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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
128/411

彼女の目覚め

 フレイラが目を開けた時、最初に感じたのは首の痛み。ドアにもたれ俯いて眠ったのが原因だった。

 その痛みに顔をしかめつつ、フレイラは頭を数度軽く振る。自分はなぜ――そう自問したと同時、一つの記憶が蘇ってくる。


 それは、ファーディル家領地アングレシア領で、ファーディル家の子息達と会話をする光景。


「……私は」


 今更ながら思い出す――いや、改ざんされていた記憶が、ようやく頭の中から掘り起こされてきた。

 もしかすると、記憶を失くしていた時――式典へと向かう際、理解していたのかもしれない。アングレシア領――ファーディル家を訪ねれば、何か事態が好転するのではないかと。


 今思い出した。フレイラは――キュラウス家は、ファーディル家と親交があった。


「けど……なぜ……」


 フレイラは思考し始める。こんな重要な事実を今思い出したことも疑問だが、気になる部分がある。記憶を失くした状態で、式典からユティスの兄弟に関わって来た。だが誰もフレイラのことを憶えていない。それはつまり、記憶の改ざんがフレイラだけではなく、ファーディル家にも及んでいるのだとわかる。

 何の目的で交友関係の事実を消したのか――その時フレイラの頭にズキリと痛みが走る。


 首の痛みからくるものではなかった。フレイラは確信する。まだ失われた記憶がある――


「これは、ナデイルとかにも訊いた方がいいか……けど」


 立ち上がりながら、フレイラはさらに考える。記憶を変えるということ自体、魔法を用いれば可能なので手法に疑問はない。しかし問題が一つ。式典時、さらに式典以降様々な人と出会ってきたが、キュラウス家とファーディル家の関係性を問う者は誰もいなかった。となれば当然、事情を知る人間については全て記憶を消しているということになる。

 しかもそれは貴族達だけではない――たとえば領民なども該当するし、果てはアングレシア領の近くに領土を構える家柄だって該当するだろう。


 そこでフレイラはベルガ=シャーナードを思い出す。式典前に出会った、ユティスとも多少ながら顔見知りである人物。彼についてもキュラウス家とファーディル家が繋がっていると把握している様子はなかった。となれば当然彼もまた記憶を改変されている――記憶を変えている範囲は相当なものになる。

 これだけの範囲の記憶を改変するというのは、単独では無理ではないか。となれば、組織的な犯行なのか。しかも記憶の改変は式典前から行われている。ユティスが異能者などと露見されていない時点に記憶が書き換えられているのは間違いなく、その目的がまったくわからない。異能とは関係のないことなのか。


 加え、もう一点――記憶を消すのは、かなりの難事業だが不可能とも言い切れない。けれど、痕跡の方はどうか。フレイラが記憶から引っ張り出す限り、ファーディル家と親交のあったことを示す物は故郷の屋敷には存在していなかった。ファーディル家自体と関わって来たのならば、関係があったと証明できる物品があっても不思議ではない――それも、奪われているということだろうか。


「でも、そんなことがあり得るの……?」


 記憶だけでなく、親交があったという証拠全てを消す――とても、人間業ではない。

 だがそこで、フレイラは思い至る。


「いや……一つだけ、あるか」


 未知の能力と言える――異能。どういう効果なのかはわからないが、フレイラが疑問に思った点を全て解消することができるような異能が、存在するのかもしれない。

 とはいえ、どういう異能なのか想像がつかないため、フレイラが考えることができるのはここまでだった。これについては都に帰ったら改めて調べる必要がある。


「ここにいては情報もまとまらないし……ひとまず、置いておこう」


 思考を変える。果たしてユティス達はどうなったのか。

 考えつつ部屋を出る。外はまだ明るかったが、太陽の傾き具合から見て数時間以上は眠っていたと認識する。


 ひとまず、騎士かコーデリアを訪ねよう――そう思った時、靴音。見れば、ヴィレムが近づいてくるところだった。


「騎士ヴィレム――」

「お連れの方が」


 その言葉で、フレイラは目を見開く。


「ようやく?」

「ただ、一人だけです」

「一人? それは――」

「少女です。イリア=リドールと名乗っていました」


 イリア――フレイラは「わかった」と呟くと、ヴィレムが案内を始める。

 到達したのは庭園。そこには相変わらずコーデリアとレオがいて、さらに複雑な表情を浮かべるイリアの姿。


「イリア、大丈夫?」


 フレイラはまず確認。それに彼女は頷くと、


「あの、これ」


 懐から書状を取り出しフレイラに差し出した。

 それを受け取ると、すぐさま中を開く。ユティスからだった。


 どうやらイリアはユティスと同行していたらしい――訊きたいことはいくらでもあったが、それよりも手紙の内容が気になり、そちらの確認を優先する。


「……これは」

「何と書かれているのです?」


 コーデリアが問う。それに対しフレイラは彼女に視線を送り、


「事件に巻き込まれ……それの解決に当たると」

「なぜ彼が?」

「異能者と関わりがあるかもしれない……と」


 手紙にはもっと詳細な内容が記載されている。だが一通り読んだだけでは内容を完全に把握することが難しい。

 とはいえわかるのは、ロゼルスト王国魔法院が絡んでいる可能性があること――事件の全容が判明した段階で国際問題に発展する可能性があるのではと、フレイラは少なからず不安に思う。


