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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
135/411

魔術師の攻防

「リザ、俺と向かいあっているからあの魔術師の様子が見えないだろ? 解説してやるよ。どうやらあの魔術師は、俺達の想定以上にできるらしい」


 ヒュゴが語る間に、ユティスはすれ違ったジェドに対し体を向け剣を構え直す。一方の相手はゆっくりとした動作で反転。狂気の笑みを見せる。

 ユティスはそれを何の感慨もなく見返しながら、思考する。見せる笑みからも、少なからず理性を飛ばしているのは推察できる。だが剣士としての技量は健在なのは確か。


 つまり、まともに正面から打ち合っていては、間違いなく負ける。


(ならば……どうするか)


 そもそも力など身体能力を強化したジェドの剣を受けたならば、吹き飛ばされるどころか剣があっけなくへし折られるか両断されて自身の体に入るかもしれない。それを考えれば真正面から受けようなどという気持ちは害悪でしかなく、ならばどうするのかとユティスは考え――


 その時ジェドが仕掛ける。受けに回らざるを得ないユティスは内心舌打ちしつつ、初撃と同様まずは半歩後退する。


 ジェドの動きも先ほどとは違う。今度は間合いを詰めるようなやり方ではなかった。彼自身先ほどの攻防から無理に仕掛けるのはリスクがあると判断したのかもしれない。ユティスとしてはそう思ってくれていた方が良かった。正直、先ほどの行動は半ば賭けに近かったため、次成功するかどうかはわからないからだ。


 ジェドは牽制目的なのが明確である斜めからの薙ぎ払いを放つ。ユティスはそれを目でしっかりと捉え、相手の斬撃軌道に自身の剣を差し込んで動きを鈍らせにかかった。

 金属同士が衝突した瞬間、ユティスは思わず苦悶の表情を出しそうになった。重い。


(これは……)


 胸中で呻きつつも目論見はどうにか成功し、ユティスは後退。だが今の衝突で膂力が根本的に違いすぎると確信。やはり受けることはできないと断ずる。

 ジェドの追撃。今度は刺突で速度もある。だが『精霊式』の風の魔法を発動しているためか、その軌道を読むことができたため、ユティスは避けるべく体を右に傾けさせる。


 そこからジェドは刺突の放った腕を横に振り抜きかわしたユティスに追従する。その動きをユティス自身正確に捉えてはいたが、純粋に剣だけで受けるつもりはなかった。

 左手に風を炸裂させ、それをまずは剣に当てる。軌道自体を殺すことはできなかったが、それでも最初の突撃と同様速度を削ぐことには成功した。


 次いで、弱まった斬撃をユティスは受ける。このまま剣を流し距離を置こうと思った――次の瞬間、

 ジェドの魔力が、先ほど以上に際立って膨らんだ。


 より正確に言えば、振り抜いた状況でさらに魔力を加えたといった方が正しい。おそらく攻撃を読んで回避していることを理解し、ならば――と、ユティスと剣を合わせた瞬間追撃をしかけようという腹積もりだったのだろう。


 本来なら、加えられた魔力と斬撃の軌道がわかっている以上、回避はそう難しくないはずだった。だがユティスは悟る――死が迫っている。

 剣を両断し、首まで落とす程の勢いが加算されたとユティスは認識。このままでは間違いなく自分は――などと思った矢先、足が勝手に動く。


 それは生き残るために足掻くような所作では決してなく、体が記憶している動きをこなすという、訓練の賜物に近しいものだった。

 なぜ、自分がこんなやり方を心得ているのか――ユティスは疑問を掠めたが体は勝手に動く。後退しようとした矢先、足先に風が集まる。


 刹那、風が炸裂しユティスは退いた。今までとは比べものにならぬ速度。剣を引き返し一歩でジェドの間合いから脱した。


「――へえ」


 驚いた声を上げたのは、またもヒュゴ。


「足先に風を集めて回避か……相当、魔法を使いこなしているようだな」


 ――彼の言う通り、ユティスは足先に魔力を極限まで集中させ、緊急回避を行った。


 しかし同時に、問題も発生する。大振りの斬撃を容易に避けられるだけの速度が出ていたが、その一瞬で間合いを脱するという所作は、風を炸裂させ相手の動きを鈍らせるよりもずいぶんと魔力を消費する。

 だから、ユティスは今の行動が相当な魔力を消費したという自覚があった。連用はできない――そこからさらに、問題点を頭に浮かべる。


 先ほどの行動、微細なコントロールができなかった。よってジェドの技量ならば動きを読んで追撃してくる可能性もある。そうなればユティスは対応できない――


 一方のジェドは挙動に驚いたのか、それとも動きに警戒したのかわからないが、剣を構えた状態で動きを止め、ユティスを観察していた。

 ユティスとしては幸運という他なく、体勢を立て直しつつ――あることに気付く。


 刀身に、多少ながらヒビが生じていた。膨大な魔力を収束させ振り抜いた斬撃により、剣が耐えきれなかったらしい。

 こんな状態の剣でジェドの剣を受けることはできない上、ユティスはさらに一点気付く。風の魔法を使い始めてから体が覚えているように出力がないという違和感はあったが――それを改めて理解する。


