4話 仙術殺し-セイントキラー-
あと少しで~、夏休みじゃうっほ~い!
ユウはかなり追い込まれている。シンはミキを人質にとり、闘いを吹っ掛けてきた。しかもミキを閉じ込めた部屋には毒気が満ちていて、時間内に勝たないとミキは死んでしまうのだ。
「ふふん、さてさて何の術を使おうかな~。おっ、ふふん。風が吹いてますね、それではボクは『風の妖術』を使いま~す!」
シンは右手から風の弾丸を放った。ユウは横へ避け、弾は後ろの柱にぶつかる。後ろの柱には丸い穴が開いていた。
「この馬鹿者共!喧嘩は、外でやれぇい!」
御水様は激昂し、妖術で造った津波を二人にぶつける。津波は二人を巻き込んで、麓にまで及んだ。
「もう一度行きま~す!妖術『風車』、十連弾だぞ~」
「オレの愛銃、ナメてんじゃねぇぜ!」
ユウは自分で避けられない弾のみを、銃で的確に撃ち抜く。シンに急接近し、銃口を向けて一発放った。
「ふふん、中々のフットワークと銃の腕前。ふふん、少しマジでいこうか」
「げっ、アレは『大風車』!風の妖術で、かなりハイレベルな術じゃねーか」
小さな台風が、ユウに向かってくる。そこには飛礫も混じり、ユウの目にダメージを与えた。ユウはかすむ視界で、銃弾を放つ。銃弾が風の中心に当たり、風は消えていった。
「この銃は対妖怪のものだけど、特に妖気を貫く性能に長けてる。つまり、オレに妖術は無意味だよ。コレでオマエの妖術をくぐって、ダメージを与えられるんだからな」
「ふふん、成程・・・。つまりお兄さんには、この方法が有効なのかな!」
シンは片足を撃たれた状態で、間合いを一気に詰める。片足でしかも助走なしで、十メートル近くの距離を詰めてきたのだ。とても片足とは思えない足捌きとスピードで、ユウの動きを封じにかかる。銃は接近戦では高確率で腐り、運が悪いと奪い取られて逆王手になりかねない。ユウもそれに合わせて、肉弾戦を決めた。
(くそ、何て動きの速さだ!コレは単純な素早さだけど、妖怪にもこんな速いヤツいなかったぞ!?)
「もらいました!」
シンの肘が、脇腹を直撃する。ユウは苦悶し、後ろへ下がった。しかし、そんな事は相手が許さなかった。もし許せば、自分は再び王手をかけられるのだから。
「このチビ!さっきのお返し、ってかオラ!」
「ううっ!」
ユウは迫ってくるシンに頭突きをかまし、被っている面にヒビを入れた。
「この!!」
「どした、クソ面小僧が!」
フラついてるシンの面に、またもユウは攻撃をした。ヒビは一段と大きくなり、面が崩れだす。
「ふふん、ではでは・・・。このお面を、外して闘いましょう。コレ視界がほとんどゼロなんですよね、あ、そうだ!ボクがコレを外したからには、覚悟は決めたほうがいいですよ」
ユウはその瞬間、死に近い恐怖を感じた。コレは妖気、人間には決して放つことのできないもの。油断すれば、何もしないうちにあの世行きである。しかし、初めて会った時には妖気は感じなかった。となれば、考えられる可能性は一つしかない。
「シン、オマエ半妖なのか・・・?でも半妖にしちゃ、大きすぎる妖気だ」
「ふふん、ボクは確かに半妖です。明治時代に、妖気を得たオオカミと人間の間に産まれた半妖。父の妖気は凄まじく、周辺の妖怪は恐れ慄き闘おうとはしませんでした。しかし、父も歳でした。病に負けて、この世を去りましたよ。残ったボクも、父に似て妖気が異常で誰も闘おうとしなかった。でもそれじゃ、ボクの衝動は満たされない!そして思った、生まれながらのこの『仙術殺し』と父譲りの能力で日本中で暴れてやろうってね!!」
シンの片方の目は、獣の目をしていた。オオカミの血が、体に獣の目をもたらしたのだろう。
「父の技、『覇風双槍』!そして、『蛇行塵』だ!」
シンは右手から二本の風の槍を、左手からは風で舞い上がった塵の塊を撃つ。塵は変則的な動きをして、ユウの体中を傷付けた。そこに二本の風の槍が襲い掛かり、ユウの背を強打する。
「ぐあぁ!」
「ふふん、形が残ってるな・・・。やっぱり父のように、跡形も無くならない。どころか、体を貫けてすらいない。やはり加減が難しい、風の妖術は加減に苦労するのが多いからね」
シンは手を合わせて下腹の前辺りで、輪をつくり呪文を唱える。
