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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話
116/411

分かれた勢力

今回はラシェンの視点です。

 ラシェンがその日王宮へと足を向けたのはいくつか用があったため――なのだが、その人物と会う事自体は予定の内に組み込まれていなかった。

 ナデイルに屋敷を任せ城で作業をしていると、侍女兼諜報を担当する人物がラシェンに呼び掛けた。


「ラシェン様、お呼びです」

「呼んでいる? 陛下か?」

「いえ、こちらに来いと」


 そう言ってメモを渡す。確認するとそこには――


「わかった」


 ラシェンは承諾し、メモを懐にしまった後用を済ませ城を出る。時刻は昼を越えたくらい。馬車に乗り、先ほどメモで確認した場所へ行くよう御者に指示を行う。


「ふむ……」


 窓から外の景色を目でなぞりながらラシェンは呟く。ひどく見慣れた景色が映り――やがて、目的地に到着した。

 馬車を降りる。目の前には、ラシェンが住む屋敷と比べ一回り小さい屋敷。


 ここはラシェンが懇意にしている商家の屋敷だった。交渉事などをする場合などによく訪れるため、疑われるようなことも一切ない。

 だからこそ、密談にも利用している――この屋敷の持ち主はラシェンを懇意にしているため事情も知らず承諾している。ラシェンとしてはありがたいという他ない。


 門をくぐり玄関前でドアノッカーを叩く。少しして侍女が出てきた。


「ラシェン=オルドクだ。ここに客人がいるな?」

「はい、こちらです」


 侍女は何の疑いもせずラシェンを案内。訪れたのは、客室だった。

 扉を開ける。すると正面に存在するソファに、見慣れた人物が座っていた。


「お久しぶりです、ラシェン殿」

「ああ」


 返事をした後、ラシェンは侍女に「茶の必要はない」と告げ扉を閉めた。


 目の前の男性を観察する。黒い神父服を着る人物。長身に加え流れるような青い髪は見る者に畏怖を与え、それを少しでも解すように柔和な笑みを浮かべている。

 神父的な風貌よりも、おそらく貴族服を着た方が遥かに似合うだろう――整った顔立ちの男性を見つつラシェンは思った後、口を開く。


「リーグネストの不死者騒動前後にユティス君の屋敷を訪れ、手紙を渡したな?」

「ええ、それは私ですよ」


 朗らかな声を伴い返事をする男性――名はクルズ。それ以上のことはラシェンも知らないし、おそらくこの名も偽名だろうと推測している。

 彼は、ラシェンと何度も交流を重ねている人物――しかしそれは決して良い方向ではない。異能にまつわる、この世界の暗部とでも言うべきものに関わる存在。


 クルズはラシェンが関わる『存在』との連絡役である。


「さて、最近ずいぶん顔を見せないと思っていたのだが、何か原因があるのか?」


 ラシェンはクルズと向かい合うソファに着席すると、手始めに問い掛けた。


「手紙をユティス君に渡したのならば、私と話す余裕くらいはあっただろう?」

「あの後、厄介な事実が判明しまして……それについて情報収集を行っていたのです。さすがに今回の相手はかなりのもので、私もつい先日、ようやく情報を取りまとめることができました」

「……ギルヴェ殿の件か?」

「まさしく」


 頷くクルズ。ならばと、ラシェンは彼に問い掛ける。


「こうやって話をするということは、ギルヴェ殿が異能者と関わった件は予定外ということか?」

「まずはそこから説明いたします」


 前置きをして、クルズは話を始めた。


「ウィンギス王国との戦争後、ラシェン殿にも手紙をお渡ししたかと思います……かの異能者……つまりユティス殿について注視する。場合によっては彼こそが今後の戦いにおいて大きな『鍵』を担うだろうと思い、私達はそのような判断を行いました」

「ああ。だからこそ私は彼と協力するつもりだった……が」

「仰ることはわかります。妨害工作……ラシェン殿にとっては不愉快かもしれませんが、我々はロゼルスト王国内でもそこそこの情報網を確保しております。場合によっては彩破騎士団を王国最大の騎士団に……そういう工作も考えていたのですが、それよりも前に魔法院を始めとした面々が動き出してしまいました」

「彼らと君は繋がりが無いと?」

「いえ……言ってみれば、我々の中で新たな勢力が台頭してきた。そうした面々との接触があるのです」


 クルズの言葉に、ラシェンは難しい顔。


「新たな勢力だと?」

「あの戦争を契機に、我々も多少ながら考えを改め……造反する者もいたというわけです」

「なるほど……君達の中でもあの戦争は劇的なものだったというわけか」

「ええ。ウィンギス王国側についていた異能者の能力である『人間創生』については、魔力次第であらゆる勢力をひっくり返す可能性が存在していました。ユティス殿が持つ『物質創生』と比較しても、十万の軍の前になすすべもない……そのように考えていましたが、見事ひっくり返されました」


