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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
118/411

遭遇と始まり

 アシラを見て思案し始めるリザ。彼の緊張を解そうという雰囲気が見て取れた。


「ふむ、そうね……それじゃあアシラさん。いくつか質問いい?」

「はい、どうぞ」

「カノワさんから何を教わったの? あの人色々やるけど」

「えっとですね……剣の手ほどきを中心にですけど」


 ――どうやら彼女は、報酬のために自ら質問を行う様子。おそらく雇い入れるかどうか情報が少ないため、どうするかこちらに判断させる材料を提供する気らしい。


(というか、そこまで報酬にこだわることなのか?)


 ユティスが胸中で呟いた時、ふいにリザと目が合った。刹那、こちらの心の内を察したのか――小さく頷いて見せる。

 さすがに心を読まれているわけではないだろうが――彼女の行動に驚きを感じるのも事実。


(フレイラとかは、自身の『目』で人を見ることで魔力の揺らぎを捉え、嘘なんかを判断するって言っていたけど……彼女が似たようなことをやっているとしたら、そんなレベルではないような気もするけど……)


「――数年、ねえ」


 考える間に、リザが呟く。


「カノワさんからそういう長い期間ものを教わった人は、この街にいなかったはずよ……街の人間から見れば垂涎ものね。ところで、教わった経緯はあるの?」

「偶然、としか……」

「なるほど。剣を学んだのは自衛のためかしら?」

「そうです。魔物に対抗するために」

「ふうん……で、今は他に魔物と対抗する人が出てきたから、こうして師匠の所に駆けつけることができたわけね」


 断言に、アシラは目を瞬かせる。それに対し、リザは歎息した。


「瞳の色が真っ直ぐだから、考えていることがすぐにわかるわよ。あなた、人を騙されたことが何度もあるでしょ?」

「……えっと」

「そういう真っ直ぐな目は人を信頼させるにはよいものだと思うけど、一歩間違えると詐欺師の鴨になるから気を付けなさいな。ま、この街であなたを見て金をふんだくろうなんて物好きが現れるとは思えないけれど、ね」


 そんな風に言うと、アシラはじっとリザを見据えた。言動に不快感を覚えたという感じではなかった。その表情は、純然たる興味。


「……あの、もしかして『霊眼』ですか?」

「そういう技術は教えられていないのね……ま、カノワさんは必要ないと言っていたし、他人の心を読んでも面白くないって笑っていたから当然かもしれないけど……少しくらいは読まれない訓練をしないと足元すくわれるわよ?」


 ――例えば魔力が存在しない純粋な武術同士の戦いであっても、相手の動きや太刀筋などからその攻撃がどの程度の威力かや、どういった動きをするのかを訓練を重ねればある程度理解することができるようになる。ユティスの前世でいうところの、中国武術などに存在していた『聴勁(ちょうけい)』が、おそらく前述した内容に近い意味を持っている。


 そこから派生し、眼の付近に意識的に魔力を加えることによって、相手の体を流れる魔力などからどのような動きをするのかを把握する手法を『霊眼』と言う。ただしこれは目だけの話ではなく、耳などを用いるケースもある。つまり五感を魔力により補強し、さらに感覚を鋭くして相手の行動を読もうというものである。


 それを突きつめた場合、それこそ相手の心を読む他、素性まで知ることができるという――極致をユティスは見たことがなかったが、その一端をリザは使っているらしい。


「そちらも興味ありそうね?」


 リザが問う。その顔つきは「私のことはいいから」というもの。おそらく自分に構うなというものだろう。

 とはいえ興味がある――その上、一つ会話をする方法を思いついた。


「……そういう技法は、剣術とは異なるもの?」

「剣術などの流派によって重視するかしないか分かれるわね。これを習得するのにも時間が掛かるわけで……その時間を剣術に当て技術を向上させるというやり方だってある」

「そういうことか……つまりアシラさんは習わなかったと?」

「俺の場合は、そうですね」


 神妙な顔つきで語るアシラ――ようやく話すきっかけを得られたので、ユティスはここぞとばかりに訊いてみる。


「先ほど魔物に対抗すると言っていましたが……」

「はい。山岳地帯では国の騎士が駆けつけるなんてことが難しいですから、自衛しなければならないんです。ただでさえ国土が山ばかりの国ですから、軍隊もほとんどいませんし」

