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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第五話

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発見した人物

 その後、ユティスは別の広場に到着。そこはネイレスファルト東部側の闘技場の一つが近くに見える場所であり、そこそこ人も多かった。


「この辺りにしましょうか」


 リザは言うと、近くにいた男性を呼びつける。


「水」


 一言。それにより男性はさっと動き出す。


「……あの、一ついいですか?」

「何で私みたいないたいけな女の子に男達が従うのかって?」


 色々ツッコミ所はあったのだが、ユティスは全てを押し殺し頷く。


「はい、技量的なことと関係していますか?」

「そんなところ……ネイレスファルトは三つの区分が成されているのは知っているでしょう?」

「はい」

「で、今私がいる東部は、大通りを境にして北と南……北東部と南東部という二つの区分に分かれているの。さらに、私達がいるこの北東部の中で、東と西にそれぞれ闘士なんかを取りまとめる(かしら)とでも言うべき人間がいる。で、東側はこの私というわけ」

「なるほど……それで、騒動とは?」

「首を突っ込みたいの?」


 興味本位で訊いただけなので、ユティスとしては軽率だったかなと思って首を左右に振ろうとした。しかし、


「ま、いいわ……情報を持っていた方がいいでしょ。数ヶ月前の話なんだけど、この北東部で色々とやっている人間がいるのよ」

「色々、ですか?」

「そ。よりによってこんな血気盛んな闘士の街で、人に魔具を与えて実験するという面倒な輩がいるのよ。厄介でしょう?」


 魔具――ユティスは驚き、リザに問う。


「その犯人を追っていると?」

「そういうこと。おかげでそれなりに平和だった街もギスギスしているってわけ。あ、一つ捕捉しておくけど、騎士達が目を光らせている大通り周辺と中央部はまったく影響ないんだけどね……騎士も捕まえようと色々動いているらしいけど、今の所相手の方が一枚上手って感じ」


 やれやれと言った様子でリザが語る――その間に、男が水と椅子を持ってくる。彼女はそれに座り水を男から受け取る。


「ありがと……さて、状況はわかったかしら? それじゃあ質問をさせて?」

「はい」

「ここに来た目的は?」

「……人を登用しに」

「普通の答えねぇ。もうちょっとひねりはないのかしら」

「事実なので」

「あ、そう。で、何でこんな路地に迷い込んだの?」

「……イリアが路地に入って迷い込んだので、それを追ってあの場に」

「なるほど」

「本当は中央部へ向かう予定だったんですけど……」

「ふーん」


 目を合わせながら相槌を打つリザ。ユティスとしては相当やりにくい。


 彼女がユティスの説明に納得しているかどうかもまったく読めない。ただ一つ言えるのは、周囲に人は多いが彼女と対面するユティスとイリアに警戒を抱いた様子はないということ。


 リザがこの場の頭であるならば(にら)みの一つがあってもおかしくないのだが、一瞥した後興味がなさそうに通り過ぎる。リザの物腰が柔らかいためか、それともリザで対応できるような人物だと考えているのか――ともあれ彼女の警戒感が少ないのは、ユティス達が騒動に関わっている可能性は低いと考えているためかもしれない。


