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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
133/411

騎士の出現

「ま、出会うとなったらやるしかないのだけれど」


 どこか愚痴めいた言葉で一度話をまとめると、リザは話を進めた。


「で、今後の展開だけれど、オルムとしても動き方が二つある。専守防衛か、あえて仕掛けるか」

「この状況を踏まえれば、到底攻撃するとは思えないけど」


 ユティスが言うと、リザは肩をすくめた。


「それもそうね……それで、先ほどカノワさんと戦っていたヒュゴに加え、オルムが話していたログオーズ……さらに言えば、ヒュゴと共にいた全身鎧の戦士……さっきはヒュゴを見守っていただけだけど、あいつの能力も中々のものだと思うわ」

「僕も同意だ……ちなみにリザ。ヒュゴが持っていた武器については? 元々持っていた物ではないだろ?」

「この騒動の首謀者から渡されたんじゃない?」

「となれば、他に強力な魔具を所持していてもおかしくないということか」

「おそらくね……さて、オルムはどうするか」


 リザがそう呟いた時、家の扉が開いた。


「リザ」


 オルムだった。


「そのままで構わない。打ち合わせした内容を伝える」

「攻撃する? それとも守勢に回る?」

「守りに入らざるを得ないだろう。情報によると、そこのユティス殿の手紙が功を奏したのか、騎士達が動いている様子。それに乗じこちらも仕掛けるという手はあるが……さすがに、リスクも高いだろうし元より怪我人も多いこの状況では難しい」

「となれば、この広場を拠点にして対応する?」

「そうだな……とはいえ、だ。最大の問題はこちらの戦力が足らない点。ある程度交戦してどうにか魔具の使い手だけは数を減らしているようだが、ヒュゴを始めとした強者については、対処できていない」

「どのくらいああいう実力者が敵に回ったのかわかる?」

「判明しているのはヒュゴとログオーズくらいだが……」

「あの全身鎧の人間は、元々事件首謀者が率いていた人間だと考えていいのかしら?」

「おそらくそうだろう」

「ふむ……現状わかっているだけで三人……いや、あのジェドを含めれば四人か」


 あごに手をやったリザは、眼を鋭くしながら呟き始める。


「さすがに事件首謀者も全戦力を傾けるつもりはないでしょうね。騎士達がいつ何時襲い掛かって来るかわからない状況で、護衛を絶やすわけにもいかないし。となれば、次に来るとしても少数かしら……?」

「あのジェドという人間は、暴走していた奴のことか?」


 オルムが問うと、リザは首肯。


「そうよ……突然強くなっていたのだけれど、何か心当たりはある?」

「一切ない。私としては奴が何者なのか知りたいくらいだったのだが……」

「単なる闘技大会出場者よ。とはいえ、もう出場できなさそうだけれど」

「元々ああした力を持っていたわけではないのだな?」

「それは間違いないわ。実際戦った私が言うんだから間違いない。おそらく、今回の事件首謀者にたぶらかされて何かやられたんでしょ」

「そうか……そして魔具を持つ人間、か」


 (うな)るオルム。広場の怪我人を見れば、残っている戦力はそう多くないはず。対応に苦慮し困った顔をするのは仕方がない。


「それと、もう一つ言いたいことが」


 さらにオルムが語り始める。


「カノワ殿をきちんとした治療のできる場所に連れて行きたいのだが……これほどまでに裏切り者がいるとなると、そこを狙われる危険性も高い」

「護衛に行ってほしいの?」

「この場にいる全員というわけではない。実際こちらも護衛の人間は用意するが……想定以上に怪我人も多く、動ける人間が少ない」

「ふうん……そう。なら」


 そこまで呟いたリザは、ユティスに視線を送る。


「私としては、カノワさんと関連のあるアシラさんに行ってもらおうかと考えているけど……ユティスさん、いいかしら?」

「それ、僕じゃなくてアシラさんに確認した方がいいんじゃ?」

「彼にあなたの護衛をお願いしている以上、そっちにも確認を取らないと」

「……僕は構わないけど」

 その言葉と共に、ユティスとリザは同時にアシラに首を向ける。

「というわけでアシラさん。お願いね」

「……なぜ俺が?」

「カノワさんのことだって気になるでしょう? そんな空気をひたすら出しているじゃない。怪我人の護衛も重要だし、何より戦いが始まってもそちらが気になって仕方がないような感じになりそうだし」


