第二幕(4)
気がつくと、居間のソファーに横になっていた。いつの間に夜になったのか、部屋には灯りがついている。
「どうした、ロイ?」
居間にフレッドが入って来た。起き上がって尋ねる。
「俺、今日はずっと、ここに?」
「いいや。兄上の城に行ったぞ」
城。あれは、夢じゃなかったのか。何だか頭がフラフラして、現実感がない。
「無理するからですよ。まったく」
「まあまあ。でも収穫はあった……かな?」
不機嫌さを隠さないクラウスをなだめて、フレッドが席に着く。
「アンはやはりあの施設にいた子だったよ。兄上は施設の外で彼女と知り合って、引き取りたいと業者に頼んだらしい」
「外に出ることもあったんですか」
「うーん……兄上が外だと思っているだけで、施設の敷地内だったのかもしれん。とにかく業者に支度金を預けたら、アンが連れて来られた、と」
「アンは攫われたんです! ……うぅ」
頭痛と、それより強烈な眩暈に襲われた。アンの記憶を消し去ろうとする圧力を感じる。
「あの施設が引き取り交渉に応じる訳ないからな。業者としても、無理矢理攫うしかなかったんだんだろう。まあ、怪我の功名ってやつじゃないか」
脳天気に笑うフレッドをジロリと見やって、クラウスが席を立つ。
「ロイは、アンのことを思い出したんですね」
俺の前にしゃがんで顔を覗き込んだ。真剣な眼差しに、小さく頷く。
「悲鳴が聞こえて……振り返ったら、アンがいなくて。俺、助けを呼びに……」
視界がグルグル回る。両手で顔を覆った。
「誰かに、言われた……全部忘れろ。そんな子、最初から……いな、かった」
「ロイ! 充分です。ありがとう」
ソファーにそっと横たえられた。吸い込まれるように、身体がふかふかのソファーに沈む。
「全部忘れろ? そう言われたから、ロイは忘れたっていうのか?」
「ただ言われたのではありません。施設には、何かしら記憶を操作する術があるのでしょう。都合の悪い記憶は思い出せないようにされる。頭痛はきっと、その副次的な症状なのです」
クラウスの繊細な手が額に触れる。ひんやりして、気持ちがいい。