 肩をすくめるクルズ。それに対しラシェンは無言。


「彼の異能は非常に強力なもの……それを理解し、私達も相応の態度をとることにしたわけですが……」

「そう思わない人物達もいたと?」

「ええ……さらにこの結果を受け、勢力が二分してしまった。ただあの戦争が起こる前から、そうした派閥は秘密裏に存在していたのでしょう。そして彼らは我らが保有する情報網などを用いて様々な国に介入し、魔具の開発を始めとした実験を推し進めている」

「実験か……だが、それは――」

「ええ。魔具の開発や実験については千年前、私達の祖先が通った道でもあります……今と比べ科学技術が発達し、なおかつ多数の国からの支援があったにも関わらず……」


 その後の言葉は飲み込んだ。ラシェンは無言で彼の言葉を聞き続けるのみ。


「……しかし、そうした前例を把握しているからこそ今度は失敗しない……そう考えている者達が、勢力を拡大させた。よって私達は二つに分裂しました」

「ユティス君達から見れば、どちらがいいとは言えないだろうな」


 ラシェンのコメントに、クルズは深く頷いて見せる。


「片や非人道な実験すらも辞さない勢力。もしかすると彼らは実験を行うことが目的と化しているのかもしれませんが……そして片や異能者同士を戦わせようとする勢力……どちらにせよ、異能者の方々からすればたまったものではありませんね」

「だが、やるのだな?」


 ラシェンの問い。それは確認に近いものであり、クルズは再度頷いた。


「はい……千年前の過ちを繰り返さないために」

「わかった。それで、今の所ギルヴェ殿は私に関する情報を持っているのか?」

「新たな勢力は、私達が保有していた情報網を利用し彼に接触をしただけで、あなたの事に関しては把握していません。これは断言できますし、私が保証いたします」

「わかった。それだけ聞ければ十分だ。で、彼に対する処置は?」

「今は様子見とさせてください。もちろん、あなたが何か行動を起こすというのなら止めはしません」

「どちらにせよ、行動するとしてもユティス君達が帰って来てからになるな」

「そうですね……また、現在様々な異能者が活動を始めているため、私達もロゼルストだけに関わっているわけにもいきません。そしてネイレスファルトに集結させようとしていますが、上手くいっていない面もある」

「その辺りは私がどうこうできる立場にない……頑張ってくれ」


 言葉にクルズは何も答えず微笑を浮かべる。それに対しラシェンはあごに手をやり、話を続ける。


「私としてはユティス君に肩入れしているのが実状。ならば彼を支援し、ロゼルスト内で十分な権力を確保できるよう尽力しよう」

「わかりました」

「それで、異能者に関しては現在どうなっている?」

「様々な国が『彩眼』所持者に興味を抱いている様子……ネイレスファルトでは死人も出ていますので警備は相当厳重であることに加え、今のところは攻撃的な異能者も国を相手に喧嘩をするようなこともない様子。それについては、今後我らも注視します」

「攻撃的な勢力とは?」

「現在三つの勢力が存在します。一つはロゼルスト王国の魔導学院の事件に関わった異能者。リーグネストという都市にあった宝剣『魔術師殺し』を所持しています」

「私達としては捨て置けない勢力だな」

「でしょうね……彼らは現在ネイレスファルトにいるようです」

「彩破騎士団も現在ネイレスファルトだ。多少不安になるな」

「心配ないでしょう。路地にでも入り込まない限り鉢合わせする可能性は低い」


 そこまで語ったクルズは、小さく息を吐く。


「残り二つの勢力ですが……一つは単独行動を行っています。ラシェン殿、現在あなたが把握成されている異能の種類は?」

「大別して三つだな。『創生』と……便宜上私達は『全知』と『全能』と呼んでいる」

「ならば私もそれに倣いましょう……異能ですが、大別すると残り二種存在します」

「二種?」

「はい。その内の一つはおそらく今回の闘技大会で有名になるでしょう。その異能の所持者の一人は、ラキウス王国騎士であるレオ=テルト……そしてもう一つの異能を、単独行動を行う攻撃的勢力が保有しています」

「そうか……もう一つの勢力は?」

「おそらくですが、この勢力が我らの中で分裂した派閥と手を深く組んでいる」


 クルズは語る。それにラシェンは目を細めた。


「あくまで可能性ですが、分裂した派閥の者達は彼らやギルヴェ殿と接触し、たぶらかされた可能性が高い……ともかく、その勢力は現時点で一番注意すべき者達でしょう」

「ほう、もしやその人物は、君達と元々関わりがあったのか?」

「ええ。ただ分かれた派閥……つまり実験を行う派閥が積極的に接触していたこともあり、私達の派閥について多くを知っているわけではありません……ラシェン殿にまで手が及ぶことはないでしょうし、あなたが関与していることを知られているわけではない。そこは安心してください」


 そう述べたクルズは、腕を組み神妙な顔つきでなおも続ける。


「最後の攻撃的勢力は……異能者ではない人物が取り仕切っている勢力です。攻撃的な勢力の中で資金などもある……身分などの詳細は現在調査中です。現在、彼らもネイレスファルトに存在し、実験をしているとの情報もあります。彩破騎士団の方々と接触するような可能性はおそらくないと思いますが……彼らの行動次第では、厄介なことになるかもしれません」


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