 おそらく『霊眼』で判断しているのだろう――途端アシラは苦笑し、


「わかりました。気になりますし、俺が行きます」

「なら、案内しよう。リザ達はもう少し待機していてくれ」


 アシラとオルムが家を出る。残された三人は多少の間沈黙し――やがて、リザがユティスに問い掛けた。


「悪いわね。なんだか結局、あんまり話もできなかったし」

「……お気遣いどうも」

「そもそも、あの人は?」


 ティアナが質問。もっともなのだが、これを話し始めるとややこしくなるとユティスは感じ、


「まあ、僕らがここに入り込んだのと同じタイミングで色々あったんだ」

「……ずいぶんと抽象的な物言いですね」

「まあまあ、いいじゃない」


 リザが割って入る――と、ティアナはすぐさま一歩後退。


「正直……私としてはあなたに色々言いたいことがあるのですが」

「ん? そう? ちなみに私も言いたいことが一つ」

「……何ですか?」

「その胸は何を食べればそれほど大きく――」


 剣の柄に手を掛けたティアナに対し、リザは両手を上げた。


「単なる冗談じゃない」

「……冗談を言っていられるような雰囲気でないのはわかっているはずですが」

「まあまあ。私達まで眉間に皺を寄せていると、悪い方向ばかりに傾くわよ」


 ――彼女なりの気遣いなのかもしれないが、ユティスとしてはどうなのだろうと思う次第。

 そんな風に会話をしていた時――突如、家の外が騒がしくなる。


「ん……?」


 窓に目を向けたユティスの視線の先には、鎧を着た人物が――


「あら、面白い人物が来たわね。元闘士の騎士よ」


 リザが言う。見た所騎士のようだが――考える間にリザが家を出た。

 ユティスとティアナは互いに視線を合わせた後、二人して外に出る。そこには、二人の騎士が。


 一方は藍色の鎧を着こんだ、茜色の髪を持った男性。端正取れた顔立ちは目を見張るものがある。そしてもう一方は白銀の騎士服を着た男性。こちらは身長がユティスと同じくらいであり、鎧を着ていないことから一見すると鎧を着る騎士の部下のようにも見えるのだが――


「茶髪の騎士さんは、この国の人じゃないわね」


 リザは騎士服の男性を見ながら断定する。

 そこで、騎士達がユティス達の存在に気付いた。鎧を着る騎士がリザを目に留めたようで、どんどんと広場を突き進んでくる。


「――久しぶりだな」

「ええ、久しぶりねヴィレム」


 笑みを浮かべリザは応じた。


「お隣さんは? 他国の騎士よね?」

「その前にこちらが訊きたい」


 ヴィレムはユティスとティアナに視線を送り、


「……この方々は、客人だな?」

「知っているようね。となると、あなたが彼らを迎えに?」

「そういうことだ……ユティス=ファーディル様ですね」

「はい」

「そして、ティアナ=エゼンフィクス様」

「はい、そうです」


 応じた後、ヴィレムと隣の騎士は一礼した。


「そして、横にいるのが――」

「ラキウス王国騎士、レオ=テルトと申します」


 ――その言葉で、ユティスは彼がどういった人物なのかを察することができた。


(もしや彼が、引き合わせたいと書簡に記してあった……)


