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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
165/411

策の実行

 ユティス達が反撃の狼煙を上げた一方――闘技場の外で兵士達や騎士がずいぶんと動き回っていることをティアナ達は察知し、闘技場の入口近くでどうしようかと相談を始めた。この場にいるのはティアナとリザ。そしてアシラの三名。


「で、どうしよう?」


 リザの言葉に対し、ティアナは思考する――横にいるアシラも外に出て雰囲気を察知したようで、沈黙していた。

 ティアナの見た所、確かに朝よりも兵士や騎士の警戒感が強くなっていたように思える。元々警備は闘技大会がある以上厚いが、イドラという人物が引き起こした事件もあって例年以上に厳重だったはず。それと比べても昼以降は――当然何かあったのは間違いないだろう。

 闘技場で物売りをしている人間も、騎士の多さのためか少しばかり訝しげな視線を周囲に向けているのもティアナは観察済みで――ただ当然、ティアナ達に情報を話してくれる人物はいなかった。


「情報を得ることができない以上、私達が首を突っ込むのも危険ですね」

「うーん、確かに。けど、異能者云々の関係かもしれないでしょう? そうであれば興味はないの?」


 リザに問われる。ティアナとしては押し黙るしかない。


「騒動が起きているのは確定のようだし、もう少し調べてみようじゃない」

「……ずいぶんと、積極的ですね」


 ティアナはため息をつきたい気分を抱きつつ、リザに言う。


「お知り合いの闘士の方が敵となった以上、何かしら考えているとは思いますが……」

「そっちは外にまで来て、今更消極的になったの?」

「……話をすぐに聞けて、何か揉め事が起こっていれば協力しようかと考えたまでです。どうやらこの闘技場周辺で騒動が起こっているようではないですし、こうなると介入するのは難しいでしょう」


 ティアナの言葉に、リザは「確かに」と口に出す。


「中央部で事件が起こっているなら闘技場の観客を避難させていてもおかしくないしねえ」

「でしょう? 私としては身近に何か起きているのなら、と考えてここまで来ましたが、そうでないというのなら、ネイレスファルトの騎士に任せるべきでしょう」

「うん、そうよねぇ」


 ティアナの意見にリザも一定の理解は示した様子。だが、完全に納得した様子でもない。

 ここでティアナは、少し突っ込んだ質問をする。


「一ついいですか?」

「何で私がここまで首を突っ込もうとするのか?」

「先ほど言った要因もあるかとは思います……が、あなたの行為は少し度が過ぎているようにも思える」

「つまり?」


 聞き返したリザに、ティアナは言及。


「――あなたは、ユティス様達に勧誘されるのを待っているのですか? だから協力的なのですか?」

「そういうわけじゃないわよ」


 肩をすくめる。


「理由は、ティアナさんが言った通り知り合いが絡んでいるから……ああやって事件に関わった以上、私だって何かの縁で首を突っ込むことになるかもしれないでしょう? だったら、少しでもそれに関する情報を集めようかと思って」

「今回の件が、先の事件と関係あるかどうかは不明ですが」

「そうなのよねぇ。もし無関係だと確定したなら素直に引き下がるつもりでいるわよ」

「……わかりました」


 ティアナは歎息しつつ、アシラに視線を移す。


「私としても、何があったか表層部分くらいは知りたいというのが本音ですし……騎士の方々に迷惑にならない範囲で調べてみましょう。アシラさんは?」

「付き合います」

「なら、行きましょう……フレイラさんは?」

「闘技場を観戦して雇えそうな人を探す役目もあるでしょ? そっちを任せてもいいんじゃない?」


 リザが発言。確かにそうなのだが――ここでティアナは、一つ思ったことがあり質問する。


「……フレイラ様にも、『霊眼』を使用しましたか?」

「あの人は私と似たような能力を持っているようで、耐性もそこそこあったから何も感じ取れなかったわ。ただ、ねえ」


 と、再度肩をすくめる。


「なんだか、物憂げになっている感じだし……一人にしてあげてもいいかなー、なんて」

「もしや、そういう意味もあって外に?」

「ええ。ま、彩破騎士団とやらに対する悩みか何かだとは思うけど」


 リザはそこでティアナに背を向けた。


「さて、それじゃあ調べましょうか」

「……ふと思ったのですが、なぜあなたが仕切っているのですか?」

「え? 嫌だったら変わってもいいけど?」


 小首を傾げ、可愛げを見せようとするリザ。ただ彼女の性格の一端を知るティアナからすれば、なんだか馬鹿馬鹿しく思える。


「……アシラさん、行きましょう」

「は、はい」


 戸惑うアシラと陽気なリザと共に、ティアナは歩き出す。

 ただ、あてがあるような話でもなかった。試しに近くの兵士に問うてみるが、やはり守秘義務の関係もあるのか「問題はない」という返答だった。


「せめてどこで騒動が起きているのかわからないと、判断のしようもありませんね」

「そうよねえ」


 これにはリザも同意する。結局、調査については無為に終わる――そんな風に思った時だった。


 ティアナの視界の端で、二人の男女が目に入る。そちらに注目した理由は、白い外套姿の男性と騎士服のような黒い衣装の女性が、ずいぶんと奇妙に映ったからだ。

 とはいえ、外套姿の男性は学生のそれに見えなくもないので、一度注目はしたがティアナは視線を逸らした。


 リザなどはああいう人物を見慣れているのかわからないが一瞥しただけで無反応。ただアシラは違った。珍しいと感じたらしく、ティアナの目には視線ばかりでなく耳をそばだてているような気配も感じられる。


