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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
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それぞれの悩み

 食事に関しては、基本一番広い客室をあてがわれたユティスの部屋を利用することにしていた――ちなみに、なし崩し的にそうなってしまったので特別な理由はない。

 ただ大きめのテーブルが用意された一室で、六人が一斉に食事を行うのはなんだか奇妙だとフレイラは思う。


「で、再度確認するけど私達はどう分かれるのよ?」


 リザの問い掛け。城に入ってこうして食事をする場合、決まって彼女が主導して話が始まるような形となっていた。

 フレイラとしてはなぜ彼女がこの場にいるのかという疑問や違和感が拭えなかったのだが――ユティスは彼女と目を合わせ、返答を行う。


「リザは闘技大会観戦したいんだろ?」

「そうねぇ」

「なら、それでいいよ……フレイラと一緒に観戦してくれれば。あ、できれば知っている闘士なんかがいたらその情報を口添えしてくれると助かる」

「わかったわ。フレイラさんよろしく」


 手を上げ告げるリザ。フレイラは適当に相槌を打つ間に、ユティスがさらに続ける。


「それとアシラ」

「はい」

「そちらも闘技場の方に」

「俺も、ですか?」


 聞き返す彼。ちなみに格好は騎士服などではなく、青を基調とした町の人が着るような一般的な衣服。


「アシラについては実力はあるみたいだけど……ほら、そんなに戦闘経験がないように見える」

「それはまあ、事実ですね」

「闘技大会に出場する面々は相当な使い手だ……そうした人物を見て、自身の技量を照らし合わせどう動くか――頭の中で色々と考えて欲しいんだよ。今後異能者との戦いもある以上、対人戦は重要となってくるだろうし」

「そういうことですか……わかりました」


 コクコクと頷き承諾するアシラ。フレイラとしてはその実力を直に見ていないので本当に彼が――という疑いの目も少なからずある。


「イリアは僕に同行でいい?」

「はい」


 パンをかじりながらイリアは頷く。


「それでティアナだけど……闘技場の方でいいかな?」

「……はい」


 ちょっとばかり不満――というよりリザを一瞥したので、彼女が原因だろう。なお彼女は緑を基調としたいつもと同じようなドレスに着替えている。

 彼女に関しては色々と複雑な事情が絡んでいるため、どちらがいいのかというのは一概に言えない。ユティスとしては無難な配置という感じでティアナを闘技場に向かわせるのだろう。


 そこで、フレイラは一つ気付く――思えば、ユティスが今回仕切っている。イリアやティアナは言うに及ばず、雇い入れたアシラやさらにリザまでユティスの言葉に対し、素直に従っている。


(なんだか……ユティスが団長という感じにも思えるかな)


 そんなことを胸中で呟いた途端――フレイラの胸に、ズキリと痛みに近い何かが走った。

 けれどそれは一瞬で消え、フレイラとしては内心で首を傾げる他なかったが――その何かに、フレイラは不安を覚える。


 先ほどの訓練でもそうだった。ユティスがティアナと真正面から向き合い剣を打ち合っている様子――『精霊式』の魔法を手にした結果、彼女とも戦えるようになったという事実は非常に喜ばしいはず。だが、先ほど一連の光景を見た時はそう感じなかった。


 何か――胸の内にある忘れられた記憶の部分が嘆いていた。ユティスが強くなることが、ひどく悲しいように思えた。


(なぜそんな風に感じたんだろう……)


 これはキュラウス家とファーディル家の親交があったことと何か関係があるのだろうか――考える間に「ごちそうさま」とユティスが告げる。気付けば、フレイラを除いた面々が食べ終えていた。


「あれ、珍しいね。フレイラが最後って」

「う、うん……」


 フレイラはユティスの言葉に返事をしつつ、皿に残っていたサラダを口にする。


 この感情はどうすれば解決するのだろうか――記憶が完全に戻らない以上どうしようもないのはわかっているのだが、それでも考えてしまう。

 それと共に、フレイラはまた別の考えを抱いた。ユティスが正式な団長となって活動し始めれば、自分という存在は――


 身震いしそうになった。なぜ、そんな風に感じたのか。


 それを誤魔化すようにフレイラは食事を進める。もしかして怪しまれたか――などと思ったが、ユティス達は雑談に興じており幸い気付いていない様子だった。


 食事を終えると、一度部屋に戻り支度を整えて出発する。ユティスとイリアは同行する騎士が来るまで待つらしいので、フレイラ達は先んじて馬車により闘技場へ向かうこととなった。


「学院の方も面白そうだったかなぁ」


 呑気に呟くリザ。それにティアナは歎息し、


「言っておきますが、私達は遊びで来ているわけでは――」

「はいはい、わかっているわよ。でも、もう少しリラックスしてもいいんじゃないかしら?」

「それは私達が決めることです……フレイラさん」

「まあ、そうだね」


 フレイラは同意し――今度はアシラに視線が向く。


(……もしや、私がアシラと話をするという面もあってこういう人選に?)


