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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第六話
143/411

魔術師の訓練

 ユティスとティアナが対峙した直後、リザが小さく手を上げる。


「じゃ、私が審判やるわね」


 言うと、両者の横に立った。イリアはその後ろで観戦する構え。


 ユティスはそれを確認した後ティアナを見据える。元聖騎士候補の彼女とは、訓練であっても戦うなんて荒唐無稽にも思えた――が、剣を抜いたと同時、彼女に対してどのくらい戦えるのかと疑問に思い、試したいという感情が生まれたのも事実。


 とはいえ無策で突っ込んでもあっさり迎撃されるのは目に見えている――ということで、ユティスは剣を構えつつ思考。

 そもそも剣術だけでは対抗できないのは目に見えている。よって魔法と絡めることにより対応する必要がある。


「さあて、それじゃあ行くわよー」


 呑気にリザが告げる。それと共にユティスは全身に力を入れた。


「――始め!」


 鋭い声と共に、訓練開始。ユティスが動こうとした寸前、先んじてティアナが動いた。

 一歩で間合いを詰め、まずは小手調べといった按配で横薙ぎを繰り出す。ユティスはまずそれを剣で受けたが――重い。


(まともに受けると、さすがにまずそうだな)


 通常の腕力自体上なのか下なのか――男のユティスとしては上回っていて欲しいなどと考えてはみるが、ともかく魔力による身体強化を加算した戦いではティアナが大きく上回っているという事実は、紛れもないようだった。騎士として訓練を受けた以上、これは当然といえる。


 ティアナの追撃。この時点で剣を受ければ吹き飛ばされてもおかしくなかったが、ユティスは構わず真正面から剣を受けた。

 同時、左手から風が迸る。それは刀身に伝わると、通常なら堪えきれないティアナの斬撃を、押し留めることに成功する。


「風の魔法を使い、剣を抑えるというわけですか」


 ティアナが口を開く。ユティスは小さく頷くと、風の出力を高めた。結果、彼女の剣戟を弾くことに成功する。


 いや、それはもしかするとわざと――ユティスは判断した直後体が勝手に動く。彼女に対し放ったのは刺突。狙いは胸元。彼女の体にはユティスと同様膜状の結界を構成しているため、この突きで傷を負わせることはできないはず。だが、ユティスの狙いは違った。


 ティアナはユティスの剣をあっさりと迎撃。反撃するか――とユティスが思った瞬間、突如彼女は反撃せず後退した。


「……さすがに、わかるか」

「心理的な駆け引きは、まだまだですね」


 ティアナが評する――もし迫って来たのなら風の魔法を炸裂させようかと考えていたのだが、目論見が外れてしまった。

 いや、この場合はユティスの手の内が明らかだったということか。


(戦術的なものは、まだまだ課題があるな……これからロイ兄さん達と戦っていく以上、単純な魔法の応酬では終わらないはずだ。どこまで強くなればいいかなんてわからないけど、まだまだ足りないのはわかる)


 しかし、力が戻ったことにより自信を持ったのは事実で――さすがにティアナ相手に接近戦で勝てるとは思えないが、それでもある程度立ち回れる。以前ならば最初の攻撃でやられていてもおかしくなかったが、きちんと防ぐことができている。以前と比べれば大きな進歩だ。


「破邪の力は使わないのですか?」


 ティアナがふいに問う。対するユティスは首を左右に振った。


「使えない、と言った方がいいかな……ティアナもわかっていると思うけど、破邪の力は攻撃能力に特化したものだ。どちらかというと切り札的なもので、防御なんかには向いていない」

