表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
134/411

魔術師と戦士

 攻撃開始は、左右に存在する魔具を持った面々からだった。


「――やれ」


 ヒュゴの宣言と同時に、左右にいる者達が腕をかざす。それぞれ風の刃や火球などを生み出し、ユティスを含めた広場にいる面々に攻撃を仕掛けようとする。

 対する味方側で一番初めに動いたのは、ヴィレム。魔力が収束するのをユティスは理解し、左手側の小手が僅かに発光する様をユティスは捉える。


「守れ――天使の聖翼!」


 魔具所持者達が一斉に攻撃を放つ――それらは、ヴィレムが構築した半透明の白い光の壁によって、すべて防ぎ切った。結界は、左右で対峙していた味方の正面に生成され、進撃を阻むような形となる。


「これは――」

「ヴィレムは、闘士の中でも珍しい防御重視の能力者なのよ」


 ユティスの感嘆の言葉に対し、リザが端的に応じる。

 それと同時にレオが動いた。右へと足を移し、結界を通過。内側から外へは通過できるようで――レオは魔具を所持する者達へ一気に迫った。


 多勢に無勢――のはずだったが、彼の剣戟によってまず先頭にいた数人が吹き飛ばされた。それに応じようとする魔具所持者。だがそれよりも早く、レオが剣を振り相手を倒していく。相手は出血などしていない。魔力を剣を通して叩き込み、体を麻痺させるか気絶させているのだろう。

 なおかつ、左方向の面々には残っていた闘士達が対応。魔具所持者達が結界を壊すべく接近戦を仕掛けようとするが、ヴィレムはいくつも結界を地面から隆起させ、それを遮蔽物として闘士達は進撃を押し留める。


 とはいえ、この場にいる闘士では持ちこたえることが限界の様子。その中で結界は生命線と呼べるものなっているのは間違いなく、ヴィレムが戦線に参加することは難しいのだと、ユティスも理解する。


「普通に戦っているように見えるが……ま、警戒はしとかないとなぁ」


 そこでヒュゴの呟き。レオのことを言っているようで、彼はそちらへ視線を投げた後、鎧などを身に着けていない軽装の男に問い掛ける。


「ナナク、お前はどうする?」

「なら、そこの金髪の女をもらおうかな」


 剣を抜き放ちながら語る――ナナク。それに対しティアナは問い掛ける。


「それは、組し易いと考えたのですか?」

「違うな。この中で一番強そうだと思ったんだ。気配からすると、隊長クラスの騎士を上回っている雰囲気もある」

「……どうも」


 ティアナは冷淡な声で返事をしつつ、剣を構える。そこで今度は、ヒュゴがリザへ視線をやった。


「それじゃあ、俺はリザを相手にさせてもらうか」

「……秒殺が関の山じゃない?」

「その口も、きけなくしてやるよ」

「ずいぶんな自信ねぇ……人にもらった力で強くなって、そんなに面白い?」

「ああ、面白いよ。世界が変わった」


 両手を広げ、歪んだ笑みを伴いヒュゴは告げる。リザはそれに深いため息をつき、


「どうやらあんたにつける薬はないみたいね……なら、この手で成敗してあげるわ」

「できるものなら、やってみろよ」


 挑発的に告げるヒュゴに対し、リザは肩をすくめ――静かに、構える。

 ティアナとナナクもまた剣の切っ先を互いに向け、動かなくなる。膠着状態だが――まだ、ジェドが残っている。


 その目はひどく虚ろで、まるで命令を待っているかのよう。そして、


「おっと、指示するのを忘れていた」


 ジェドが言う――その視線の先には、ユティス。


「ジェド、お前はそこの魔術師を殺せ」


 その言葉に、ナナクと向かい合うティアナが反応。すぐさま後退しようと足を動かそうとした。だが、

 ナナクが動く。一瞬で剣を振り、間合いギリギリでティアナに対し横薙ぎを決める。


 それを彼女は防ぎ立ち止まり――それ以上後退しなくなった。いや、より正確に言えば後退できないと言えばいいだろうか。


「逃がすと思うのかい?」


 ナナクが問う。所作から滲み出る気配が、いつのまにか獲物を狙う猛禽類のような鋭利なものへと変わっている。

 ナナクは一度自然体となる。それは明確な隙のはずだったが、ティアナは決して動かない。


 飛び掛かれば、それだけで危ないと悟っているのか。


(聖騎士候補だったティアナが、こうまで警戒するとなると……)