 そこでティアナはリザにどうするあ問い掛けようとした――その時、


「あ……」


 アシラが声を発する。いち早く反応したのはリザ。

「何?」


 彼女が聞き返す間に、先ほどの男女が近くを通り過ぎていく。何やら深刻な状況なのか、両者は話しながらも歩調は早め。

 会話の内容をティアナは聞き取ることができなかった――が、アシラはどうやら聞こえたようで、


「あの……」

「何? 学生さんが何か喋っているの?」

「学生?」


 リザの言葉にティアナが反応。


「男性はわかりますが、あの女性は?」

「たぶん魔法騎士とか、そういう分野に進もうとしている人じゃないかと。ああいう格好の人、それなりにいるし……アシラさん。見失っちゃうわよ。早く言いなさい」


 急かすリザ。そこでアシラは、


「――聞き慣れない名前も混じっていましたが、ユティスさんの名をはっきりと口にしていました」

「……え?」

「同名の人物なだけという可能性もありますが……」


 ティアナは遠ざかっていく男女の後ろ姿を眺める。


「嫌な予感がするわ」


 リザが言う。なんだか、彼女が言うとずいぶんと信憑性がある。


「もしあの男女の話し合っている件が騒動だとすると……ユティスさんが関わっている可能性も」

「……追って、事情を訊きましょう」


 ティアナは足を二人へ向ける。すると今度はリザが質問した。


「大丈夫? 初対面の人から情報訊きだすのは難しくない?」

「ユティス様の名が出ていたということは、あのお二方には自己紹介をしているはず。ロゼルスト王国の名やイリアさんの名を出せば面識があるかどうかも確認できますし、私達がユティス様の関係者だと認識されるはずです」

「あ、そっか。なら、行きましょうか」


 リザも同意し、三人は男女を追い始める。

 それと共に、ティアナは嫌な予感がした――事件関与は確定だろう。そんなことを思いつつ、歩み続けた。



 * * *



 以後、魔物は散発的に襲撃を仕掛けてきたが、それらはジシスが応じ撃退。さらに闘士達もさらに集まり、ユティスが戦わなくともどうにかなるくらいになっていた。

 やがてオズエルは魔具を完成させる。魔具、といっても装飾品のような具体的なものではなく、見た目上は単なる半透明な青い石ころ。


「見てくれは悪いが、所持していたら結界を透過できる」


 数は四つ。材料で生み出せたのはこれが限界だったらしく――どちらにせよ、ユティス達で事を当たる必要があったというわけだ。


「現状では、内通者の存在もなさそうじゃな」


 そこへジシスが近寄ってきて提言を行う。


「内通者がいれば、魔物の質を上げた段階で攻撃に乗じて掠め取るなどしているはずじゃ」

「かもしれないな……とはいえ、油断はできない」


 オズエルは言うと、闘士達が用意した家屋を指差す。作戦を行う上で、念の為闘士達にも詳細がわからないよう配慮するためだ。

 そちらへ移動した後、作戦を実行する。


「ユティスさん、頼む」

「うん」


 ユティスはオズエルの言葉に応じ、深呼吸。直後、『彩眼』がユティスの瞳に宿った。

 刹那、一気に魔力を収束させ『創生』を果たす――物質の構築速度も、以前と比べて驚くほど上昇していた。もし以前の構築速度であったなら、ボロが出ていたかもしれない。


 そしてできたのは、一目見て手のひらに乗るくらいの木製の小箱。だがこの中は、魔力を断絶する機能が備わっている。

 ユティスはオズエルに渡し、告げる。


「僕が合図を出すから、そのタイミングで箱に水晶球を入れてくれ」


 一番難しいのはタイミング。単純に『創生』で水晶球のダミーを創ることは可能だが、それだと一瞬だけでも同じ魔力が二つあることになる。それを相手に勘付かれる可能性は十分あり、もしそうなると相手に策が露見する可能性が出てくる。だからこそ、万全を期すために魔力遮断の箱を創り、ダミーを創ると同時に本物を箱に入れるようにする。


 ユティスは呼吸を整え、魔力を収束させ――そして、


「今!」


 刹那、一気にユティスは物質を構築する。そしてオズエルが箱に入れたと同時、ユティスは水晶球を創生した。

 魔力が沈む。そこでユティスは一度周囲を見回す。


「……何も、変化はないな?」

「とりあえずは、だが」


 オズエルは答えつつ、本物の水晶球を入れた箱を懐に入れる。


「作戦は成功したことを祈りつつ、すぐさま行動すべきだな」

「うん……騎士ジシス」

「うむ」

 ジシスが頷くと、まずは建物を出る。そしてオズエルは闘士達にダミーの水晶球を渡す。

「こちらは結界をどうにかするための行動に移る。。そう時間は掛からないと思うが……その間、敵に水晶を奪われないよう持ちこたえてくれ」


 闘士達が承諾の声を上げる。それを聞いたオズエルは満足げに頷き、


「では、進むぞ」


 ユティス達を先導するように歩き始めた。


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