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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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彼女の力

 『強化式』を持つ賊の動きをほとんど追うことができなかったユティスは、思わず異能を発動させようと身構えるが――魔力も少なく、どう行使するべきかも迷ってしまう。


「一筋縄ではいかなそうだな」


 その間にロランは言うと、剣を構え直し唯一残った賊を見据える。


「魔具の剣に『強化式』の魔法……さすがに手加減できないが、構わないよな?」

「ああ。そっちも全力で来るといい」


 あくまで余裕の態度を崩さず賊は語る。


「だが、俺にも狙いがある……お前達でそれを止められるかな?」


 声と同時に、彼は地を蹴った。


 速い――思った直後、賊が騎士の一人を吹き飛ばす光景が見えた。その間に魔物の咆哮が生じ、エドルは我に返り魔物のいる方向へと歩もうとする。


「おっと」


 だがそれを賊が阻むべく一瞬で接近し剣を振る。残っていたもう一人の騎士がカバーに入り――両者が激突。騎士は吹き飛ばされた。


「一度戻れ!」


 ロランが言う。その言葉に従おうとエドルは動く。

 それと同時にシャナエルが動いた。風を剣にまとわせつつ賊とエドルの間に割って入るよう動く。


 賊はそれにも構わずエドルを狙い撃ちしようと動くが――シャナエルがそれを阻み、両者は打ち合う。シャナエルは踏ん張り、賊は感嘆の声を上げた。


「やるじゃないか。さすが勇者」

「俺のことを知っているのか?」


 シャナエルの問い掛けに、賊は笑う。それと同時に、彼の足元からさらなる魔力が噴出する。

 その度合いは、ユティスを絶句させるには十分だった。


(一体、こいつは……!?)


