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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
137/411

現れた剣士

 ユティスの異能により、状況がひっくり返る――ヒュゴとナナクさえ倒すことができれば、魔具を持つ人間の撃破はそれほど難しくない。

 だからこそ、ここが正念場。


「ちっ!」


 舌打ちと共にヒュゴは多少距離を置いたリザから視線を外し、迫るレオに向き直る。突撃を迎え撃つべく剣を構え、さらにその魔力が表層に現れ、

 次の瞬間、レオが奇妙な動きを見せた。


 ナナクが見せたような、低い姿勢からのすくい上げ。その所作はユティスとってナナクが見せたものと同じ――いや、速さだけは確実にナナクのそれを上回っていた。

 そして、ユティスには見えた。剣を振る姿――その目に、『彩眼』が宿っている。


「な――」


 ヒュゴもまた察したらしく呻く。その間にレオが間合いを詰め、ヒュゴに対し一撃加えた。

 それを辛くも防御したヒュゴだったが、完全に受け切れなかったためか僅かながら左肩に刃が入った。ナナクと同様掠める程度だったが、それでもヒュゴに対し驚愕を与えるには十分すぎるものだった。


「そうか……お前は――!」


 ヒュゴは声を発したと同時に、後退。ナナクもまたティアナとヴィレムの攻勢をどうにか避け距離を置き、二人は路地裏への道を背にしてユティス達を注視する。

 途端、魔具所持者達の動きが一時止まる。どうするのか――指示を仰いでいるのが、ユティスにはわかった。だがヒュゴは彼らの視線を無視し、口を開いた。


「国外の騎士がなぜここに来るのかわからなかったが……『彩眼』の使い手だったか……しかも、噂に名高い『剣霊(けんれい)』の騎士とは」


 ユティスにとっては聞き慣れない単語だったが、闘士達には聞き覚えがあったらしく、ざわめき始めた。


(何……?)


 ユティスが胸中で首を傾げる。するとヒュゴは、レオに視線を送りながら語り始めた。


「確か、あらゆる剣術を一目見ただけで習得することができるようになる……だったか?」

「既に噂は広まっているようですね」

「闘技大会出場者とあらば、そのくらいの情報は――な」


 習得――とすると先ほどの動きはナナクの動きそのものだったのだろう。


「ナナクの技法を使ったのは、こちらを驚愕させて動揺を誘うといった意味合いか?」

「そんなところです。彼の技術が中々有効なものだと思ったのも、また事実ですが」

「……はっ。よく言うぜ。さっきの動き、明らかにナナクのそれを上回っていたじゃねえか」


 吐き捨てるような声音。確かにユティスの目から見てもレオの動きはナナク本人よりも鋭かった。おそらくレオの中に眠る様々な技法が、ナナクのそれと融合し剣の速度や威力を向上させているのだろうと推測できた。

 ただここで、ユティスは一つ懸念する。『全知』や『全能』とは別の異能のようだが、それでもおそらく問題点が存在するはず。それが一体何なのかによっては、この状況を相手側にひっくり返される可能性があるのではないか。


(いや……こちらには騎士ヴィレムを始めとした面々もいる。まだこちらが優位を保っているはず……油断さえしなければ)


