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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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賊の本拠

 フレイラはヨルクと共に賊の追討メンバーとなり、準備を済ませ遺跡から少し離れた集合場所へ。他の面々も集まっていた。


「近隣の騎士団から情報も取得した……人相から言って、シミターを持っていた人間が頭目で間違いないようだ」


 ヨルクが解説する間に、フレイラは周囲を見回す。オックスやシャナエルの他、宮廷魔術師二人とロランにより選ばれた騎士一人。そしてティアナ――合計八人が、今回追討のために選ばれた。


「今は拠点へ逃亡している最中だろう。証拠隠滅される前に決着をつけたいところだ」

「そうですね……」


 フレイラが返答した直後、視界にティアナの姿を目に留めた。


 腰に剣を差し鎧姿の彼女を見据え――単純に、板についていると思った。

 他の騎士とさほど変わらない白銀の装備だが、ずいぶんと様になっている。普段の旅装とは大きく異なる姿だというのに、フレイラとしても違和感がない。


「さて、それじゃあ準備はできたようだし……行くぞ」


 ヨルクが言う。フレイラ達が首肯した時――彼は詠唱を始めた。

 流れるような声。聞き惚れてしまうようなものだったが、詠唱によって濃い魔力がフレイラを取り巻き始め、否応なく緊張感が生まれる。


「凪げ――青の精霊」


 そして言葉が発せられ、フレイラの体が僅かながら宙に浮いた。見れば、他の面々も同じように足が地面から離れていた。

 十人未満とはいえ、一人の魔術師がこうした移動魔法を使用するのはかなり難易度が高い。それは他の面々にも同じように魔力を放出し続ける必要があるためなのだが、ヨルクの場合はそれをものともしない。


 さすが聖賢者――そうフレイラが思った直後、移動を開始。宙に浮いたまま突き進むこの状況は、フレイラとしてはかなり奇妙に感じた。


「ふむ、この人数だとあまり早くはない……が」


 ヨルクが言う。フレイラが体感する速度は馬車のそれをずっと上回っているのだが、それでも遅いらしい。


「とはいえ、賊の拠点はそう遠くない。そうかからないだろう……移動する間に、賊について説明しよう」


 全員に背中を向け、進行方向を見据えながらヨルクが言う。他の面々は、その後姿に注目する。


「かの者は近隣で厄介な賊だと認識されていたようだ。魔具をどこからか調達しているようで、もしかすると貴族なんかと繋がりがあるかもしれないが……ま、その辺りのことはひとまず置いておこう。次に本拠だ。敵は山岳地帯に存在している砦を拠点としている。魔物が大量発生した時、国が建造した拠点の一つだ」


 そこまで言うとヨルクは、やや距離のある山を指差した。それと同時に、フレイラ達はさらに足が地面から離れ、地面が遠くなる。


「そこにいるのがわかっていながらこれまで討伐できなかったのは、魔具などにより近隣の騎士を圧倒する力を保有していたため……本来なら地方騎士団の手におえない段階で国が対応するべきだが、結局そうはならず奴らは生き延びている。ま、色々と想像の余地はあるが今はまだ何も言わないでおこう」


 ヨルクは首だけ振り返る。その顔には、笑み。


「で、襲撃を仕掛けた賊以外にも砦に人がいるはずだが、賊の首領まで来た以上精鋭であったのは間違いない……人数は多いかもしれないが、この場にいる面々ならば烏合の衆だろう。油断しなければ大丈夫だ」


 そこまで語ると、彼は視線を目的地付近へと投げた。


「砦近くに到達したら、まず二手に分かれる。この場で全て解決するには退路を断って賊全てを倒すことが必要だ。その役割は……私がやる」

「ヨルク様が?」


 問い掛けたのはティアナ。ヨルクはそれに深く頷き、


「内外を遮断するような結界を張ることができる……脱出路が地下にあるはずだが、それごと囲ってしまえば対処は容易い」


 簡単に言っているが、砦ともなればそれなりの規模であるのは疑いようもなく――彼の能力の深さが窺える。


「で、そこから賊の討伐に入るわけだが……ここで目的をはっきりさせておこう。近隣の騎士団に応援を呼び掛けており、遅れて到着するだろう。だが彼らでは魔具を持つ頭目などには対応できない。そこでこの場にいる面々で、頭目を含めた魔具の所持者を倒すことにする。具体的な作戦を立てたいところだが、戦闘状況によって変わってしまうだろうなが……ティアナ」

