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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
158/411

結界の中で

 闘技大会は午後に入り、なおも試合が続いている。フレイラやティアナ。そしてアシラはなおも観戦を続けているが、一人だけ例外があった。


「なんか、様子が変なんだけど」


 午後も散策を行っていたリザが、部屋に戻るなり声を上げた。


「変?」


 フレイラは聞き返すと同時に首を傾げる。


「何かあったの?」

「なんだか兵士とかの動きが変なのよ。外を見てあれこれ話しているんだけど……」

「外……」


 闘技場の外ということか。フレイラは少しばかり不安に思い、リザへ提案する。


「様子を見に行った方がいい?」

「ちょっと尋ねてみたけど、言葉を濁されたわ。まあ騒動があったとしても話せないでしょうけど」

「とすると、私達が訊いても答えてはくれないか」

「だと思うわ」

「で、リザさんはどうするの?」


 何やら動き出しそうな気配なので、問う。すると、


「うーん……迷っているのよね。単なる物取りとかならさっさと兵士さんが解決すればいいと思うし……」


 腕を組むリザ。さらに歩を進め、闘技場を見下ろした後、懐から対戦表を取り出し確認。


「ふむ、騎士レオの試合が次か……そっちにも興味があるけど、ちょっと様子を見てくるわ」

「悪いね」

「別にいいわよ。それに、何もわからずに騒動に巻き込まれるのはごめんだしね」


 そう言いつつ彼女は手を振り部屋を出た。少しの沈黙が生じ――やがて、ティアナが口を開いた。


「なんだか、ずいぶんと世話焼きの方ですね」

「みたいだね……協力はしてくれるみたいだし、ありがたいけど」


 呟きつつ、彼女を雇うのはどうかと一瞬検討してみる。ずいぶんと癖があるのは間違いない。しかし、ビジネス云々の話がなくなった現状でも色々と動いてくれる以上、単純に礼というわけではないかもしれない。


(もしかしたら、待っているとか……? まさか、ね)


 フレイラは胸中呟きつつ、闘技場に視線を移す。ひとまず試合を観戦して、学院に行っているユティスに彼女をどうするか確認すればいい――


 決断した時、次の試合が始まる。いよいよレオの出番だった。


「異能を、使うでしょうか」


 アシラが言う。それにフレイラは「わからない」と答え、


「けど、地の能力も結構高いみたいだし……まだ異能の真価は発揮されないかも」


 そんな風に返答しつつ――フレイラは、闘技場の試合に没頭することにした。



 * * *



 オズエルが南西部全体の状況を把握したのは、魔法を使用してからおよそ十五分が経過した時。既に闘士が魔物と交戦しているという話も耳に入り、ユティスは焦燥感に捕らわれる。だが情報がない段階で動けば非常に危険であるため、必死に自制した。

 さらにその間に街の人間が南西部の地図を持ってきて地面に広げた。路地が複雑に絡んでおり、とても案内なしでは動くことができないとユティスは心の中で断じる。


「……よし、魔物が出現するスポットはおおよそ掴んだ」


 やがてオズエルは呟き、闘士からペンを受け取った後地図に目を落とした。


「遺跡の出口とは別に出現スポットがあるようだが……空から見ればその場所は特定できる」

「魔物の数や強さはわかるか?」


 ジシスが問うと、オズエルは一瞬考えた後返答。


「ほとんどが第一領域相当だな。ただ数は多い。質より量といったところか」

「出現場所は一定か? それとも、絶えず変化しているのか?」

「この短い時間では判別できないな」


 オズエルは受け答えしながら広げられた地図に出現場所を記していく。数は十ヶ所以上。ユティスにとっては地図の縮尺がわからないので広さが上手く想像できないが、少なくとも万遍なくバラけている状況であるため対応するのは大変だと思った。


「一つ一つ潰していくんですか?」


 ユティスがジシスに問うと、彼は唸り始めた。


「それも手じゃが……まず味方側の混乱を鎮めるのが先じゃろう。兵や騎士にその辺りを是正するよう指示し、儂らは相手が逃げない内に捕まえるための準備に入るとしよう」


 ジシスは語ると、オズエルに視線を向けた。


「結界の解析はどの程度かかる?」

「まず、結界に直に触れて魔力の確認をする必要がある」

「うむ、わかった。それに関しては手早くやった方がいいじゃろう。結界の端まで移動し調査を行うとしよう」


 そうジシスが告げた直後、魔物の咆哮。近くまで来ているのは間違いない。


「……おそらく、資料の魔力に反応しているのかもしれない」

「とすると、それを隠しても駄目そうかな」

「おそらくな。それに、下手に魔力を遮断すれば相手が何をするかわからない」


 ユティスの言葉にオズエルは重い口調。


「敵がこちらの動きをどの程度把握しているかで変わってくるが……南西部一帯に魔物を放つような魔法を使う以上、逐一こちらの動向を監視するような魔法は使っていないだろう。なおかつ遠方から多数の魔物を使役しているということは、例えば一体の魔物の中に意思を潜り込ませ行動させる、という手法もないはずだ。それをする場合、他の魔物が制御できなくなるからな」

「となると、魔物は――」

「一定の命令を与え、それに基づいて行動させるタイプだろう。加え、魔物を使役する人物と結界を行使する人物は別のはずだが……結界を構成する人間も探した方がいいのか?」

