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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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賊の抵抗

 待ち始めて十五分後。とうとう頭目の姿をフレイラ達は捉える。

 恐るべき速さで入口に到達すると、彼は門番に声を掛ける。フードを被っているため表情は確認できないが、その動きから間違いないだろう。


 そこで、ヨルクが始まりの声を上げた。


「行くぞ……包め――光の精霊!」


 声と同時に魔力が解放。それが一気に砦周辺に拡散され――ドーム状に結界が構築される。

 途端、入口周辺にいた頭目が周囲を見回す。


「行け!」


 ヨルクが号令を掛け――フレイラ達は一斉に走り出す。同時、頭目がフレイラ達に気付き、慌てて砦の中に入ろうとする。


「――光よ!」


 そこへ、宮廷魔術師の魔法が放たれた。光の雨であり、賊達に降り注ぐとたちまち見張りの人物は倒れ伏した。

 だが、頭目は防御に成功。そしてフードの下で顔をフレイラ達へ向け――逃げた。


「フレイラ様!」

「わかってる!」


 ティアナの言葉を受け、フレイラは足に力を込める。


 直後『強化式』の魔法が発動し――他の面々を差し置いて一気に砦に乗り込んだ。頭目が門を抜け中へ入ろうとする様を捉え、フレイラは即座に追う。

 周囲にいた見張り達が頭目を見て慌てて扉を開ける。即座にフレイラを見て閉めようとしたが、それよりも先にフレイラは内部に入り込むことに成功し、後を追う。


(後方は、ティアナ達がいれば――)


 聖騎士候補だったというティアナなどを考えれば、後顧の憂いはない。そう思いつつフレイラは『強化式』を用いて逃げる頭目を追う。速度はかなりのものだが、離されるレベルではない。


 『強化式』は瞬発的にかなりの力を発揮できるが、負担も相当掛かる。長時間維持するとなるとかなり体力を相当消耗する。逃げ切られてはまずいが、かといってフレイラ自身戦えなくなるのもまずい――ただ今回は、決して不利な勝負ではない。


 頭目はここに辿り着くまでに相当魔法を使っていた。先に力が尽きるとすれば相手――そう結論付けつつ、右に曲がる頭目を捉える。


「くっ!」


 条件反射で同じように曲がる。そこで相手の首が一瞬だけフレイラに向けられているのを目に留める。

 その僅かな所作によりフレイラと頭目の差は僅かに縮まった。途端、相手は首を戻す。フレイラは背中を見据えながらなおも追い、少しずつではあるがなおも近づいていく。


 相手の足を『目』で確認すると、相当酷使しているのがわかった。おそらく砦に到達した段階で限界近かったはず。


(これなら――)


 届きそうで届かない距離にもどかしさを覚えつつも、フレイラはじっと我慢し追い続ける。周囲から賊が出現したりもしているが、フレイラ達の速度にはまったく対応できず、邪魔することもできない状況。

 この均衡はそう長くはない――フレイラが思った直後、行き止まりに遭遇した。


 そこは食堂のような広い空間。ここに誘い込んだのかと最初思ったが、その場には誰もいない。罠の類も見当たらない。

 なおかつここは食糧庫として使われているのか、チーズや酒の臭いが充満している。


「……鬼ごっこは終わり?」


 問いながら剣を構える。後ろに注意しつつ、背を見せる頭目を注視する。


 フレイラはまだ余力がある――なおかつ、ティアナ達が内部にいる賊を倒しているだろう。少数精鋭ではあるがその腕は確か。魔具を所持しているとはいえ、ロクに迎撃態勢に入っていない面々である以上、制圧にそれほど時間は掛からないはず。


