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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
120/411

騒動と決闘

 唐突なティアナの出現。それに対しユティスは驚愕し、反面リザは至極冷静に問い掛ける。


「知り合い?」

「あ、うん……一緒にネイレスファルトに来た――」

「――ユティス様!?」


 ティアナはユティスに気付き、驚愕の声を上げた。

 そして彼女は木剣を握ったまま近寄ってくる。男達が警告をしようと前を阻もうとするが、それをティアナは木剣で威嚇した。


「どいてください」

「……いや、あんた」


 男がどうにか声を出そうとしたのだが、ティアナは木剣を構え斬撃を放とうとする。

 それを見て取った男はすぐさま後退。そこで、リザが呼び掛けた。


「好きにさせてあげなさい」


 声に、男は横に移動。そしてティアナはユティス達の間近へと到達する。


「ユティス様、ここで何をなさっているのですか!?」

「昼食よ」


 リザの言葉に、ティアナの顔が一瞬険しくなる。


「……あなたが、リザですか?」

「お、知っているのね。となると、さては――」

「ええ、ちょっかいを掛けられましたよ。路地に迷いこんだ人を連れ戻そうとして、それが人違いだとわかり引き返そうとした直後」

「それは申し訳なかったわ」

「……ユティス様、その女性から離れてください」


 淡々とした口調。けれど言葉の端々からは怒りにも似た雰囲気が感じ取れる。


「……ティアナは、なぜここに?」


 ユティスが質問を行うが、当の彼女はリザに目を向けたまま、


「離れてください」


 再度の呼び掛け。すると今度はリザが席を立ち、不敵な笑みを浮かべた。


「あら、この状況を見て理解できていないの?」


 まるで、挑発するような言動――ユティスは何を言い出すのかと思い口を開こうとしたのだが、


「任せなさい。悪いようにはしないわ」


 一瞬だけ顔を近づけ、小声でリザはユティスに述べ、ティアナと対峙する。


(……悪いようには、しない?)


 胸中ユティスが疑問を思っている時、リザはティアナと向かい合った。


「私が、彼らに『お願い』をしてちょっとここに滞在してもらっているの」

「……『お願い』とは、何ですか?」

「さあ? なんでしょうね?」


 小首を傾げるリザ。その言動は完全にティアナを挑発しているものであり、ユティスは不安を抱く。


(悪いようにはしないって……)


 さっきそう言っていたはずだが――考える間にティアナは険しい顔を見せ、


「……どうやら、言葉だけでは理解して頂けないようですね」


 どこかあきらめた――いや、わかっていたという表情をしながら、ティアナはリザに視線を送る。無表情だったが、ユティスはその華奢な体の中に相当な怒りを内包していると理解する。


「そんなに怒らないでよ。綺麗な顔が台無しになるわよ」


 対するリザはティアナの表情に反し笑い掛ける。一方のティアナは今すぐにでも飛び掛かりそうな気配であり――


「あなた、身なりからすると単なる貴族のご令嬢だけれど、ここまで木剣片手に来たって事は騎士の訓練とかも受けているのよね?」

「……それがどうかしましたか」

「私はまだ戦闘態勢にも入っていない。今は違うようだけど、騎士をやっていた人が、戦意のない人に攻撃するとは……」


 何が言いたいのかを察し、不快な表情を示すティアナ。それにリザは笑みを浮かべ、


「で、何か用? ユティスさんを捜しに来たという感じではないでしょう?」


 途端、ティアナの眉が跳ねる。おそらくユティスの名を口にしたためだろう。

 だが彼女は用件を先に済ますべきだと考えたのか、まず左手でドレスのポケットに手を突っ込む。次いで何かを取り出す――宝石、いや魔石がはめられた銀の腕輪だった。


「これに、心当たりは?」

「魔具のようね? それがどうかした?」

「この魔具は、私も見覚えがある紋章が刻まれているのです」


 言葉に、ユティスは腕輪に視線を送る。多少見にくいが、それでも鷲の刻印が成されているのを発見する。

 それは――ロゼルスト王国魔法院の意を表す刻印。


「それ、この近くをうろついていた人物が持っていたの?」

「ええ、そうです。私がこれの入手先が知りたい。単なる盗難でなく、もし故意に魔具がばらまかれているとしたら――」

「あなたが見覚えのあるくらい有名な紋章なら、敵さんはそれを隠して色々すると思うのだけれど」

「ごもっともですが……風評被害をもたらすためにこうしてバラまいているという可能性もあります。そこを究明したい」

「ああ、なるほどね……そうね、私もそれには大いに興味がある――」


 そして彼女は近くにいる男を呼ぶ。


「デュオウを呼んできなさい。それと、魔具を所持してうろついている人間がいたらここに連れてきなさい」

「はい」


 男は命令に従い、速やかに立ち去る。それを見たティアナは、訝しげな視線を送った。


「あなたが魔具を管理しているのではないのですか?」

「悪いけど、その辺りは私が知りたいくらいなのよ。私だって調べていたくらいで、この周辺にも魔具を持っている人間がいるという情報自体、私としてはありがたいわ」


 リザの言葉に、ティアナは疑わしげな顔を見せる。さすがにリザの言葉を額面通り受け取ることはできないだろうとユティスは思う。

 顔つきを変えないティアナを見て、リザはさらに言及する。


「……でも、あなたは私が嘘を言っている可能性を考慮している」

「ええ、そうですね」

「しかも私はユティスさん達に『お願い』などと称し何かをしているという雰囲気がある」

「……ええ」


 顔が険しくなる。ユティスはとしてはやめてくれと思ったのだが――リザの表情を見て、嫌な予感がした。

 その顔は、言ってみれば強者を間近にして興奮に打ち震える闘士の姿そのもの。


「この一帯は私が取り仕切っているのだけれど……慣習上、負かした人物の言うことは聞くようになっている。で、私を倒せばあなたはここの主になれる……疑うようなら、実力で私をねじ伏せて家探しでもすればいいんじゃない?」

