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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
131/411

暴走する剣士

 リザは一度周囲をぐるりと見回し、闘技場入口前に目をつけスタスタと歩き出した。無言で追随するユティス達。そして到着と同時に、リザを見据える年配の男性が一人。

 薄い灰色の髪であるため目立ちにくいが、白髪も幾分存在するような年齢。蓄えられたヒゲと彫りの深い顔と皺はそれなりに威厳もあるが、商人然とした格好と戦場のような周囲の状況から、リザと同様違和感を与える存在となっている。


「オルム」


 名を呼ぶ。声を掛けられた、西側の支配者――オルムは、リザに「ああ」と応じる。


「よく来てくれた……状況は、見ての通りだ」


 両手を広げつつ語るオルム。その顔にはこんな娘に頼るのか――という気持ちが見て取れなくもなかったが、どこからか聞こえた叫び声により、彼は顔を引き締める。


「……こちらもどうにか体勢を立て直しているところだが、裏切り者も多く、苦慮している。そちらはどうだ?」

「今はどうにか平静を保っているわ。敵の目的はわからないけど、私が管轄する東側は面倒だと思い標的から外したのかもね」

「士気が高いため、手を出すのはやめようということか?」

「そう。反面、西側は統制がとれていない……というか、私の所が異常でオルムの所がこういう街では普通なのでしょうけれど」

「……確認だが、協力してもらえるんだな?」

「もちろん。ここで食い止めなければ、街全体に被害が拡大する可能性もゼロではないからね。ちなみに、騎士の応援は?」

「大通りに人が回らないように対応しているようだ。しかしこちらにはほとんど来ていない。敵もそれを理解している上で動いているのだろう。そして、城も現在単なる騒動と認識していて、事態の収拾に動き出す可能性は低いかもしれん……例年、闘技大会間近になると騒動の一つや二つあるだろう? 観光客にさえ被害が無ければ、無理に干渉はしないかもしれん……あるいは」


 そこで、オルムは厳しい顔を見せる。


「この騒動の首謀者がどこぞのお偉いさんで、騎士の動きを鈍らせるよう城側に依頼している可能性もゼロではないな」

「なるほどね……ただ、今回はどうなるかしらね」

「どういうことだ?」


 オルムが聞き返すと、リザはユティスに視線を送った。


「彼は城に招待された客人なのだけど、先ほどこうして動き回っていることを連絡した。事態の大きさを考えれば、動きを鈍らせるよう指示をしていようとも、客人がいる以上派遣されてもおかしくないわ」

「なるほど……とはいえ、通常武装の騎士でどうにかなるとは思えん能力者ばかりだが」

「どういった人間が敵なのか、わかっているの?」

「魔具を持つだけの相手はどうにか対処できる……それと、魔具についても解説しておこうか」


 そう述べると、彼は近くにいた闘士の一人に目配せをした。すると相手は何かを差し出す。

 壊れた腕輪――それを見ながら、オルムは解説を行う。


「こいつは敵方がバラまいている魔具だが……実を言うと、こいつは粗悪品だ」

「粗悪品?」

「そこそこの力はあるが、時間使用し続けると魔具自体が壊れてしまう。捕らえた人間が持っていた魔具を精査した所、きちんと作られた魔具もあったが、粗悪品もずいぶんと混ざっている。こうした魔具の耐久性をテストしているのかもしれん」

「なら、普通の魔具を持っている人間はどういう目的なのよ?」

「予想しかできないが、こちらは騒動を起こした人間の配下になった者が身に着け、指揮に当たっているのかもしれん。粗悪品はそうした北東部の人間がバラまいているのだろう。外部から来た人間がバラまけば怪しまれるが、地元の人間ならそう怪しまれることなく魔具を渡せる」

