつ兵士の荷車を手招きして引き寄せ、彼女は剣を握り締める。


「剣の受け渡しは、私がやるわ」

「承知した」


 ジシスが発言し終えると同時にオズエルが作業を開始し――魔人は駆けた。

 その動きが、今までと異なるものだとユティスは半ば本能的に察した。他の面々も気付いたようで――ジシスが先んじて魔人へ剣を振った。


 アシラやティアナにはない、豪胆な一撃。横薙ぎであり、魔人は避ける事もできず一撃食らうが、膜状の結界で威力を殺し、なおかつ一瞬で刃を腐蝕し無効化。そのまま突き進む。

 狙いはオズエルのはずだが、魔人の動きは目の前の障害を全て跳ね除けようとまずジシスに狙いを定めた――が、そこへアシラが攻撃。一歩で間合いを詰めたかと思うと、刺突を魔人へと当てることに成功する。


 それもまた腐蝕により難を逃れた魔人だが、刺突の衝撃を完全に殺すことはできず後退。とはいえそれは一時の時間稼ぎにしかならなかった。魔人は素早く体勢を立て直すとなおも突撃を行う。能力をフルに使えばロクに進撃を押し留めることはできない――そう相手は思っているはずだった。


 だがそこへ、今度はオズエルが生み出した天使の光。多量の矢が魔人へと突き刺さる。さらに追撃のティアナの矢とアリスの魔法。これには魔人も相当体を持っていかれたようだったが、オズエルが魔具を作り出すにはあまりにも時間が足りなかった。


 やはり相手には遠距離魔法しか通用しない――ユティスはそう認識しさらに風の弾丸を繰り出そうと銃を構えた。


 直後――魔人が跳躍した。


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