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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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王家遠縁の暗部

 翌日、ユティス達は都へ帰還するべく準備を整える。そしてて引き上げ準備などをするため調査員と残ることにしたヨルクが、馬車搭乗前に見送りに来た。


「遺跡はひとまず封鎖する……最悪、大地の魔力を活用した永続型の封印を施すかもしれないな」


 調査員としては悲しい結論ではあったが――今回の結果から、ヨルクもそう王に進言する気なのだとユティスは理解し、遺跡を後にした。


「王家……少なくとも私は、彩破騎士団に協力する意思はあるから」


 帰りの途上で、サフィはユティスに告げた。


「それとヨルクも、あなた達に肩入れする気みたいだけど」


 非常にありがたい言葉。ただ彼らの力を頼るのは、あくまで最終手段とすべきだろうとユティスは心の中で断ずる。


「もし……どうにもならない時は、相談させてください」

「ええ」


 サフィは柔らかな笑顔でユティスに応じる――こうして、遺跡調査という長い旅は終わりを告げた。






 屋敷に戻り一日休んだ後、ユティスとフレイラはラシェンの屋敷を訪れる。


「戻ったか。事情はある程度把握している」


 彼の自室に入ると開口一番そう告げられ――なおかつ、ユティス達の表情を見て、彼も理解した様子だった。


「どうやら、相手の目論見が理解できているようだな」

「ラシェン公爵も、同じようですね」

「ああ。ギルヴェ殿から対異能者組織に関することを話しあった時に、気付いたよ。それを悟らせるために、わざと話し合いに持ち込んだのかもしれない」


 大きく嘆息するラシェン。その顔つきは事態を憂慮しているようにも見えた。

 ユティスは彼がそうした表情を見せるのを初めて見たため、事の重大さをさらに自覚する。


「しかし、悔いてばかりもいられない。こちらは次の行動に移らなければならない」

「はい」


 返事をしたユティスは、遺跡で起こったことを簡単に説明。詳細は報告書をまとめるという旨を告げた後、ラシェンを感想を漏らした。


「サフィ王女やヨルク殿から協力関係を得られたのはいい……味方は確実に増えている。しかし、相手の策により袋小路になる可能性が高くなっているのも事実」

「最大の問題は、戦力ですね」


 フレイラが言うと、ラシェンは深く頷いた。


「異能者と戦っていく上でも、力を確保しなければならないだろう……城の中で立場を確保することは、もう十分だろう。今回の遺跡調査の件を含め、様々な功績もある。聖賢者や王家も肩入れすると、今回の件でわかったはず。となれば騎士団結成当初考えていた通り、戦力強化をしたいが……私の『決闘会』の人員を割かれてしまった以上、打てる手は少ない」


 言った後ラシェンは、フレイラに視線を送る。


「頼みはネイレスファルト……しかし、あちらにも魔法院の息はかかっているだろう」

「それはヨルクさんにも言われましたが……可能性があるとしたら、一つ」

「一つ?」


 聞き返したラシェンに、フレイラは神妙な顔つきで頷き語る。


「今回の調査により、イリアが特殊な力を持っていることが判明しました。どうやら他者の魔力をかなり正確に見分けることができるようです……なぜそうなったのかはわかりませんが」

「ほう。つまり、彼女の力によって?」

「あくまで案ですけれど。もし力量の判別が可能なら、在野にいる者から登用することもできるのではと」

「賭けには違いないな」


 ――いくら強くとも、人間性などに難があれば当然、彩破騎士団としても良くはない。


 一方ネイレスファルトで教育を受ける騎士や魔術師候補については、一定の保証が与えられていると言ってもいい。ただ魔法院の息がかかっていることを踏まえれば、妨害に遭う可能性も否定できない。


「ですが、少しでも仲間にできる可能性を増やせられるのなら」

「そうだな……さて」


 ラシェンは一度視線を外した後、改めてユティス達へ語る。


「ここに来たのは、単純な報告だけではないな?」

「……はい」


 フレイラが頷く。一方のユティスは複雑な顔をしていた。


「ティアナに関して……調べたいのです。そもそも、ラシェン公爵は――」

「それについては、知らなかったと言っておこう。もしわかっていたら話しているさ」


 肩をすくめるラシェン。


「彼女が聖騎士候補だったという事実については……王家の中でもごく一部だけの話だったのだろう。それに私が城に入り浸っていたのは式典前から。その時点ではティアナ君は城にいなかったようだから、知らなかったとしても仕方がない」