 その能力自体、異常だった。そして、


「っ!?」


 シャナエルが呻く。気付けば押し返されるような形となっていた。


「邪魔だよ」


 はっきりと賊は言う。その力にユティスは目を見張り――同時に、彼と目があった。

 彼の目に殺気が宿る。ユティスを見て、どういう人物なのかを理解したような雰囲気。


 相手は聖女が狙いだと言っていたが――それは嘘で、狙っているのは自分ではないか。

 魔物の咆哮が響くと同時に賊が駆ける。速く、ユティスの目では追うことしかできなかった。


「まずい――!」


 ロランが言う。シャナエルもこの段に至り相手の目論見を察した様子。周囲にいた騎士が阻むが、賊の力は圧倒的であり、まったくものともしなかった。

 ユティスは慌てて異能を発動しようとする――が、間に合わないのは自分自身でわかっていた。だから鞘から剣を抜こうとするが、それも間に合わないと理解する。


 ユティスは体を硬直させる――何もできないという事実が、頭の端を苛立たせつつ、どうにか回避しようと足を動かそうとする。けれど、

 賊が間近に迫る。左右にいた勇者と騎士が仕掛けるが、それを一刀で吹き飛ばした。


「――終わりだ」


 賊が言う。そして剣戟がユティスに迫り――

 ユティスは何もできないまま相手を見て――刹那、


 彼を庇うように、黒い影が躍り出た。



 * * *



「……もし、危機的状況となればどうすると思う?」


 ギルヴェがロイの部屋を訪ね唐突に問い掛ける。遺跡調査の件だと理解したロイは、ギルヴェと視線を合わせ返答する。


「賊の件ですか?」

「そうだ。もし賊が、渡した魔具の力を最大限に引き出しているのなら――」

「なおかつ彼は『強化式』の術者ですからね……全力ならば三国の勇者であっても、単独で押し留めるのは難しいでしょう」


 ロイは言いつつ微笑をギルヴェへと見せる。


「となれば、必然的にあの人物の出番となる……賊にはユティスと騎士フレイラの特徴を伝えています。現場にいたのならば二人のどちらかを狙うでしょう……そして」

「もし窮地に陥れば、あの者が二人を助ける……それでいいのか?」

「それもまた、予定の内ですから」


 言葉に、ギルヴェは目を細める。真意を測りかねているようだ。


「……もし助けに入らなければ、彩破騎士団主要メンバーのどちらかが戦闘不能になる。大怪我でもすれば……再起するにも時間が掛かるのは間違いない」

「その間に、策を実行するというわけか」

「ええ。怪我を口実に色々とこちらが干渉することもできますし、ネイレスファルトで人を集めるのも難しくなるでしょう。我々としては非常に良い結末と言える」

「だが、そうはならないとでも言いたげだな」


 ギルヴェが言う。それにロイは笑みを消し、


「十中八九、正体を見せるでしょう。けれど、それでいいのです。ユティスとかの者は――」


 そこで、ロイはギルヴェに安心させるような声音で告げた。


「手を取り合う方に話を持っていくべきです……それを上手く利用し、新たに策を仕込むことができる――私としては、こちらの方が将来の予測も立てやすいのでは、とすら思っています――」



 * * *



 ユティスが最初に見たのは、賊のシミターと噛み合う長剣。

 それは、他の賊が所持していた魔法剣であるのは間違いなかった。そして、そんな武器を持っているのは――


「ティアナ……!?」


 思わず声を上げたユティス。騎士や勇者が吹き飛ばされ、シャナエルでさえも押し返された彼の剣戟を、彼女は借り物の剣でしっかりと受け止めていた。


「何だ……お前は?」


 賊が奇妙な光景に映ったか問い掛けた――刹那、ティアナが動く。

 相手の剣を僅かに押し返した瞬間、彼女の剣が風を生み出す。いや、より正確に言えばそれはただの剣風だったのだが、一瞬の出来事で賊は対応できず、体を掠め僅かながら傷を生じさせた。


「貴様……!」


 賊が叫ぶ。その時点でロランやシャナエルが賊に迫る。敵はそれを気配で察知したらしく、ユティスを一睨みした後後退した。

 恐るべき速度――それに対し、ティアナは何を思ったのか足を前に踏み出して追撃する。何を、とユティスが思った直後、


 彼女は、跳ねるように駆けた。


 ユティスはそれを、目で追うことができなかった。賊と似たような挙動であり、なおかつ賊が出現した位置の正面に到達する。


「な――」


 呻く賊。ティアナが容赦なく剣を振るう。洗練された斬撃は確実に彼の体を薙ぎ――それでも、彼は倒れなかった。

 咆哮。魔物のものではなく、賊からのもの。彼は再度後退しユティス達と距離を置く。


 ティアナはそれに対しても追撃の構えを見せたが、今度は視界に大きな魔物の姿を捉えたため、足を止めた。


「く、ふ……」


 痛みを堪えユティス達を見据える賊。何か捨て台詞の一つでも残すのかと思ったが、それよりも前に彼は姿を消した。


「――魔物」


 そしてロランが呟く。賊の気配が消え変わりに魔物が出現。それにすぐさまエドルが走る。

 護衛にはシャナエルが伴う。魔物はユティス達を見据えると突撃を敢行したが、その正面からエドルが拳をかざし、魔物の攻撃を避けつつすれ違いざまに一撃叩き込む。


 それにより、魔物は消滅に至った。


 次に訪れたのは静寂。ユティスは言葉を失くし、ティアナの後姿を見て立ち尽くす。やがて騎士達が動き出し、それと同時に思考を始める。

 一体、ティアナは――思考する間に彼女は剣を地面に捨てた。借り物かつどういう仕組みなのか理解できていないはずの魔具で、あの賊を追い払った。目を見張るものがあり、シャナエルやロランと比較しても――


 やがてティアナは振り向く。ユティスは目が合い、ドキリとなる。

 けれど次の瞬間眉をひそめた。少しばかり、悲しそうな表情をしていたためだ。


「……ティアナさん」


 ロランが声を掛ける。先ほどの動きに対し質問しようとしているのがありありとわかり、ユティスは事の推移を見守ろうとした。けれど彼女はそれに小さく首を振り、ユティスへと近寄った。

