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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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異能者の決意

 フレイラ達が去って以後魔物が出現し、ユティスはエドルから魔力消失の力を受け、魔物を退治した。出現したのは第一領域レベルであり、遺跡からもある程度距離があったため、遺跡とは関係の無い魔物だろうと結論付けた。


 賊の襲撃以後ヨルクの魔法はきちんと稼働しているらしく、さしたる問題も出なかった。さらに他に賊が襲来することもなく――ひとまず、後はフレイラ達の帰りを待つような段階。


(今回は体の調子も比較的よかったし……)


 道中ちょっとばかり体調を崩したこともあったが、おおむね今回は問題がなかった。しかし反面、ユティス自身あまり活躍できなかったな――などと思い、


「別に活躍する必要もないか……本来なら、何もないことが一番だろうし」


 そんなことを呟きつつ、遺跡周辺を歩く――見れば、調査員はほぼ全員意気消沈としていた。原因は、発掘品がそれこそ破壊し尽くされてしまったからだろう。


「この襲撃が魔法院の仕業だとしたら……一体、何が目的なんだ?」


 ユティスはさらに呟きつつ、思考する。発掘品の破壊――その行動が不可解極まりない。

 聖賢者すら動かして続行させていた調査なのに、それを最後の最後で調査とは叩き壊した。なぜ、こんな真似をしたのか――


「ユティス君」


 サフィの声。横に目を向けると彼女が笑みを浮かべながら近づく様があった。さらに、その横にはイリアがいる。


「少し、話をしても良いかしら?」

「はい、大丈夫です」

「賊の行動についてなのだけれど……」

「王女も……疑問に思いましたか」

「当然」


 サフィは頷くと、遺跡入口に目を向けながら口を開いた。


「なぜ、発掘品を破壊したのか……私は賊の襲撃が彩破騎士団をどうにかする魔法院の仕業だと思っているのだけれど、そこが引っ掛かって」

「実は今回の事件は魔法院とは関係の無い組織という可能性もありますけど……そもそもロイ兄さんが調査を提案した以上、何かしら関わっているとは思います」

「そうよね……捕捉すると、先ほどの賊はあなたに狙いを定めたでしょう? 一番奥にいる、さらに騎士でもなく魔術師という格好をしたあなたに狙いを定めたということは、おそらく人相については知っていたと思うの。となればやはりロゼルスト王国内の誰かと繋がりはあると思うのだけれど……」

「……サフィ王女。それも気になりますが、もう一つ疑問が」

「何かしら?」

「発掘品が破壊され……以後の調査はどうなりますか?」

「そうね、そのまま継続……とは、いかないと思う」


 サフィの顔は憮然としたもの。


「元々、重臣の間では聖賢者を動員する段階である以上封鎖をすべきだという意見が大半だった。けれど魔法院が押し通し……そして発掘品が破壊された。今後より貴重なものが出るという可能性も無くは無いけれど……異能者のこともあるし、ひとまず調査は一時中断するという方向になると思う」

「そう、ですか……」


 となれば、魔法院側は今回の顛末でいい所が一つもないことになる。


「一体、彼らは――」

「わからない……けれど、賊にああして行動させた以上、何かしら目的があるのだとは思うわ」

「発掘品を破壊することが?」

「ええ……無理矢理考えると、発掘品を破壊するために調査を行ったのかもしれない」


 不可解極まりない内容だった。だが、そのくらい突飛な想像をしなければ説明がつかないのも事実で――


「……異能者と、関わりがあるのでしょうか」

「え?」


 サフィが首を傾げ聞き返す。それにユティスは難しい顔をして答える。


「その、あくまで可能性の話ですが……異能者と関わりがあるため、何か証拠隠滅をしたとか」

「ふむ……その可能性はゼロではないと思う。ただ、そうなると何を隠そうとしていたのかが気になるわね」

「それについては……相手の目論見が成功してしまったので、確かめようがありませんよね」

「そこよ」


 と、サフィが声を上げる。それに眉をひそめたユティスは、声を上げた。


「何かあるのですか?」

「イリアさんのお手柄ね……実は、あなた達がテントから発掘品を持ち出したでしょう?」

「え、あ、はい。そうですね」

「イリアさんはそれを寸前で守り、今もまだそれだけは現存している」

「え、本当ですか?」

「もちろん、それが何か情報になるかどうかはわからないけど……イリアさんの話によると、何か反応があったそうね?」

「はい……それについてイリアに聞こうかと思っていた時、崩落が起きたので」

「そう。というわけでイリアさん。何か知っている?」

「……その、魔力を加えたんです」


 魔力――そうか、とユティスは思う。

 見た目タブレット端末のそれはスイッチなどなかった。けれど、魔力を加えて動くのだとすれば、一応説明できる。


「なるほど……それで、今それはどこに?」

「私が責任を持って隠しているわ。爆破を行った犯人は捕まったけれど、魔法院所属の調査員に渡せばまた壊される可能性がある……ユティス君の言う通り異能者と関連がある可能性もあるから、こちらで少し調べて、何もないとわかれば彼らに返すことに――」

