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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第一話
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潜む計略

 ユティスは彼女に刻まれたその紋様を見て、なんとなく尋ねる。


「……それ、痛くなかった?」

「刺青じゃないから、痛みは無いよ。けど刺青と同じで消すことはできないから、一生このまま。両親にはなんて馬鹿なことをしたのかって散々言われた……ま、だからこそ私は花嫁修業なんてロクにせず、こうやって鎧を着ることができるのかも」


 フレイラはさっぱりと答え――途端彼女は、ユティスに対し申し訳なさそうな顔をした。


「……きっと、私の両親はあなたのことを許すかもしれない。私は家で、厄介者扱いだから、面倒な人間が消えてくれて、さらにそれは中々の家柄の人物で――」

「けど、病弱だよ?」


 手を広げ主張すると、フレイラは「残念だけど、それは問題ない」と述べる。


「私という存在を追い払える上、なおかつ家の権威が傷つかないのならどんな相手だって良いんじゃない?」

「そんなものかな……ま、どちらにせよ」


 と、ユティスはまとめの言葉を発する。


「僕らは双方、家で疫病神扱いされているわけだ」

「そういうことになる……今回の事件を解決して鼻を明かすなんて馬鹿なことは言わないけど……王を守るために、尽力しよう」

「うん……と」


 そこで、ユティスはほんの僅かだが疲労を感じた。


「どうしたの……? あ、もしかして体の調子が?」

「馬車移動の疲れが出ただけだよ。明日に残るような疲れじゃないのは僕自身わかるし……とりあえず、眠るよ」

「わかった」


 承諾の声を聞いた後、ユティスは着替えるべく部屋の端にある荷物へと近寄った。


「あ、着替えるから――」

「私は別に構わないけどね……ま、ここは退散しますか」


 フレイラは部屋を出ようと歩き出す。


「私の両親がいるだろうから、挨拶だけはしておく」

「うん、わかった。あ、それとセルナを呼んでもらえると……」

「了解」


 承諾と同時にフレイラは部屋を出た。広い部屋で独りぼっちとなったユティスは、そこで深いため息をつく。


「……訳ありのご息女と、訳ありの子息か」


 互い、家にとってつまはじきされているような人間――そういう人間同士が手を組み王を守るなどというのは滑稽のように思えたが――


「何も無かったらとんだピエロだなぁ……」


 最悪ただ婚約宣言して終わり――けれど本当に騒動が起きる可能性だってゼロではない。その念のために動こうと、ユティスは改めて思った。


「とりあえず、眠ろう」


 明日に備え体を休める――普通なら疲労して寝込んでもおかしくない状況なのだが、周囲がめまぐるしく変化し、体もそれに対応するつもりなのか、今の所異常はない。


「けどまあこのまま夜まで行動していたら間違いなく明日倒れるな……」


 そう呟いたところでセルナがやって来た。既に着替えを終えたユティスは、眠る旨を告げるとベッドに潜り込む。


(明日……)


 一体どうなるのか――ユティスは胸中僅かながら不安を抱えつつ、セルナが仕事を始める中で目を閉じ、眠り始めた。



 * * *



「やれやれ……」


 夜となり、フレイラは魔法の照明によって不自由なく歩ける廊下を進む。


 ユティスに伝えた通り両親と城で再会し、一連の話をした。結果として「さっさと紹介し、人に迷惑を掛けないように」と告げられるに留まったが、良い顔はされなかった。


「ま、邪魔されないだけよしとするか」


 フレイラはそう結論付け、自室に戻る。部屋は魔法の明かりによって灯されていた。

 さらに食事の後片付けをするセルナの姿が。魔法は彼女が行ったのだろう。


「あ、フレイラ様」

「ええ……その食事はユティスが?」

「一度起きて、その時に」


 フレイラの目には、皿が数枚。枚数から小食であるのは、なんとなく理解できた。


「フレイラ様、お食事はどうされましたか?」

「両親に会いに行ってそこで食べたよ……胃が重くなるような食事だった」


 正直思い出したくもなかったため、フレイラは誤魔化すように会話の矛先をユティスへ向ける。


「彼、大丈夫そう?」


 彼が明日式典に出れなければ計画はご破算――だからこそ、問い掛けた。


「大丈夫ですよ。明日も式典に出ることはできるでしょう」


 セルナの回答は明るいもの。フレイラも多少安堵し、


「式典まではユティスのこと、お願い。明日は、私も色々と動かないといけないだろうし」

「はい……その」


 と、セルナは突如複雑な表情となる。


「どうしたの?」

「いえ……あの、一つだけお聞きしてもよろしいですか?」

「私がなぜ、ユティスのことを……ってこと?」


 問い掛けると、セルナは姿勢をピンと伸ばした。図星らしい。


「け、決して詮索するつもりは――」

「いえ、いいよ。お付きのあなただって気になって仕方ないよね」


(とはいえ、納得させられる説明は無理かな……)