「とはいえ、結界内にいる可能性は低いと思うよ」


 ユティスの言葉に、オズエルも「そうだな」と同意する。


「まとめようか……現状、敵に監視されている可能性は低い。そして魔物は命令を受けて動くタイプ。結界を行使している人間が別にいる。その人物がどこにいるかは疑問ではあるが……ともかく、外にいる可能性が高い以上、結界を構築する人間もこちらを監視している可能性は低い」

「あと、気になるのは魔物がどういう姿をしているかだけど……」


 ユティスが呟いた時、一人の兵士がジシスへ近寄って来た。


「報告します!」

「うむ」

「現在魔物が出現しておりますが、その形状は生物を模している以外は不定形です。なおかつ、その動きは誰かれ構わず襲い掛かっているのとは違い、何かを探しているような雰囲気です。こちらが意図的に仕掛けない限り、反撃してくることもありません」

「現時点で被害は?」

「魔物が出現した直後、闘士達が交戦を仕掛け怪我人が出たようですが、死者はいません」

「ふむ、どうやら資料が封じ込められた水晶球を探しているようだな」

「水晶球の魔力も魔物を使役する人間のものだ。だからその魔力を持つ人間を探せと命令されているのだろう」


 オズエルの意見。ユティスは内心同意しつつ、彼に質問を行う。


「水晶球に関する処遇だけど……どうする? 結界の解析に向かうなら、騎士達に守ってもらうのが良いと思うけど……」


 ――そこで、オズエルはユティスやジシスに小声で話した。


「闘士は、これだけ魔物が出現している以上統制も取れず護衛役をさせるのは難しいだろう……第一領域相当の魔物なら容易に倒せる人間も多いだろうが、それ以上の強さを持った敵が出てきたらどうなるかわからない。騎士や兵士の方はどうだ?」

「同じような感じじゃな。そもそも兵士達では第一領域の魔物ですら苦戦するだろう。かといって闘士と連携するのも……」

「難しいだろうな……それに、魔物を倒した後、結界が構築されるまでに時間があった。その間に敵の内通者がここに来て水晶球を(かす)め取ろうと動いている可能性も否定できない……俺達が所持するのが確実ということになるが……」


 そこでオズエルはジシスに確認を行う。


「個人的には内通者の存在の方が怖い。そうした人間に奪われる可能性をゼロにするためには結界解析に赴く時も肌身離さず持っている必要がある……騎士ジシス、魔物を倒せる自信は?」

「第一領域ならば数で押し寄せても問題はないじゃろう」

「それ以上の魔物は?」

「やってみせよう」


 力強い笑み。その表情には確固たる自信と、何より裏打ちされた戦歴が見え隠れする。


「……わかった。行動する上で多少なりともリスクは伴うが、ここは俺達が所持したままにしておこう」


 ――ここで、ユティスは一つ思いついた。


「オズエルさん、資料を封じた水晶球を貸してもらってもいい?」

「何をする気だ?」

「ちょっと調べたいことが。魔法などは使わずただ触るだけだよ」

「いいだろう」


 オズエルは懐から水晶球を取り出し、ユティスは受け取る。何の変哲もないそれを眺め――ユティスは、一つの結論に達する。


(複製は、おそらく可能だな)


 ユティスが取れる行動は二つあった。一つはジシスが先ほど提示した結界をすり抜ける策のために異能を利用すること。そしてもう一つは、水晶球の偽物を作成すること。


 前者は結局のところ結界の解析をしなければならないため、結界の端まで近寄って調べる必要はある。もしオズエルができないと判断した時、提案すればいいだろう。

 一方水晶球を模倣して偽物を作成の方は、敵をかく乱するという意味合いがある。触れた感覚としては、外面だけなら魔力を模倣することは不可能ではないと考えた――そこでユティスはなおも思考する。


(ただこれは、反撃する際に用いた方がいいな……もし偽物を仮に奪われてそれが露見した場合、相手が何をしでかすかわからない。精巧な複製を創れる魔術師がいるとわかれば、現状よりさらに強力な魔物を生み出すかもしれないし……味方側が混乱している状況を考えると、まだ動くべきじゃないか)


「ありがとう」


 ユティスが水晶球を返す。オズエルはどういう意図があったのか聞きたそうな顔を一瞬示したが、表情を見て話す気がないと悟ったらしく、動き出すべく提案した。


「ならば、早速行動に移すか」

「儂ら四人でいいのか?」


 ジシスが確認を行う。それにオズエルは首肯。


「路地を通る以上、十人などという大所帯では厄介だ。それに」


 と、オズエルはユティス達を一瞥。


「単なる兵士で魔物に対応できないとしたら、足手まといになる可能性も考えられるためいない方がいい。かといって強い闘士を呼び寄せようにも現状では来るのも時間が掛かるだろうし、そもそも来ないかもしれない。相手が次の一手を行う前にできれば解析はしておきたい……この四人で素早く動くのが妥当だろう」

「兵士はどうする?」

「ひとまず、場の混乱収拾と各地の様子を探ってもらおう。こちらから攻撃しない限り魔物は仕掛けないとわかるだけでも、だいぶ違うはずだ」

「各地の様子か……貴殿の『召喚式』で状況を探るのは無理か?」

「ああした偵察に用いる使い魔を制御しながら戦うのは難しい。戦う直前ギリギリまで行使していてもいいが……どうしても隙が生じるため、解析に行く場合は解除した方がいいだろう」

「そうか……ならば、状況を探るよう指示しておく」


 ジシスは近くにいた騎士の一人を呼び、指示を行い――


「――このようにやってくれ。それでは、頼むぞ」

「了解しました」


 応じた騎士は頷き、すぐさま広場にいる兵達へ連絡を行った。


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