 胸中の言葉を察したかのように、レオは微笑を浮かべて見せる。


「話したいことはたくさんあるかと思いますが、今はひとまず騒動を解決させましょう」

「……連れ戻しに来たんじゃないの?」


 リザが確認すると、ヴィレムは首を左右に振る。


「異能などが存在する可能性を踏まえ……なおかつ、現在は北東部全体に騒動が波及している。おそらくお二方もここで退く気はないだろう。そのため――」

「ああ、わかったわ。ま、ここで連れて行かれると困るし、ありがたいわ」


 リザはそう返答した後、ヴィレムに対し斜に構え、尋ねる。


「他の騎士達は?」

「現在、この地域の騒動を収拾しようと動いている。ある程度落ち着くまでに、そう時間は掛からないと思うが――」

「――それは」


 懸念を抱いたか、リザが目を細める。


「……相手には、相当な技量を持っている人間も混じっている。下手をすると……」

「何?」

「ヒュゴやログオーズの名を聞いたことはあるでしょう?」

「彼らが……? なるほど、確かに彼らが出張るとなると、少し話は違ってくるな。他には?」

「……見覚えのある人間はまだいたけど、一瞬だったからその人物か断定はできない。だからまだ話さないでおく。それで、騎士を分散させたのはいつぐらい?」

「そう経ってはいない。三十分程前か」

「なら間に合うと思うわ。すぐに連絡を行い彼らに――」


 リザが言いかけた時、突如悲鳴が上がった。

 そちらに視線を向ける。そこには、腕を抑える闘士一人と――


「……戻ってくるのが早いわね」

「指示されたからな」


 笑みをこぼす――ヒュゴ。その後方には先ほど遭遇したジェドともう一人。ヒュゴのように胸当て人のも身に着けていない、ただ腰に剣を差しただけの、灰色の髪を持つ男。

 ユティスが観察した直後、ヒュゴが声を発する。


「当初の目的は達成したが、後になってお前らのことを狩ってこいと言われたんだよ」

「ずいぶんねぇ……こっちとしてはやめてほしいのだけれど」

「そう言わず、付き合ってくれよ。で、今度こそ覚悟……って、言いたいところだが」


 ヒュゴの視線はヴィレム達に向けられる。


「まさかあんたくらいの騎士が来るとは思っていなかったよ。これは想定外だ」

「……なら、退散するか?」

「さすがにそうもいかないな。悪いが、ここで頑張らせてもらうさ」


 三人が展開する。ジェドを中央にしてヒュゴが右側。そして残った一般的な服装の人物が左側を進む。

 それに先んじてヴィレムとレオが応じようとした――その時、


「――わああああっ!」


 喚声。それと同時に別の路地から人が転がり込んでくる。

 何事かとユティスがそちらに視線を送ると、そこには――


「本当は、退路を断つようにする役目だけだったんだがな。けど騎士ヴィレムがいる以上、奴らにも頑張ってもらわないといけないな」


 ユティスから見て、左右の道――そこに、多数の人間が広場を取り囲むようにして出現していた。

 ユティスには、そうした人間達が魔具と思しき物を所持しているとわかる。これは――


「……ヴィレム」


 リザが騎士の名を呼ぶ。


「左右に魔具を持つ人間の群れがいる。ヒュゴは奴らを使って広場にいる人間を崩しにかかるわ」

「正解だろうな」

「ここは、あなたの力が必要ね……防御に徹してくれないかしら」

「そうせざるを得ない、という状況だな……レオ殿」

「わかりました」


 レオはヴィレムが言わんとしていることを理解し、右側にいる魔具使い達を見やる。


「騎士ヴィレムは結界を展開してください……人数は多いですが、そう時間は掛からず左右共に倒せるかと」

「ずいぶんと怖いことを言う奴だな」

 ヒュゴが、レオの物言いに驚いた表情を示す。

「ま、ヴィレムと共にいる以上、並の使い手じゃないことはわかっているつもりだが……他国の騎士だな?」

「そうだ」

「どういう理由でこんな所に来たのかわからないが……まあいいか。ひとまず目的を果たすことに邁進(まいしん)しよう」


 獲物を発見した獣の目つきを伴い、彼は語る。次いで、彼は剣を掲げ、


「さあて、時間も頃合いとなった。宴といこうじゃないか」


 ――日がもう沈む。まだ明るく視界に困るレベルではないが、それほど経たず夜を迎えるだろう。

 ヒュゴは剣を振る。それにより左右にいる魔具持ち達が動き始め、ユティス達も戦闘態勢に入り――とうとう、交戦が始まった。


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