「なるほど……ですが、ユティス様の魔法はその二つを組み合わせることが前提となっている気がするのですが……」

「……ふむ」


 確かに、言われてみれば――ただ二つの魔法を同時に起動させることは原理的にできないため、風を使って剣を防いでいるユティスにとっては多大なリスクとなる。


 ――接近戦を行う場合体に膜状の結界を構築し鎧などと合わせ防御するのだが、これは体の内にある魔力を訓練により表層に出すという技法で、魔法にカウントされない。基本どれだけ訓練しようとも人間一人が一度に操る事のできる魔法は一つだけ。ただし、無詠唱魔法を連続利用することにより魔法を立て続けに撃ち込み隙をなくすことはできる。


 その最たる使い手が聖賢者ヨルクであり、彼自身無詠唱魔法を連続で使用することにより騎士や勇者と対等に戦える実力者であることが認知されている。つまり、人は二つ以上の魔法を同時に発することはできないが、隙を減らす戦い方はできるというわけだ。


 ユティスは自分の場合はどうなのかと自問する。風と破邪――二つの力を利用し戦うことは詠唱が必要ない『精霊式』であれば十分可能だ。体に問い掛けてみて、できるという感触が返って来た。

 ユティス自身は本来魔術師である。どれほど近接戦闘の対策をしたとしても、単純な剣術で騎士に勝てるような手法を確立できるはずはない。もし戦う場合『精霊式』の魔法と組み合わせるのは当然であり、その中攻撃面は破邪の力がメインであるのは間違いない。風の力だけでは負けることはなくとも勝つことはできない。となれば――


 ユティスはそこで一呼吸。ティアナは待つ構えらしく、様子を見ているような状況。

 再度剣を構え、ユティスは右腕に魔力を集める。風の魔法を使わなければティアナの剣戟を回避するのは難しい――が、攻撃を行うのにリスクがあるのは当然だと思い割り切る。


 光が刀身に集まる。間合いの外にいるティアナは変化に反応し目つきを鋭くした。


 ここからどうするべきか、ユティスは記憶から呼び起こそうとする。破邪の力は鉄の剣を平然と両断するだけの切れ味を加えることに成功したが、あの攻撃は相手の意表を突いた上に力押しのわかりやすい戦法だったからこそ当てられた。

 ティアナのような優れた剣術を持ちなおかつ手の内を把握されている場合、ユティスの腕では直接的に当てられるようなケースは滅多にないだろう。威力が減じたとしても、もっと確実に当てられる方法があるはずだったし、そうしなければどうにもならない。


 そう思った矢先、ユティスの体が反応した。頭の中から引っ張り出された感覚を信じ、剣を振る。

 刹那、光が僅かに揺らめき――剣先から刀身と同じだけの長さを持った光が、ティアナへ向け放たれた。


 ティアナは僅かに目を見開いたが、こうした攻撃自体は推測の範疇だったかさして驚かず、剣で打ち払う。

 ユティスもこれでやられるとは思っていない。続けざまに魔力を収束させ、一歩後退すると同時にさらに剣を振った。


 瞬間、剣先から光が生まれる――それは一瞬で十数の刃となり、花開くように散開する。

 そしてそれらが一気にティアナへ向け収束していく――


「なるほど、飛び道具というわけですか――!」


 ティアナは感嘆混じりの声を上げると共に、右腕に魔力を収束させた。

 同時、その剣が大袈裟に振り払われる。剣風が彼女の周囲を包んだかと思うと、ユティスの放った光が一瞬の内に消滅する。


「ですが――」


 ティアナが跳ぶ。後退していた分だけ接近に時間を要したが、それでも一瞬で間合いを詰める。


「それでは倒せません」


 隙のない一閃。斜めから振り下ろされた一撃に対し、ユティスは身を捻って回避することなどできず剣で受ける。

 無論、そのまま受ければ弾き飛ばされるか体勢を崩し、ティアナが首筋に刃を突き立て戦いは終わるだろう。だが、


 ユティスは風の魔法を発動する。体はよほど『精霊式』の魔法を訓練していたのだろう――ティアナが接近する一瞬の間に、次の魔法を発する準備を整えることができた。

 左腕から風が炸裂する。これにはティアナも険しい表情をし、風の勢いに対抗するべく力が入るのがユティスにもわかった。


 無論、これで体勢を崩すような相手ではないとユティスも認識している。続けざまに放った風の砲弾は一瞬で見切られティアナは身を捻り避ける。やはり一筋縄ではいかないなどとユティスは確信しつつ、剣を振るう。


