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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
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動き出す情勢

 オズエルが動き出すと同時に、ユティスやジシスはそれに追随し、結界の外へ向かう。


「水晶球を狙っているのだとしたら、以降魔物が俺達に近づいてくることはないだろう」


 オズエルが言う。加え、彼は口の中で短く詠唱を行った後、使い魔である鳥を一羽だけ生み出した。


「これだけの規模で魔物を生み出している以上、どこかで大地の力を利用しているはずだ。俺の使い魔ならばそれを識別することは難しくない。それを発見し、踏み込む」

「わかった」

「うむ、儂もそれでいい」


 ユティスとジシスが同意した後、オズエルはふとユティスへ首を向ける。


「……悪いなユティスさん。あんたは本来部外者であるはずなんだが」

「何をいまさらという感じだよ……それに」

「それに?」

「色々と情報も貰ったし」


 オズエルはそこで「ありがとう」と礼を言う。ここでユティスは、一つ考える。

 彼の戦闘能力は過去に存在していた科学技術に起因している。魔物を打ち払うその能力に加え『召喚式』の魔法――技量という観点から見れば不明な点も多いが、それでも魅力的な能力を持っているのは間違いない。


 だからこそ、ユティスは思う――作戦が始まってしまえばそういう話題を口にする暇もなくなるだろう。話すとしたら、今しかない。


「……オズエルさん」

「どうした?」

「提案だけど……ロゼルスト王国で働いてみる気はない?」


 アシラの時と比べてずいぶんと軽い口調なのは、おそらく彼との経験が活かされているからだろう。

 途端、オズエルはユティスを見返した。


「……本気で言っているのか?」

「うん。学院でもあなたは研究員という立ち位置なんだろう? なら、学院を離れても構わないはずだ」

「……まさか、勧誘されるとは思わなかったな」

「僕としては、過去の科学技術を保有するあなたに大変興味を抱いたということだよ。技術と知識。非常に魅力的だ」


 そこで、今度はジシスが笑う。唐突な勧誘に驚きよりも笑いがこみあげてきたらしい。

 だが、そんな騎士に構わずユティスは続ける。


「感触的には、断ると即否定する感じでもないんだ?」

「……まあ、考えておくさ」


 まったく脈がないという様子でもなさそうなので、ユティスとしてはよしと心の中で思う。


「ちなみに、騎士ジシスはどうですか?」

「儂にまで話を振るのか……とはいえ、態度からするとついでのような感じか?」

「そういうわけではありませんけど……僕自身、あなたの力が欲しいと思ったんです」

「ふうむ。今の所儂はどこかへ移る気はないな」


 こちらは良い返事は期待でき無さそうな雰囲気。まあ仕方がないなと思いつつ、ユティスはオズエルの後を追い続け――やがて、結界に到達。

 まずオズエルが手を出す。すると、魔具を持っているためか易々と結界を通過し、外側に手を出すことができた。


「成功だ……行くぞ」


 オズエルの号令と共に、ユティス達は進む。結界を出る寸前、どこからか爆音が聞こえてきた。

 おそらく魔物と交戦する闘士達――だがオズエルやジシスは構わず突き進む。ユティスもまた、無言で結界を通過した。



 * * *



 闘技大会初日がいよいよ終わりを迎えようとしている。めぼしい試合も終わってしまったため、観客も熱狂もピークを過ぎている。

 だからこそ、フレイラ自身今日の事を思い返すことにした。レオやヴィレムの試合――初戦であるためまだ完全に把握できたわけではないが、それでも両者共相当な技量を有していることは理解できた。


 特にレオは異能に頼らずとも相当な技量を有している――彼が騎士になったのはそれほど昔の事ではないらしいが、異能もあって短期間で強くなったという話を彼の主人であるコーデリアからも聞かされていた。

 話だけでなくレオの実力を実際目の当たりにして、フレイラは思う。


「異能にも種類がある……騎士レオやユティスの異能は、戦いとなれば補助的な要因が強い……か」


 いや、レオの場合は切り札となるような技でもあるだろうか――ともかく、ウィンギス王国との戦争で見せた成果などもあったが、それはあくまで例外とするべきであり、やはり敵と戦う場合は基本地力が必要だろう。


「リーグネストやスランゼルの戦いでは、最終的にユティスが最後の敵を倒しているけど……ユティス自身、死線を潜り抜けるような形だったから、すごく危なかったのも事実……できればそういう状況に陥らないようにしたいけど……」


 だからこそ『精霊式』の魔法を思い出したのは朗報とでも言うべきことなのだが――やはり、フレイラは考えれば考える程胸の内に痛みが走る。

 さすがに気になって思い出そうと考えてみるが、まったく成果はなかった。自分の体なのに自分の思い通りに記憶を引き出すことができないというのは、どうにも苛立ってくる。


「……はあ」


 フレイラはため息をつく。ただ闘技大会を観戦しているだけ――それなのに、なぜこうまで負の感情を抱くのか。


「何で……嫌なんだろう」


 理由がわからない感情であるため、結局戸惑うこと以外できない。今わかっていることはファーディル家と親交があり、おそらくユティスとも知り合いだったということ。

 ふと、最初に思い出した時のことを振り返る。ユティスは「見返してやる」と言っていた。それはつまり、フレイラが何かユティスに対し言ったということなのだろうか。


「見返す……」


 ユティスに対し自分が何か言ったという可能性は、十分あるなとフレイラは思う。そもそもフレイラ自身子供の頃は好戦的で、なおかつ傲慢な性格だった。

 さらにその状況で騎士に憧れていた――フレイラとしては、病弱なユティスに何か言及して、それに応じたという構図を予想する。


 ただし、それ以上の推測はできない――


「私とユティスの間で何かあったと考えるべきなんだろうけど……」


 答えは出ない。やはりどこまでも不安だけが残る。

 堂々巡りのような思考を繰り広げる中、次の試合が始まろうとしているのを目に留める。同時に、ティアナ達が戻ってこないことに疑問を感じる。


「……何か、あったのかな?」


 ティアナ自身、ユティスと関係がないとわかれば騎士達に任せ戻ってくるだろう。しかし現状帰ってくる様子がない。となれば、騒動というのはユティスが関わっているということなのだろうか。

