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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
139/411

騎士団への――

 ユティスは建物に入って来たリザを見て返事。すると、


「カノワさんが、あなたと話をしたいって」

「僕と?」

「ええ。日を改めてもいいけど……」

「明日にはきっと僕らは城に行くだろうし、今しかないだろうな」


 決断すると、ユティスはリザと共に家を出る。扉をくぐる時ティアナから視線を感じたが、ユティスはそれを半ば無視した。

 外は既に闇に染まっているが、明かりの火が道の要所要所に存在するため、移動自体に不便さはない。


「リザさん、カノワさんの怪我はどう?」

「あなたの治療により危機は脱したわ。お礼を言いたいんじゃないかしら」

「そっか、良かった……ところで、アシラさんは?」

「カノワさんの所じゃない? 私も詳しく知らないけど」


 会話をしつつ、やがて当該の場所に辿り着く。大きな長屋だったのだが、入ると怪我人が多数存在していた。

 リザは迷わず端の方へと向かう。そこに、上体を起こすカノワと、横に心配そうな顔をしているアシラの姿があった。


「どうも」

「申し訳ありませんな。ご足労願い」

「いえ……もう大丈夫とお伺いしましたが」

「ええ。怪我もどうにか塞がりました」


 柔和な笑みを伴う、穏やかな声だった。元々優しい性格なのだろうとユティスは推測しつつ、言葉を待つ。


「さて、一つだけあなたに質問がしたかった……あなたがここに赴いた理由です」

「それは……」

「その表情ですと、やはり人を雇いにということですか」


 ユティスは頷く。そして目の前の相手ならば話しても構わないだろうと――口を開く。


「私はロゼルスト王国内で彩破騎士団という、異能者と戦うために編成された騎士団に所属しています……ですが、カノワさんもお聞きになっているかもしれませんが、私の異能により一つの戦争を終結させた……ですが、異能者と戦う上で戦力が圧倒的に足らない」

「それを是正するために、ここへ?」

「はい。元々彩破騎士団の地位を脅かすような勢力もいましたが、それはどうにか対処できました。ですが政争により、味方だった戦力も取られた状況です」

「なるほど……単純に異能者を倒せばいいという話ではないということですか」

「あるいは僕らの敵となる相手が、異能者との戦いを利用し己が目的を果たそうとしている……ということなのかもしれません」

「先に出現した、一派のように?」

「あくまで可能性ですが」


 カノワは「なるほど」と呟き頷き始める。


「そういうことですか……ここで、一つ頼みが」

「頼み?」

「その枠の中に、アシラを加えてやってはもらませんか」


 要求に、ユティスは少なからず驚いた。自ら言い出すのではなく、まさか相手から言われるとは――


「この馬鹿者は街に着いた後を顧みず路銀も使い果たしここに来た……流れ者が簡単に仕事を得られるはずもなく、こいつは明日からの生活もままならん」


 そう語るとカノワは叱るようにアシラの頭をパンパンと叩き始める。ユティスとしては目を丸くする。説教を行うなんて予想できなかった。


「なおかつ、帰る事もできんときた。私はこいつにもう少し物事の分別をつけろと言ってきたわけだが、それをまったく無視した形」

「は、はあ……」

「ちょっと、ユティスさんが引いてるわよ」


 リザの横槍。するとカノワはアシラを叩く手を止めた。


「とはいえ、愛弟子であることに変わりがない……だからこそ、どうにかしたい」


 告げると、カノワはアシラを一瞥。


「このまま闘士として生きていく道もある……が、アシラ自身、今回事件を引き起こした人物達に対し何かしら思う所もある様子。ユティス殿。貴殿はあの者達と戦うのだろう?」

「……イドラと名乗っていた男が、私のいる東の果てにある国に目を向けるのかわかりませんが……敵対勢力であることは間違いない。対決の機会はあると思います」

「だ、そうだ」


 カノワがアシラに視線を向ける。


「……俺自身、カノワさん達をこんな目に遭わせた人間を、放っておくわけにはいかないんです。それに、あなたにカノワさんを救っていただいた。それに報いたいとも思っています」


 その言葉は明瞭なもので、異能者と関わることをしかと覚悟している様子。


「もしご迷惑でなければ……」

「こちらこそ、あなたの力を所望していた身です。よろしくお願いします」

「ずいぶんと丁寧ねぇ。もうちょっと威張ってもよさそうなものなのに」


 リザがまたも横槍を入れた。それにカノワは苦笑し、


「リザ、君はどうするんだ?」

「どうするも何も……」

「テオドリウスのことが気にならないか?」

「……カノワさん、言っておくけど彼とは単なる闘士としての腐れ縁で、何かあったわけじゃないわよ?」

「そんなことはわかっている。だがその『腐れ縁』が、君にとって色々と人格形成に影響しているとは思うのだが」

「……何が言いたいわけ?」

「ここからは、君自身が考えることだな」

「……やれやれ」


 直接的な言及をしないカノワに対し、リザは肩をすくめた。老人がよく発する小言のようなものと思ったらしい。


「これだから……ま、いいわ。私は自分の地域がどうなっているかを再度確認してくる。あ、それと」


 リザは一度だけユティスを見た。


「報酬はよろしく」

「……わかったよ」


 歩き去るリザ。するとカノワは小さな笑い声を上げた。


「ユティス殿、彼女と接するのは中々面倒なことだぞ?」

「……面倒、ですか?」

「彼女は闘士としての確固たる芯を持っていて、その目的のために自説を曲げるようなことはしない。言ってしまえば頑固な性格だ。もし引き入れるつもりなら、それなりに覚悟が必要だろう」