「結界によりあなた達は隔離された。最早逃げ場もない……おとなしく降参すれば、痛い目見ずに済むけれど?」


 頭目が反応し、振り返り剣を構えた。紐によってフードが取れることもなくその表情を隠しており――剣の切っ先を向ける姿が、答えといってよさそうだった。

 よくよく観察すれば、ずいぶんと呼吸が乱れている。満身創痍なのは間違いなく、もし交戦したとしても、勝負は一瞬で決まるだろうとフレイラは胸中で感じた。


 しばしの(にら)みあい。それと共に砦のどこからか交戦する音が聞こえる――中には喚き声も聞こえ、ティアナ達が優勢であるのは間違いなく――


 頭目が、走った。『強化式』の魔法を利用し、突撃を敢行する。


 一方のフレイラは――後方に足を移す。待ち構えていては速度に応じることができない。だからこそ相手と同じように身体強化を行い、対応する。

 それは功を奏し、相手が真っ直ぐ向かってくる様をはっきりと捉えることに成功した。いける――内心でフレイラは確信し、振り向けられた斬撃をまずは弾いた。


 フードの奥で僅かに見える口元が忌々しく歪むのを、フレイラは捉える。演技ではないだろうと断じたフレイラは一転して踏み込んだ。相手は剣戟を弾かれたことにより、一瞬だが動きを止め――それが、戦いの優劣を決めた。


 フレイラが放った斬撃は、相手の体をしかと捉える。魔力を加え刃は鈍らせてはいるが、代わりに全身の筋肉を一時的に麻痺させるような効果を付加した一撃。結果、頭目は呻いた。

 決まる――フレイラが断じた瞬間相手の体は崩れ落ち、さらに後方から爆音が轟いた。


 フレイラは完全に沈黙したのを見た後、息をつく。ここにきて、足に疲労が生まれていた。


「もっと……この力も使いこなせるようにならないと」


 固く決心した時、背後から靴音。振り返ると、様子を見に来たらしいティアナがいた。


「……よく、ここがわかったね」

「戦っている気配を感じ取り……倒したようですね」

「ええ……最後はあっけなかったけどね」


 言ってフレイラは頭目を見る。倒れた拍子にフードの下が露わとなっている。

 正直、フレイラ自身勝てるのか不安になったのだが――こうして『強化式』同士の戦いで勝利できたことは、多少ながら今回の戦いに貢献できたということで――


「……え?」


 途端、ティアナが呻いた。どうしたのかとフレイラが目を向けた時、彼女は賊を凝視し立ち尽くしていた。


「……違う」


 呻くような声。フレイラは眉をひそめ、


「違う?」

「襲撃した人物と……違う……!」


 まさか――フレイラは彼女の言葉に驚き、頭目と思しき人物を見る。だが、フレイラは襲撃の相手を直接見たわけではなかったため、判断できない。

 ティアナの言葉が本当であれば、頭目は別にいて、その目的は――


「すぐに……すぐに、ヨルク様に報告を」

「私が行く。ティアナは砦の制圧を」


 フレイラは彼女に言うと、即座に移動を開始する――


(敵は……!)


 走りながら遺跡にいるユティスのことを思う。もし倒した賊が身代わりだとしたら、その狙いは間違いなく、遺跡にいる面々。

 どう考えても間に合わない。だからこそフレイラは祈るような気持ちの中、ヨルクへ報告すべく砦の中を進み続けた。



 * * *



 襲い掛かってくる賊が頭目であるのを確信した直後、ユティスは半ば反射的に腰に差した剣を抜いた。

 この場にいるのはユティス、サフィ、エドル、そしてイリアの四名だけ。騎士ロランを含めた味方とは一定の距離がある、多少ながら離れていたことは、不運――いや、賊が待っていたのだろう。


「全員――!!」


 ユティスは叫びながら前に出た。押し留められるなどとは考えられなかったが、それでもこの場で前に出られるのは自分だけだと判断した。

 剣術の心得がないエドルでは対応できないし、イリアも魔法は使えるにしろ武具などを扱う技術は皆無。残るはサフィだが、王女を前に立たせるわけにはいかない。


 そして、それを予想していたのか相手は笑みを浮かべ――ユティスは相手の狙いが自分自身であると理解する。


(それでも――)


