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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
149/411

奇妙な証言

 ――闘技大会が始まり、初戦から相当な激戦だった。


 本日行われるのは一回戦なわけだが、ここに残っているだけでも相当な精鋭であるのがフレイラにもわかった。もちろん中には対戦相手にまったく手が出ないような人物もいたが――大半は、優れた戦士を雇いたい国にとっては垂涎するような実力だろう。


「やっぱり、難しいかな」


 そこでフレイラは一言呟いた。あきらめているわけではもちろんないのだが、この場には様々な国の人間がいる。そこにはロゼルスト王国の魔法院に関わる人物もいるはずで――


「今の人は相当強かったですね」


 アシラが呟いた。第四試合だったのだが一方的な展開だった。


「もう一方の戦士も中々洗練された実力者だったみたいですが……もう片方の人物の方が、圧倒的でした」

「とはいえ、さすがにヴィレムには劣るわね」


 リザが発言。彼女は足を組んで悠然と闘技場を眺めている。


「やっぱり闘技大会を一度潜り抜けて来た彼とじゃあ、相手も可哀想ね」

「……元々、強かったんだよね?」


 フレイラが問うと、リザは「ええ」と返事をする。


「群を抜いて、とまではいかなかったけど、闘士の中では有名だったわ。さらに言うと、ヴィレムは根が真面目だから鍛錬は怠っていなかったでしょう。騎士の訓練を受けさらに剣の腕には磨きをかけているはず。そりゃあ相手にならないわよ」

「それに対抗できるのが、騎士レオということか……」


 フレイラはそこで思案する。異能については燃費が悪いという難題を抱えているとはいえ、他者の剣技を一瞬で盗むレオならば、ヴィレムと互角に戦えるだろう。


「でも、騎士ヴィレムの剣技を真似るだけでは……」

「甘いわね、フレイラさん」


 そこでリザはニヤリと笑みを見せる。


「レオさんは別にヴィレムだけの剣技で戦うわけではない……つまり、ヴィレムの剣技に加え他から習得した技や、自らの剣術だって利用する」

「あ、そうか」

「騎士レオの真骨頂は剣技を真似ることではなく、それを彼の中で融合させることなんじゃないかしら」

「確かに……そんな異能を所持しているなら、剣術相手では敵なしかな」

「そうでしょうねぇ……ところで、彼は剣技以外のものは習得できるの?」

「話によると、確かできなかったはず」


 フレイラはコーデリアとの会話を思い出す。あくまでレオが習得できるのは剣術とみなしたものだけ。その境界線はひどく曖昧なのだが、例えば槍術や弓術、はたまた体術などは習得できないらしい。

 おそらくそれは別に『同化』の異能を所持する人間がいるのだろう。


(細分化しているというのが、なんだか奇妙に思えるけど)


 あるいは、人間がそうした異能を使う場合、何かに特化しなければ習得できないということだろうか。


 考える間に次の試合が始まる。次は勇者と闘士の組み合わせらしい。

 なおもフレイラは考える――もし自分が闘技大会に出るとしたら、どこまでいけるのか。


 自身が持ち得る『強化式』の魔法を使えば、スペック的にも十分張り合える――ような気がしないでもない。だが、技術的に手も足も出ずに負けてしまうような気もする。

 フレイラは周囲を見やる。ティアナ――確実に彼女は自分を全てにおいて上回っている実力の持ち主。アシラ――ユティスが太鼓判を押す以上、彼もまた相当な実力者。


 そしてリザ――ティアナと変則的な戦いといえど、互角に渡り合ったと聞く。となれば、自分とは――


(私は……)


 これまで彩破騎士団の立場向上などを優先した結果、訓練はしてきたがそれを向上させるには至らなかった。

 自分が今、一番弱いのではないか――そう考えることができるだけの、材料が今この場にある。


 しかし、だからといってフレイラ自身一朝一夕で強くなれるとは思えない。ユティスの場合は過去の記憶が蘇り力を得たが――それは彼が過去に行ってきた鍛錬の結晶。それが自分の身に起こる可能性は――明確な根拠はないが一つ予感は抱いている。

 ユティスの身に起きていることが都合よく起きるとは思えない。自分の中に眠る隠された記憶は、おそらく何か違うもの。それも、フレイラを悪い方向に導くものかもしれない。


 朝のユティス達の訓練を見た時の体の反応を考えれば、間違いなくそうだと断ずることができた。


(こうやって記憶が戻るのは、間違いなく敵の計略……)


 どうやって記憶や関係があったという痕跡を消したのかという疑問はある。だが、方法論を語っていても仕方がない。実際記憶は蘇っているし、それによりユティスは力を取り戻した。

 相手にとってユティスが力を取り戻すことはデメリットにしかならないはずだ。だが、それ以上のメリットがあるからこそ、こうして記憶を戻している。それはもしかすると、


(私のこと……かもしれない)