 フレイラとしては一目ぼれで全部済まそうと考えていたのだが、彼女にはそれが疑わしいものだと感じているのかもしれない。あるいは、主人の言動から何か察しているのか。

 しかし、フレイラ自身有効な手段が思いつかない。


「え、えっと……ユティス様自身は、どうお考えになっているのでしょうか? 私にも、肯定とも否定とも取れる態度を示していますし、フレイラ様は何かお聞きですか?」

「……そうね」


 フレイラはベッドで眠るユティスに顔を向ける。その寝顔は子供のようで、見ているとなんだか癒される雰囲気が――


「口では表現しにくいわね……なんというか、一目ぼれってそういうものでしょう?」


 あまり良い言葉が浮かばなかったため、そんな風にフレイラは語る。

 対するセルナは表情を硬くしたまま押し黙った――間違いなく、あの契約のために行った口づけのことを想像しているに違いない。


「あ、あの……すいません、差し出がましい真似を」


 やがてセルナは委縮したように告げ、そこから会話もそこそこに夕食を片付け部屋を後にした。

 残されたフレイラは歎息し、何気なくユティスへと近寄る。


「……なぜだろう」


 疑問の言葉。なぜ、自分自身の過去について話をしたのだろうか――明日の出来事を想像して高ぶった気持ちを抑えたかったのか、それとも本当にユティスが気に入り、話をしてみたかったのか。


 あるいは、自身の秘密を知られて衝動的に話してしまったのか――そう考えた瞬間、なぜかドキリとなった。

 なぜそんな風に体が反応してしまったのか、フレイラ自身も上手く理解できなかった。けれど、一つだけ確定的に言えることがあった。


「余計なことは考えない方がいいよね。とりあえず明日……少なくとも陛下に近づく算段を確実にするまでは」


 式典が始まるまでが正念場だった。ここまで猪突猛進の勢いで馳せ参じたフレイラだが、王に近づく算段を一から計画しなければならない。


 権力的な意味合いで根回しができなかったことに加え調査報告も捨て置かれている。さらに自身の立場を鑑みれば、この城内で襲撃の主張を信じる者はいないだろう。ましてや祝いの空気が満ちる城内で襲撃などと言い出せば、万全の警備で大丈夫だと鼻で笑われるならまだマシで、最悪追い出されかねない。


 予定通り王の側近に話をつけることができたとしても、ここからは賭けだった。改めて何て運任せな作戦だと思い――フレイラは自嘲的な笑みを零しそうになったが、それをどうにか堪え、気合を入れ直す。


 そして、ユティスの寝顔を一瞥した後中央付近にある椅子に座る。


「明日……全てが終わるまでは、それだけに集中しよう」


 無用な感情は、王護衛の邪魔になるだけ――フレイラは断じ、何気なくテラスに目を移した。

 外は暗闇であり、虚ろな世界をフレイラに示している。それをしばしじっと見た後少しばかりフレイラは息を吐き、気を紛らわすべくお茶でも飲もうかと、侍女を呼ぶことにした――



 * * *



 同時刻、とある場所でその話し合いは行われていた。


「本当に、成功するのですか?」


 人数は二人。双方男であり、片方は黒い外套を着込みフードまで被り顔を隠している。もう一方は闇夜の中で金髪が月明かりによって照らされており、なおかつ精悍な顔つきは自信に満ち溢れ、不安げに問うた外套の男に対し笑みをはっきり見せていた。


「あんた方の上層部が俺の能力を見て決めたことだろ? あんた達が不安になってどうするんだ?」


 飄々(ひょうひょう)とした口調で話す金髪の男性。それに相手は押し黙り、外套の下で険しい顔をした。


「俺はただあんた達が指定した通りのことをやるだけだがな……しかし、ずいぶんと面白いことを考えるんだな。まさか――」

「それ以上はやめてください」


 外套の男はピシャリと告げた。それにより、金髪の男性は首をすくめる。


「ああ、そうだな。悪かったよ……ところで、そっちの準備は整っているのか?」

「大丈夫です……既に内応の人物から連絡もありました。明日、予定外のことが無い限り指定場所から侵入することになります」


 外套の男性はやや緊張を伴った声音で告げる。対する金髪の男性は、そこで再度笑った。


「ま、俺に任せとけば大丈夫さ。大船に乗ったつもりでいろよ」

「……失敗した場合、どうするかもわかっていますね?」

「当然だ。尻拭いするのは平気だし、楽しそうだからそっちの展開でも面白そうだが――」


 外套の男が顔を上げ、フードの下で鋭い視線を見せる。


「わかっていると思いますが――」

「あーあー、そうだな。あんた達の見果てぬ夢を叶えるため、作戦はきちんとやるさ。怒るなって」


 陽気に告げると、金髪の男性は相手に背を向けた。


「さて、話はこのくらいにしとくか……あんたも明日の準備があるんだろう?」

「……はい」

「なら、作戦が成功するようにしっかりと仕事をしてくれよ」


 彼は背を向けたまま手を振り、その場を後にする。一人残された外套の男は、相手の姿が見えなくなった瞬間深いため息をついた。


「……彼は」


 呟き、ほんの僅かな時間考え込む。


 先ほどの男性が『彩眼』を見せ彼の主君――王に示した能力。それを使えばきっと、この国を滅ぼすことが可能だろう――だからこそ王は、彼を引き入れた。

 そして、彼の能力を深く理解した上でその先まで考えた。だからこそ、こうして計略を立て今ロゼルストの首都にいる。けれど、


「……戦う前から負けるなどと考えるのは、悪い事だとは思いますけどね」


 国を滅ぼすという行為。それは途方もないことであり、失敗すれば間違いなく全てを失うことになる。その時を想像し男性は僅かながら身震いしたが――やがて静かにその場を後にし、明日の計画のため準備を進めることにした――


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