「その可能性が高そうね……でも、そういう事情だけなら対処は難しくなさそうよね。何があったの?」

「まず腕の立つ人間が何人か相手方に入ってしまったこと。お前も知っているだろう。ヒュゴやログオーズは」

「へえ、あの二人がねぇ……」

「あとは、私は名を思い出せんが……南東部の闘士が一人いたらしい。どうやら相当な闘士のようだったが」

「それだけ味方に引き入れるとなると、余程魅力的な寝返り条件だったんでしょうね」

「……力をやろうという誘い文句らしいから、闘士との親和性は高いのだろうな」


 オルムは大きく息をついた後、さらにリザへ言う。


「一つ……暴れている人間の対処は気を付けた方がいい」

「暴れている?」

「魔具を持っている人間だけではなく、理性を飛ばして一心不乱に剣を振り回す輩がいる。被害については、魔具を単に所持しているのとは比べ物にならない」

「となると、そいつに注意すれば……人数は?」

「わからん。だが一人や二人ではおそらくないはずだが――」


 そう彼が述べた直後だった。

 一際大きな喚声が上がる。次いでオルムの下に駆けてくる男性が一人。


「オ、オルムさん――!」

「何かあったのか?」

「こ、こっちに奴が――!」

「暴れている奴だな?」


 闘士はすぐさま首肯。それと共に、リザは「わかった」と呟き、


「被害をこれ以上出さないために、私達が率先して動くべきでしょうね」

「……頼む」


 苦虫を潰すかのような顔つきでオルムは告げる。嫌なのだという心情を理解しているのか、リザは苦笑しつつ歩き出す。

 その瞬間、路地へ繋がる通路の一つから人が飛び出してきたのがユティスの目に入った。さらに言えばそこから数人が喚き散らしながら広場へと入ってくる。


「手におえない相手ということか」


 ユティスは多少ながら警戒感を抱きつつ、注視。それと共にまた一人飛び出した。長剣を握る。かなり細い白髪の男性――


「――カノワさん!?」


 アシラが声を上げた。ユティスはすぐさま彼に注目し、同時に路地の奥から人が飛び出すのを目に留める。

 周囲にいる人は、退避するべく逃げ惑う。同時にカノワの真正面から剣戟を見舞う人物――それは、


「――え?」


 ユティスには見覚えがあった。いや、顔立ちを見たことがあるだけで、名前は知らない。だが、


「……ずいぶんと、変わったわね。昼前から今までの間に、何をされたのかしら?」


 カノワと対峙するのは、昼前にリザが交戦していた人物。だが、その顔は白から褐色へと変化しており、さらに瞳は恐ろしい程濁っているのが遠目でもわかった。

 斬撃をカノワが受け止める。受け流した直後、殺しきれなかった反動により彼は後退する。力の差が相当あるらしい。


 ユティスはそこでカノワが対峙する人物を見据えた。褐色の肌以外はそれほど見た目に違いはない。ただ一つ、恐ろしい程豪快な振りを見せる剣は、とても昼間リザと相対した人物とは思えない程、無茶苦茶な剣技だった。


「カノワさん!!」


 アシラが叫ぶ。すると呼ばれた彼はユティス達を一瞥し、


「……何だ、リザ。私の弟子でもたぶらかそうってのか?」

「相変わらずの口ねぇ。でも今回は違うわよ。しかし、あなたともあろう人がなぜこうまで苦戦をするのかしら? 何か仕掛けによって強くなっていても、これだけ無茶な剣を振る相手に後れを取るとは思えないけれど?」

「後方に、警戒しているんだよ」


 その言葉と共に、路地からまた一人。

 三白眼と黒髪を持った、青い服を身にまとった闘士。


「……あら、ヒュゴじゃない」

「久しいな、リザ」


 さらに後方からは全身鎧を着こんだ騎士風の人間が一人。こちらは性別などわからないのだが――滲み出る気配は、相当な実力者。


「さすがにこの人を追い詰めるのは難しいな。ここまで逃げられた上、とうとうあんたまで出てきたか」

「ならここで引き上げるのが無難でしょうね」


 リザが構える。ティアナやアシラもまた警戒を示すと同時に、ヒュゴは小さく笑みを浮かべた。


「やれやれ……とはいえ、指示は最低限守らないとまずいよなぁ」


 ボヤくヒュゴ。それと共に彼は抜き身の剣をカノワへと向ける。


「――仕方ねえ。おいジェド」


 唸るような声を上げる褐色の男――ユティスもその人物の名を告げたのだろうと容易に想像できた。


「一瞬で、決着つけるぞ」


 ジェドが、走る、その狙いはカノワ。

 同時にリザやアシラも駆ける。さらにティアナも動き、唯一ユティスだけは突っ込まずに左手に風を収束させた。


 万全の布陣。相手は二人で、なおかつカノワを含め全員が手練れ。リザ達ならばジェドを一蹴し、さらに後方にいるヒュゴも倒せるだろう――そうユティスが直感した時だった。

 ジェドが無謀な突撃を敢行する。獣のような雄叫び――理性などとうに捨てたと言わんばかりの態度と、その瞳がリザを射抜き、剣を水平に構える。


 剣が一閃される。その狙いはカノワであり、それを援護するべくリザ達が迫る。

 勝負はおそらく一瞬――そうユティスは思い、なおかつカノワが後退する様を見て取った。


 刹那、ヒュゴが剣の切っ先をなぜかジェドに向けた。そして、

 茜色に照らされた銀色の光が、彼の手から零れた。


 何が起こったのかユティスには理解できなかったが、それでも何か仕掛けたのだと理解できる。リザ達もそれは認識しただろうし、なおかつその光がジェドを狙っているのも理解できたはず。

 そして光は、ジェドの背中に撃ち込まれる――そう思った直後、光の正体に気付き、


「ぐっ――!?」


 カノワが呻いた。横薙ぎを受け流した直後の攻撃。

 銀の光という表現は間違っていた。ヒュゴの握る剣――その刀身が唐突に伸び、ジェドの体を貫通しカノワの腹部に深々と突き刺さった。


 ヒュゴが単に刃を伸ばしただけなら避けられたかもしれない。だが、ジェドの存在により彼の姿が隠れ、誰も対応できなかった。

 そして、事の次第を理解したアシラが叫ぶ。


「カノワさ――!!」

「さて、頃合いだ」


 伸縮が終わる。素早く剣を引き戻したヒュゴは、路地を引き返す。加えジェドも貫かれた傷をものともせず、ヒュゴと共に動く。痛みを感じていないのだろうか。


「待ちなさい!」


 リザが声と共に路地へ向かおうとする。だがその時、ユティスは認識した――全身鎧の騎士と、ヒュゴ。

 さらに、もう一人いる。


「――あなた!?」


 同時、リザが叫んだ。ユティスはその人相まではわからなかったが、少なくとも彼女を驚愕させるだけの人物が敵方についたのだけは、理解できた。

 カノワが倒れる。アシラが叫び、ユティスも路地からそちらへと視線を移した。


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