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創世の転生魔術師  作者: 陽山純樹
第四話
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騎士達の攻防

 先手を打ったのは賊側。リーダー格の男を除いた面々が同時に剣を掲げる――刀身から、僅かだが魔力が発せられるのをユティスは感じ取る。


(遠距離攻撃が可能な魔具ってところか……)


 ユティスが心の中で断じた時、賊達は馬上から剣を勢いよく振り下ろした。

 刹那、剣先から光が生まれ、弧を描きユティス達へと迫る。


「盾よ!」


 それに対し動いたのは、ロランの隣にいる魔術師だった。結界が形成され、賊の攻撃を全て受け切る。リーダー格の男を除いた面々の攻撃を、あっさりと防御――この辺りは、さすが宮廷魔術師といったところ。


「異能者二人は、まだ控えていてくれ」


 ロランが剣を構えつつ指示を出す。ユティスは無言で頷き、エドルも「はい」と小さく返事を行う。

 最初の攻撃から、賊達は入口を取り囲むように馬を移動させる。再度光を生み出して攻撃を仕掛けてくるが――それは別の魔術師が結界を構築することで事なきを得る。


「防戦主体ってわけか……」


 ユティス達を真正面に見据えつつ、リーダー格の男が呟く。


「ま、そっちには聖賢者様がいるからな。奴がこの場に出現したなら、俺達は間違いなく窮地に陥る。待っていた方が良いのは間違いないな……だが」


 彼は語った後、卑しい笑みを見せる。


「言っておくが、あんたらにそれほど余裕はないぜ?」

「……何?」


 ロランが聞き返した直後――どこからか狼の遠吠えのような音が聞こえてきた。

 獣の類、と思うのは間違いなく楽観しすぎというものだろう。どうやらまた魔物が出現したらしい。


 そして、目の前の賊達の言動――ユティスは一つの結論を導き出し、相手に問い掛ける。


「お前らが、魔物を生み出しているのか?」

「人聞きの悪い事を言うなって。俺達は別に魔物を創ったり、操っているわけじゃない」


 リーダー格の男は、馬上でシミターを軽く素振りしつつ返答する。


「だがまあ、出現の手助けはしている」

「何……?」

「偉い人が面白いもんをくれたんだよ。魔力を噴出する装置だったかな? ほら、魔物ってのは魔力が濃ければ濃い程出現可能性が増えるだろ? それをほんの少しだけ手を加えて発生確率を上げているわけだ……あと、聖賢者様が構築した魔法を少しばかり阻害する魔具があるな。今も発動中だ」

「その二つによって、魔物が出現しているというわけか」


 ロランが険しい顔つきで呟き、さらに賊へと言う。


「やはり、捕まえて裏にどういう人間がいるのか訊き出さなければならないな」


 目つきが鋭くなり、殺気すら放ち始める。


「やれるものなら」


 賊が返答。すると周囲にいた賊がニヤニヤとした顔を見せ挑発する。


「……エドル君」


 そこへ、ロランから指示が飛ぶ。


「魔物を手早く倒せるのは君だけだ……この周辺に出現する魔物の強さを勘案すると、先ほどの遠吠えは第二領域相当の魔物が発したものかもしれない……こちらで賊達をある程度倒す。その後騎士を何人か伴い、君は魔物を発見し倒して欲しい」

「誰かに力を与えて、というのは?」


 ユティスが提案。だが、ロランは首を左右に振る。


「魔物の質によっては、力を持っていても騎士では対応できない可能性がある。だが彼の場合は、どんな相手でも問題ない」

「わかりました……が、騎士を伴いですか?」


 エドルが問うと、ロランは首肯する。


「賊にはまだ伏兵がいるかもしれないだろ? 先ほど彼らは狙いを告げていたが……君を狙っている可能性もある。最低限の護衛は必要だ」


 エドルは指摘されゴクリと唾を飲む。ユティスはそれに心の奥で同意し、またそれが自分である可能性も考慮に入れる。

 目の前の相手に対し、まだまだ情報が少ない。しかし一つ言えることは、目の前の者達はユティス達の存在を把握した上で襲撃している――だからこそ捕まえて、事情を訊きださなければならない。