 記憶が戻っていないためか、それとも何か別の要因でそうなったのかはわからない。ただこの事実は、風の魔法はジェドを倒せるだけの力が出ないのでは、という推測をユティス自身にもたらす結果となる。


 不利な要素ばかりが増えていく――だがユティスは、心の中で落ち着けと呟く。

 呼吸を整える。冷静さを保ちつつ、動かない相手を見据える。


 最大の問題は、魔力がどれほど持つかということだった。体調も不安要素ではあるが、倒れるよりも先にジェドに力負けする方が早いだろう。加えこちらは防戦一方。先ほどの緊急回避も再度使うのはリスクしかない。そして他の面々も援護に来れそうな状況ではない。


 加え、剣にもヒビが入り――いまだ動かないジェドは様子を見ているのか、それとも一時的に待つ構えなのか。ともかくユティスはこの間に決断しなければならない。

 時間を稼ぐにしても、仲間が助けに来るより自分が倒れる方が早いだろう――だからこそ、ユティスは目の前の敵を倒す術が必要だった。


(だけど……打てる手は……)


 ユティスが勝つためには、いくつもの障害を突破する必要がある。一つはヒビの入った獲物を捨て、『創生』により武器を創り出す必要がある事。

 さすがにこの剣では一度として攻撃を受け流すことはできない。だからこそ新たに剣がいる。衆人の目もある状況だが、四の五の言ってもいられないため『創生』を使うことに躊躇いはない。だが、剣を生み出すまでの時間稼ぎが問題だった。


 風の魔法を最大限に使えば、距離を置くことはできるだろう。だが果たして、ジェドが体勢を立て直し仕掛けてくるまでに剣を創り出すことができるのか。

 これまでの感覚ならば、無理だとユティスは断じた。だが、今は多少なりとも状況が違う。『精霊式』を身に宿していたことろ踏まえれば、『創生』でも何かしら変化があるかもしれない――


 正直、こんな「かもしれない」などということに頼るのはあまりにもと思ったが、目の前の相手はその「かもしれない」を利用しなければ絶対に勝てない。膂力(りょりょく)も技量も相手が遥かに上をいく。本来魔術師であるユティスが対峙して手におえる相手ではない。

 だがそれでも、やらねばならない――最大の障害は、ジェドを倒すことのできる決定打だった。


 攻撃をかわすことは、風の魔法を駆使すればできるかもしれない――もっとも、それだって数回ともつかわからないが――だが、ユティスは攻撃を回避できるだけで相手に攻撃できていない。

 いや、そればかりかもし当てても通用しない可能性が極めて高い。


 剣を生み出すことはできるかもしれない。なおかつそれが体勢を整える前に創り出せたのなら、ユティスが反撃できる機会が生じるかもしれない。


 しかし、できるとなれば今度はユティスの力で傷を負わせられるだけの威力がいる。風の魔法ならばその可能性もゼロではない。しかし魔力強化によって彼の全身は膜状の結界で覆われているのがユティスにはわかる。風により一撃加えることは可能だろう。だがそれは、決定打どころかジェドの動きを鈍くすることすらできないかもしれない。

 そこでジェドは笑う。まるでユティスの策を見透かしているような顔。ユティスは目を細め、他に手が無いかを探そうとして、


 ふと、一瞬だけ視線が右腕に向かう。


 思えば、剣と風とを融合させて攻撃しようという意識はなかった。防御で精一杯というのもあったが、それ以上にそんな手法を考えようともしなかったのは、おそらく過去のユティス自身風を用いて攻撃するという意識があまりなかったためではないか。

 なおかつ、ユティスがこの地区に入って生じた戦闘やジェドとの戦いを振り返れば、明らかに近接戦闘を行うことを想定した訓練が施されている。しかし強敵を前にして、風の魔法が決定打になるかというと首を傾げる。


 相手を倒すために、何か別の魔法が必要だった可能性は高く――もしかすると、風以外の何かが攻撃手段として使われていたのではないか。


「ジェド、楽しいのはわかるが、そろそろ決着をつけた方がいいだろう」


 ヒュゴの声。するとジェドの面から笑みが消える。


「――殺せ」


 獣が如き咆哮。

 突撃は、最初と比べものにならない速度で侵攻する。剣の振りも恐ろしい程速く、逃げることは一切できない。


 迷っている暇はなかった。ユティスは自身の体の中にある力を信じ――魔力を体の内から引っ張り出し、左腕に収束させた。

 相手の全力に合わせ、風の魔法を全力で左腕から解き放つ。自分でも驚く程の出力で生み出された風の塊は、突撃を行ったジェドが剣で防御したことにより刃の腹部分に直撃する。


 旋風が巻き起こる。凶悪な突撃を押し留め、突撃自体を有耶無耶にするほどのものだった――しかし、ユティスは一歩死が近づいたと察する。体の中に眠る魔力が、確実に減っている。

 後どれほど魔法が使えるのか――不安を抱えながら、ユティスは二撃目を放つべく魔力を再収束。


 進撃を押し留めることはできた。なおかつジェドは風の塊を受け体勢を大きく崩している――ユティスは心の底から今しかないと断じ、風を放った。

 先ほどよりも魔力はない。だが竜巻のように回転軌道を描く風は、やがて一筋の槍と化し、ジェドの腹部に直撃した。


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