表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
126/411

記憶への違和感

 今起きている騒動の中に異能が存在している可能性を考慮した後、ユティスはリザに質問を行った。


「それで……今後僕達は、どうすれば?」

「ひとまず東側で暴れている面々を倒し騒動が収まるまでは、ここで待機していてもらうわ。一応そこの収納庫に保存食があるから、お腹空いたら食べて」


 キッチン近くの場所を指差しながら、彼女は言う。


「ある程度目途が付いた段階でもう一度戻って来るわ。その時、決断して」

「決断?」

「ここに残るか。全てを忘れて去るか」


 リザの言葉は、非常に重いものだった。


「ユティスさん。私はあなたとちょっとばかりビジネス的な話をしたわけだけど、こんな状況だし私もあきらめてはいる……けど、あなたとしてもここに残る理由があるようね」

「うん」


 魔具のことを思い出し、ユティスは応じる。


「けれど、状況的にかなり危ないのも事実……おそらくだけど、夕方以降情勢がさらに悪くなる可能性がある。ここまで騒動が大きくなった……敵も、大々的に行動している様子。となれば、もしかすると夜には――」


 それ以降の言葉は飲み込んだ。だが、ユティスも理解できる。


「――多少落ち着いた段階で戻れば、城に到達することは可能なはず。けれど、事件に関わろうとしたなら、今日は城に入ることができない」

「入れない?」

「陽が沈んだ段階で、中央部へ到達する跳ね橋が上がるのよ。だから城に入るには、太陽が沈む前までにどうにかする必要がある」


 なるほど――ユティスは胸中で呟くと、ティアナに視線を送る。これについては、一存で決めることはできない。


「ティアナ……どうやら魔具の件について解決するには、残らないといけないみたいだ」

「私は、残るつもりでいます。ユティス様は――」

「あなただけ残っても仕方ないんじゃないの?」


 リザが言う。その言葉に、ティアナは眉をひそめる。


「それは――」

「ユティスさんに対し少なからず隠し事をしている様子。それも後ろ暗い何かをね……となれば、あなたがここにいる間者と連絡つけようなんて可能性もあるわね」


 歯に衣着せぬ物言い。本来ならティアナは激昂してもおかしくない言葉――だが彼女は絶句した。


「ここは、責任者っぽい感じのユティスさんに判断を仰いだら?」

「……あな、たは」

「まさか真実当てられて剣振るうことはないわよね? それとも、ここで暴力振るってさらに信用失くす方を選ぶ?」

「――リザさん」


 ユティスが制す。それにリザは首を向け、


「ああ、言い過ぎたわ。ごめんなさい」

「……僕自身、起こっている騒動が気になっているのは事実だ。とはいえ、城側には人がいる……連絡をつける必要がある」

「なら、どうするの?」


 そこでユティスは――イリアに目を向けた。


「イリア……頼まれてくれないか?」

「私が、ですか? でも――」

「僕自身色々と不安要素があるのは自覚しているよ……けど、どうやらロゼルストとしても関わっている問題……できればここで踏ん張って、調べたい」

「ユティスさんが参戦するなら、考えがあるわ」


 リザが言う。同時にアシラへと視線を移した。


「アシラさん、あなたはカノワさんの所に向かいたい――わよね?」

「はい」

「東側の情勢が落ち着いたら、西側に協力を請われたから人を派遣するべきだと考えている。放置していてはさらに混乱するかもしれないし……で、もし動くとしたら、私が援護しに行くつもりでいる」

「そう、ですか」

「ただ、私以外の人間には東側の騒動収拾を行ってもらうつもりだから……動くとしても、私や関わりのあるユティスさん達だけになる可能性が高い。で、その場合アシラさんにはユティスさんと共に行動してもらいたいのよ」

「この方と?」

「ええ。カノワさんが心配でしょう? けれど単独行動は私としてもさせたくない……私と共に同行してもらうけど、いざという場合彼のことを守って欲しいわけ」

「……わかりました。それがカノワさんと会えることに繋がるなら」


 承諾するアシラ。するとリザは「ありがとう」と告げ、


「……お二人にも、多大な迷惑をかけることになるけれど」

「僕は大丈夫」

「いえ……」


 明瞭な返事に対し、ティアナはユティスに視線を送りつつ首を振る。先ほどリザが告げたことに対し、何かしら思う所があるらしい。


「――次訪れたタイミングで、イリアちゃんだけは私が責任もって大通りに連れて行くわ。それまでに彼女には伝言なり手紙なりを渡しておくこと」

「わかった」


 頷いたユティス。そしてリザは最後に告げた。


「――客人にこうして頼むのは心苦しいけれど、協力をお願いするわ」


 ユティス達は頷く――こうして、作戦会議は終了した。






 その後、ユティス達が待機する間に別の人間がやってきて武器などを渡された。どうやらリザが渡すよう指示しておいたらしい。

 ティアナとアシラに、長剣が一本ずつ。魔力も何もない無骨な物であるが、この場所では金属製の真剣自体が貴重とのことで、両者は受け取った。


 さらに、念の為にということで耐刃製の肌着まで持ってきた――必要なのかとユティスは自問しつつ、とりあえず怪我を防ぐ、という意味合いで好意に甘えアシラと共に着替えることにした。


