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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
129/411

救援と命令

 陽の光が赤くなりつつある中で、リザが帰ってくる。


「どうにか騒動は収めたわ。けど、やっぱり状況を維持するだけで人手を使い果たし、西側の応援は難しいというのが実状」

「となると、先ほど言った通り僕達だけ?」


 質問すると、リザは即頷いた。


「連絡役の人間にもそう伝えたわ。アシラさん。その人物にあなたが訪れていることをカノワさんに伝えるよう言っておいたわ」

「ありがとうございます」

「で、問題はここから……私達四人でこれから赴くことになるのだけれど、最大の問題は絶対にバラバラになってはいけないということ。路地の複雑さは西側だって同じだから、もしはぐれたら右往左往することになるわ。絶対に私から離れないように」


 リザの言葉にユティス達は一斉に頷く。さすがに道に迷ってしまい戦いに参加できないなどというのは、避けなければならない。


「取り囲まれてもこの面子なら十分対処できるでしょうし、西側を統治する人間と接触するまでは固まって行動するようにするわ」

「その人物とは?」


 ティアナが問う。それにリザは肩をすくめ、


「西側を根城にする商人よ。ま、大した人物ではないけれど、一応金とかで人心を掌握しているから、今まで何事もなく統治してきた感じかな?」

「あまりよさそうな人物には思えませんね」

「善悪なんて関係ないのよ。きちんと飼い犬に首輪をつけて飼えるかどうか……その能力しか必要ないわ」

「……あなたも、そうした能力を?」

「まあ、結果的に言えばそういうことになるわね……それとも」


 と、リザは自身の胸に手を当てる。


「たらしこんで……とか、答えた方がいい?」

「いえ、結構です」


 ティアナは歎息と共に答える。出会いが決闘から始まっているので、ティアナはリザに対し当然ながらあまり良い感情は抱いていない。現在はユティスが同行するから、ということで従っているような雰囲気。

 まあ、ここは我慢してもらおう――ユティスが胸中で呟いた時、リザがさらに口を開いた。


「それじゃあ、早速だけど出発するわ……ユティスさん、準備は大丈夫?」

「うん」

「なら、進みましょう」


 言葉と共に、家を出る。直後どこからか喚声が聞こえたが――進行方向だろうか。


「不安?」


 声に反応したのを見てか、リザが問う。それにユティスは首を小さく振り、


「進もう」

「ええ」


 以降無言で、路地の中を歩む。やがて赤が鮮明になり始めたところで、大きな広場に出る。

 そこには多少の人――それも、倒れている人物やそれを介抱する人間。他に、魔具による交戦なのか地面に穴ぼこができていたりもしていた。


「少し、話をしてくるわ」


 リザが言い、すぐさま残っている人達に歩み寄る。それを見ながらユティスは周囲を見回す。戦った形跡は見受けられるが、交戦していたと思しき人物は既にいない。


「厄介ですね」


 ティアナは地面にできた穴を見ながら呟く。


「わかっていましたが、北東部全体に騒動が広がっている様子……首謀者を探すだけでもかなり大変でしょうね」

「とはいえ、ロゼルスト王国と関わりのある可能性が高い人物だ。調べないわけにもいかないしな」

「そうですね……」


 会話をする間にリザが戻ってくる。


「この場にいた面々は、この場にいた人間をなぎ倒し突き進んだようね。その進行方向から察するに、私達が倒した人間と考えてよさそう」


 言葉と共に、どこからかまたも喚声。さらにややくぐもった音――


「攻撃が派手になっている気配があるな」

「夜だからといって攻勢を緩めるつもりはなさそうね」

「でも、さすがに夜ともなれば音でバレるんじゃないか?」

「逃げる手筈は整えているのかもしれないわ……もしくは、結界でも使って音を遮断でもする気なのかも」

「そこまでして、魔具をバラまく目的って……」

「そもそも、こうやってバラまくこと自体が目的なんじゃない?」


 その言葉を聞いて――ユティスは険しい顔をする。


「実験、ってことか」

「闘士という名の戦士がたむろするこの場所は、戦闘実験に何よりうってつけだったということなのかもしれないわね。ま、その辺りは首謀者を捕まえればいくらでも訊けるわ。先に進みましょう」


