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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
159/411

魔物の標的

 ジシスが騎士に指示を行った後、オズエルも闘士に似たようなことを伝える。彼は一応騎士と連携するようにと言いつけたが、微妙な表情をした闘士を見て、ユティスは難しいだろうと思った。

 その後オズエルは、ユティス達に向き直り口を開く。


「では、結界を調べに行くとしよう」

「もう使い魔は解くのか?」


 ジシスの問いにオズエルは無言で頷き腕を振る。見た目上の変化はないが、使い魔の存在を消したのだろう。


「確認だが、水晶球は俺が持っているということでいいのか?」

「ユティス殿や従者の彼女に持たせるわけにもいかんじゃろう。かといって儂は前線に立つ人間だ。懐の中で勢い余って壊してしまうかもしれんぞ?」

「……なら、俺が持っていよう」


 嘆息しつつオズエルは告げる。そこでユティスは一つ提言する。


「騎士ジシスが前を見てくれるようだから、僕が後方に注意を払うよ。オズエルさんは真ん中で」


 話した後、今度はイリアに話しの矛先を向ける。


「イリアは彼に近づこうとする魔物を迎撃すること」

「はい」

「悪いな」


 オズエルは言いつつユティスに小さく礼を示す。そしてジシスが前に立ち、


「オズエル殿、どの方向に行く?」

「……まずは、結界の端へ向かう前に魔物の出現場所を確認した方がいいだろう。一番近い出現地点に移動しよう」

「わかった。案内してくれ」

「了解した」


 会話の後、オズエルは進むべき路地を示し、ジシスが先んじて歩き出した。

 その道中で、ユティスは事態が非常にまずい方向に突き進んでいると認識する。


(騒動を巻き起こしても、平然と揉み消せる相手、か)


 マグシュラントがロゼルスト王国の魔法院と関わりがあるのかは、一切不明。だが、少なくとも一つ言えることがある。関わりがあろうとなかろうと、ここで戦う以上マグシュラントは将来的に敵となるのは間違いない。


(魔法院が色々活動している中で戦うことになったら厄介だけど、そのタイミングについてはなるようにしかならないな)


 覚悟はしておこう――ユティスが考えた矢先、前方に気配を感知。


「騎士ジシス」

「来おったか」


 言葉と共に路地の奥に魔物が出現。一見するとそれは虎のような姿をしているが、色は生物としては気色悪い青一色。

 途端、魔物が吠える。虎のような吠え方ではなく、奇声じみた甲高い叫び。


 そして一目散にユティス達へと走り込んでいく。闘士達に攻撃はしないが、ユティス達には仕掛ける――これは間違いなく、水晶球を持っているためだろう。

 突撃する魔物――しかし、ジシスが立ちはだかる。刀身が分厚い大剣の柄に手をかけ、狭い路地にも関わらず抜いた。


「――通さん!」


 一声。それと共に放たれた斬撃は縦。魔物はそれを避けようとする素振りを見せはしたが、ジシスの剣は容易く魔物を捉え魔物を斬った。

 剣戟により、一撃で魔物は消滅。威力は十分であり、ジシスは魔物を斬った感触を理解し、楽観的な言葉を口にする。


「この調子なら、出現ポイントまでは楽勝じゃろう」

「油断だけはしないでくれ」


 オズエルは警告しつつ右手をかざし魔力を収束させる。先ほどのように武器は形を成していない。おそらく、状況に応じてどういう武器を生じさせるのかを変えるのだろう。


(色々と種類があるということか……興味はあるが、その辺の詮索は後だ)


 ユティスは心の中で思いつつ、ジシスを先頭にして突き進む。またも魔物が出現するが、それもあっさりと彼の手によって滅ぶ。容赦のない斬撃はティアナやアシラの放つものとは違い、見た目通りの豪快さが滲み出ている。もし路地裏でなければさらなる勇壮な姿を見ることができるだろう。

 やがて、目当ての魔物出現ポイント間近となる。それでも魔物は散発的なレベルというくらいで、ユティス達にとっては大した障害とはならない。


「さて」


 オズエルが呟いた直後、ユティスの視界に白い光が見えた。その場所に魔法陣でも存在しているのか、円形の白い光の柱が地面から生じている。


「あれのようだが……光の中から出現しているのか?」


 ジシスが呟いた瞬間、その光の近くで突如新たな球体の光が生じる。それは一瞬で形を成すと、全身青色の狼のような魔物が出現した。


「いや、あの場所から魔力が噴き出し、それを利用し召喚しているのか」

「そのようだな」


 オズエルは同意し、光に向け右手をかざす。


「接近はこのくらいで十分だ。まずは物理的な破壊が可能かを試みる」

「おう。存分にやってくれ」


 ジシスの言葉の直後、オズエルは右手に魔力を収束させ、先ほどと同じようなライフル銃を生み出す。そして魔力の弾丸が射出され――まずは出現した魔物を撃ち抜き倒す。その後改めて放った弾丸は光に包まれた地面に直撃。周囲に石片を撒き散らす。

