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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
124/411

目覚めの兆し

 リザが倒れ、彼女の右腕であったはずのデュオウが反乱――混沌とした状況の中で、ユティスはどう立ち回るのかを瞬時に思考する――そこでまずは、ティアナを呼んだ。


「ティアナ!」

「は、はい」


 応じた彼女は即座にユティスへと近づく。所作を見てからデュオウは、ユティス達に質問した。


「戦うか? それとも逃げるか?」

「……あんたは、魔具をバラまいていた主犯か?」


 ユティスが問う。それにデュオウは肩をすくめた。否定しているようだ。


「なら……何が、目的だ?」

「力だ」


 一言。ユティスはそれにより、彼自身情報を持っている可能性は低いと思った。


「……ティアナ、ここで逃げれば情報は手に入らないと思うけど」

「私に、任せてください」


 自ら引き裂いたドレス姿で彼女はデュオウと対峙する。


「でも、その……」

「格好がどうとか言っている場合ではありません」


 ティアナは切り捨てると共に木剣を構える。対するデュオウは、やれやれと顔を見せ、懐から何かを取り出す――短剣だった。


「それが、あなたの武器ですか」

「先ほどの戦い、見ていた。確かに優れた技量の持ち主のようだが、まともな剣を持たないお前に勝ち目はない」


 言葉に、ユティスは自身の腰にある剣に手を当てる。封がされており、それを破れば当然罰則の対象だが――四の五の言ってはいられない。


「させると思うか?」


 だが、デュオウはユティスの所作を見て目を光らせる。もしユティスが動けば、容赦なく攻撃を仕掛ける――そういう態度だった。


「私が一時食い止めます。その間に、剣の封を破り私に」


 ティアナはユティスに告げながら腰を落とす。一方のデュオウは笑みを浮かべる。そんな武器で時間稼ぎなどできるのか――そう、彼は語っていた。

 彼の奥では、倒れたままのリザに近寄る人影。彼女の支持者が跳ね除けようとするが、魔具を持つ人物には叶わず、風か何かの力によって吹き飛ばされる。


 そしてデュオウに従う人間がリザの髪を掴んだ――その時、


「……やんなるわねぇ」


 面倒そうな――それでいて、あまりに冷たい声音だった。

 途端、魔具を持っていた人物が悲鳴を上げ引き下がる。次いでリザはゆっくりと起き上がり、殺気を宿した瞳をデュオウに向けた。


「まったく……今日は本当に面倒な日ね」

「そうかもしれないな」


 デュオウはティアナと対峙する中で、リザに応じる。


「ティアナさん、悪いけどここは私に任せてもらえないかしら? 身内の始末は、私がつけるわ」

「……わかりました」


 ティアナはあっさりと引き下がる。リザの瞳を見て手出しは無用と判断した様子。その代わりに彼女はユティス達の正面に立ち、護るべく構えを見せる。

 次いでリザはデュオウを見据え、言った。


「釈明も、言い訳もいらないわ。そこで地面に倒れなさい」

「断る」


 デュオウがリザへ体を向け、駆ける。ユティスにとっては背を向けているため表情はわからなかったが――その自信みなぎる背中を見れば、笑っているのだと容易に想像がついた。

 手に握る獲物は、短剣――対するリザは動かない。自然体のままデュオウを面倒そうに見据え――彼が間合いに達しそうになる。


 その時、変化が起こった。一瞬の内に、ユティス自身毛が逆立つのではないという程の魔力が、彼女から放たれる。

 おそらくそれは威嚇の意味合い――デュオウはその魔力を感じ取り、一瞬だが動きが鈍らせた。


「馬鹿よね」


 リザは告げると同時にデュオウに近寄り――ズン、と重い音が響いた。懐に潜り込み、拳を叩き込んだ。


「魔具があればどうにかなると思った? それとも、私が腹心に採用したから実力があると思っていた?」


 続けざまに蹴り。それによりデュオウの体が、目測上に五メートルは浮いた。


「技量的な実力はあるんでしょうし、受け切る自信はあったんでしょう。けどこんな威嚇丸わかりの魔力に反応する程、あんたは未熟という話よ」


 語る間にデュオウの体は地面に落ちる。もう、動かない。気絶してしまったようだ。

 リザは混乱する周囲を見回し、ゆっくりと歩み始める。その肩には明確な怒りが存在し、遠目から見るユティスにとっても、慄かせる程の気配を漂わせていた。


 ユティスはその中でどうすれば――考えた矢先、魔具を持つ人間がユティス達に目を付ける。


「ちっ」


 それを察したリザは舌打ちし、駆けようとするその相手に一瞬で接近。

 放ったのは掌底。吹き飛んだ相手はまたも動かなくなったが、数が数。


「不本意ですが……戦うしかなさそうですね」


 ティアナは断じると木剣を改めて構える。イリアも緊張した面持ちながら戦う意志は見せており、異常事態にアシラもまた警戒の目を向けている。

 そしてユティスも――ただ、この場で『創生』を使えば異能者だと露見するため、厄介なことになりかねない。よって使えるとしたら魔法。ティアナやアシラをサポートする方がいいだろうと思い、結界の詠唱に入ろうかと思った。


 その時、ユティスは心の中で引っ掛かりを覚える。先ほどリザとティアナが戦っていた光景。あれになぜか目がついていった。

 混沌とする状況の中で、ユティスは自身の左手に視線を移す。何もない――が、先ほどの戦闘を思い返し、何か心に引っ掛かる。


「ユティスさん!」


 魔具を装備する者達を次々と倒しながら、リザは口を開いた。


「一度、ここを離れ――」


 彼女が言いかけた時、ティアナが別方向に視線を向ける。合わせてユティスも首を移すと、路地から新たな人物が出現する光景。敵の増援らしい。


「ここを離れる、といってもな……」


 ユティスは呟きつつどうすればいいのか思案する。今の所混乱した状況ではあるがユティス達に近寄ってくる輩はいない。加え、リザが魔具を持つ人間を手当たり次第殴り飛ばしており、さらにリザの味方も駆けつけ加勢している。数的にもリザの味方の方が多い。離れる必要もなく事態は収拾するようにも思われる。