 その表情はどこか暗い。なぜそうした表情をするのかユティスは首を傾げ見守り、やがて両者は対峙。


「……その、申し訳ありません」

「何で、謝るの?」


 ユティスが問うと、ティアナは視線を逸らす。見られたくなかったものをユティスに――という所作だったが、


「僕は怒るつもりはないよ……けど、その……」


 ユティスは、サフィ達が言いたかったのはこの点なのではと思い、言葉を紡ぐ。


「サフィ王女が少し話していたんだ……ティアナと知り合いだと」

「……はい」


 どこか覚悟した表情を見せる彼女。


「それと今の剣技は、関係あるの?」

「……はい」


 どうして――そう問おうとした時、今度はティアナが先に口を開いた。


「……それについては、今からお話します――」



 * * *



 フレイラ達が地上に出た時、ロランを始めとした騎士が声を上げ事態の収拾に努めている所だった。


「何か騒動があって、それを一旦解決したって雰囲気だな」


 ヨルクはそんな風に呟き――その顔を、フレイラはただ凝視する。

 彼はその視線に気付き、フレイラに顔を向けた。


「信じられないという顔だな」

「当然ですよ……ティアナが……」


 遠目に、ユティスの姿も見える。彼はティアナと向かい合っており、おそらく何か騒動が起こり彼女が剣の腕を見せたのかもしれない。


「……本当に、聖騎士候補だったんですか?」

「ああ」


 頷くヨルク。その顔が、少しばかり鋭くなる。


「あくまで元だが、今だってその技量はロゼルスト王国でも上位だろう……本来商家の生まれである彼女に剣技は必要なかった……だが、何の因果か類まれなる才能を手にし、それに目を付けたサフィ王女が進言して剣を学んだ」


 そこまで語ったヨルクは、フレイラに苦笑を見せる。


「君にとっては、喉から手が出る程欲しいもの、かな?」

「……正直、私は才能という言葉自体あまり信用していません」


 対するフレイラは断じる。


「才能とは、言ってみれば人よりも少しだけ進歩が早い程度のものだと考えているので」

「とすると、騎士フレイラからすれば今の彼女の技量は努力の賜物だと?」

「そうなのでしょう。進歩が早いという才能を生かすのは……本人次第です」

「なるほど、な」


 笑みを浮かべるヨルク。対するフレイラは腑に落ちない点がいくつもあった。


「聖騎士候補……私の記憶では、そんな話聞いたこともありませんが」

「公にはされていない。知っているのも、王家のごく一部だけだ」

「なぜここまで秘密に?」

「女性の聖騎士というのはロゼルストの歴史の中でも数えるほどしかない上、以前就任したのは大昔……現在は、重臣の中にも反発する者がいた。だから彼女が聖騎士として確固たる技量を身に着けるまで黙っていようと王家は考えたわけだ……上手くやったのか、怪しまれることもなかったようだ」

「……そうですか。では次に――」

「スランゼルを始めとした一連の事件で、なぜあの剣技を見せなかったのか、だろう?」


 逆に問い掛けられる。フレイラは即座に頷き、


「彼女の助けがあれば、もっと楽に戦いを進めることができたはず」

「それについては俺も答えられない。きっと今の彼女も理由を語ることはできないと思う……いや、むしろあの事件で聖騎士候補だと言わなかった以上、理由を語ることは決してないだろう」

「なぜ、ですか?」

「君が抱いている懸念そのものだ」


 指摘にフレイラは直感する。つまりここで、内通者云々の疑いが関係してくる。


「彼女のことを少なからず知っている俺はできれば彼女に味方をしたいが……彼女自身、聖騎士候補から外れた段階で大きく立場を変えている。その関係で、指示を受けていたのかもしれない」

「本来の力で戦うな、と?」

「ああ……だが今回はそういう指示を受けていなかった。となれば、このタイミングで彼女の素性が明かされること自体、相手の計略通りだと考えることもできる」

「手のひらの上、ですか」


 フレイラは厳しい顔をした。敵――おそらくギルヴェやロイといった魔法院関係の人間のはずだった。しかし目的が一切わからない。

 ヨルクもまた色々と疑問に思っているようだが――ここで、話を切った。


「その点については、また後で話そう。騒動はあったようだからまずは聞き取りをして、今後どうするか決める」

「はい」


 頷いたフレイラは、オックスと共に遺跡入口へと歩み寄る。そこで、別の声が聞こえた。サフィだ。

 視線を巡らせると、サフィがユティスと話をしていた。さらに彼女の隣にはイリアの姿もあり――


「この辺りで、敵の目的くらいは掴みたいもんだな」


 オックスがふいに呟いた。フレイラは内心同意しつつ、遺跡入口へ淡々と歩を進めた。


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