「覚悟……」

「とはいえ、彼女が君にここまで接するのは、彼女が述べた報酬以外にも何かありそうな気はするが」


 興味深い話だった。ユティスは食いつき、カノワに問い掛ける。


「どういうことですか?」

「君に対し興味を持っているという素振りだ。もしかすると異能そのものに興味を抱いたのかもしれないし……あるいはテオドリウスに対し何か思いを抱き、彼を追うためにユティス殿を利用しようなどと考えているのかもしれない」

「……どう、なんでしょうね」

「まあ、城に入ってからでも判断は遅くないだろう。彼女をどうするかを含め、色々と検討してみたらどうかね?」


 ――まるで、ユティスの心を全て理解しているような言葉。


 人を雇うとまでは言ったが、ユティスがリザを検討対象に上げているというのは一言も喋ってはいないが――いや、カノワにしてみればバレバレなのかもしれない。


 ともあれ――ユティスは息をつくと、アシラに向き直る。


「異能者との戦いは……正直、どうなるかわからない。あなたの技量を見て、僕は適任だと判断したけれど――」

「わかっています」


 それ以上は何も語らなかった。ただユティスは、どこか安堵した息を漏らし、


「……よろしく」

「はい」


 握手を交わす。異能者との遭遇などもあったが――ユティスはどうにか、一人仲間を引き入れることに成功した。






 翌日、陽が昇って一時間程経過した後、ユティスとティアナは騎士ヴィレムやレオと共に城へ向かう算段を整えた。


 その同行者にはアシラ――そして、


「何を言おうとも、ついてくるんだろうな」

「まあね」


 ヴィレムの言葉に、リザはニコニコしながら答えた。


「北東部の動向については心配いらないわよ。騎士さんも常駐してくれるんでしょう?」

「しばし様子を見る必要があるからな……お前が何をするつもりかは知らないが、城ではおとなしくしていてくれよ」

「もちろん」


 楽しそうに会話をするリザだったが、反面ティアナは不満顔。決闘した事や、リザ自身刺々しい言葉を時折彼女に放っていたので、面白くない展開なのだろう。とはいえ不満を吐露するようなことはなかった

 ユティス達はオルム達に見送られ移動を開始。路地に入った瞬間、ヴィレムはユティスへと話し始めた。


「イドラ達の居所ですが……現在の所、街のどこにも見当たらないようです」

「とすると、既にネイレスファルトを離れた?」

「その可能性が高いかと……実験も十分に行った以上、もうここには用がないと思ったのかもしれません」

「それに、味方も多く引き入れたわけだし」


 リザの言葉。ヴィレムはそれに頷き、なおも続ける。


「彼らの足取りは今後も調査を続ける予定ですが……国外に出られてはこちらはどうしようもありません」

「異能者との戦いに備え、様々な国々と連携するための処置は必要でしょうね」


 ユティスは断定しつつ、レオを見る。城にいる彼の主君と会うのは異能者との戦いにおいて国々が連携する第一歩になるだろう。

 そこで、レオはユティスを見返した。同じ異能者――彼もまたユティスの心情を理解したか、小さく頷いた。


「さて、それでは城へ向かいましょう」


 ヴィレムが言う。彼は先頭に立ち、ユティスもそれに追随し――やがて、一日ぶりに大通りへと出ることとなった。



 * * *



 翌日、フレイラが目覚め身支度を整えた段階で、ヴィレム達がユティス達を引きつれ戻ってきたと一方が入った。

 まだ頭の中が混乱したままだったが、それを押し殺しつつフレイラは城の入口に駆けた。そして、


「ユティス!」


 その姿が見えたと同時に呼び掛け、近づき、

 見覚えのない人物が二人いることに気付いた。


「あ、この人がさっき話していたもう一人の団員さん?」


 銀髪の女性――どこか常人離れした蠱惑的な雰囲気を見せる女性が、フレイラに指差しユティスに問い掛ける。


「ああ、そうだよ。あ、フレイラ。その、ごめん」


 まず彼は謝った――のだが、フレイラは小さく首を振る。


「事情が事情である以上、仕方がないと思うから……体の方は?」

「とりあえずなんとか。けど疲れが抜け切っているわけではないから、少し休みたいな……ところで、イリアは?」

「まだ眠っている……それで」


 フレイラは見慣れない男性と女性を見やる。それと共にティアナも旅装のドレスからずいぶんと衣装が変わっていることに気付きつつ、言及。


「その二人は?」

「アシラ=ウェルベと申します」


 丁寧に礼を示すアシラ。そして、


「此度……ユティス様の要望により、旗下に加わることとなりました」


 その言葉に、フレイラは呆気に取られた。


「――え?」


 戸惑う表情を示す。まさか二日目でこんな展開になるとは予想もつかず。だからこその、呟きだった。


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