 余程の腕なのだろうと想像できる。さらにそれはリザも同じようで、ヒュゴへ向かわず対峙していた。


「ずいぶんと、無茶な手段を使ったようね」

「力の増幅具合を見て、そう思ったのか? 残念だが、そんなに難しいことはしていないさ」


 ヒュゴは先ほどとは一転、無邪気に笑う。その表情には、暗がりで笑顔を張りつかせている道化のような気味悪さがある。


「まあ、俺としてはちょっと拍子抜けなんだよな……何でお前みたいなやつに、あれだけやられていたのかってさ」

「あっそ……そっちの人は見憶えないけど、相当な力を持っているわね?」

「ああ、そうだ。ナナクは南東部の人間だからここいらで知っている奴は多くないだろ……ま、俺としてはそっちの女に驚きだよ。ナナクに踏み込ませていないんだからな」


 感嘆の声。それと共にナナクが腕を下ろし自然体となる。


「ま、ちょっと遊ぼうじゃないか。それとも、自らの命を顧みずそこの魔術師の援護に向かうか? できるのか?」


 茶化した物言いで語る――その間に、指示を受けたジェドが一歩、ユティスに歩み寄る。


「そいつを殺したら、リザと戦わせてやるよ」


 ヒュゴの言葉に反応。唸りのような声を上げ、剣を構える。

 どのような処置を施されたかはわからないが、少なくともリザにやられたことをしかと憶え、憎悪はしているらしい。


「……闘士である以上恨まれることは結構してきたけど、こういう展開になるとは思わなかったわね」


 リザが呟く。その声はどこか、これまでの行いを反省しているかのよう。


「ヒュゴ、二対一とかどう?」

「つまり、ジェドをこんなにしたのは自分の責任もあるため、そこの魔術師と戦わせるなとでも言いたいのか?」


 ヒュゴは告げると、肩をすくめた。


「お前にしては、ずいぶんと過保護じゃないか」

「ビジネス相手だからね。ここで死なせるわけにはいかないのよ」

「その言葉、あの魔術師にまるっきり腕が無いって言っているように聞こえるぜ」


 ヒュゴは告げると剣を軽く素振りする。


「ま、どういう理由であっても、援護させるわけにはいかないな。そっちの提案を聞いた以上、なおさらだ」

「……ユティスさん、逃げて」


 端的に告げるリザ。だが当のユティスは状況を鑑みて――逃げられないだろうと胸中悟る。


 右に視線を向ければ、魔具を持つ人間を倒し続けるレオの姿。現在魔具所持者は散り散りになっているようで、さすがにレオ一人では倒せても時間が掛かるのは確定的。なおかつ、数もまだ多く――ユティス達を援護するのは無理だろう。

 次いでヴィレムを見る。彼は左右の魔具所持者に対し結界の維持を行っている。――それを維持する以上、戦うことは難しい。


 そしてリザとティアナは言わずもがな。なおかつアシラは負傷者の護衛へ向かっている。戦えるのは、最早ユティスくらいしかいない。

 仮に逃げたとしても、目の前のジェドは身体能力が強化されているのは間違いなく、あっさりと追いつかれるだろう。それに逃げ切れた場合、他の人間を標的にすることは間違いない――となれば、


「騎士ヴィレム。結界の維持時間はどのくらいですか?」

「……数時間は。ただし、攻撃などによって干渉されなければですが」

「わかりました……僕が、対応します」


 剣を強く握りしめる。ジェドはその所作に歪んだ笑みを浮かべた。戦う気か――そう嘲笑しているように見える。


「やる気になったみたいだな」


 ヒュゴが嬉しそうに言う。リザやティアナは逃げろと言わなかった。目の前の相手に集中しなければならないという点も大いにあるだろうが、それよりも逃げても無駄だというのが薄々わかったからだろう。


「……ユティス様」


 その中で、ティアナが悔しそうに呟く。ナナクがそれに対し剣の切っ先を向け、逃がさないという意思を見せる。

 助けはない――悟ったユティスは、剣を構えジェドを見据える。


 リザは目の前の相手を一蹴していた――が、彼女は聖騎士候補であったティアナと渡り合っていた。なおかつ、その時と比べ能力は上昇しているはず。となれば戦闘能力はユティスよりもずっと上のはず。

 ふと、視線が重ねる。ジェドの目の奥には紛れもない烈気が存在し、ユティスは奥歯を噛み締めた。


 もし今までのユティスであったならば、最初に切り結んだ段階で勝負は決するはずだった。けれど、今は可能性がある――ひどくか細い可能性であったが。


(風の力を使えば、受け流せる……か?)


 先ほど攻撃を風によって防いだように――考える間に、ユティスは無意識の内に魔力を発する。それはそよ風のような流れに乗せ魔力を発したもの。

 ユティスはほんの僅かに戸惑いつつも、魔力を発することは中断せずジェドの様子を窺う――刹那、


 ジェドが踏み込む。もし魔力を発露せず――相手の動きを探知する風の魔法を発動していなければ、対応が一歩遅れ、それは致命的な結末を迎えていただろう。

 ユティスは半歩引き下がる。同時、暴虐とも呼べる気配と共にジェドが突撃を開始する。


 迷いのない攻撃。ユティスにとって有効な間合いを潰し、何もさせぬままただ微塵に砕かれるのを待つしかできないような、圧倒的な攻撃。

 ユティスはさらにジェドが右手を水平に振りかぶる姿を捉える。あくまで突撃は間合いを潰すための所作。本命は、間違いなく斬撃だった。


 ユティスは風の魔法を思い出していなければ、突撃の時点で勝負はついていたと思った。間合いを潰された後の対応はできなかっただろうし、なおかつ次の斬撃を避けることもできなかったのは確実。

 だが、ユティスは反応した――このまま引き下がっても相手の侵攻速度が上回っていることから無駄だと悟ったユティスは、一転して立ち止まり逆に足を一歩踏み込んだ。


 ジェドの目が好奇なものへと変貌する。その間にユティスは半ば反射的に左手に風を炸裂させる。

 相手に攻撃するための魔法ではなかった。間合いを潰され、完全に手を失くしたユティスにできる、最大の防御魔法。


 風はジェドが剣を一閃しようとする寸前に炸裂した。その威力は十分なもので、ジェド自身を傷つけるには至らなかったが攻撃速度を大幅に減らすことについては成功する。

 だからユティスは、攻撃が放たれる前にその横をすり抜けるべきさらに足を前に出す。


 すれ違いざまに斬ろうなどという欲はなかった。ただ相手が仕掛けてきたならば逆にさらなる風の魔法により反撃を――などと目論んでいたが、相手もそれは読んだのか攻撃は来なかった。


 両者はすれ違う。傍目からすれば突撃の横をユティスがすり抜けたような形だったのだが――


「……面白いじゃないか」


 やり取りを理解した感嘆の声が、ヒュゴからもたらされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