「なるほど、異能ですか」


 すると、ヴィレムは険しい顔つきで呟いた。


「……場所は、わかりますか?」

「北東部だそうです」

「やはり。あの場所で最近騒動が発生しているとの報告もありました。ここは、すぐさま向かうべきですね」


 ヴィレムは断じると、フレイラに一礼し、


「私が責任もって、騒動解決に対応いたします」

「あなたが?」

「異能者がいるという情報までは把握していなかったため、お連れの方々を捜索していたのは主に兵士でした。ですが異能者という話があるのならば、騎士が多数動くべきでしょう……指揮は、私が」

「その方がいいでしょうね」


 そこで、次に発したのはコーデリアだった。


「ならば騎士ヴィレム。レオを連れて行きなさい」

「は? それは――」

「異能者が相手となれば、異能者をぶつけるのが道理……レオ、いいわね?」

「はい」


 即答するレオ。コーデリアの指示に従う、強い言葉。


「部外者が、と思うかもしれないけれど、異能者との戦いとなれば、レオや主人である私も関係者……本来なら異能者が総出で色々とするくらいがいいのでしょうけれど……」

「いえ、しかし――」

「よろしくお願いします」


 一礼するレオ。一方的に話を進められる状況にヴィレムは困惑の表情を浮かべたが、


「……わかりました。お願いします」


 沈黙を置いた後、彼は言った。コーデリアは「よし」と一つ呟く。

 それに対しヴィレムは、確認を一つ行った。


「ただ、一つ……日が沈んだ段階で、中央部と繋がる跳ね橋が強制的に上げられてしまいます。これは特定の許可証がなければ絶対に開閉しないものであり……さらに夜ともなれば跳ね橋を下げるだけで不審者が中央部に入り込むという危険性もゼロではない。なので、もしそれまでに解決しなければ、朝までこちらには戻ってこれないのですが」

「そんなこと、百も承知よ。レオ」

「はい、大丈夫です」


 レオが頷く。それを見てヴィレムはあきらめたのか、嘆息した後「わかりました」と答えた。


 そこで、フレイラは一つ疑問を口にした。


「もし夜の間に解決したら……どうするんですか?」

「東の詰所まで同行願い、そこで一泊して頂こうかと思います」

「わかりました」


 納得できる内容であったため、フレイラは承諾。そこからヴィレムは一礼して、レオを伴って準備に入った。


「不安かしら?」


 コーデリアが問う。フレイラとしては当然とばかりに頷く他ない。

 イリアに視線を送れば、彼女もまたそれに同意するかのような顔。フレイラは詳しく事情を訊きたいと思い、コーデリアが陣取るテーブルに備えられた椅子に座るよう促す。


「直に、日が暮れるわね」


 その時コーデリアが言う。陽はまだ高いが、太陽の傾き具合からして、もう少しすれば赤くなり始めるだろう。


「騒動である以上、今日中には決着がつかないかもしれない……レオを行かせたし、対応はできるとは思うけど」


 その言葉には、異能者としての配下の力をしかと信用しているのがわかる。対するフレイラは自分が赴きたい衝動に駆られた。しかし、


「大丈夫?」


 コーデリアが問う。フレイラは頷き、椅子に着席。


「私が行きたい所ですが、きっと役には立たないでしょうし」

「冷静なのね」

「……そう自分に言い聞かせているだけ、という感じではありますけどね」


 ――確かにフレイラの技量は並の騎士よりは上。剣の技量もそうだが何より『強化式』の魔法がある。身体的なスペックを強化できる以上、優れた腕を持った敵であっても、後れを取らない――そう、フレイラは思っていた。

 しかし、実際の所はどうか。式典以後のこれまでの戦歴を考えてみれば、フレイラ自身全然だと感じる。


 ロゼルストに帰れば、魔法院との対決となるだろう。その中で、異能者と戦う上で技量が必要――などという口実で直接対決が待っているかもしれない。

 そうなれば――今の実力では足りないと、フレイラは心の中で思っている。


 焦るな、と諭されてきた。それは明確な事実だ。だがそれでも、性急に力を求めてしまう衝動は度々やってくる。今だってそうだ。


「――どうしたの?」


 コーデリアからの問い掛け。フレイラはそれに「大丈夫です」と答え、イリアに首を向け、思考を切り替える。

 手紙に詳細は書かれているが、現状などを記しているだけで経緯などはひどく簡略的に書かれている。その辺りは一応聞いておくべきだと思い――フレイラは、イリアに尋ねた。


「……イリア、質問をするから事件に関わった経緯について教えて?」

「はい、わかりました」


 頷くイリア。フレイラは「お願い」と一言添え、先ほどまでの気持ちを振り払い――コーデリアも交え会話が始まる事となった。


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