 そう言って、進行方向を彼女は指差す。


「もう少しで、私の管轄範囲を過ぎるわ……この辺りは落ち着いているけれど、音からすると西側の区域に到達した瞬間、戦闘が始まるかもしれない。覚悟をしておいて」

「わかった」


 ユティスは頷き、ティアナとアシラに目配せ、両者は頷き――移動を再開した。



 * * *



 混濁した意識の中――さらにまともに動かない体を持ちながら、ジェドはどうにか呼吸を行う。


「ほう、生き残ったか」


 イドラが言う。おそらく四つん這いとなった自身の真正面に立っているはずだが――ジェドには顔を上げる余力もない。


「とはいえ、まだ動けないようだな。ログオーズ、様子を見ておいてくれ」

「了解した」


 動けない中で、ずいぶんはっきりと声が聞こえる――それが嫌に気になり、余計に耳に意識を集中させる。


「それで、首尾はどうだ?」

「大方魔具はバラまき終え、あちこちで戦いが勃発しています」


 説明する人間の声――これは、全身鎧の人物だろうか。


「ただ、西側と東側とで戦況は一変しております。東側は理路整然と魔具を持つ人間に対応し、事態の収拾を図った模様。こちらと内通していた者も、敗れてしまったようです」

「ふむ、東側には話通り中々の人物がいるようだな……東側のリーダーらしき女にも会ってみたいが……」


 舌なめずりでもしていそうなイドラの声音。ジェドはもしや、強者を探し出すためにこんなバカげたことをやっているのか、と漠然と考える。


「とはいえ、必要な情報は得た……退いてもいいか。西側は?」

「現在、戦況は五分……最初は私達の優位でしたが、戦局を傾ける人間がいた模様です」

「ふむ、遅れて出陣してきた人間がいたわけか……ログオーズ」

「ああ」

「心当たりはあるのか?」

「西側の状況を一変させたのは、カノワだろう」

「カノワ?」

「老剣士、とでもいえばいいか。病により臥せっていたはずだが、体に鞭打って出陣したんだろう」

「なるほど。東側は……確か、リザという名の女によるものか?」

「そうだ。東側はきっちり連携が取れているようだな……奴の右腕であるデュオウを懐柔してみたはいいが、ビクともしていないところからあっさりとやられたんだろう」

「なるほど……どうやら彼女は、他とは一線画した力を保有しているようだな」


 嬉しそうに語るイドラ。するとそれを、ログオーズがたしなめる。


「奴は、あんたの思い通りにはならないと思うぞ?」

「それは君が傘下に加わった時から聞いているさ……私とて、指示も聞かない暴れ馬を加えるつもりはない。だがまあ興味がある……それに」


 ジャリ、という砂の噛む音。イドラは体の向きを変えたのかもしれない。


「戦いたいんだろう?」

「……よくわかりましたね?」


 奇妙なくらい高い男の声だった。同時に立ち上がるような衣擦れの音。その音から、ジェドは今まで胡坐をかき俯いていた人物だと察する。


「まあ、以前リザについて話をしていた時、そんな雰囲気があったからな……彼女がこちら側に来る可能性は? さすがに今から東側に行くのは面倒だぞ」

「おそらく事態収拾のために西側の人間が渡りをつけているはずですよ。奴はずいぶんと世話焼きなので。おそらく承諾しノコノコと来るでしょう」

「ふむ。となれば、準備をしてもいいな……だが、ナナク」


 声の高い男性――ナナクに、イドラは告げる。


「どちらが戦うのか、くじでも引いて決めておく必要があるな」


 僅かな間。おそらく、目線を変えた。


「……ヒュゴも、戦いたいようだからな」

「わかりましたか」


 さらなる男の声――黒髪三白眼の男だ。


「彼女とて、全力で戦うにしてもお前達のどちらかが限界だろう。今の内に決めておけばいい……しかし、両者共に彼女の名が出てくるとなると、彼女は相当な使い手だったようだね、ログオーズ」

「闘士の中で、街に名が知れている人物は数えるほどしかいない……なおかつ、そうした上にいる人間が路上で戦うようなケースも少ない……が」

「が?」


 彼の言葉に、イドラは聞き返す。


「奴だけは例外で、何にでも首を突っ込みたがる……そして、この都にいる闘士の中でトップクラスに位置する実力を持っているとまで言われるその技量……戦ってみたいと思うのは、無理もないだろう」

「力を手にする前は負けたのか?」

「ああ。卓越した力を持っていたというわけだ……だが、今は違う」

「そうだな。ログオーズは戦いたくないのか?」

「指示を受ければ従う」

「そうか……ちなみにだが」


 イドラは少し間を置き、ログオーズに問う。


「テオドリウスと、どちらが強い?」


 新たな名――するとログオーズは「わからない」と応じた。


「だが……異能を持つテオならば、圧勝できるかもしれん」

「そうか。まあ、今は別の仕事をさせている以上、ここはヒュゴかナナクに任せよう」


 その言葉の直後、ジェドの中にある憎悪が蘇ってくる。それと同時に、声にならない叫び声を上げた。


「お? 立つのか?」


 ログオーズが興味深そうに告げる。それと同時に、今度はイドラが感嘆の声を上げた。


「うむ、中々の素体となりそうだが……ログオーズ達とは異なり、理性を完全に戻すことはできないかもしれない」

「……こいつと、俺達の違いは何だ?」

「魔力の相性、とでも言うべきか。ただ、お前やヒュゴは魔力の質的に人間の上位に位置していた……どんな魔具を用いても、結果は一緒だっただろう」

「だが、こいつは違う?」

「そうだ。これまで見てきた実験を踏まえれば、失敗すれば魔力が暴走し体が消滅する。だがこいつは寸前の所で堪え、体が魔力を抑えようとしている。しかし暴走している状態には変わりがない。外部に少しくらい魔力を発散させれば理性を取り戻す可能性もゼロではないが……確率は、低いな」

「だが、戦う力はあると」

「そうだ……よし、こいつも闘士とぶつけてみよう。戦いに出るのならば、同行させろ。おっと、その前に魔法で命令を与えておく必要があるな」

「だ、そうだ。いいな?」


 ログオーズはヒュゴやナナクに確認。二人が返事をした時、ジェドは内から湧き上がりそうになる魔力をどうにか堪え――今度こそ、雄叫びを上げた。


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