「サフィ王女」


 エドルの声だった。目を向けると彼は一人でユティス達の近くへと来た。


「周囲の確認が終わりました。現在の所、周辺に魔物はいません」

「わかったわ。これでもう、脅威は去ったと言えるはず」

「はい……それで」


 エドルはユティスへ目を向ける。


「彼と少し、話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「構わないわ……私達は――」

「いえ、ここにいてください」


 言って、エドルはユティスと向かい合う。


「……発掘品については、正直残念としか言いようがないです。調査員の人達の意気消沈ぶりは、こっちも悲しくなります」

「そうだね……けど、一つだけ残った物もある」

「え、本当ですか?」

「ああ……けど、調査員の人にまだ破壊しようとする人が残っているかもしれないから、こっちで少し調べようとサフィ王女とも相談して……どうした?」


 暗い表情を見せるエドルにユティスが言及。すると彼はユティスと目を合わせ、


「……こうしたわけのわからない状況が、政争というものなのでしょうか?」

「断言はできないけれど……それでも、関係しているとは思う」

「こんな、発掘品を破壊する行為が?」

「策略は、必ず行った人間へ最終的に利益をもたらすことになる……僕らからすれば理解できない行動でも、首謀者にとってみれば理屈に適った行動なのかもしれない。それを解明する必要もあるだろうな」

「そう、ですか」


 肩を落とすエドル。理不尽――そう彼は語りたいに違いなかった。


「……今回の件を通し、一つ思い至ったことがあります」

「思い至った?」

「はい。俺自身兄を探すという目的もありますが……それ以外にも、異能者という存在について知りたいという気持ちはあります」


 その目は真剣で、ユティスを見据えなおも語る。


「だから……俺としては皆さんに、協力したい。それが、異能者という存在がどのようなものかを解明するのであれば」

「……ありがとう」


 ユティスは心の底から礼を述べる。するとエドルは小さく笑みを浮かべ、


「もっとも、俺自身どうするかは考えさせてください……兄を探すのに国の力は大いに助けとなるでしょうけれど……」

「わかったわ。彩破騎士団加入か、それとも城にしばらく滞在するか……どちらにせよ、判断はまだしない方がいい」


 サフィの発言。これにはユティスも同意する。


「サフィ王女。正直、彩破騎士団加入となれば色々な人が騒ぐ可能性があります……当分は食客として、城に滞在するという形が望ましいのではないでしょうか」

「そうね……エドル、あなたについては王家が責任を持って見守らせてもらうわ」


 その言葉に、エドルは緊張した表情を見せる。王家が自分を――そういう声が、聞こえてきそうだった。


「……わかりました」

「けど、これだけは言わせて」


 サフィはなおもエドルへ語る。


「異能者について知るということは……間違いなく、その身を戦いの道へと歩ませることになる……自分の命すら危うくなる可能性がある以上、覚悟は、しなければならないと思うわ」

「……はい」


 重い声で応じるエドル。そこで、ユティスは一つ捕捉を行う。


「国の庇護を受けるのであれば、無謀なことをしない限りはそう危険なこともない……と、思いたいけれどね。その身に傷を負う可能性は高い……その辺りも、きちんと認識しておいた方がいいと思う」

「わかりました……ユティスさん、そうした覚悟を?」

「もちろんだよ……実際、怪我もしていたりする。相手は魔物だけど」


 式典が行われる前、三度の魔物討伐の経験があった。その中で最初の時負傷した――その傷は今も残っている。左腰から背中へと斜めに走る大きな筋が、その怪我だ。


「とにかく、エドルさんの異能は弱点がはっきりしている……だからこそ、注意した方がいいと思う」

「わかりました」

「それじゃあエドルの進退も決まったことだし……ひとまず、休憩にしましょうか」


 サフィの提案に誰もが頷き――そして、ユティスもまた歩き出そうとした。

 だが――イリアがあらぬ方向を見つめ立ち尽くしているのを見て、呼び掛ける。


「イリア……どうした?」


 すると彼女は我に返り、


「あ、すいません」

「どうした? 何か気になる事が?」

「いえ、その……」


 イリアが視線をユティスの背後に向けながら、告げる。


「その、変な魔力があるなって思って……」

「変な魔力?」

「はい……なんていうか、その――」


 ユティスが目を送る。次の瞬間、


 退却したはずだった――頭目らしき賊が、猛然と駆けてくる様を目に映した。


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