 ユティスは心の中で呟きながら相手が放たれた斬撃を、捉えた。それは極限まで追い込まれた集中の果てに生じた、ユティスの限界だったかもしれない。


 そして剣戟を弾けたのは、奇跡としか言いようがなかった。


 腕が痺れる。二撃目が来ると容易に想像できてはいたが、ユティスはすぐに体勢を立て直すことができなかった。

 斬撃が、来る――圧倒的な速さで。それをどうにか知覚できたユティスだったが、体はいう事を聞かなかった。まずい――そう悟った度と同時に、斬撃が来る。


 しかしそれを、阻む剣が一つ。この場で他に剣を振ることができるのはユティス以外に一人しかいない。サフィだ。

 その剣戟によってユティスは後退。虎口を脱することに成功。相手の剣が鈍ったことにより僅かな時間余裕ができ、攻撃を回避することができた。

 そして、続けざまにユティスの正面に光が生まれる。魔力の多寡からイリアのものだと認識したのと同時に、魔法が放たれた。


 まばゆい光が一瞬だけ周囲を包み――より正確に言えば、前方を余すところなく、相手が逃げる余地すらないような絨毯爆撃を行った。光は一瞬にして消え、次に見えたのは魔法をまともに受け、体のあちこちから出血する賊だった。


 その顔は苦悶に満ち、剣を振る。刃先から魔法が生じ、それはパキパキと乾いた音を立てると同時に、地面に叩きつけられた。

 最後の抵抗――そんな風にユティスは思った。ユティスはここで次に相手がどう動くのかを察し、もてる力を振り絞り『創生』の異能を起動する。


 それが形を成す前に、叩きつけられた地面からいくつもの氷柱が伸びる。そして真正面に氷柱が波のように押し寄せてくる――


 そこに、今度はエドルが立ちはだかった。両腕で防御をしながらも、氷柱と真正面から相対する。

 刹那、彼の身に氷柱が直撃する――しかし、触れた先から氷は光の粒子となった。彼の異能により、全てが強制的に消滅する。


 その間にまたもイリアの攻撃。今までの躊躇いがちだった彼女が吹っ切れたかのように、持てる力を引き出し逃げられないような大量の光の矢を生み出す。

 加え、この時点でユティスは異能を収束させる。生み出したのは、矢が既につがえられている弓だった。


 即座に構え、矢にあらん限りの魔力を込め、放つ。それと同時に彼はイリアが放った光を見て後方に下がった。目的を達することはできなかったが――そういう表情が見え隠れする中で、彼の姿が――消えた。


 だが、それはユティス自身予期していたことだった。

 次の瞬間、ズバンという弾けた音が聞こえた。それと共に賊が出現し、倒れ伏す姿を捉えた。


「……式典で放ったような、必中の矢か」


 サフィが告げる。ユティスは頷くと共に――体を、傾けさせる。


「おっと」


 だがそれを、駆けつけた騎士ロランが支えた。


「大丈夫か?」

「……はい」

「すまない、対応が遅れた……いや、この場合は俺達が対応できない状況下で相手が仕掛けたとでも言うべきか……ともかく、すまなかった」

「いえ、私達が油断していたのだから、騎士ロランのせいではないわ」


 サフィが剣を収めつつ優しく言う。するとロランは渋い顔をして、


「……できれば、サフィ王女には自重して頂きたいのですが。心臓が止まりそうでした」

「それは私のセリフ。ユティス君」

「……その、あの場で防げたのは僕だけだと思い――」

「わかっている。ありがとう、ユティス君」


 礼を述べたサフィだったが、それでも顔はどこか険しい。


「けれど、異能者との戦いを続けていく上ではあなたという存在は必要不可欠になってくる……それはエドル、あなたにも言える事」

「はい」

「……とはいえ、今回は私達の油断が招いた結果。全員反省しましょう」


 そう語ったサフィは、最後にイリアへ顔を向ける。


「あの魔法――」

「その、必死で……」

「私達を守るために、といったところかしら?」


 サフィの全てを見透かすような笑みに対し、イリアはコクコクと頷く。

 だが、ユティスとしては彼女が首肯しながらずいぶんと自分に視線をやるのが気になった。


「で、ユティス君は大丈夫か?」


 ロランが問う。それにユティスは苦笑し、


「どうにか……最後の最後で魔力を振り絞った反動です。そうひどくはないので少し休んだら治ります」


 ユティスは言いつつも、苦笑した。


「けど……戦いが終わったら毎度の如く倒れるのはやめた方がいいですけど」

「そうだな」


 ロランもまた苦笑し――ようやく、戦いは終わりを迎えることができそうだった。


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