 その中で、ユティスは喉の奥にものが引っ掛かるような気持ち悪さを抱き、考える。


(何だ……僕は――)


 心の中で呟こうとした時だった。


 突如、数人の使い手がユティス達に攻撃を仕掛けるべく走り出す。どういう意図を持っているのかわからないが――もしかすると、リザに対し人質にでもする気なのかもしれない。

 だがそれをティアナが阻む――直後、ユティスは背後からも気配を察知した。振り向くと、二人が必死の形相で詰め寄ろうとする光景。


 これは――ティアナも気付いたようだで、彼女は先に見つけた相手へ向け走り出す。速攻で二人を倒し、すぐさま引き返し後方の相手を――そんな風に思っているのだと、ユティスは直感した。


「ここは俺が――」


 するとアシラがフォローに入る。ユティスとしては驚いたのだが、彼は至極真面目に拳を構え、


「こうやって騒動に関係してしまったのは……何か、理由があるのかもしれません」


 そう述べるアシラの前に、魔具と剣を持つ二人の男が近づこうとする。その目には明確な殺意。ユティスは即座に思考を戦闘モードにシフトさせる。

 だが、そこでまたも違和感が生じた――以前、いやさっきよりもよりクリアに、相手の動きを掴みとることができる。


「え……?」


 呻いたと同時、ユティスの体は自然と反応した。何をすればいいのか――いや、どうやってあの二人を跳ね除ければいいのか。

 頭で考えたその手法を、ユティスは一瞬信じられない気持ちで検討する――そして、なぜか体はできると告げた。


 足先に魔力が集まる。身体強化なのだが、本来ユティスは足元に集中させ高速移動するような術は普段用いなかったはず。しかし――


 一瞬考え、アシラが動くよりも前に、ユティスは一歩足を踏み出した。


「――ユティス様!?」


 気配を察したティアナが声を上げる。だがユティスの足は止まらない。驚くアシラの横を過ぎ、魔具を持つ男二人と相対する。

 そしてユティスは魔力から察する。両者が持つ魔具は、身体強化の類――飛び道具は、間違いなく来ない。


 さらに足を前に出す。気付けばアシラやイリアの前に立ち、男二人が叫び声と共に迫ろうとしていた。

 それに対し、ユティスはひどく冷静な頭で――剣を振り上げる相手の姿を捉える。


 ユティスは剣に手を掛ける。強引に封を破りながら鞘から抜き放ち、右腕に魔力を加えつつ、相手を迎え撃った。

 剣戟が衝突。一瞬の抵抗があったのだが、それでも魔力強化によって相手の攻撃を押し留める。こんな細腕で――そう男は思っているのか、驚いた表情を見せる。


 反撃。オックスに教えられた剣技――それと、体になぜか存在している剣技が混ざり、相手に一撃叩き込んだ。

 途端、相手は吹き飛んだ――それと共に後方にいた男の顔もまた驚愕する。動きを止め、ユティスを注視する。


 ここからどうすればいいのか、ユティスには克明に理解できていた。


 左手をかざす。何も握らないその手を、詠唱一つせず男へと突き出した。

 結果――腕から風が生まれた。無詠唱魔法とは仕組みが違う。けれどユティスはそれが何であるかを認識しつつ、風を放出する。


 生み出された風は、塊となって男が防御する暇もなく胴体に直撃し、相手は倒れ伏した。

 気付けば、男二人をユティスは難なく跳ね除けた――ユティス自身、これまで使ったことのない力で。


 いや、正確に言えば違う――使ったことがないのではない。今、思い出した。


「何だ、これ……?」


 自分の身に起こったことに驚愕し、呟く――同時、喚声が聞こえユティスは我に返った。

 まだ戦いは続いていると断じ視線を戻すと、リザがユティス達に歩み寄って来るところだった。


「……ユティスさん、どうしちゃったの?」


 見ていたらしいリザが問う。その瞳は、困惑している。


「急に力に目覚めたみたいな……実際、私の目から見ても突如力が出てきた感じだけど……」

「……それについては、後で説明するよ」


 ユティスは述べると、周囲を見回す。混沌としているのは相変わらずであったが、それでもリザ達が優勢であるのはわかった。


「で、僕らはどうすればいい?」

「……そうね。ひとまず私の家にでも行っていてもらいましょうか」


 告げると同時に、リザは近くにいた男に目を向けた。


「彼らを私の家まで案内しなさい」

「はい」


 頷いた男は、俺達が動き出すのを待つ様子。そこでまたもリザが声を上げる。


「ティアナさん。あの戦いはひとまず引き分けということで……ちなみに調べられても私は一向に構わないのだけれど、どうする?」

「この状況が全てを物語っている気もしますね……この場は、あなたに任せましょう」

「助かるわ。あ、着替えとか自由に使ってもらっていいから」


 最後にリザは、ユティスに対し小さく手を振った。


「先に行って。あと一時間もしない内に私も家に戻るから……それと、周辺の状況も整理しておくわ。アシラさんとしてもその方がいいでしょう?」


 名を呼ばれたアシラは頷く。それにリザは満足そうに頷き、


「というわけで、よろしく……あ、それと物がほとんどない家だから、女の子らしい部屋は期待しないでね」


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