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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話

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変える力

 三人の中で最初に口を開いたのは、ユティス。


「今回の事件、偶然関わってしまったけれど、どうやら僕らとも関係がある……場合によっては異能者と遭遇することになるかもしれない」

「……はい」


 同調するティアナ。一方のイリアは不安げな表情を浮かべている。


「正直、異能者と交戦して勝てるかどうかわからない……けど、この騒動を放っておくこともできない」


 そこでユティスはイリアに視線を向けると共に、懐から書状を取り出した。


「イリアは城に行き、フレイラにこの手紙を渡して欲しい……そして、もしフレイラ自身が動こうとするなら、制止して欲しい」

「制止、ですか?」


 聞き返すイリアに対し、ユティスは深く頷いた。


「跳ね橋も上がるし、行こうとしてもネイレスファルトの騎士に止められると思うから取り越し苦労だとは思うけどね……イリアも、城に入って以降は僕らの帰りを待つだけにしてくれ」

「わかりました……あの」


 イリアはティアナを一瞥――おそらく、先ほどリザが言ったことを気に掛けているのだろう。

 ティアナもそれを察したか、複雑な表情を見せる。どうユティスに説明するべきか――悩みぬき、それでも話すか結論が出ないという感じだろうか。


「……イリア、少しの間アシラさんの様子を見ていてくれないか?」


 口上自体は適当なもの。だがイリアは言わんとしていることを理解したらしく、頷くとすぐさまリビングを出て行った。

 残るはユティスとティアナ。双方しばし視線を重ねていたが、少しすると彼女は目を背けた。


「……ユティス様は」


 やがて小さな声で、ティアナは話し出す。


「あの女性のことを、信用なさるのですか……? もちろん私が事情ありだとはご認識されているとは思いますが――」

「彼女はどうも、ビジネスの話となったら相手を信用させるために色々とやる人間みたいだからね」


 ビジネス――その言葉を聞き、彼女は俯いた。


 ティアナにとって――いや、ユティスにとっても今日出会ったばかりの人間。そうした人物の言動の方をビジネスなどという理由により信用し、自分の事は――そんな風に言いたいのかもしれない。

 彼女自身、彩破騎士団の面々に完全に信用されないのはわかっているはず。だがそれでも、いくつも事件に協力してきたこともあるし、多少ながらでも信用してくれてもいいのでは、と思っているのは間違いない。


 ユティスとしても、理由はあれど彩破騎士団に協力していること自体は好意的に解釈している。とはいえ――


「……ティアナが抱えているものを全て話すわけにはいかないということは、こちらも重々承知だよ」


 ユティスが、口を開く。


「いずれ、ティアナに対して彩破騎士団として何かしらの結論を出さなければならない……が、君自身もわかっているはずだ。現状、秘密を大いに抱えている状況では取り入ることは無理だと」

「……それは」


 ティアナは呟く――ここで、ユティスは一考する。ティアナがなぜ、ここまで同行して来たのか。


「ティアナは……ロイ兄さんの指示で、今まで彩破騎士団に関わって来たんじゃないのか?」


 初めて、核心部分に触れる――が、ティアナは何も答えない。

 そこでユティスはさらに考え、口を開く。


「……こう言うのもあれだけれど、もし兄さんの指示ならば……ティアナに、間者としての役割は期待していないはずだ」


 断言だった。それにティアナは驚いた表情を見せ――なおかつ、心当たりでもあるかのように、表情を硬くする。


「確かにリーグネストの一件でティアナが僕らに近づく口実自体はあった……けど、貴族がこうも近づこうとしている以上、警戒するのは当然だし、ティアナだってそれは承知していたはず」


 そう述べると、ユティスは視線を一度切る。窓の外側では、どこかへ走り去る男の姿が一瞬映った。


「僕らが警戒する以上、取り入ろうとするには演技が上手い人じゃないと難しい……ティアナは元聖騎士候補ということもあり、実力もある。けど、役者として演じるのは上手いとは正直思えない。実際、僕らの言動に対し動揺している所もあった。間者なら、もっと上手く誤魔化せると思う」


 そこまで語り、ちょっと言い過ぎたかと思ったが――ティアナはユティスを見返すだけで、反論は来ない。


「……君を僕らの所に寄越した人物は、近づくように言いはしたけど、ほとんど指示を出していないんだろ?」


 確認。するとティアナの肩がピクリと僅かに動いた。ユティスは胸中で「やはりか」と呟き、続ける。


「聖騎士候補だったことを隠していた点については、おそらく指示のはずだけど……それ以外については、ほとんど何も言われていないはず……それはきっと、別に目的があるから」

「それは……?」


 ティアナが逆に問い掛ける。しかしユティスとしては、確認しなければならないことがある。


「……ロイ兄さんなんだな?」


 多少語気を強め問う。ティアナはしばし黙考し、


「……はい」


 とうとう頷いた。


「絶対に漏らすなとも、言われていないんだろ?」

「隠し通せなければそれでもいいと……」

「なら、やはり僕が考えている通りだろう」

「それは、一体――」

「ティアナを使って、僕らを罠にはめる気なんだと思う」


 これを喋るのは――とも思ったが、けれどそれよりも自身の意見を表明しておくのも手だと思った。


「罠、ですか?」

「ああ。リーグネストからの同行に始まり、スランゼル魔導学院での騒動の参加。加え、元聖騎士という素性を明かした……さらに、不確定要素だけどもう一つ僕達とティアナとは関わりがあるかもしれない」

