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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第一話
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約束と始動

 会場前に辿り着いた時、フレイラ達はボディチェックを受ける。とはいえ双方とも武器の類は当然ながら持っていない――


「これは?」


 ユティスのチェックを行っていた騎士が、指輪を示し問い掛ける。


「ああ、えっと」


 フレイラは今更ながら思い出す。するとフレイラをチェックしていた女性騎士が声を上げた。


「お二方とも身に着けているご様子……魔力を感じるので、申し訳ありませんが……」

「はい、どうぞ」


 ユティスは進んで指輪を渡す――それが当初信頼の一端となっていたはずだが、ユティスは必要ないとすぐに断じたらしい。


「ええ、わかった」


 フレイラも指輪を外し兵士へ渡す――それと同時に、やはりこうした魔具の持ち込みはできないのだと改めて思う。


「では、進もう」


 短く告げ、フレイラはユティスと共に扉を抜けた。


 目の前に広がるのは、貴族服やドレスを身にまとった紳士淑女と、広い会場。入口から見て右端は壁、左にはテラスへと続く大きなガラス窓がいくつもある。照明は上に備え付けられたシャンデリアから放たれる魔法の光。それは室内全てを余すところなく照らしており、まぶしいくらいだった。


 フレイラとしては、もし襲撃されるなら入口か、テラスからだろうと推測する。壁を破壊するとしても、警備の兵が歩き回っているはずで、なおかつ魔法に対する強度もあるはずなので、侵入する可能性は低い。


 広い会場を見回しつつ、ひとまず自身の状況を整理し始める。まず能力の大半が使えない――フレイラは『強化式』の恩恵により、身体能力を多少ながら引き出すこともできるが、本来の力とは程遠い。


 身に着けている物の中で左手にブレスレットがあるのだが、これが魔法封じの作用を生じさせているためだ。これを身に着けることが式典参加の絶対条件となっており、実際会場にいる人間は似たようなブレスレットを手首に巻いている。なおかつこれは特殊の魔法が刻まれており、会場内で外すことができない。


 これはユティスも同様だが、この状態でも『創生』の異能は使用できた。また、武器に備わった結界などもきちんと使うことができた。魔力によって武技が生み出されているのは間違いないが、どうやら発動するプロセスが魔法と異なるため、使用できるらしい。


 そしてフレイラは思う。ここからは運――最悪遠巻きにした状態でいざとなれば駆け寄って守護するというやり方に切り替える必要があると思いつつ、ユティスに口を開いた。


「緊張している?」

「まあ、ね……」


 そうは言うものの顔色自体は比較的良い。体に気合が入っているのかもしれない。


「誰かに挨拶でもしておく?」

「……僕は、いいよ」

「そう。私もいいのだけれど……」


 フレイラが断じた時、背後から靴音。振り返るとそこには――


「あら、ユティス」


 真紅のドレスを着た、やや垂れ目の金髪女性。


「ああ、どうもアージェ」


 対するユティスの声は穏やかなもの。


「話、聞いているけど……隣にいるのがフレイラという女性?」

「そうです」


 ユティスに代わりフレイラは答え、彼女――アージェは苦笑した。


「双方とも、なんだか大変そうね」

「大変?」


 フレイラが聞き返すと、彼女は小さく頷く。


「どうも、陛下と会うために頑張っているそうじゃない」


 彼女から刺々しい態度はない。むしろ、二人を見て楽しんでいる様子。


「ユティス、私は面白おかしく見ているから、頑張ってね」

「わかったよ……ご両親によろしく」

「ええ」


 短い会話の後、彼女はその場を立ち去る。その後姿が人混みで見えなくなった時、フレイラはユティスへ問い掛けた。


「……知り合い?」

「僕が『詠唱式』の魔法を学んでいた時、同じように授業を受けていた人物の一人」

「なるほど……他にもそうした出席者って、いるの?」

「いるけど……家柄的にこの式典に参加できるのは、もう一人くらいじゃないかな――」


 ユティスが零した直後、表情が変化。どうやら当該の人物が目に入ったらしい。そちらはなんだか険しい表情。


「顔つきを見ると、そっちとは会いたくないみたいだね」

「まあ……ファーディル家云々が密接に絡む相手だから」


 その言葉で――ああそうかとフレイラも理解する。

 結局、ユティスのことは権力闘争に使われているわけだ。だからこそ兄弟達は問題がないようユティスを屋敷に押し込める。


 そこでふと、フレイラはもし襲撃が起きなかったらのことを考える。何もしないままであれば単なる婚約宣言だけで終わってしまう。どう転ぶかわからないが、ユティスの立場が悪くなる可能性の方が高いかもしれない。


