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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
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首謀者の抵抗

 狭い個室の入口で、ユティスは魔法を行使する男性を見据える。灰色の外套に身を包む男性。銀の髪を持った優男という風体だが、魔法を行使しているが故に常人とは比べ物にならない存在感を放っている。


「お前が、魔物を生み出している人間だな?」


 彼に対し、言葉を発しているのはジシス。さすがに狭い場所では大剣を振るうことができないため、彼は短剣を男性の首筋に突き立て、問い掛けている。


「……参ったな」


 男性が言う。魔法を発動させた状態で、首だけユティス達へ向けた。


「資料を圧縮した水晶はまだ結界の中にあるはずだが……それをあえて残し、ここまで来たのか?」

「知る必要はないじゃろう?」


 ジシスは答える。男性はその点についてずいぶんと訊きたそうにしたが、


「……まあ、確かに俺に話すような道理はないか」


 あきらめたらしい。次いで彼はジシスやユティスを見据え、


「なるほど、資料を所持していたオズエル以外に、騎士や魔術師が混じっていたということか。しかもあなた方は、第二領域相当の魔物を倒せる技量を持っている」

「おとなしくしてもらえれば、危害は加えん。まず魔法を止めろ」


 ジシスが警告。だが彼は魔法を解除する様子がない。


 足元に陣があるような魔法かつ、彼の体から魔力が発せられている。ここで下手に魔法を引きはがすと何が起こるかわからない――普通、魔法陣は強制的に解除しても収束し魔法が途切れるはずなのだが、大地と干渉している魔法の中には使用者を無理矢理引きはがすと暴走するようなものも存在する。

 そんなことになればネイレスファルトに大きな被害が出る――よって相手の出方を窺う意味も込めて、まずはジシスが警告した。もし通用しなければ、オズエルが魔法で止める算段となっているが――


 男性は、警告を無視するかのようにユティスとアリスを見ながらさらに呟く。


「そこの魔術師とお嬢さんは、リュウトやシズクではないようだな……やはり結界発動直後は同行していなかったか。とはいえ、こうした事態に発展している以上、彼らがいようがいまいが変わらなかったということかな。これは参った」


 淡々としている男性。しかしユティスは彼が平静を保っているだけで動揺しているのだと、薄々勘付いていた。

 話をして、どう動くかを考えようとしているのだろうか――けれどその間にオズエルが手をかざす。早くも実力行使によって結界を止めにかかる。


「もう一度言う。魔法を解除し、魔物の出現を止めろ」


 再度ジシスが呼び掛ける。だが相手はその魔力を鎮めようとしない。


「そうか。現行犯でないと揉み潰される可能性を考慮したわけか」


 あくまで語り続ける男性。とはいえそれがせめてもの抵抗なのは見るからに明らかだった。

 オズエルが右手をかざす。同時、


「――鎮め」


 魔力が発せられる。それと同時に、少しずつではあるが魔法陣に内在する魔力が少なくなっていく。

 魔法陣は魔物を生み出すプロセスを構築してはいるが、おそらく遺跡などの魔力に干渉して魔物を生成しているだけで、彼自身の魔力で魔物を生み出しているわけではない。よって、陣の魔力さえ途切れてしまえば、最早彼に抵抗する術はない。


「……この調子だと、結界の方も解除されるだろうな」


 男性はさらに呟く。するとジシスは刃をほんの僅か相手に近づけ、


「あの結界の構築者は誰だ? どこにいる?」

「悪いけど、それは一切知らないな。そっちで判明できなかったとなると、あの人の方がよほどこういう悪だくみに向いていそうだな」


 そこで男性は自然体となる。無抵抗を示しているようにも見えるが――ユティスは、嫌な予感がした。


「さすがに、ここまで追い込まれて何もしないというのは、あの人も怒るだろうな」

「そいつは誰だ?」

「悪いが答えられない」

「……下手な動きをしたら、容赦はせんぞ?」


 威圧するジシス。その見た目から迫力は相当なものであったが、男性は一切意を介さない様子。

 直後、一気に魔法陣の力が消えていく。これで魔物を生み出すことはできなくなった。命令ももうできないため、いずれ南西部の騒動も収束するだろう。


「一つ、あなた方は勘違いをしている」


 その中で、男性は話す。


「追い込まれた時点で俺の目論見が潰えたことは間違いない……が、手がないわけじゃない」


 ジシスが無言で彼に剣を加えようとする。いや、それは威嚇だったのかもしれないが――


 なぜか男性は、自ら刃に当たりにいった。反射的にジシスは短剣を僅かに引き戻したが、刃が男性の首筋に食い込み、


「別に自殺しようというつもりはないから、安心しなよ」


 食い込んだ刃――それが突如、腐蝕し始めた。


「今回、お前達は俺達の脅威となる可能性がわかった……その始末くらいはしなければいけないな」


 ――その瞳の奥に眠るものが、忠誠に近い何かだとユティスは悟る。マグシュラント王国は半宗教国家と言っても過言ではない程、王が絶対的な存在となっている。この目の前の男性もまた、同じように王に信仰心を抱き、仕えることを至上命題としている。