 だが、消えない。どうやら地面と光は関連がないらしい。


「駄目だな。魔法で解除しなければまずそうだ」

「ならば、接近するか?」

「……少し、考えさせてくれ」


 光を見ながらオズエルは思考を開始する。


「問題は、あれを封じるということは相手にも気付かれるかもしれないこと……おそらく現時点で監視されている可能性は低い。しかしあれを封じれば敵に伝わる可能性は高い」

「こちらの動きなどが知られてしまうじゃろうな」

「そこが問題だ……それに、光が消えないよう敵が対策をしている可能性もあるな。あんな光が出ていれば魔物の出現地点だと俺達は簡単に推測できる……だからこそ敵だって消されないよう対処はしているだろう。本当にあの光を解除できるかどうかは検証してみないとわからないが、こちらはあれに気を取られ続けるのもまずい。敵を捕まえた方が早いかもしれない」


 オズエルはそう語った後、難しい顔をしながら続ける。


「加え、魔物が水晶球を狙って動いているのは移動中に改めてわかったが……問題は、水晶球を持ったまま外に出た場合だ」


 彼はジシスに首を向けた。


「あんたの考えは、結界を気付かれないようすり抜け、魔物などを生み出す相手の懐まで接近し倒す、ということだろ?」

「そうじゃな」

「それには一つ問題がある。水晶球を狙って魔物が行動しているようだが、その水晶球が結界内から脱せば気付かれるのではないか、という可能性だ」

「監視されている可能性が低い以上、大丈夫ではないか?」

「敵だって、水晶球の魔力がこの中にあるくらいは判断できるようにしてあるだろう」

「ふむ、となると水晶球と共に脱せば相手に看破される可能性があると?」

「そうだ。あくまで可能性の話だが、こちらの策は漏れたら終わりだ。何か対策を考えなければ――」


 オズエルが語る間に、ユティスは周囲から魔物の存在を察知。それと同時に口を開く。


「オズエルさん。対策だけど、一つ考えが」

「考え?」

「うん。けど今は……結界を解析しここから脱することができるかを検証しないと」

「……その策に乗ってもいいんだな?」


 魔物の姿が見える。それと同時にユティスは頷いた。


「うん」

「わかった。なら従おう」


 即決。彼なりにユティスの異能を考え、どういうことをするのか察したのかもしれない。

 ユティス達は魔物との交戦を開始する。数は一体であったため遠距離からオズエルの狙撃によって事なきを得たが、ユティスはどうにも嫌な予感がした。


(敵は水晶球の魔力に寄ってくる……けど現在魔物は散発的にしか仕掛けてこない……これはもしや)


 考えながら魔物の出現ポイントを迂回しつつ歩を進める。やがて大通りへと繋がる大きめの道が存在する広場に到達。

 そこで、変化が起きた。


 周囲に、魔物の気配。ただしそれは一つではない。明らかにユティス達を追ってきたと思しき、大群。


(魔物は水晶球を狙っている……けれど単純な命令じゃない。専守防衛の構えを保ち闘士達に牽制する魔物と、集まって攻撃するよう指示を受けている魔物がいるということか?)


「ずいぶんだな、これは」


 ユティスが考える間に、オズエルは苦笑し声を発した。


「水晶球は、敵にとっては余程魅力的な物らしいな……ある程度数が集まったら大々的に仕掛けるよう命令されているのか」

「ここで殲滅するか? それとも、逃げるか?」


 次に声を発したのはジシス。対するオズエルは僅かに思案し、


「無理矢理押し通れるような数じゃないな。しかも囲まれている」

「うむ……ならばある程度数を減らした上で、路地に逃げ込むとするか」

「そうだな……ユティスさん、そっちはどうだ?」

「僕はそれでいい」


 返事をした直後、オズエルが右手を構える。ライフルが消え去り、そこに現れたのは違う形状の銃。

 それを見ながら、ユティスは剣を抜いた。意識していない中でもユティスとイリアが後方を見据え、一方オズエルとジシスは進む方角に体を向け背中合わせとなった。


 やがて魔物達が視界に入り始める。全てが動物を模したものではあったが、獰猛な雰囲気が例外なく存在していた――とはいえユティス自身まだ精神的な余裕はあった。魔物の能力は第一領域相当なのは間違いなく、『精霊式』を思い出した自分なら対応できると思ったためだ。

 とはいえ、倒せたとしても水晶球を奪われれば終わり――ユティスは剣を構えつつ、オズエルに問う。


「オズエルさん、『召喚式』の魔法でこちらの味方を増やすのは?」

「右手の武器を動かしながら『召喚式』の併用は相当精神をすり減らす。おまけに魔物を迎撃するレベルのものを召喚するとなるとかなり魔力を食う。できればまだ温存しておきたい」

「なら、半分は儂に任せろ」


 自信ありげにジシスが言う。ここは、騎士の面目躍如といったところか。


「残りの半分は三人で対応せい」

「……ユティスさん、どうする?」

「なら、イリア。騎士ジシスと僕らの間に立ってくれ」

 ユティスはイリアに指示。彼女はそれに従いユティス達とジシスの間に移動。続いてオズエルがユティスの隣に立った。

「状況に応じて魔法による援護……できる?」

「はい」


 イリアの返事は決然としたもの。瞳の奥に不安が見え隠れしていたが、ユティスは返事の強さを信用することにした。


(本当は、あまり戦わせたくないんだけど……)


 複雑な気持ちはあったが、現状はそうも言っていられない状況。まずはどのような形でも虎口を脱する必要がある。

 魔物が動く。水晶球の魔力が間近にあるためか、その気配に理性の文字は存在していない。


 飢えた肉食獣のように――魔物達は、ユティス達に襲い掛かった。


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