「魔術師二人は、入口付近の結界維持を継続しろ。そして二人、エドル君の護衛を」


 さらにロランは、手近にいた宮廷魔術師と騎士に指示を送る。


「騎士と勇者殿は全員打って出る。もし難しそうならば引き下がり、入口周囲の防衛に努めること。そしてユティス君とティアナさんはこの場に留まり、援護を頼む」

「ずいぶんと余裕だな」


 リーダー格の男が言う。


「こっちは魔具も持っている……そう簡単にいくかな?」

「――お前達に、一つ言っておこう」


 ロランのひどく澄んだ声が、周囲に響く。


「ロゼルスト王国騎士団を……甘く見ないことだ」


 声と共に騎士達が先陣を切る。賊達は馬上で剣を構え、相対するべく突撃を開始した。

 騎兵と歩兵の戦い――とはいえ賊の質がわからない上、魔具を絡めるとなると馬に乗っているから有利不利という考えはまったくできなくなる。


 右側から来た賊が馬上から一閃。狙いはロランの隣にいた騎士だが――騎士は剣戟を弾くと同時に反撃。途端、金属音が響く。


「ぐっ!?」


 その狙いは、腕――賊の腕には小手がはめられているのだが、それでも衝撃によって剣を取り落とす。

 そこへ後方から騎士が追撃のために迫る――見事な連携。剣の先端から光が溢れ、武器を落とした相手の頭部へ光の矢が放たれた。


 それは見事相手に直撃し、馬上でぐらりと体を傾けさせた。


「さすが――」


 そんな連携を見ていたリーダー格の男が感嘆の声を上げる。その間にロランは彼に迫るべく疾駆する。ただ彼の場合は、単身。

 阻むのは二人の賊。共に馬上で剣を掲げ、魔力を収束させ攻撃を行おうとする。


 だが、それよりも早くロランが動いた。一瞬で間合いを詰めたかと思うと、一気に彼らを通過しようとする。


「させるかよ!」


 賊が声を上げ、光を放つ。狙いは正確であり、ロランの体へ横から直撃する――そうユティスが思った矢先、

 ロランは足の速度を僅かに緩めた後、一度だけ左右に薙ぎ払いを決めた。それにより光が弾かれ、逆に賊へ向け光が跳ねかえる。


「なっ――」


 賊が呻く間に光が直撃。それにより両者は馬から転げ落ちた。


(魔力を解析し、弾き返したのか……)


 ユティスは胸中呟きつつも、その技法についてはかなり高度であると感じた。そもそも出会ってから数度しか放たれていない魔具の特性を見極め、押し返すというのは相当魔力解析に卓越していなければ難しいが――これこそ騎士ロランの特筆する技量と言えるのかもしれない。

 同じ特性の魔具ばかりだったというのも功を奏したか――ユティスが考える間にロランがリーダーへ迫る。


「さすが、だな」


 間近に接近されても彼は冷静だった。まずは牽制とばかりに剣を振る。それにより生じたのは風の刃。しかしロランは剣を振り弾いて見せる。

 対するロランは間合いを詰め、馬上にいる相手へ一閃する。相手はそれを剣で受け、ほんの一時せめぎ合ったが、すぐさまロランが退いた。


 その間に、騎士達は連携し賊達を打ち倒していく。反面勇者達はあまり動きがよくなかったが、それでも賊を倒すには十分すぎる戦力。ロランとリーダー格の男がにらみ合っている間に、他の賊達がどんどん沈んでいく光景がユティスの目に映る。

 加え、リーダー格の男の後方にいる人物――テントを破壊した賊に対しても、回り込んだ騎士が迫り、あっさりと倒す。


 その時、リーダー格の男から声が聞こえた。


「このままじゃあ、負けそうだな」


 それでもまだ余裕の声。一体その態度は何を意味しているのか――ユティスが疑問に思い始めた時、

 さらなる遠吠えが響く――先ほどよりも明らかに近い。それに反応したのは、ロラン。


「行ってくれ!」


 声と共に、エドルが弾かれるように動き出す。ロランの言葉通り彼の動きに合わせ騎士二人がそれに追随し、倒れていく賊達を避けるようにして進む。


「主役のご登場か」


 面白そうに最後に残った賊――リーダー格の、シミターを持つ男が言う。気付けば下馬し、剣を軽く素振りして感触を確かめるような動きをしていた。


「だが、思い通りにさせないというのが命令である以上、もう少し頑張らないといけないな」

「武器を捨て、俺達の質問に答えるのであれば、痛い思いをせずに済むぞ?」


 剣の切っ先を向けロランが警告。だが彼は肩をすくめ、


「悪いが、話す気もない上負ける気もないな」


 賊は呟き――刹那、

 その姿が突如消える。


 ユティスが驚き目を見張る間に、視界に再び賊の姿が出現。けれどその位置は、魔物へ向かおうとしていたエドル一行の正面。


「――エドル君!」


 ロランが吠え、周囲の勇者達も動く。先んじて攻撃を仕掛けたのはシャナエル。風の刃が放たれ、賊へと迫る。

 だが彼はまたも姿を消し――今度はエドル達の横手に現れた。風は地面に着弾し、エドルの護衛についた騎士が応戦しようとした時、その騎士が突如、吹き飛ばされた。


 ユティスはそれが賊の剣戟によるものだと察すると同時、ある事に気付く。

 彼の剣――そこから確かに魔力が溢れている。その大きさも気になったが、それ以上足が――


「お前、『強化式』の使い手か――!」


 ロランが賊に叫ぶ。対する相手はなおも笑みを見せ、取り囲もうとする騎士や勇者達を悠然と見据える。


「さあて、楽しませてもらおうか」


 たった一人になったにも関わらず――彼は笑みを湛えたまま、攻撃を開始した。


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