 ユティスの考えが多少ながら頭をもたげる――が、真相は彼にしかわからない。


(ま……いいか。考えても仕方がない)


 とりあえずそう解釈しておこうと思った後、フレイラはアシラに問い掛けた。


「えっと、アシラ」

「は、はい」

「ユティスからあなたに関してのことは多少ながら聞いているけれど……もう少し教えて?」

「は、はい」


 ずいぶんと緊張している。自分との会話に慣れていない様子なので仕方がないと胸中思いつつ、問い掛け始めた。



 * * *



 ユティスとイリアは二人きりで学院への同行者――つまりヴィレムが語った騎士を待つことにする。


 残りの四人を闘技場に向かわせたのには、一応理由がある。というより、魔法関係の話となるとフレイラ達があまり立ち入れないだろうし、ならば腕の立つ闘士や勇者なんかを見て勉強してもらおうという考えもあるのだが――特にフレイラはアシラやリザと交流してもらいたかった。


(ま、リザとはさすがに期待薄かな)


 フレイラはティアナ以上にリザに対しては警戒感が強い様子なので、目論見はたぶん成功しないと思いつつ――ユティスは隣にいるイリアに問い掛ける。


「イリア、一ついい?」

「はい」

「リザについて……実力的には、どう思う?」


 以前洗練されているという文言は聞いていたが――改めて問い掛けると、リザは空を見上げ、


「……強いと、思います」

「そっか」

「リザさんを、お仲間に加えるんですか?」


 仲間――普段団員という呼称を使っているが、確かに仲間と言い換えることもできる。


「どうだろうな。わからないけど……彼女の能力に惹かれたのは事実かな」


 結論は、滞在中に出せばいいとは思っている――そもそも彼女がついてくるかどうかもわからないが。


「ティアナに闘技場を観戦させることによって、リザより強いか弱いかで判断させればある程度世間的な強さも認識できるんじゃないかな、と思う」

「だからティアナさんを? でも――」

「色々と後ろ暗いことがある、だろ? でも彼女は今の所僕の質問にある程度正直に答えているし、協力する意思がある……信用してもいいと思う」


 内偵をしているというより、ティアナを利用しユティス達を罠に誘い込む気なのだろうと、ユティス自身は考えていた。内通者として利用するならばロイと繋がりがあることを自らの口で話すはずもない。


「少なくとも、ネイレスファルトにいる間は大丈夫だよ……で、リザの方だけど」

「私は、信用しても良いと思います」

「わかった。ありがとう」

「……あの」


 そこで、今度はイリアが声を上げた。


「ん、何?」

「私……すみません」


 唐突な謝罪。ユティスは首を傾げ、聞き返す。


「何で謝るの?」

「なんだか、色々と迷惑を」

「迷惑? それは勝手に路地に走り込んだこと?」

「それもありますけど……その、あの戦いで、全然お役に立てなかったというか」

「……まあ、イリアの活躍が難しかった現場だったんだよ」


 笑みを見せる。けれどイリアの顔は晴れない。


「……イリア、僕としては協力してくれるのは嬉しいし、イリアがどう考えているのかもわかる。けど――」

「私は……」


 そこまで言って、イリアは口を閉ざしてしまった。


(悩んでいるのか)


 『潜在式』という稀な力を持ちながらも、それを自由に使えないことや、姉の体を使用して生きながらえていること。色々な感情が胸に宿り、どうすればいいのか判断できない。

 だが、きっと戦う意志だけは強く持っているのだろう――ユティスはそう認識すると、彼女の頭にポンと手を置き、優しく撫でた。


「焦ってはいけない」


 きょとんとなるイリア。それにユティスは優しい笑みを見せつつ語る。


「強くなることを急いてはいけない」

「でも……」

「色々気になることはあるかもしれないけど、だからといって焦るのはまずい……それこそ、足元をすくわれることになる。それにイリアの魔法は他の人と違い特殊だ。普通の人が真似できないというのは利点ではあるけど、それは逆を言えば戦い方などのサンプルがないため、自分で考えないといけない……焦らず、イリアはイリアなりの戦い方を学べばいいんだ」

「私なりの……」

「そうだ」


 ユティスは彼女の頭から手を離しつつ、続ける。


「アリスが魔法を使っていたこともあるから、基本的な部分は既に習得していると言ってもいい……けど、重要なのはここからだ。『潜在式』の利点は詠唱が必要なくとも魔法を使える点。僕の『精霊式』もそれは同じだけど、僕の場合は使える魔法の種類が風と破邪の力といったように、限定されている。けど『潜在式』にはそれがない……ここから発展させるには、まだまだ時間が必要だろうね」

「……それだけの時間が、必要ということですか?」

「完成形に至るまでには、という話。今後もし戦っていくのであれば、イリアに必要なことは二つ。魔法の知識……これは時間が掛かるから長い目で見る必要がある。今やるとしたらもう一つの、『潜在式』でどう戦っていくか方針を考えることかな」


「どういう風に……戦うか」


 悩み始めるイリア。ちょっと説明が多すぎたかなと思いつつ、ユティスは言う。


「……それに、今のままでも十分イリアは強いよ。ほら、遺跡の時の戦いを思い出せばいいよ。イリアはきちんと自分の身を自分で守れたし、僕を助けてくれたじゃないか」

「そうかも、しれませんけど」

「満足いかないのは理解しているよ。けど、力ばかり追い求めても危険なんだ。だからイリア。無理をしないで……何かあったら、相談には乗るから」

「……わかり、ました」


 頷くイリア。再度ユティスが頭を撫でると、彼女はくすぐったそうに目を細めた。


(……いずれ、彼女も異能者との戦いに身を投じるのなら――)


 ユティスとしては、複雑な経緯のある彼女が戦う姿はあまり想像したくなかった。けれど彼女自身戦う意志があるというのなら、止めることはできない――その時までにできるだけのことはしようと思った。


 その時、やや忙しない靴音が聞こえてきた。入口方向に進んでくるのがわかったので、おそらくヴィレムが指定した騎士――そう思っていると、視界に入った。


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