 心の呟きと共に、さらに心臓が跳ねる。嫌な考えが的中している予感であった。

 その時、試合が終わりを迎える。片方の圧勝であり、一人は闘技場の石床に倒れ伏している。出血しているようだが、死にはしないレベルだと遠目でもわかる。


「次の試合はヴィレムなわけだけど……ま、この辺は見なくても結果がわかるし面白くないわね」


 リザは言うと、突如席を立った。


「ちょっと売店でも見てくるわ」

「え、あの――」

「すぐに戻るから」


 手を振り颯爽と部屋を出ていくリザ。それを見送ったフレイラは、小さくため息をついた。


「なんだか……ずいぶんと変わった人だね」

「まったくですよ」


 ティアナがここぞとばかりに不平を口にした。


「ユティス様は……なぜか信用されていますが」

「信用、とは少し違うような気も……」


 頬をかきつつアシラが反応。するとティアナは彼に食いついた。


「どういうことですか?」

「いえ、あの……」

「ティアナ、そんな喧嘩腰にならない」


 態度に多少驚きつつ、フレイラは横槍を入れる。


「ユティスからも聞いたけれど、利のある関係だからそれなりに信頼が持てるといったことでしょ?」

「そういうことだと思います」


 アシラも同意。するとティアナは息をついた。


「……私が色々抱えており疑われるのはわかります。ですが、あの人に色々言われるのは正直不快です」

「私ならいいの? ユティスからティアナがロイの名を口にしたことは聞いているけど」

「……詳細を語ることはできませんが、フレイラ様なら問われても仕方がないとは思っています」

「なるほど」


 ティアナにとっては、完全な部外者からの横槍が嫌なのだろう――そうフレイラは推測した。


(ユティスは、リザさんをどうするつもりだろう)


 ここで一つ考える。実力はティアナと決闘をこなしたことからも相当あるだろう。となれば闘技大会でもそこそこの活躍はできるだろう。

 リザは城に入ったことで目的は達せられたらしいので、ユティスとの関係は消滅してもおかしくない。とはいえリザはユティスと共に行動しようという構えを見せているし、ユティス自身もそれを止める気はない様子。


(問題は、リザさんがどう考えているかだけど……)


「……あの」


 そこでティアナが小さく手を上げた。試合がまだ始まらないので、繋ぎの会話でも成そうという気なのだろう。


「一つ、いいでしょうか?」

「どうしたの?」

「その……ユティス様について、一つ疑問に思ったことが」


 もしかすると、今までリザがいたため話さなかったのだろうか。


「何かあった?」

「その、街での戦いで違和感を覚えまして、今日の訓練で、また一つ気付きました」


 確信を伴う声音。その表情から何事かとフレイラは彼女を注視する。


「剣を合わせてみて確信したのですが……その、ユティス様は何かご記憶を封じられていて、それが少しずつ蘇っているような状況ですよね?」

「そうだと思う」


 フレイラが答えると、ティアナは改めて頷き、


「では、その延長線だと思いますが……その動きが、とある方に似ているのです」

「似ている?」

「より正確に言えば、その身のこなしに憶えが」


 ティアナはフレイラを一瞥し、語る。


「その……ヨルク様に」

「え……?」


 聖賢者の名が出て、フレイラは目を見開いた。


「でも、彼とユティスとは……」

「以前私が聞いたところによると、ヨルク様とは遺跡調査で遭遇した時きちんと会話をしたのが初めてだったそうですが……その辺りのご記憶も、封印されていたということになりますね」


 ティアナの言が本当ならば――ユティスは『精霊式』の魔法を使い、なおかつ聖賢者の教えを受けていたということになる。


(それって、相当見込まれていたということじゃないの?)


 元々何かしら才があったのか、それとも『精霊式』の魔法を手にしたため興味を持たれたのか――その辺りが不明瞭ではあったが、少なくとも何かしら期待されていたということだろう。

 だが、式典前のユティスは違っていた。一言で言えば、不遇――この差は一体何なのか。


「失った記憶……それにより、ユティス様に相当大きな影響が及んだのは明白でしょう。そしてこの事実は、もう一つの可能性を示しています」


 ティアナはさらに続ける。言われなくともわかっていた。フレイラも自覚している。


「ヨルク様も、過去ユティスのことを知っていたにしろ、遺跡調査前に出会った時知り合いという風に接していたわけではありませんでした。よって、この記憶の改変は相当広範囲に渡っている……ヨルク様の訓練を受け、なおかつ『精霊式』の魔法まで使える以上、体調をいつ崩すかわからないから式典に参加できないというのもおかしいですし、大規模な記憶操作だと推測します」

「そういうことね……」


 フレイラは息を吐き、ふとアシラに視線を送る。当然ながら彼にとっては首を傾げるような会話だろう。実際、彼は話の内容の大半を理解できず、頭の上に疑問符を浮かべているのがわかる。


(ロゼルストに戻れば……何が待っているんだろう)


 フレイラは考える――おそらく戻ればそこから新たな戦いが始まるのは間違いない。敵もフレイラ達が離れたことにより準備を整えているだろう。ネイレスファルトで人を雇えば――間違いなく、戦いが始まる。

 それに備え、少しでも強く――フレイラはそう思いつつも、焦燥感を抱くこととなった。


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