「状況的に、大事になりそうな気がしますね」


 イリアとティアナに下を任せ、二階にあった客間で着替えるユティス達。その時発したアシラの呟きに対し、


「……もうすでに、大事のような気も」

「……確かに」


 頷くアシラ。彼はカノワという人物と繋がりはあるにせよ、事件的には部外者と言っても差し支えないため、事の大きさがわかっていないのかもしれない。

 だが、表情からは不安も漏れる。カノワのことを気にしてだろう。


「……あの」

「はい?」

「カノワさんのことが気になるのはわかります……それに関して、僕らも多少ながら協力したいと思っています」


 ユティスの言葉にアシラは多少ながら驚き――やがて「ありがとうございます」と告げる。


「すみません、何というか私に……」

「いえ……あの、一ついいですか? もしカノワさんと再会し、事件が解決した後の話ですけど……どうするんですか?」


 多少強引だが、今後話せる場面も多くないだろう――ユティスは判断し、本題に持ち込む。


「後の話ですか? 正直、頭が痛いんですけど」

「昼間話したところによると、以後の事に関してはほとんど考えていないんですよね?」

「そうですね」

「……その、選択肢の一つとして、考えて頂ければと思うんですが」


 そう前置きして――ユティス自身ちょっとばかり勇気を出しながら、提案する。


「……士官の道というのは、ありでしょうか?」

「へ?」


 聞き返すアシラ――そこで、ユティスは彼に対し自身の身分を語っていないことに気付いた。


「あ、えっと。実は私、大陸東部に存在するロゼルスト王国で騎士団に所属している身なのですが――」


 そこまで説明すると、唐突にアシラは引き気味になった。


「どうしました?」

「いえ、あの……騎士さん、なんですか?」

「……身分的には一応貴族ですけどね。とある領主の三男坊なので」


 アシラはさらに一歩後退。なんだか平伏しそうな態度であり、ユティスは慌てて彼に告げる。


「あの、別に改まらなくてもいいんですよ?」

「……ですが」

「それに、僕としてはあなたにお願いするような立場ですし」

「……さっきの、士官の話ですか?」


 コクコクと頷くユティス。対するアシラは戸惑いを見せる。


「あの、なぜ俺に?」


 ――根拠がイリアの能力やリザの証言だけなので、説明しづらいのは紛れもない事実。

 とはいえ、今は彼女達を信用するしかない。


「……僕は僕なりに根拠があって言っていることですよ」

「そ、そうですか。ですけど、唐突に言われても」

「あくまで選択肢の一つ、ということで……いきなり大陸東部に来てくれと言われても困るでしょうし」


 アシラは「はあ」と生返事。それにユティスは苦笑しつつ、ひとまず着替えようかとアシラに背を向けローブを脱ぐ。

 元々来ていた肌着を脱ぎ、用意された物を着ようとする。その時、


「……あれ?」


 アシラが声を上げた。それに、ユティスは反応。


「どうしました?」

「……その傷」


 言われ、背中に存在する傷痕を思い出す。


「ああ、これは魔物にやられて――」


 そこまで言って、ユティスは沈黙した。


 魔物にやられた――確かにユティスはその傷についてそう考えていた。今までは。

 だが、今はたと思い返し――違和感が生まれる。


 それは、先ほど突如『精霊式』の魔法が使えるようになった時とひどく酷似している。記憶の改ざん――もしや、この傷も記憶によって認識を変えられてしまったのか。


「魔物、ですか?」


 疑わしげにアシラは言う。それは、見た目上そんな風に見えないとでも言いたげだった。

 ならば――意を決し、ユティスは問う。


「アシラさんの目から見て、どんな傷に見えますか?」


 それにアシラは多少唸り、


「……刀傷、に見えますが」


 左腰から斜めに走る大きな一本の筋。確かに魔物に生み出されたというより、剣によって生じた傷と言った方が、理屈に合う気がする。

 なおかつ、ユティスもそれに内心同意した――魔物の傷ではない。これは間違いなく――


「ユティスさん?」


 アシラが告げる。そこでユティスは我に返った。


「あ、すみません」


 この場ではおそらく解決しないだろうと思い、ユティスはひとまず棚上げしておくことにした。


「えっと、それで……先ほどの話、考えて頂ければと思います」

「……はい」


 神妙に頷くアシラ。その後着替えを済ませた時、階下から声が聞こえてきた。

 ユティスとアシラは揃って下に。そこでティアナとイリアの二人と合流。


「連絡が来まして、もう少しで戦いが終わると……その後すぐにイリアさんを、とのことですが」

「わかった。アシラさん、僕らだけで少し話をしたいので、いいですか?」

「では見張りをやっておきます」


 進んでアシラは行動し、残るユティス達は一度リビングへ移動。次いで、ユティスはティアナ達と話を始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