 次に生み出したのは金色の光と横薙ぎ。さすがにこれを避けるのは難しい――というより、よけることができない形に持っていったと言った方が正しい。

 ティアナは風の応酬により、ユティスの目論見通り剣を受けた。彼女も予想はついているだろう。剣を合わせると同時に光を炸裂させ、ゼロ距離で魔法を放つ――


 ユティスは彼女が予見したと思しきやり方で、魔法を炸裂させた。爆発などは生じなかったが光は弾け、ティアナは衝撃により後退する。

 彼女はどこか嬉しそうに――微笑みさえ浮かべながら剣を構え直す。


「二段構えというわけですか」

「まあ……ね」


 いくら読んでいてもあれだけ拡散する光から逃れる術はない――と思ったのだが、彼女は光によってダメージを受けた様子はない。瞬間的に光の魔力規模などを判断し、過不足なく体の表面に結界を張ったのだろう――これは、ティアナの訓練の賜物だ。


 ユティスは一度深呼吸をする。立ち回り次第で元聖騎士候補と戦えるレベルにはなっている――が、あくまで剣を合わせられるレベル。以前と比べれば驚く程の進歩だが――やはり異能者や闘士を味方につけた相手と戦うには、力不足という面は否定できない。


 ただ出力が体が記憶している通りに出ていないことを踏まえれば、完全に記憶が戻れば魔法の威力一つ一つが向上する可能性はある。それを期待するだけではまずいだろうが、今後も成長の余地があると思えば――


(ま、上等か)


 課題は見つかった――ユティスは息をつき、ティアナに礼を述べる。


「ありがとう……ここまでにしようか」

「はい」

「え? もう終わり?」


 どこか不満げな声を上げるリザ。


「えー、もうちょっとやりましょうよ」

「……何でリザが不満げなんだ?」

「だって、面白くないじゃない。ユティスさん、打ち負かしてやってよ」

「……リザさんなら見ていてわかるだろ? 僕は今、ティアナの胸を借りて戦っていたような感じだよ」

「あの大きな胸を借りるんだから、相当なものって感じ?」

「……斬りますよ」


 ティアナが刃先をリザに向ける。それに彼女は首をすくめた。


「まったく、あなたは……ともかく、ユティス様。正直ここまで立ち回れるとは思いませんでした」

「僕自身ビックリなんだけどね……だけど課題はある。その辺りもどうにかしないといけないな」

「課題、ですか」

「僕の『精霊式』はどうやら完全に力を引き出せていないらしい……何か理由があるのかわからないけど、それを含めて色々と対策しないといけない」

「頑張るわねぇ。もうちょっと肩肘張らなくてもいいと思うんだけどさぁ」


 リザの言葉を無視しつつ、ユティスは「それじゃあ」と話を変えた。


「運動もしたし、そろそろ朝食といこうか……時間も頃合いだと思うし」

「そうですね……あ」


 ティアナが視線を変えた先、そこに騎士服姿のフレイラの姿があった。


「あ、フレイラ」


 ユティスは彼女に挨拶をしようとした――が、


「……フレイラ? どうしたんだ?」


 表情が、驚いているような、困惑しているようなもので張り付いているため、思わず問い掛けた。

 するとフレイラも自分の表情に気付いたのか、はっと我に返り、


「あ、えっと……ごめん。おはようユティス」

「おはよう」

「で、今日の予定はなんだっけ?」


 小さく欠伸をしながらリザが問う。それにユティスは歎息し、


「……ひとまず、朝食の時に話をしようか」


 そう提案を行い、移動することにした。


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