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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
107/411

仕掛けられた策

 フレイラ達が砦を制圧した後、援軍として騎士達が駆けつけた。彼らに事後処理を任せ、ヨルクの魔法によりフレイラ達は舞い戻る。戻ってきた時には夕刻近く。

 資料の押収もできたため戦果としてはまずまずだったのだが、ヨルクはサフィやユティスと顔を合わせた瞬間謝罪した。


「申し訳ありませんでした」

「全員無事だったのだからよしとしましょう」


 それだけでサフィは何も言わず――作戦会議と相成った。


 一つのテントを間借りしてフレイラ達は話し合いをすることになった。中央には間に合わせの丸テーブルが一つ。それを囲う形で話し合いを行う。

 メンバーは彩破騎士団であるユティスとフレイラ。そしてサフィと、ヨルクの四人だけ。ティアナはフレイラが断りを入れ、オックス達も遠慮をお願いした。


「さて、まずは資料をざっと見てみたんだが」


 そう言いつつ、彼は砦から持参してきた資料を見せ、テーブルに置いた。


「斜め読みの段階では、単なる手紙という感じだ。暗号文になっているんだろう。まあ予想はしていたが……解読するにしても時間が掛かる」

「暗号、ですか」


 ユティスが資料を見ながら呟くと、ヨルクは歎息。


「魔法院の暗号については門外不出だからな……いくつかの手紙を突き合わせ、なおかつ解読法については別の手紙を参考にする必要があったはずだ……焼却された物も少なからずあるだろうし、解明はかなり大変そうだ」

「……一つ、提案が」


 フレイラが言う。するとヨルクが首を傾げた。


「提案?」

「スランゼル魔導学院の事件で、フリード=ウェッチェンとの繋がりを持ちました」

「なるほど、彼に頼むと……彼の派閥の人間はあの事件で亡くなってしまった以上、そういう面でも信用できるな。それにそこまで派閥に食い込んでいた以上、こういう暗号についてもそれなりに知識はあるだろう」

「彼に頼みますか?」

「……もしやるにしても、すぐにはやめておこう。加え、魔法院側はこうなることを想定していないはずがないため、直接的な証拠となる可能性も低そうだし……今は、こういう手紙があったことから魔法院と賊が繋がっていた、という可能性が高いということを認識しておけばいい」


 彼は語りつつ資料を指差す。


「資料については、俺が安全な場所に保管しておく……ほとぼりが冷めた段階で頼むかもしれない。その時は騎士フレイラ。頼む」

「はい」


 頷くフレイラ――気付けば、彩破騎士団は聖賢者と共同で事に対応している。王直属という共通点もあるためか、ひとまずはこちら側についてくれていると考えてもいいかもしれない。


(ここでお二方と繋がりを得たということが、何よりの収穫か)


 フレイラは思う。打算的な考えはあまりよいとは言えないが――


「とはいえ、だ。まだわからないことがある」


 ヨルクが、さらに続ける。


「一番の疑問は、賊が魔法院の命令で動いていたとすれば……なぜ、発掘品を破壊したのか」


 その言葉に、誰もが沈黙した。


「今回発掘品が破壊されたことで、およそ調査に関する成果が喪失した……こうなってしまうと、城側も調査の中止を決断する可能性が極めて高い。元々聖賢者である俺を半ば無理矢理動員して行っていた調査だ。その中賊が襲撃し、なおかつ発掘品を破壊した……謎の部分が多すぎる上、賊を捕らえた現状でも今後似たような事例が生じる危険性がある。正直、擁護しようがない」