「そう、ですか」

「彼女についてだが、実を言うと彩破騎士団に接近してきた時点で多少なりとも調査している。ただ、ティアナ君にそういうことをしているのは悟られたくないだろう? だから露見しないよう相当慎重に情報を集めており、時間が掛かっている……もう少しばかり待ってくれ」

「わかりました」


 ユティスは了承。するとラシェンは話を戻した。


「さて、ネイレスファルトの大会時期まではまだ時間もあるが……今から多少なりとも準備をしなければ大会前に辿り着くのは難しいだろう」

「それについては私が対応します」


 フレイラが言う。そして彼女はユティスに目を向け、


「ユティスは少しの間だろうけど、休んで」

「わかった……」

「そのフォローは私がしよう」


 ラシェンも言う。ユティス達はそれに頷くと、彼は改めて話した。


「ネイレスファルトへ行けば必ずしも良き戦士に会えるかはわからない……だが、その場所こそが、現状を切り開く道であるのは間違いない……ユティス君、フレイラ君、君達が良き戦士に会えるよう、私も尽力させてもらうよ――」



 * * *



 ロイは一連の報告を聞いた後大きく息をついて、椅子の背もたれに体を預けた。

 ひとまず、成すべきことは成した――特にラシェンが持つ『決闘会』のメンバーと彩破騎士団とを引きはがすことは、成功だった。


 スランゼル魔導学院関連で関わった勇者二人については事態に気付いた時抗議の声を上げたようだが、今は落ち着いている。下手に抵抗すれば危ない――そうラシェンから言われたのかもしれない。


「鍵はネイレスファルト……か」


 ロイ達――いや、ギルヴェ達も人員確保のために人を向かわせる予定はあるが、メインは彩破騎士団側に対する妨害工作となるだろう。

 もっとも、遠方の地であるロゼルストからではできることもそう多くないため、策がきちんと成功するかどうかロイはあまり期待していない――遺跡調査についても仕込んだ全ての策が成功したわけではないし、むしろ失敗したケースの方が圧倒的に多かった。


 だが一番の目的である勇者達との分断には成功した。さらに彩破騎士団――いや、ラシェン自身が城側の人間から人を受け入れることはしないだろう。これだけでも、十分な成果だ


「とはいえ……」


 ロイは天井を見上げ、考える。一つ、とても重要なことがあった。

 調査報告を行った結果、遺跡調査は中止となった。賊まで出現した以上仕方がないが、スランゼルをギルヴェが統制していく上で調査員を戻すということ自体は予定に組み込まれていたので、想定内ではあった。


 しかし、発掘した品々を破壊するなどということは予定の範疇外。賊が壊した以上、ギルヴェが指示を行ったのは間違いないが――


「一体、何が目的だ……?」


 呟いた時――ノックの音。返事をすると、部屋に入室してきたのは、


「ロイ君」

「ギルヴェ様」


 立ち上がろうとした時、彼はそれを手で押し留めた。


「構わない。座っていてくれ」


 そう語ると共に、彼は手近にあった椅子を引いて、執務机を挟んでロイと向かい合う形で着席する。


「今回の事件で、色々と事態が進展した……この辺りで、色々と話しておくべきだと思ってね」

「それは……つまり」

「疑問は尽きないだろう? 今まで話さなかったのは、こちらも状況をまとめるためということだ……許してくれ」

「ギルヴェ様、一つお聞きしたいのですが――」

「無論この事は『あの御方』も了承済みだ。何なら確認してもらっても構わない」


 そこまで言うのならば――ロイは「わかりました」と応じ、言葉を待つ。


「まず、一番の疑問から説明しよう……なぜ、発掘品を破壊したのか」

「はいそこです。そこが一番気になりました」

「そもそも、君はもう一つ疑問に思っていたはずだ。聖賢者が必要な状況になっている遺跡……けれど聖賢者に任せれば彼が遺跡に興味を抱き、調査を阻害する可能性が出てくる」