「記憶、ですか?」


 ティアナの推測に、ユティスは「そうだ」と返事をする。


 もしかすると、自分とティアナとは失われた記憶の中で何か関わりがあったのかもしれない――ここまで関連があるとしたら、ユティス自身彼女に対して興味を抱くのは明白。となれば当然、彼女の事を調べる。それによって彩破騎士団に近づいた理由や問題を発見したなら、ユティス自身さらに調査するだろうと思った。


 それに乗じ、罠を仕掛ける――そうロイは考えているのではないか。


「正直言うと、色々とティアナが彩破騎士団と関わってきたことで、僕自身思う所がある……これは、彩破騎士団としての意見としてラシェン公爵にも伝えようと思っている」


 その言葉によって、ティアナがつばを飲み込んだ。


「……けど、ティアナにも事情があるだろうし、今はおそらく僕の考えを伝えてもどうしようもないだろう。ただ、これだけは言える。帰国後、僕は――」

「私とは、これ以上関わらない方がいいと思います」


 ティアナが、力なく笑いながら告げた。


「ユティス様は、関わった私の事を考えて下さっている様子……けれど、駄目です」

「なぜ?」

「私がロイ様に指示を受けるのには理由があります……ですが決して、脅されているわけではありません。これは、エゼンフィクス家の問題なんです」


 悲しそうに笑う――ユティスとしては、ティアナの本心が聞きたかった。けど、それより前に彼女にも苦悶するような事情がある様子。本心を聞くためには、まだまだ障害がある。


 ロイはここまで彼女が彩破騎士団に関わって来たことと、失われた記憶を利用し肩入れさせ罠にはめる――元からそういう風に利用しようとしたのかはわからない。だが、ユティスは現状ロイのシナリオ通りなのではと思う――選択肢は二つ。彼女の助言通りこれ以上関わり合いにならないか、ロイの策を破るためにさらに力をつけるか。

 ユティスは目の前の女性を見据える。すると彼女は力なく首を振った。もし自分の身に何かあっても、肩入れするな――そう語りたいのだろう。


「……僕は」


 ティアナにさらに質問しようとした時、彼女はさらに首を左右に振った。


「すみません……これ以上は……」

「……わかった」


 今はこれ以上言葉を連ねても重しとなるだけか――ユティスはそう思いつつも、決心する。


(記憶の中から何かしらの力が蘇ろうとしている。けど、ロイ兄さんにとっては想定内だろう。もっと、兄さんと対抗できるだけの力がいる)


 戦力的にも、権力的にも――ユティスは見ていろと心の中で兄に告げた後、ティアナに一つ確認を行った。


「今回の作戦についてだけど……それは、協力してもらえるんだよね?」

「もちろんです……これはロゼルスト王国にも大きく関わる案件。進んで協力します」

「わかった……信じるよ。ありがとう」


 微笑を浮かべ――直後、ティアナは少しばかり大きく目を見開き、慌ててユティスに背を向けた。


「……ティアナ?」

「あ、あの、すみません。大丈夫ですから」


 急に慌て始めたティアナにユティスは首を傾げたが――問うより前に、窓の向こうに人影。リザだった。

 すぐさまユティスは話を中断し、玄関へ。そこにはアシラとイリアも立っており、それを確認した直後リザは家に入って来た。


「ある程度落ち着いたわ。イリアちゃんを送る」

「わかった。イリア、頼んだ」

「はい」


 緊張感を伴い頷くイリア。それにユティスは頭に手を置き、優しく撫でた。


「城に入ったら、大丈夫だとフレイラを落ち着かせておいてくれ」

「わかりました……それで」


 彼女はアシラに視線を送る。それにユティスは頷き、


「イリアの意見はしかと頭に入っている……心配しないで」


 ユティスの言葉にイリアは頷き――外に出た。


「私が戻って来たら、行動を開始するわ」

「わかった」


 リザの言葉にユティスは頷くと、イリア達は家を離れた。すぐに路地の奥へと消え――


「……さて」


 小さくユティスは呟く。不安はある。体力的に大丈夫かなどということもあるし、異能者と戦うことになれば――

 だが、騒動が起きている以上泣き言を言ってはいられない。幸い、何かしら力が蘇っている状況ではある。これを利用し、立ち回るしかない。


 そこでユティスは他の二人を見やる。ティアナはユティスを見て不安げな――それは紛れもなく、ユティス自身の体調を慮っているがための顔つき。

 さらにアシラ。こちらは玄関横にある窓から外を眺め、じっと佇んでいる。師であるカノワのことを考えているのだろう。


 そうした中、ユティスは静かに息を吐く。これから夕刻だが、まだやることはたくさんある――そう理解し、気を引き締めた。


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