第二幕(2)
居間のふかふかのソファーで、ボフッとクッションに顔を埋める。身体がだるい。ただ座っているのさえつらかった。
「ロイ」
ドアを開ける気配がする。身を起こすと、フレッドが顔を覗き込んでいる。
「具合悪いのか?」
「……大丈夫、です」
寝室に下がるのは嫌だった。一人になりたくない。何か刺激がなければ、明日には……今日を、忘れてしまうから。
フレッドは一人がけのソファーに座って、俺に尋ねた。
「アンという名前に、心当たりはあるか?」
「アン……つっ!」
「知っているようだな」
頭痛。治まるのを待ってフレッドが続ける。
「兄上の手紙は長ったらしくてよく分からないんだが……兄上のところにもあの施設から脱出した子がいるらしい。名前はアン。ジルを探しているそうだ」
覚えている。ジルはいつも、誰かと一緒にいた。けれど、その誰かを思い出そうとすると頭痛が起きる。アンの名を聞いた時と、同じように。
「俺はこれから兄上を訊ねようと思う。できれば、ロイも連れて行きたい」
「彼は体調がすぐれないようです。医者としては賛成しかねますね」
すかさずクラウスが意見する。
「エマを同行させればいいのでは? 彼女も施設の子の顔は分かるでしょう」
「そりゃまあ、そうなんだが」
歯切れの悪いフレッド。チラリ、と俺の顔を盗み見る。
「俺、行きたい、です」
できるだけ姿勢を正して、声を張った。
「ジルがいつも誰かと一緒だったのは覚えているんです。でも、それが誰なのかは……。アンって子に会ったら、何か分かるかもしれません」
クラウスが目を丸くして振り返る。真意を探るようにじっと見つめる。負けられない。必死に姿勢を保って睨み返した。
「仕方ありませんね」
とうとう根負けして、クラウスはため息をついた。