「古き風、新しき風、この世に舞う全ての風よ。我の元に集まりて、互いに混ざれ。全てを飲み込みし風は龍となり、全てを壊さん。我が前にいる、全てを消し去れ!!いけっ、『風龍砲』!!」
風は轟々と龍の鳴き声のような唸りと共に、目の前の土を根こそぎ剥ぎ取っていく。
サユリと御水様は妖怪達を起こして、総動員でミキを探していた。シンがさっきやって来た事を踏まえると、この寺のどこかにいるハズだ。
「可能性が高いのは、蔵の方じゃないかなお祖父ちゃん」
「う~む、行ってみようかの」
蔵には大量の宝があり、妖怪達はおろか当の御水様もほとんど行っていない。何かをやらかすには、丁度良い場所に違いないだろう。
「いない・・・」
「あの童、一体どこに女子を隠した?」
ミキの姿は蔵の中になく、あるのは財宝のみだ。宝の山を隈なく探すが、見つからなかった。妖怪達からも、見つからないという報告しかなかった。しかし、この男は違った。
「一つ、怪しい場所が御座います。こちらです」
水呂狗はこの寺で修行する妖怪の中でも、随一の頭脳と妖力を持っている。そんな彼が案内したのは皆の修行場の境内だった。
「御水様、先ほどは無かったものがこの場所に存在しております」
「ん?・・・コレは、毒の臭いか・・・」
御水様を始め、周りの妖怪達もその臭いに気付く。サユリはその臭いの素を探し当て、ミキを見つけ出した。
「ううぅ・・・。腕、溶けちゃってるよ・・・」
ミキの姿は非常にショッキングだった。左腕は皮と筋肉、血管やリンパ腺も溶けて骨が露出していたのだ。妖怪達のいくつかは、目を合わす事ができないでいる。
「早く池に放り込め!!まだ助かる、否、絶対に助け出すんじゃ!」
サユリはミキを抱きかかえ、池へと突っ走る。その時、ミキから話を始めた。
「お兄ちゃんに、銃を渡してくれましたか・・・?」
「うん、ユウくんはちゃんと受け取ったよ」
ミキはこの寺に来る時、嫌な予感を感じていた。それがただならぬものだと体が本能で察知し、自分が持っていた兄の銃をサユリに手渡したのだ。
「もう池ね、飛び込むわよ~~~!」
二人は水しぶきと大きな音を上げながら、池に飛び込んだ。瞬く間に腕は元に戻り、ミキの体力も全快する。二人は池を出て、ユウが闘っている鳥居前に急行した。
ユウとシンの闘いは既に決着していた。互いに大怪我を負い、辛い状況下でユウが勝利をもぎ取ったのだ。
「まったく、同じ事をするなんてバカだなオマエ。言っただろ、この銃は妖気を貫くのに特化しているってよ。オマエの大技は妖気と周囲の風を混ぜたヤツ、オレの弾はそれを容易く壊せる。さ、大人しくしてもらうぜ」
「ふふん、ボクの負けですよ。しかし無茶しますね、あの爆風の中に突っ込んで中心を狙い撃ちとは」
ユウはあの時、避けようとも防御しようともしなかった。逆に風に向かい、全身の皮膚を切られ血を噴き出しながらも銃弾を放った。それは風を瞬時に消し去り、シンの右の肺を撃ち抜く。シンは予想外の結末に何もできず、ただ倒れるのみだった。
「お兄さん、ボクをこれからどうする気です?ふふん、妹を殺した最悪な野郎だ。ここで撃ち殺して敵討ち、ってのが定石ですよ」
「そうだな、元々オレの仕事はそういう類だ」
ガチャリ、ユウは銃の安全装置を再び外す。その矛先は、敵の頭蓋だった。コレを撃てば、敵を討ち心は一時晴れ晴れとするだろう。後で自責の念を持とうが、知った事ではない。
「ユウく~ん、ミキちゃん無事です!」
「あっ!お兄ちゃん!」
二人の希望の言葉が終わるよりも先に、凶弾が放たれた。
しかし、シンは気絶するどころか苦しむ表情すら見せない。
「く、空砲・・・。な、何してるんですか!?ボクは妹さんの敵、何で殺さないんだ!?」
「そんなの、約束だからだよね」
サユリが傷ついた二人に歩み寄り、シンに顔を近づけた。その後、ユウと顔を合わせ互いに肯く。
「約束・・・、あっ」
「思い出したか、このドアホ。『負けたらオレの仲間』、死ねとは一言も言ってないぜ」
シンは顔を下に向け、しばらく黙り込んだ。そして、顔を上げた。
「ふふん、裏切っちゃうと思いますけど。・・・いい意味で」
こうして一つの試練は終わり、再び九尾退治の作戦を考える日々が始まったのだった。
今回は文字が少なめです。3話を前編、今回を後編というような感じで書いたので文字数が減っています。気にしないでゆるりと読んでください。