「となれば、ここの調査は終了ということですね」


 ユティスが確認するように言うと、ヨルクは深く頷いた。


「不本意だが……とはいえ、調査が全て無為になったというのは衝撃が大きいな――」

「全て、というわけではないわ」


 サフィだった。見れば彼女の手には、板のような物が握られていた。


「偶然イリアさんが持ち出した物……これだけは残った」

「サフィ王女、貸してもらえませんか?」


 ユティスの言葉に彼女はあっさりとそれを渡す。見守っていると、ユティスはそれを両手で持ち、


「イリアによると、これは魔力を込めて発動するそうです……つまり」


 言うや否や、突如板が光り出した。何事かとフレイラが僅かに警戒した矢先、ユティスは右手で表面を触り始めた。


「やっぱり動力は電気じゃないな……とはいえ画面は液晶っぽい上、見た目通りタッチパネル式か……」


 ブツブツとフレイラに理解できない言葉が重ねられる。何事かと思い事の推移を見守っていると、ユティスは我に返った。

 そして三人に注目されていることを認識した彼は、口を開く。


「あ、えっと……転生する前に似たような物を目にしたことがあるんです」

「それと同じなのかい?」

「動力とかは違いますけど……さすがに爆発したりとかはないと思いますよ」


 言いつつ、彼は手に持っている物に目を移し、


「これはおそらく情報を記録する端末だと思います……その、使い方はなんとなくわかりますが、文字が読めないので……」

「わかった。解読できる人物は用意する必要があるな。こちらもフリード殿がいいか?」

「……こういうことについては、専門外だったはずです。フリードとしても、学院の誰かに頼る必要が出てくるでしょう」

「そうか。となれば、学院側の手に渡り破壊される可能性も否定できない……」

「ハルンさんは?」


 フレイラが問うと、ヨルクは肩をすくめた。


「ハルンに託してもいいが、どちらにせよスランゼルの中に持ち込む必要がある……正直、リスクが高いな。調べたいのはわかるが、今はこちらで保管しておこう」

「わかりました……それはヨルクさんが?」

「いや、彩破騎士団の方がいいんじゃないか? 俺だって城の中に自室があるからな。魔法院が干渉してこないとも限らない」

「なら、決まりね」


 サフィは言うと、ユティスに目を移した。


「ユティス君、あなたに任せるわ」

「わかりました」


 頷いたユティスは板をしっかりと握りしめた。

 その光景を見た後、フレイラはヨルクにさらに質問する。


「これから、どうするのですか?」


 すると、彼は一度はあとため息をついた。


「外に出る口実がなくなったから、城に引きこもって仕事だな……」

「嫌そうね」


 サフィが言う。それが少しばかり棘のある言い方だったので、ヨルクは少し慌てて弁明する。


「仕事自体は真面目にするぞ?」

「そう……ならいいわ。それで、お二方は?」


 問い掛けがフレイラ達にもたらされる。それに応じたのは、ユティス。


「ひとまず、城の中で味方をつくることでしょうね……ラシェン公爵が行っているとは思いますが」

「あの方ならばそう心配しなくてもいいと思うけれど」

「――あの」


 そこで、フレイラは声を上げた。ラシェンの名が出て、ふいに質問したい衝動に駆られた。

 だが次の瞬間サフィ王女とラシェンが親族同士であるのを思い出す――だから視線を向けられて口が止まった。しかし、


「ラシェン公爵についてどう思うか、だな?」


 ヨルクが質問した。するとサフィは一転苦笑する――態度からすると、何かしら思う所はあるらしい。


「正直、あの人も何かしら裏でやっているとは思う……あの人の情報網や諜報能力は俺のそれを超えているため、怪しんだとしても調査しようがない。ただ」


 と、ヨルクはフレイラとユティスを一瞥。


「君達の味方であるのは、おそらく間違いないと思う。ここまで彩破騎士団に肩入れをする以上、後には退けなくなっているのは事実だからな……」

「そう、ですか」


 とはいえ、今後も警戒は必要か――フレイラが胸中で呟いた時、ヨルクがさらに続ける。


「話を戻すが、今後二人は味方を増やすということで一致しているのか?」

「僕はそう考えていますが」

「私も同感です」

「そうか……今回の件でこっちから色々と口添えしてもいいが……しかし、ここから魔法院の介入がさらに激しくなるだろうな」

「魔法院というよりは、ギルヴェ殿がでしょうけど」


 フレイラの言葉にヨルクは「確かに」と同意。そして、


「君達の味方をする人達だが……リーグネストの件から共に戦っている勇者オックスと勇者シャナエルなどが典型だな。そうした面々を囲いつつ、戦力を強化していく。城から重用するのもアリだろうが、ギルヴェ殿が権力的に根を張っている場所に手を突っ込むとなると……」

「あまりやりたくはないですね。自らが間者を招きよせてしまいそうで」


 そう述べたフレイラは、ヨルクを見据える。その視線により、彼はフレイラが何を言いたいのかはっきり理解できているようだった。


「その中で、ティアナは――」

「彼女もまた色々とあるのは理解できると思う……こちらとしても今はどうこう言えない。もし大丈夫だという保証があれば、非常に頼りに存在だとは思うが」


(ここについては、ラシェン公爵にお願いして調べるしかないか……)


