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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話

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追跡開始

 飯屋を出た後、ユティス達は速やかに移動を開始する。西部へ向かう跳ね橋まではジシスの案内によって進み、彼がいるために跳ね橋もフリーパス同然に通過した。さらに言うとオズエルの身に着けている魔具は一切反応しなかった。現在使用されている一般的な魔具と構造が違いすぎるため、引っ掛からないらしい。


 跳ね橋を抜け西部大通りに到着した時点で、ジシスが行動を開始。話し合いで決めた兵員を招集する。結果、五分程で五人集まった。


「まだ足らないかもしれぬな……できれば騎士を一人くらいは動員したい所じゃが」

「……敵の動きもある。今の所はこの人数で進むことにしよう。場合によっては数人を伝令役にして大通りから人を呼べばいい」

「うむ、わかった」


 オズエルの言葉にジシスは頷き――再度移動。今度はオズエルを先頭にしてとうとう路地へと入った。

 方角的には南西。どうやら今回はネイレスファルト南西部で動き回ることになるらしい。


 ここでオズエルは探知魔法を使用。その案内によって狭い道を西部に入り、探知魔法により彼を先頭にしてどんどん進んでいく。

 この時点でユティスは多少ながら不安に思った。周囲に人影は見受けられないが、学院の魔術師に騎士。さらには兵士が複数人いるような状況である、反発を招かないだろうか。


「大丈夫なんでしょうか……」


 イリアも不安に思ったらしく、声を上げた。彼女自身理由があってのことだったが、ネイレスファルト来訪初日に路地に入り結果として騒動に巻き込まれたので、不安を抱くのは仕方がない。

 ジシスや兵などはさして気にしている様子ではないのだが――今回はわざわざ騒動に関わるような形でここに来ている。住んでいる人々とトラブルが起きなければいいが――


 そうユティスが思った時、イリアの呟きを聞いたオズエルは説明を行った。


「心配するな、この辺は俺の庭だ」

「庭?」


 眉をひそめるユティス。対するオズエルは明瞭に頷き、


「発掘した武器なんかを、南西部に入り込んで色々実験していた」

「……それ、大丈夫なの?」

「学院にはバレていない」

「そういう問題じゃなくて……」

「人の生き死にには発展していない。また、実験をする対価として揉め事なんかを解決したこともあるから、それなりに顔も通っている。心配いらない」


 彼も結構無茶をしているらしい――ユティスは何か言及しようかとも思ったが、あくまで今回の件とは関係の無い出来事であるので、言葉を押し殺しオズエルに追随し続けることにした。一方ジシスは実験という言葉に多少反応したが、言葉には発しなかった。


 彼は探知魔法に従いどんどんと先へと進んでいく。もしオズエルとはぐれたら帰れないだろうとユティスは思いつつ――ふいに、ジシスが口を開いた。


「……そういえば、儂には一つ疑問があるのだが」


 話を向け先は、オズエル。


「街の地下に大規模な遺跡が存在しているというのは、まあ理解した……そして、出口が色々とあるというわけじゃな?」

「そうだ」

「しかし街中にあるのならば、噂の一つくらいあがっていもいいのではないのか? 儂もここに住むこと長いが、聞いたこともないぞ?」

「それはネイレスファルト上層部の管理がきちんと成されているという証明になるだろう……無論、上の人間だけでは管理にも限界がある。だから管理する組織なども存在しているはずだ。その中には、城で働く騎士だっているかもしれないな」

「ほう? それはどういうことだ?」

「まず、出口に関しては例えば闘技場であったり、公共的な施設であったりと……国が管理できる建物が覆いかぶさるようになっている」

「ふむ、そうでなければ隠し通すことなどできんじゃろうからな」

「そうだ。で、そうした人間を国が公にしていない組織に編成し管理している……例えばそれは一般人てあったり、あるいは騎士かもしれないという話だ」

「そこに……マグシュラントはどう関与している?」


 ジシスが訊く。マグシュラントという文言を相当小さな声で話した。同行する兵士がいるからだろう。


「……奴らはそうした地下への入口を管理する人間を買収、もしくはそうした組織の上層部とコネクションがあるということだろう。でなければ遺跡に易々と入れない」

「ふむ、つまり入口を管理している組織とマグシュラントはグルじゃと?」

「その可能性が極めて高い……もっとも、始めからマグシュラントが関与していたのか、それとも買収工作を行ったのかまでは調べてみないとわからないが」

「どちらにせよ、秘密にされている以上彼らとしては調べ放題なわけだね」


 ユティスは述べつつ、この件は相当根深い問題なのだと認識する。マグシュラントがどの程度関与しているかは不明だが、少なくとも城の権力を一定ではあるが掌握していることになる。


(もしかすると、ネイレスファルトにはマグシュラントがずいぶんと入り込んでいるのか?)