 もしそうした時、場合によっては自分が――などと思った時、


「フレイラ、気を遣わなくていいと言っただろ?」


 ユティスは表情から察したのか、フレイラへ告げた。


「なんとなく考えがわかるよ。この式典でさらに立場が悪くなるかもしれないから、場合によってはフォローを入れる、ということだろ?」

「……よくわかるね」

「顔にそう書いてある」


 苦笑するユティス。その顔に暗さは感じられない。


「ま、その時はその時で考えよう……今は、陛下のことに集中しようよ」


 そう述べた彼の声音は――どこか、使命感のようなものも感じ取れた。会場入りしたことで、事態に対し気持ちを切り替えているのだろう。

 だからこそ――フレイラも彼に応じるように気持ちを切り替えようとした、その時、


「けど、そうだな……陛下を守るためとはいえ、こうしてフレイラに協力するのだから頼みの一つくらいはいいかな」


 ユティスが言う。それにフレイラはすかさず頷く。


「いいよ、何?」

「もし良かったら、剣術訓練に付き合ってもらえないかな」

「剣術?」

「うん。僕は一応魔術師だから必要ないと言われるかもしれないけど……それなりに剣の訓練も受けているし、そっちの腕も向上したいと思って」

「私だって教えられることは少ないよ?」

「剣を打ち合う人がいないから、それを任されて欲しいんだよ」


 その言葉に――フレイラは特段考えもせず頷いた。


「いいよ、そのくらいなら」

「ありがとう。それじゃあ、頑張ろう」

「うん……あ、そうだ、ユティス」

「何?」


 聞き返した彼に、フレイラは申し訳なさそうな表情をする。


「巻き込んでしまい、なおかつ襲撃があってもなくても、長い付き合いになりそうな気がする」

「だと思う。変な縁だけど、よろしく」


 ユティスは不快に思っていないようにも見えたが――フレイラは何も訊かないことにして、


「よろしく……お互い少しでも家の中の格を上げられるよう、頑張ろう」

「うん」


 返事を聞くとフレイラは、会場を見ながら告げる。


「では、作戦開始ね」


 直後――入口から見て最奥に位置する場所で、式典開始を宣言する声が上がった。



 * * *



 所定の位置に到達した彼は、後は報告を待つだけという段階となり小さく息をついた。


「さあて、楽しい式典の始まりだな――」


 その直後、彼はある事実に気付く。城内を警備していた騎士の内少数が、外へと出てきた。


「おや……気付かれたか。城を窺っていた連中が見つかったな。放っておくわけにはいかないが……かといって、こっちの手札を簡単に見せるわけにもいかないな」


 呟いた時――彼の後方に、人影が。


「唐突に申し訳ありません……しかしご報告が」

「騎士が動き出したんだろ?」


 尋ねつつ振り返ると、跪く黒い外套の男が、僅かに体を震わせる姿。


「俺は気付いているさ……だが、まだ使うわけにはいかないな。外に出た騎士の技量もわからんし、何より手の内がこの段階で露見するのは面白くない」

「私も同感です……見捨てるという選択もありますが」

「そんなことをすれば、お前達の士気にも関わるだろうに……いっそ殺すか?」

「下手に殺害すれば、それだけ警戒される恐れもありますが……」

「それもそうだな……場合によっては、ということにしておくか。とりあえず騎士の動きは伝えるから泳がせておけ。逃げていれば外に出る騎士が増員されて、城内が余計手薄になるかもしれん」

「わかりました」

「それと、内通者との連絡は大丈夫なんだろうな?」


 彼は念を押すように確認する――それこそ、この作戦で最重要となる部分。

「大丈夫です。お任せください」

「一番いいタイミングで報告してくれと伝えておいてくれ」

「了解いたしました」


 男は一礼し、姿を消す。そして彼は興味を失くしたように視線を戻すと、星空の下ぽっかりと浮かびあがる城を見上げた。


「……この事件は、後の歴史でどう言われるようになるんだろうな?」


 これをきっかけとして、ウィンギス王国が興隆する――などと書かれては、子孫もあまり浮かばれないような気がする。


「ま、俺がそんなことを言っても始まらないか……さて、楽しませてくれよ?」


 彼は虚空に問い掛ける。恐ろしい程までに笑みが張り付き、暗闇の中で不気味な存在感を放っていた――


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