 普通に考えれば騒動にユティスが関与しているとは思えない。学院で騒動が起こる可能性はゼロではないが、それにユティスが首を突っ込むという構図が想像できない。


「でも……」


 ここに来てフレイラも動き出すかどうか迷う。席を立とうかで迷いながら、始まった試合を観戦する。

 浮ついた心情で、戦いを見ながらも頭ではどういうやり取りを行っているか理解できていない――そこでフレイラの感情を後押ししたのは、外部の働きかけだった。


 部屋にノックの音。戻って来たのかと一度は思ったが、ティアナ達がノックをするなどとは思えない。

 それでは一体――フレイラが返事をすると現れたのは、


「騎士ヴィレム……?」

「どうも」


 一礼し、ヴィレムが入室してきた。


「他の方々は……外ですか」

「呼び戻しますか?」

「いえ、おそらく外に出ていた時騎士にでも聞いたのかもしれませんから」


 騎士に――普通なら首を傾げるところだったが、フレイラは緊張した面持ちでヴィレムに問い掛ける。


「騒動がある、というのはリザさんから聞いていました……が、それは――」

「はい」


 頷くヴィレム。そして彼の口から、詳細が語られた。


「先ほど私の方にも報告がありました。ネイレスファルト南西部で大規模な結界術が行使されている模様」

「結界?」

「誰が何のためになのかは現時点で不明です……ですがどうやら、結界の中で騒動が起きているのは確定。そして」


 間を置いたヴィレムは、深刻な表情でフレイラに語った。


「経緯はわかりませんが……その騒動に、ユティス様が関わっているようなのです」



 * * *



 ノルグは水晶球を奪取できず、なおかつ予想を超える抵抗に対し、多少ながら苛立ちを覚えていた。


「戦力としては十分だったはずだ。こうまで奪取が難しいのは、どういう原因があるんだ?」


 呟きつつ、さらに魔物を生み出しにかかる。

 数で押し寄せても、効果がない様子。かといって質を優先させても、通用していない。


「それほどの相手が、敵に回ったということなのか……?」


 ノルグが候補として上げるのは、リュウトという異能者。だが魔法を行使し始め少しして、彼が学院に留まっているという情報がもたらされていた。つまり結界発動直後彼らは南西部にいなかった。なおかつ結界周辺にいたのなら、異能者ということで報告がきてもおかしくない。

 異能者はいない――その状況でここまで抵抗されるとは驚きだった。無論、学院で資料を奪った人物についてはもちろん調査している。遺跡に眠っていた武具を用いる『召喚式』を扱う魔術師――実力があるのはノルグも把握している。だが、彼一人で対処できる魔物の数ではないはずだった。


 しかし事実として魔物を全て跳ね除けている。ここから考えるに、闘士などが連携して彼と戦っているという可能性が極めて高い。


「奴は学院の魔術師だろう……? なぜ闘士と連携することができる?」


 学院に在籍する魔術師と闘士が交流していたなどという事実は、ノルグにとって想像の埒外に他ならない。さらに言えば彼には騎士や『精霊式』の魔術師も控えており――

 ノルグは理解に苦しんだが、事実は事実として受け止めなければならず、さらに方針を変更する必要があると感じた。


「もう一度質で押すべきか……?」


 ノルグは作戦の変更を考慮しつつ、水晶球を狙う魔物を遠隔で生成していく。


 ――この遠隔生成自体、遺跡に内在する魔力を通して行われるものであり、ネイレスファルト内ではこの場所以外で実行することができない。最大の問題点は魔物に一方的かつ簡素な命令しかできないこと。とはいえ水晶球が結界内になければ魔物の動きが命令に反し止まるため、その程度の判別がつくことは幸いだった。


 一方的に相手を蹂躙できるというのは確かだが、こういう戦いの場合は結界内を完全に把握できるわけではないため、もどかしい気持ちにもなる。ノルグはそうした感情を抑えつつ、さらに魔法を強く起動させる。

 戦いが始まり、ずいぶんと時間が経過している。まだまだ身体的にも魔力にも余裕はあるのだが、さすがに大通りに常駐する騎士にも騒動が起きていることは波及しているだろう。王宮には根回ししているはずなのですぐには大々的に動かないだろうが、捕まるリスクが増しているのは間違いない。


 とはいえ、現段階ではまだ焦る必要はない――そう考えたノルグは、気合を入れ直した。


「仕切り直しだ……今度は、もう少し意表を突いてみるか」


 ノルグは意気揚々と呟き、さらに魔力を込めようとした。その時、


「――動くな」


 ノルグの予想に反した、目論見が潰える声が背後から聞こえてきた。


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