 腐蝕し始めた短剣を、ジシスは反射的に引き戻した。腐蝕はあくまで彼の首筋に触れた部分だけ。だが、短剣は使い物にならなくなった。


「――ここに来たことを、後悔させてやろう」


 刹那、魔力が膨れ上がる。魔物を生み出すような流れではなかった。彼から発せられるそれは――紛れもなく殺意。

 ユティスは即座に右腕に魔力を収束させた。目的は破邪の力を活用した結界。危機的状況となり、またも失われた記憶に存在している技術が、表に出た。


 オズエルもまた動き、瞬間的に結界を構築する。二重の結界――それと共に、ユティス達は白い光を伴った爆発に包みこまれた。






 轟音の後、ユティス達は爆心地である店をどうにか抜け出す。結界を構成し直しつつ、どうにか魔法の効果範囲を出て地上に出た時、周囲は音によって人だかりができていた。


「まずいぞ、これは」


 ジシスが舌打ちをする。先ほどの男性はまだ地下にいるが、出てくるのは時間の問題。店主は既に逃げ出しているのか影も形もなく、現場が混沌とするような条件が揃ってしまっている。


「儂らを潰そうとするのか……それとも無理やりにでも水晶球を奪おうとするつもりなのか……」

「どちらにせよ、魔物を生み出すような真似はやめ、自らが戦うということだろうな」


 苦々しくオズエルは語る。ユティスは内心同意しつつ、周囲を見回しながらジシスへ警告。


「騎士ジシス。まずは周辺の人々を避難させないと」

「わかっている……おい!」


 近くにいた兵士を呼び止める。そして彼は人々を避難させるよう指示を出した――その時、

 またも轟音。さらに男性が入っていた魔法屋の建物が揺れる。人々の中には悲鳴を上げ逃げ始める者や、さらに建物の隣に存在している店からは店員などが出てきて慌てて退避を始める。


 混沌とした状況の中、建物の奥から人影が現れた。それは、


「……魔人、か?」


 オズエルが言う。その表現が確かに似合っている――そんな風にユティスも思った。


 白い外套が体を覆っているのは先ほどと同様だが、まず両袖が喪失し、腕がむき出しとなっていた。だが肌の色は黒に近い青――かつ、両腕には気味が悪い程びっしりと紋様のようなものが白く刻まれている。

 なおかつ、容姿も変化があった。銀髪は元のままだが顔は輪郭にフィットするような青い仮面のような物で覆われている。外套に覆われて見えていないが、おそらく体や足先まで同様の青で覆われているのだろう。


 その中でユティスは感じる。溢れ出る魔力。それが明らかに常人――いや、人間とは異質なものだった。


「この魔力に加え、剣を腐蝕させるという能力を持っている。魔物よりも遥かに危険な存在じゃな」


 ジシスが語る――確かにとユティスは胸中同意しつつ、目の前の敵を見据える。

 魔人は外に出た直後、ユティス達と対峙し警戒を示した様子。人間から変化した状態で理性があるのか、それとも人間の時とその辺り変化はないのか――疑問に思う間に、魔人は吠える。


 威嚇なのだと認識すると同時に、わだかまっていた人々達が散り始めた。異常な光景であったため、命が危ないと感じ取ったのだろう。


「さて、どうする?」


 ジシスが訊くが――答えは、言うまでもなかった。


「ここで、潰すしかないだろう」


 代表して答えたのは、オズエル。


「何をしでかすかわからない……下手をすると都がとんでもないことになる」

「儂も同意じゃ……しかし、これは失態だな。まあ、覚悟はしておくか」


 大剣を構えジシスが呟く。覚悟とはどういうことかとユティスが尋ねようとした時、魔人が動いた。

 真正面から、腕を振りかざし突撃を行う。それに応じたのはジシス。間合いを詰める相手に対し、大剣に魔力を与え一気に振り抜いた。


 魔人の右腕とジシスの大剣が衝突する。金属同士がぶつかる嫌な音が響き、結果としてジシスが魔人を押し返した。

 膂力は、身体強化を施したジシスが一歩上か――だが、ユティスは気付く。打ち合ったのはほんの一瞬。


 だが、ジシスの大剣は激突部分で腐蝕しボロボロと崩れ落ちた。


「……どうやら、体に触れたらまずそうじゃな」


 ジシスは腐蝕した刀身を見ながら呟く。


「接近戦は奴には通用せんようじゃ……これは――」


 さらに呟こうとした時、またも魔人は吠えた。同時、魔人の瞳は見えなかったが、その視線が明らかに自分達に向けられているとユティスは悟る。


「……どうやら、この変化によって理性をある程度飛ばしてしまうようだな」


 その時、オズエルが呟いた。


「これほどの力を所持しているなら、最初からこれを使って仕掛けても良かったはずだ。まあ矢面に立ちたくないという心情もあっただろうし、こういう能力の存在を見られたくないという考えがあったのかもしれないが――」


 その時、魔人の魔力がさらに膨れ上がる。街中に魔力が拡散し、空気を震わせ遠くからそれを感じ取った人間の悲鳴が聞こえる。

 相当危険な相手。ここで倒さなければ――ユティスは心の中でそう声を発した後、全力で応じるべく魔力を収束し始めた。


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