「そうですね……ヨルク様は、調査の理由を探っていたのだと思いますが」

「然り。彼としてはあれほど魔物が現れていたにもかかわらず、遺跡調査に執心している我々を見て――この遺跡に何かあると考えていたはずだ」


 ギルヴェは語った後、腕を組んだ。


「その中で、発掘品をどうこうするつもりはなかっただろう……調査員から見張られている可能性も危惧し、手を出すこともなかったはずだ」

「……もしや、元々破壊することが目的だったのですか?」

「そうだ」


 断言。それはなぜ――


「ここからが、本題となる……先のウィンギス王国との戦争とも関わりのある部分だ」

「あの戦争が?」

「あの戦争は、裏で手を引いていた人物がいる。とはいえそれは、ロゼルスト王国内に内通者がいたという単純な話ではない――異能者をこの世界に顕現させた存在が、密接に関わっている。そして彼らの指示により、発掘した物を破壊した」

「それは――」

「荒唐無稽に思えるかもしれないが、事実だ。あの戦争については私も多少は加担した……が、メインに関わっていた人物は別にいるようだ」

「その人物とは?」

「わからない。私が関わっている者に訊いても不明だと答えられた。詳しく聞いてみると、式典時点で彼らは二つの派閥に分かれていたらしく、あの戦争へ深く加担していたのはもう一方の派閥らしい」

「二つ?」


 どこの組織にも派閥争いというものは存在するらしい――ロイが認識すると同時に、ギルヴェが解説を進める。


「私が接触した一派は、とある権力者と密接に結びついていた。だがそれはロゼルスト王国の人間ではない。そして彼と私は同盟関係を持っている」

「その人物達にとって、あの戦争の結果はどうだったのですか?」

「予想外ではあったが、あの戦いこそ彼らの目的であったため、計画自体に支障はないらしい」

「その目的とは?」


 ロイが問うのだが、ギルヴェは含んだ笑みを見せた。


「それについては、後々話すことにしよう……実はこの点だけは、口止めされているからな」

「つまり、そういった組織の人間と直接話をしなければ聞けないということですね」

「そういうことだ」

「この話は『あの御方』もご存知だと?」

「まさしく。ただし、君と同様核心部分は話していない。すまないな」


 ギルヴェは笑みを浮かべた後、さらに話を続ける。


「そして同盟関係を結ぶ人物達は現在、とある実験を行うためにネイレスファルトに向かっている」

「もしかすると、彩破騎士団と鉢合わせする可能性がありますね」

「かも、しれないな……ともかく、こちらも着々と準備を進めているということは認識しておいてくれ。それと――」


 そこまで言うと、ギルヴェはロイに眉をひそめる。


「『あの御方』から伝言を預かっている……記憶の件、策に用いても構わない。そして、要求通りこちらは動くと」


 彼の言葉を聞くと、今度はロイの表情が変わった。


「そうですか……ありがとうございます」

「今度はこちらが聞く番なのだが……記憶とは何だ?」


 質問により――ロイは一つ理解する。


 『あの御方』は、ギルヴェに心を完全に許したわけではない――記憶の件について話していないのが、その証拠だ。


「……それについて多少ながらお話させて頂きますと、ロゼルスト王国の『暗部』とでも言うべき部分です」

「暗部?」

「そう、暗部」


 ロイは、柔らかな笑みをギルヴェに向ける。


「実はファーディル家の人間には、とある記憶改変を行っています」

「ほう、記憶を?」

「この事実を憶えているのは、ファーディル家だけでは私一人です……というのも、私だけが『あの御方』と関わっていたが故に、記憶を改変させられなかったと考えるべきでしょうか」

「興味深いな……君以外の人物が記憶を?」

「さらに言えば、ファーディル家と関わりのある者達も該当します」

「ずいぶんと大規模だな……それほどの事実が、ファーディル家には隠されていると?」


 ギルヴェの問い掛けに、ロイは含んだ笑みを見せる。


「それについては今からゆっくりとお話します。正直な所、記憶改変はファーディル家の負の部分とでもいうべきものであり、こういう形で利用しようとは思っていませんでした。しかし今回私の目的を果たすために有効な手立てと考えたので、利用しようと考えました……さて、許可が出た以上私もさらに行動する必要がありますね。彩破騎士団がネイレスファルトに向かう間に、準備をしようと思います――」


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