 そこからユティスはさらに考える。例えば腕の立つ騎士や闘士などに声をかけマグシュラントと内通するよう勧誘。彼らにスパイ行為をさせ情報を得る他、権力層に根を張っていく――マグシュラントは小国でありながら南部の戦乱で生き残っているのは天然の要塞の面もあるが、軍事的な後ろ盾を得るためという噂も存在する。

 だが、本当にそれだけか。彼らがネイレスファルトの地下にある遺跡を調べているのだとしたら――


(魔具の開発のために過去の遺物に手を出している、という説明で納得できる話ではある……けど、それ以外の目的があるようにも感じられて不気味だな)


 漠然とそんなことを思った時、ユティス達の目の前に人影が。思考を中断し視線を移すと、革鎧を着た闘士風の男だった。

 相手はユティス達を見て訝しんだのだが――その中でオズエルを見つけ、声を上げた。


「オズエルさんか。今回は騎士や兵士も同行だが、どうしたんだ?」


 知り合いらしい。オズエルは一歩進み出て、彼に説明を始める。


「俺が研究していた資料が盗まれた」

「盗まれた? で、ここに来たってことは――」

「以前、俺が騒動を片付けた時、地下を利用したはずだな?」

「え……あ、そういえばあったな」

「ちなみに誰にも話していないな?」

「もちろんだよ。信用してくれ」

「わかった……その道を使い、こちらに逃げている」

「へえ、そうか。なら、協力するよ」


 男は告げると、ニヤリと笑みを見せた。


「出ようとする場所はわかるのか?」

「まだ地下を移動中であるため、どの出口を使うかまでは完全に特定できていない」

「なら、進路の先にある公共施設に先回りしてやるよ」


 オズエルはその言葉の後、現在の敵の居所を男に伝える。相手は「承った」と告げ、颯爽と去って行った。それを見送った彼は、一言。


「……もしかすると、兵士達は無駄足になるかもな」

「ずいぶんと、慕われておるようじゃな」


 ジシスが言う。だがオズエルは小さく嘆息しただけ。


「ま、一応恩義を感じてくれている人間もいるという話だ……ひとまず進もう」


 彼は先頭で歩き出す。ユティスはイリアと共に無言で追い、やがて路地を抜けた。

 溜まり場なのか、それとも枝分かれする道の合流地点なのか、闘士らしき人物が多少ながらいた。さらに、先ほどの男性からの指示を受けたか多少人が動き出している。


「……そういえば」


 闘士達の様子を見ながらユティスは声を上げた。


「北東部なんかではその辺り一帯を管理というか、率いていた人物がいたはずだけど……オズエルさん、ここにはいないの?」

「いるにはいる。だが、ほとんど表には出てこない……南西部の人間はさっきの男のように指示命令ができる人間が他にもいるため、大した問題ではないが」


 ユティスは「なるほど」と呟きつつ、周囲の様子を眺める。確かに男の指示を受けて行動を移している面々を見れば、率いる人物がいなくともどうにかなっている感じだった。


「……その率いている存在が、マグシュラントと手を組んでいる可能性はあるのか?」


 ジシスがオズエルに問う。ユティスは多少驚きつつオズエルへ顔を向ける。すると、


「ゼロではないな。騎士と話し込んでいるなどという噂もあるくらいだ」


 語りながらオズエルは腕を組んだ。


「だからこそ、資料を盗んだ人間はここに来たという見方もできる……さて、地下を進む存在の動きが早くなった。直に外に出るかもしれない」


 オズエルは一方的に告げ動き出す。ユティス達は彼の後を追いつつ、さらに闘士達もまた進行方向へ移動を行う。


「案外、あっさりと終わるような気もするな」


 ジシスが楽観的に言う。ユティスとしてはそうであって欲しいと心の中で願いつつ――オズエルが、声を上げた。


「外に出るぞ」


 彼の言葉の直後、どこからか喚声が湧きおこった。もう見つけたのか――そうユティスが思った時、


「騒ぎ出すということは、怪しい人物がいたのだな」


 ジシスが口を開いた。


「騎士かそれとも学院の魔術師か……個人的には学院の魔術師であって欲しいが」

「俺の方は騎士であってくれた方が心情的には楽だな」


 ジシスとオズエルは言いたいことを言う。直後、今度は爆音が聞こえた。戦闘音――認識と同時に、ユティス達は自然と走り始めた。

 さらには、どこからか人の喚く声も聞こえる。加え、別の路地で闘士達が何やら動き回っているのも垣間見ることができる。紛れもなく騒動となっており――音が大きくなるにつれ、楽観的な考えはできなくなった。


 そして――到達した先は闘技場前。そこにいたのは、


「――魔物!?」


 オズエルが驚愕の声を告げる。


 ユティス達の視界に入ったのは、紛れもなく魔物――体毛はエメラルドグリーンに近く、それだけでおよそ普通の動物とは逸脱した存在だと認識できる存在。加え、見た目は豹のようなもので、体躯は一回り大きい。

 その魔物が攻撃を仕掛けた闘士達の剣戟をひらりひらりと避けつつ、距離を置こうとしている光景があった。


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