「なるほど……その、もしお師匠さんに会ったらすぐに帰るんですか?」


 まずは士官できるかどうか身の上について訊かなければ――そういう意図だったのだが、途端彼は複雑な表情をした。


「えっと、そうですね」


 奥歯にものが挟まったような言い方。訝しんだユティスはさらに尋ねようとした時、


「訳ありということね」


 リザが口を開いた。


「さっき魔物に対抗する人がって言ったけど……そういう人間は、例え人数いたとしてもそう簡単に手放したくないというのが村の本意のはず。けれどあなたは村を出てネイレスファルトにいる……師匠に会うというのがメインではあるけれど、他にも理由があるという感じね」

「……ええ、まあ。あの――」

「もう村の護衛はしなくていいと」


 先読んで話すリザに、アシラは苦笑した。


「……まいったな。どこまでもお察しのようですね」

「普通ならこうまで追求しないんだけどね……不快に思うかもしれないけど」

「俺に対する疑惑を解消するために、そういう話に誘導していると?」

「そういう面もあるわね」


 リザは返答した後、視線でアシラに催促を行う。

 それに彼は再度苦笑し、息をついた後話し出した。


「……俺の住む村が、別の村と統合することになったんです。互いに人数の少ない村同士であり以前からそういう話が出ていたんですが……その中で魔物を狩る戦士についても、人数を絞るべきだと協議が行われました」

「つまり、あなたがいらないと言われた?」

「そういうことです」

「……実力的なものを勘案された?」

「いいえ……事情を考慮して、でしょう」


 アシラは自嘲めいた笑みを見せる。


「俺は天涯孤独の身で、他の戦士は妻子持ち……守るべき者がある事に加え、年齢も俺より上で魔物を倒した実績という点では上でした。どういう協議がなされたのかはわかりませんが、おそらく村人が誰を追いだすかを協議した時、一番人と縁のない俺を選んだんでしょう……結局、こういう場合に選ばれるのは人と縁が繋がっている人ということです」

「ああ、それ、わかるわ」


 リザが賛同する。それに今度はユティスが反応。


「わかる?」

「ええ。私みたいに街のとある地域を統括なんてしていると質問が来るのよ。何であなたは闘技大会なんかに出場して士官の道を選ばないのかと」


 ――確かに先ほどの剣士との戦いを考えれば、実力は相当なもの。技量だけで言えば十分士官されてもおかしくない。


「けどね、こういうのは実力とは別の部分で決まるの。例えば技量はそこそこにも関わらず人を惹きつける闘士と、実力は相当あるけど無茶苦茶根暗な闘士を選ぶとしたら、大抵の人は前者を選ぶと思う。私の場合は女でこういう見た目だからね。実力はあっても誰も雇わないってわけ」