「で、何でイリアお嬢ちゃんは迷い込んだの?」


 リザが問う。そこはユティスも気になる部分。なのでユティスもイリアに視線を送る。

 すると彼女はリザにじっと目を向けられたためか――ユティスの後ろに隠れてしまった。


「あら、可愛い」


 イリアに視線を送りながらリザは言う。


「その所作気に入った。妹にしたいくらい」


 対応に困るコメント。ユティスはその言葉については無視した方がいいなと思ったので、口は挟まずイリアに問い掛ける。


「で、イリア……リザさんの質問は僕も気になる所なんだけど、話してもらえないか?」

「……その」


 ユティスを見上げながら、イリアは口を開く。しかし、雷を落とされると思っているのかイリアは口が止まってしまう。


「大丈夫よ」


 そこでフォローを入れたのは、なぜかリザだった。


「もしユティスお兄さんが怒ったら、鉄拳制裁してあげるから」

「……怖い事言わないでもらえませんか」

「可愛い女の子と優しいお兄さんの二択で、私はさっきの仕草から女の子の味方をすることに決めたのよ」


 本当にやりにくい――ユティスは心底思いながら、改めてイリアに口を開く。


「絶対に怒らないから、話して欲しい」

「……あの、その」


 イリアが話し出す。ユティスは待つ構えをとり、リザもまた彼女の言葉をゆっくり待つ気なのか蠱惑的な微笑を浮かべ、


「……見つけ、たんです」

「見つけた? 何を?」

「その……言われた通りの人を」


 言われた通り――リザは首を傾げ、ユティスも何を言っているのか理解できず眉をひそめる。

 しかし、やがて――団員候補のことだと悟ったユティスは、声を上げた。


「い、いたのか? 街に入ったばっかりで?」

「はい」

「何? 中央部に行くんじゃなかったの? それとも誰か明確に雇いたい人がいたの?」


 リザが問う。ユティスはそれに対しどう答えようか迷い、


「大丈夫大丈夫。私は口が堅いから」


 信用におけたものではないが、おそらく黙ったままで誤魔化しきれるとは思えない――ユティスはここで、念を押す。


「口外、しないでくださいね?」

「ええ」

「……彼女は普通の人よりも魔力知覚が優れていて、それにより強者を見分けることが出来るんです」

「ほお」


 興味深そうにリザは呟くと――今度は自身の胸に手を当てる。


「それじゃあイリアちゃん、私は?」

「……えっと」


 イリアはリザと視線を交わす。下手な返答をするとまずいのでは――などとユティスが思う間に、


「ものすごく、洗練されています」

「魔力が? なるほど、嬉しいわ」


 微笑を浮かべるリザ。どうやら満足な回答を得られたようだ。しかし、


「で、その見かけた人と比較して、どう?」


 再度の問い掛け。それにイリアは彼女を見返し、


「……その」

「大丈夫大丈夫。怒らないから」

「えっと……その、その人の方が」


(大丈夫なのか……?)


 ユティスが不安に思っていると、リザは不敵な笑みを浮かべる。


「なるほど、それは面白そうね」


 血が騒ぐのか、不敵な笑みを浮かべるリザ。けれど獰猛な気配は一瞬で喪失し、さらに質問を行う。


「で、イリアちゃんはそういう人を見かけたから路地に入ったと」

「でも、見失ったんですけど」

「仕方がないわ。大通りを一本外れるとこの街は迷路のようなものだから。初めて訪れる人が路地に入ると、元来た場所には決して戻れないなんて言われているし……さらに一度相手を見失ったが最後。二度と出会えないとも言われているし……さて」


 言うと、リザは立ち上がる。


「話している間にちょっとばかり魔力を探らせてもらったけど、両者共嘘を言っている気配はないわね」


(……なるほど、そういう風に見分けていたのか)


 嘘を言わなくて本当に良かったとユティスは思う。


「でも、人探しはあきらめてもらわないといけないわね。厄介事があるということで、あなた達も不用意に立ち入らないほうがいいと認識したでしょう?」

「はい、それはもう」

「中央の大通りまで送ってあげるから、目的地へ行きなさいな。あと、二度目がないことだけはここに宣言しておくわ」


 頷くユティス。イリアの言葉に多少ながら興味を覚えたのは事実だが、それでも騒動があるのならば立ち入らない方がいい。触らぬ神に崇りなしだ。


 送るためにリザが近くの男を呼んだ時、ユティスの視界に小走りで近寄ってくる別の男が視界に入った。


「リ、リザさん!」

「ん? そんなに息を切らせてどうしたの?」

「えっと、怪しい人物を発見しました」

「怪しい? ならここに連れてきなさい」

「それが……」


 と、男は頭をかきつつ、


「行き倒れ、みたいなんですけど。死にかけというわけじゃなくて、今は眠っているだけですが」

「……はあ?」


 間の抜けた声を上げるリザ。


「行き倒れ? さすがにそんなマヌケが騒動の首謀者ではないと思うけど?」

「そうだと思いますが……どうします? そういう人間がいるのは事実ですけど」

「うーん、そのまま放っておいて死なれても寝覚めが悪いしなぁ……ああ、どちらにせよ人相を確認する必要はあるか。連れてきているの?」

「はい」


 男性が応じると、別の男性が人を抱えて歩み寄ってくる。抱える人物は大男と言っても差し支えない体格であり、丸腰でありながら逆立った黒髪も相まって、静かな迫力が存在している。


「あらデュオウ。別にあなたがやらなくても――」

「リザさんを守り、街の秩序を維持するのが私達の使命です」


 忠誠を誓う騎士のように告げた彼は、男性をゆっくりと下ろす。元は白だったと思しきくすんだ外套に、紫色の髪。目を瞑っているので瞳は見えないが、気絶する顔立ちは格好いいというよりは可愛いと思えくらいに中性的。


「女の子みたいね」


 興味深そうにリザは呟く。ユティスとしてはコメントのしようもなく、ただ彼女が男性を観察する様を眺めるしかなく――


「この人」


 そこで、イリアは声を上げた。


「……ん?」


 ユティスは首を傾げる。そうして見えたのは、イリアが気絶する男性に向けて指を差している光景。


「イリア? どうした?」

「……この人」


 もう一度同じ言葉。


「えっと、行き倒れだよ」


 どういう人物なのかわからないのか――などと思いそう口にすると、イリアは首を左右に振る。


「……この人」


 そしてまたも同じ文言――そこでようやく、ユティスは理解した。

 イリアが大通りで発見し、路地裏に足を踏み入れるきっかけとなった人物――それが、彼なのだと。


「……え?」


 ユティスは信じられないような面持ちで男性を見る。次いでリザに視線を移す。

 彼女は口元に手を当て、男性を見ながら何やら考え込んでいる。彼女もまたリザの言葉を理解したようだった。


 ユティスはそれを確認した後視線を再度男性へ。眠るように気絶する男性を見やり、


「え……ええっ――!?」


 様々な感情が入り混じる驚愕の声を、口から漏らした。


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