 フレイラは胸中でそう断じつつ、さらに会話を行おうとした。

 その時、外から砂利を踏む靴音。テントの中にいた全員がいったん口を止めると、足音はテントの前で止まった。


「ロランです。一つご報告が」

「入って」


 サフィの言葉によりロランが中へ。


「話し合いの中、申し訳ありません……実はラシェン公爵から雇われた人物の中にいる一人から、質問が来まして」

「質問?」


 聞き返したのはヨルク。そこからロランは彼に目を合わせ、


「その、城から用意された契約書には引き続き何かしら仕事をする旨が書かれていたはずだが、それはどうなるのかと」

「引き続き仕事? 契約にそれが入っていたのか? 正直、その辺りについては俺もよくわかっていないんだが。確か今回の調査は城側からの依頼という形で処理され――」


 ふいに、言葉を止めた。ヨルクの顔が、固まる。


「……ヨルクさん?」


 疑問に思ったユティスが問い掛けた時、彼は絞り出すような声で、呟いた。


「そうか……そういうことか……」

「ヨルクさん? 何が――」

「騎士ロラン。確認だが仕事が引き続き行うと語っていたんだな?」

「はい」

「ならば、内容は一度都に戻ってからだと伝えてくれ」

「承知しました」


 ロランは一礼し去っていく。それを見送った後、ヨルクは全員に告げた。


「おそらく……契約書作成は魔法院とは関わりの無い者が行っていたはずだが、それを抱き込まれ――」

「契約書に、罠が仕込まれていたと」


 フレイラが言う。先ほどロランが言った口上から考えるに、相手は契約した人物達に引き続き仕事をさせ、彩破騎士団と分断する気でいるのではないか――


「勇者オックス達が強弁しても、契約自体は行っている上、詭弁も向こうの方が立つ。おそらく色々と理由をつけて拘束するのが関の山だろう」

「私達から、戦力を剥ぐのが目的だったと……?」


 なぜこれほどまでに手の込んだ真似を――フレイラが思っている間に、ヨルクは厳しい顔をした。


「こうして仕掛けが発動したため、彼らの目的がこれだったと認識しがちだが……実際は、いくつも仕込みはしていたんだろう。発掘品を破壊したことなどを踏まえると、目的は一つではなかったはずだ……ともかく、この策により君達と共に戦える人がいなくなった可能性が高い」

「契約が、どのようなものなのかを確認しないと」


 サフィが口元に手を当てる。まさか――という顔が浮かんでいた。


「とはいえ、彩破騎士団側に戦力を戻すような形にはなっていないでしょう……これは、考える必要がありそうね」

「……みたいですね」


 ユティスが俯く。フレイラもどこか暗澹とした気持ちとなったが――悔やんでも仕方がない。


「彩破騎士団が確実に仲間を増やすことができるとしたら……もう、一つしかないでしょうね」


 フレイラが言う。ヨルクもまたそれを理解できているようで、


「ネイレスファルトか……初夏に始まる大会に際し、また異能者に関する様々なルールが設けられたことにより、例年にも増して華やかかつ活況となるだろうな……とはいえ、あの場にも魔法院の影響はある」

「わかっています。ルエム学院長もネイレスファルトから異能者に関する情報を得たと言っていましたから、繋がりはあるでしょう」

「それでも、行くと」

「というより、それしか方法がないでしょうし」


 城側で着々と地位を築いてはいる。さらに信用も得ている上、ヨルクやサフィという彩破騎士団側に立つ存在も現れた。しかし、戦力的には問題が生じた。


「……魔法院は現在、城内に異能者対策の組織を編成しているはずだ」


 やがて、ヨルクが語り出す。


「それを編成し、やがて彼は言うはずだ……各々がそれぞれ活動してきたが、どちらかにまとめるべきではないか、と。そして異能者に対しても自身の権力が届くようにする」

「陛下は反発するでしょうけれど」


 サフィが言う。しかし、顔は厳しいものだった。


「ともあれ、彩破騎士団の団員が増えないとなると……」

「やれるだけ、やるしかないと思います」


 ユティスが言う――フレイラはその言葉に同調し、暗い気持ちを頭の中で振り払って、戦い続けることを決意した。


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