 その言葉に、ユティスは一定の理解を得る。確かに見た目がこうでは傭兵の皮を被った色仕掛けの諜報員に見える。


「つまり、私もアシラさんと似たような感じというわけ」

「そういうことのようですね……」

「とすると、カノワさんと会ったらここで暮らすわけ?」

「わかりません。ここに来るまでに路銀も使い果たしましたから……明日の事すら危ないくらいなので」

「そのくらい追い込まれるとわかっていながら、ここに来るとはずいぶんと豪気ね」

「……恩が、ありますから」


 その言葉は、一日では語り尽くせないような重みがあった。

 今のような未来があるとわかっても、アシラはカノワのことを聞きここに来た――それだけの大恩が、カノワに対しあるということなのだろう。


 そこで、リザが視線をユティスへ流す。事情は把握できたはずで――ここで話をするべきだと主張している。

 ユティスも確かにこれは好機だと思った――だから、


「えっと、アシラさん」

「はい」

「その、カノワさんと出会った後の話ですけど――」


 言い掛けた時、後方からリザを呼ぶ男の叫び声が聞こえてきた。

 会話を半ば無理矢理中断させられ、それでも何事かとユティスは振り向く。


「リ、リザさん!」

「……何よ?」


 なぜか苛立たしげにリザが応じる。するとやって来た男が顔を引きつらせ、


「あ、あの……」

「ああ、悪いわね。それで、どうしたの?」

「そ、その。見知らぬ奴が木剣振り回して暴れまわって――」

「どうせこっちからちょっかい掛けたんでしょ? 自業自得じゃない」


 男の言葉が止まる。どうやら図星らしい。


「一つお灸をすえてやらないといけないわね……で、それがどうかした?」

「え、えっとですね……そいつは俺達のことを見て、どんどんこっちに向かってきているんですが」

「どういうことよ?」

「それが――」


 言い掛けた時、ユティスは路地から人影が現れるのを目にした。

 木剣を持っていることから、おそらく当該の人物であるのは間違いないだろう。ただ、それ以外が異様だった。この場には似つかわしくない緑を基調とするスカートを伴うドレス。そして金髪に、聡明な顔立ち――


「――ティアナ!?」


 ユティスは驚愕し、叫ぶ。そう、当該の人物は共にネイレスファルトに訪れたティアナだった。



 * * *



 ロゼルスト王国の宮廷にあるロイの部屋――そこに、客人が訪れる。


「記憶を、呼び起こし始めたらしいな?」


 ギルヴェだった。彼の問いに対し、ロイは薄い笑みを見せる。


「ええ……徐々に記憶を戻し、計画に沿うような形に持っていくつもりです」

「ある程度事情は私も把握したが……大丈夫なのか?」

「心配ですか?」

「正直、な……ロイ君が仕損じることはないと思うが……」


 そこで彼は一拍置いた。


「私も、君達がどういう風に策を実行するのかもわかる。記憶改変によって失われた……キュラウス家とファーディル家の関係性を利用するわけだな?」

「はい」

「正直、信じられんな。両家が昔から関係があったなど――」

「こういう見方もできますよ。あの式典でユティスと騎士フレイラが共に行動していましたが、あの二人の出会いは決して偶然では無かった。記憶はないにしろ、二人……いえ、騎士フレイラはファーディル家を半ば必然的に訪れた……体の中に残っていた感覚に従い」

「なるほど、そうかもしれないな……では、ユティス君についてはどうだ? 私としては、そちらの方も気になるのだが」

「予定外の事象は起きるでしょう。ギルヴェ様が懸念される通り、ユティスはその最たる例です。今回の記憶覚醒により……ユティスの内に眠る力も、目覚めてしまう。それは私達にとっても不都合なことになってしまう……それは否定しません」


 そこで、ロイは両手を左右に広げた。


「ただ、様々な事情を勘案し……ユティスを覚醒させてなお、こちらに利があると考えたのですよ」

「あれの事だな……しかし、ユティス君が力をつけたのならば、どうする?」

「仰る通り、ネイレスファルトでユティスは強くなるかもしれません。とはいえ私も、それに対応する手段を構築します」

「異名まで持っていたらしい彼の力に対抗する以上、相当なものだろうな」

「そうですね」

「わかった。この件は君に一任しているわけだが……報告だけは頼む」

「はい」


 ギルヴェは退出する。そして、ロイは自室で一人呟いた。


「ユティス……覚醒してからが正念場だ。ここでさらなる力を手にするか、それとも目覚めた力で妥協するのか……それで、勝負が決まってしまうぞ」


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