「なるほど……なら、そうさせてもらいましょうか」

「お、おい……!?」


 聞き咎めてユティスはティアナへ口を開こうとする――が、


「はいはい、待った」


 途端リザがティアナに背を向け、ユティスと向かい合う。


「彼女、何かを隠している様子ね?」

「……え?」

「私が見た感触としては、複雑な事情を抱えている様子。加え、あなたを見るその目も単なるお仲間とは少し違う……彼女から真意を聞き出す口実を作れば、報酬上乗せしてもらえる?」


 ――ティアナとリザが対峙したのはほんの僅かな時間。それだけで、彼女の心情をそこまで理解することができたのか。

 ユティスが内心驚愕する間に、リザはさらに告げる。


「で、あの人だけど……相当強いでしょう?」

「元、聖騎士候補と言えばその強さはわかる?」

「ほう、なるほど……面白そうね。私の腕がどれくらい通用するのか」


 不敵な笑み。そこに乗っている感情は、先ほどの報酬云々を別にして、これから始まるであろう決闘を楽しみにしている雰囲気。


「私達のことは気にしなくていいわよ。家探ししても何もでない……いや、私の指示を聞かない跳ね返りから魔具が出てきても、私がフクロにすればいいだけの話だし」

「そ、それはわかったけど……」

「だから、あなたは私が勝つことを祈っていればいいわ」


 告げると同時にティアナへ振り向く。彼女の顔は、ずっと険しいまま。


「ごめんなさいね……話していても攻撃してこなかったのは褒めてあげるわ」

「……正直ユティス様と話をしている時点で一考しましたが、ギリギリのところで踏ん張りました。自分に拍手を送りたいくらいです」


 言うや否や、木剣の切っ先をリザへ向ける。


「覚悟、してもらいましょうか」

「いいわよ……さて」


 と、リザは周囲を見回す。辺りには決闘の空気を嗅ぎ取ったか、街の人間がゾロゾロと出現していた。


「私が最初から立ち会うのは久しぶりね……ま、存分に楽しみなさい」


 言葉と同時、周囲が熱狂に包まれる。リザの指示を受け粛々と男達が動き回る中で、町の人間達が唐突に賭けを行い始める。

 広場はいつしかユティス達を囲むように人が集まっており、その状況にユティスは戸惑う他ない。


「……何が始まるんですか?」


 完全に置いてけぼりとなったアシラが問う。視線を別に向けるとイリアもまたアシラと同様、戸惑った表情を見せていた。


「……ま、まあ、その……とりあえず、見守る事にしようか」


 そう返答するしかないユティスだった。






 それから少しの後、ティアナとリザは対峙する。ユティス達もまた席を立ち、二人の横――審判でもするような位置に立つ。双方とも戦闘態勢を整え、周囲の面々も興奮を押し殺し見入っているような状況。

 輪の中、ユティスは戦いの行く末を見守る。ティアナはそうしたユティスやイリアの動向が気になるのか、時折視線を投げてはすぐさまリザに目を戻していた。


 そして賭けについては、どうやらリザの方が金を積んだらしい――が、リザを潰せなどと煽っている人間もいる。街を仕切っている彼女に対しその暴言はいいのかとユティスは思うのだが、咎める人間は誰一人としていない。


「ねえ、一つ確認なんだけど」


 リザが口を開く。


「あなたが勝ったら、私が取り仕切る場所については好きにしていいけど……もし私が勝ったら、今度は私の言う事を聞いてもらうけどいい?」

「……何を要求するつもりですか?」

「そんな無茶なことはしないわよ。ま、内容に関しては後のお楽しみということで」


 笑顔で語るリザに、ティアナは訝しげな視線――とはいえ、ロクでもないという結論に達したか、表情を引き締める。


「……いいでしょう」


 声はずいぶんと低かった。

 ユティスにとっては、不安しかない状況。なぜこうして二人が戦うことになるのか――いや、根源は紛れもなくリザなのは理解できる。だが、あまりの唐突な行動に頭がついていかない。


 なにより、彼女の行動は驚くことばかりだった。


(売られた喧嘩は買うという性格みたいだけど……やっぱり、ネイレスファルトはこういった好戦的な人物がたくさんいるということなのか?)


 疑問が尽きない中、リザとティアナは睨み合う。次第に空気が張りつめ始め、いつ始まっておかしくないような状況に変貌していく。

 周囲の人間が黙り始める。ここに至りユティスは両の拳を握りしめた。流れでこのような戦いが勃発してしまった。けれど、この戦いによって何かとんでもないことが起こるのではないか――


 予感の根拠は不明。けれど、どれだけ思い直してもそうした感情は消えない。やがて――


 両者が動く――沈黙の中で、闘士と元聖騎士候補の戦いが始まった。


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