 結界を維持しながらユティスは考える。一方の魔具所持者達は完全に動きを止めてしまった。戦意も削がれているのが一目瞭然で、闘士達が押し込めば瓦解する可能性が高い。

 ヒュゴ達にとって劣勢なのは間違いない。いくら両者が優れた力を持っているとはいえ、相対しているのが四人であり、さらに多少ながら負傷したとなれば――


「……ここで退くのは、不本意だが」


 ヒュゴが、息を吐く。


「ま、仕方がないな」

「逃げるの?」


 挑発的にリザが告げる。しかしヒュゴは肩をすくめ、


「悪いが、そんな安い挑発に乗るような人間ではもうなくなったんだよ」

「そもそも、逃がすと思う?」

「逃げに徹すれば、そう難しくはないと思うけどな。それに――」


 言うと同時に、ガシャリという具足の音が聞こえた。

 見れば、ヒュゴの背後にある路地。そこに、全身鎧の戦士が一人が出現していた。


「三人もいれば、()くのも容易いだろ」


 リザやティアナが後退するヒュゴ達に仕掛けようと構えを取る。レオやヴィレムも同様だったが――ヒュゴ達が後退する様を見ても、まだ動かない。

 ヒュゴとナナクはさらに一歩退く。追うのか追わないのか――ここにきて、決断に迫られる。


 そこで喚声――周囲を見回せば他から増援が来たらしく、魔具を持った左右の面々が倒れていく姿が映った。最早この戦いはユティス達の勝利であることは確定。


 だからなのか、ヒュゴは明確に宣言した。


「それじゃあ、退散させてもらうぜ」


 そう述べた瞬間、


「……に」


 全身鎧の戦士から、声が。


「……ん? どうした?」


 ヒュゴが視線を変えぬまま応じる。そこでユティスは気付いた。全身鎧の体が、僅かに揺れている。


「……に、げろ」


 警告の言葉。それによりヒュゴはさらに声を上げようと口を開き――同時、全身鎧の戦士の体が、傾いた。

 地面に倒れる重い音。その背後に、一人の剣士がいた。


「アシラさん……!?」


 リザが声を上げる。それにヒュゴも反応し、ナナクにティアナ達を任せたか、アシラに振り返った。


「おい、お前……」

「お前達が、首謀者か?」


 その問い掛けには、明らかに怒りが存在していた。


「何だ、その顔は? 身内でも殺されたか?」

「……あれだけ怪我人のいる場所を執拗に狙ったというのは、目的があるんだろう?」


 どうやらアシラも交戦したらしい。だがその結果は、ここにいる以上倒したと考えていいはず。


「ああ、なるほど。お前がこいつを……ふん、そこそこの人数を向けたはずだが、それはどうした?」

「全員地面で寝ている」


 端的な答え。するとヒュゴは息をついた。次いで放たれた声は、ずいぶんと面倒そうだった。


「お前が倒したってか? ま、いいや。どうせカノワ辺りが一時的にも復活したとか、そんなもんだろ」


 剣を揺らし、ヒュゴはアシラを見据え語る。


「悪いが、通してもらうぜ――」


 瞬間、ヒュゴとナナクが同時に動いた。特にナナクは片足を軸に反転し、走るヒュゴに追いつき、彼に追いつきながら剣を振るべくアシラへ向かう。

 路地の幅は確かに狭いがそれでも立ち回りはできる程度はある――ティアナ達も動き出そうとし、さらにユティスは間に合わないとわかっていてもアシラに警告を発しようとした。


 直後――信じられない事が起こる。


 先手を打ったのはヒュゴ。斜め上段からの振り下ろしは非常に鋭く、間近にアシラを捉え恐るべき速度で侵攻する。

 ナナクも先ほどのような低姿勢から放たれるすくい上げの一撃。狭い路地でも後退すれば回避できる可能性があったが、二人の攻撃速度にアシラは反応しなかった。


 やられる――心のどこかでユティスは思いながら、アシラが足を前に踏み出したのを視界に捉えた。

 刹那、彼が動いた――だが、ユティスには動きの過程がまったく見えなかった。


 わかったことは、先んじて仕掛けたヒュゴがアシラの左腕一本で数メートル上空に吹き飛ばされたこと。そしてナナクの剣を弾き、それと同時に彼の体を吹き飛ばしたことだけだった。


 ナナクが路地を転げ回って止まったのと、ヒュゴが受け身も取れず地面に叩きつけられたのは同時だった。

 一瞬で起こった出来事――その中でアシラは怒りをなおも含めた顔つきで、問う。


「お前達が、首謀者か?」


 あまりの一方的な展開に、ユティスは信じられない思いとなり――リザやティアナが真正面から全力で相対する必要のあった存在を、二人で攻められても意を介さない程の技量をアシラが持っている――そう認識するので精一杯だった。


「冗談でしょ……」


 さすがのリザも立ち止まって呻いた。その間に、ナナクとヒュゴは同時に起き上がる。


「て、めえ……!」


 ナナクが剣を構える。ティアナ達が迫るよりも早く、雄叫びを上げながらアシラへと前進する。

 ジェドが見せた突進よりも、遥かに速くなおかつ暴虐に満ち溢れた動き。だがそれを、アシラはゾクリとなるほどの無表情を見せながら、腕を振った。


 今度は剣すら使わなかった。彼は放たれた剣の腹部分を拳で打ち上空に跳ね飛ばすと、突撃を敢行するナナクの横手に回り、拳を叩きつけた。

 それによってナナクは吹き飛び壁に激突。彼はとうとう断末魔の悲鳴一つ上げる事すらなく、地面に転がる。


 ここに至りヒュゴの肩が震え出す。圧倒的な存在であることを認知し、いかに動こうとも目の前の存在には勝てないと理解したらしい。


「……お前か?」


 再度の問い掛けに、ヒュゴは沈黙。いや、より正確に言えば答えられないといったところか。

 アシラの眼光がヒュゴを射抜く――が、首謀者でないと断じたか、問答はやめて歩み出す。


 直後、悲鳴にも似た声が上がった。


 ヒュゴが最後の抵抗――地面に叩きつけられたために動きが鈍くなっているにも関わらず、無策な突撃を行う。

 それをアシラは容赦なく反撃する。それこそ散歩でもするような歩調でヒュゴへ向かうと、切っ先が触れそうになった寸前で体を横に傾けた。


 そこからは、またも一瞬だった。ナナクと同様剣が上空へと吹き飛ばされ、アシラの肘打ちがヒュゴの肩を射抜く。結果、彼は地面に叩きつけられた。

 今度こそ、もう動かない。そしてヒュゴが握っていた剣が地面に落ち甲高い音を立てる。


 内に怒りを含んでいたアシラだったが、倒れる二人を見て小さく息をついた。静まったようだ。

 後に残ったのは奇妙な沈黙。魔具所持者達も短時間で掃討され、残っている敵はもういなかった。


「……彼は」


 そしてヴィレムが声を上げようとしたその瞬間、


「最後の最後で、こういう結末を迎えるか」


 新たな男性の声が聞こえた。


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