「はい」

「俺は結界を張るため砦の外で色々と対応しなければならない。突入したメンバーの指揮を、やってもらえないか?」

「それは……」


 やや躊躇いがちにティアナは語る。


「あくまで私は剣の技量を磨いていただけなので……もちろん初歩的な作戦などの立案はできますが……」

「そう難しく考える必要はないと思うんだが」


 苦笑するヨルク。だがそれをティアナは否定する。


「いえ、場を混乱させるのはまずいでしょうから、ここは辞退させて頂きます」

「そう言われたら、俺も引き下がるしかないな……では、君」


 ヨルクは次に騎士の一人を示す。


「そちらに任せよう」

「はい」


 騎士は即座に承諾――フレイラはそこでティアナに視線を送る。辞退した理由は本当にそうなのか。それとも、まだ何かを隠しているのか。


「見えたな」


 ヨルクが言う。視線を転じると、山岳の一角に人工物が。


「準備時間を踏まえ、さらに奴の『強化式』の魔法……瞬発力はあるが、ああした能力を連用する場合相当な魔力を消費するため、休み休み移動しているだろう……先回りできるはずだ」


 ヨルクは断じると、全員に策を伝える。


「俺達は先回りして隠れ、頭目が帰って来たタイミングで攻撃開始しよう。先に攻撃を行い逃げられるのもまずいからな。で、奇襲に近い形で行えば相手も浮足立つだろう。そうなったら、頭目はどう行動するのか――」

「部下に任せ、自分は砦にこもり色々と証拠を隠滅する……といった感じだな」


 オックスの言葉。それは正解だったようで、ヨルクは頷いた。


「敵にはどういう形であれ、魔具を提供する人物がいるはずだ。もしその情報を流出させてしまったら、彼らも命がないだろう。だから、襲撃されたら頭目は証拠を消すことを優先するはずだ」

「それこそ、私達が情報を得られる最大の機会……」


 フレイラが告げると、ヨルクは「そうだ」と返事をする。


「彼を逃せば、証拠隠滅の可能性が高まる……騎士フレイラ。今回の戦いは君の存在が重要となってくるだろう」

「相手の『強化式』に対応できる人間が、私ということですね」

「そうだ。ティアナも奴の攻撃に反応はできるが、あの速度を維持して追うというのは難しい。俺が結界を構成し退路を断つ役目である以上、君の能力が相手を追う鍵となる」


 だからこそ、フレイラを同行させた――ヨルクはそう言いたいに違いなかった。


「追うのはそう難しくないだろう。ただし、確保が無理そうならすぐに退避すること」

「わかりました」


 頷くフレイラ。確保が無理そうならば――その言葉の意味を、フレイラは頭の中に刻み込む。

 シャナエルが苦戦するような相手だ。三国の勇者と比較すればフレイラ自身能力が劣っているのは自分でもよくわかっている。


 以前のフレイラならば、きっと自分でも戦えるなどと語っていたかもしれない――しかし先の戦争から始まる一連の事件は、フレイラも色々と考えさせられた。自分ではどうにもならない相手ならば、退くしかないか――思考が消極的になっているのは事実。


 こういう考えは、あまり良い傾向ではないのかもしれない。


(とはいえ……)


 フレイラは自分のやれることを果たそうと思い――その時、とうとう砦近くに到達した。

 入り口からは見えない場所で魔法を解除し、地面に降り立つ。門付近には見張りをする賊が立っており、頭目の帰りを待っている。


「帰って来たと同時に結界を構築する。それまでは、各々準備していてくれ」


 ヨルクは言いつつ片膝立ちとなり地面に手を当てる。準備を開始した

 そこでフレイラはふとティアナに視線を送る。対する彼女はきょとんとした瞳で小首を傾げた。


「どうしましたか?」

「……一つ、いい?」

「どうぞ」


 どこまでにこやかに応じるティアナ。そこで――フレイラは口をつぐんだ。

 訊きたいことはいくらでもあったが、答えが返ってくる可能性は低い。


 出立する前にユティスが言っていた。ティアナもまた、政争に飲み込まれた存在なのだと。


(それはわかっている……問題は、誰から指示を受けているかについてだけど)


 可能性が高いのはギルヴェを始めとした魔法院の面々――とはいえわからないことも多い。なぜティアナは彩破騎士団と関わるようになったのか。


(単純に考えれば、誰かに脅されたもしくは家側の問題により、交換条件とか?)


 エゼンフィクス家のことについてこれまで扱わなかったが――真意を探るために調べてもいいかもしれないとフレイラは思った。

 だが、その時、一つ思いついた。


「……ティアナ」

「はい」


 真っ直ぐ見返す彼女。それがあまりに澄んだ瞳であったため、フレイラは思わず苦笑してしまった。


「……ごめん、やっぱりいい」


 全てを押し殺してフレイラは言った。ティアナは気になったようだがフレイラがそれ以上語らなかったため、視線を砦へと戻す。

 フレイラはさすがに質問できなかった。もし――仮にティアナが本当にユティスを好いているとしたら、魔法院側はそのことについて言及し、協力を持ちかけたのではないか。


(さすがに、それは……と思うけど)


 フレイラ自身複雑な感情を抱きつつ――思考を一度リセットして、砦を観察し始めた。


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