3話 癒しの時-ビューティ・ワールド-
ハァ、物理はやっぱり難しい・・・。再試受かってるか、激不安です。
九尾と闘い合った昨日、ユウはフラつきながら家に帰ってきた。ミキはそれを責めたが、ユウには小言を言い返す気力も無かった。そこでユウは、『アイツ』の所へ行こうと提案した。ミキは止めた方がいいと言ったが、怪我が大きいのでそうも言っていられない。二人は『アイツ』、否、『あの人』の所へ行く準備をした。
二人がやってきたのはなんと京都。東京から五百キロ以上離れていて、行くのに二万円近くする。金は無論、仕事で手に入れたものだ。
「久々に来たな~、相変わらず古風でいいねぇ~」
「ホント、古き良きものって当にコレね~」
二人は京都の街並みを見てしみじみと浸っているところに、背の高い青年がこちらに走ってきた。
「冬宮姉妹様で御座いましょうか?あ、私は『あの御方』の使いで水呂狗と申します。ハッキリ言って、河童です」
「河童の風貌に全く以って見えませんよ。ホントの人間、イヤそれ以上です・・・」
水呂狗は二人を、京都の金閣寺のある方向へ連れて行った。流石に夏なのか、河童である彼は苦しそうだ。ミキは前以って買った水を、彼に渡す。水呂狗はグビグビと一気飲みし、更に残った水を頭から煩雑に浴びた。
「有り難う御座います、ホントに助かりましたよ。さ、もうすぐですので頑張って下さい!」
しかしまた、水呂狗は水が切れて停止してしまった。
「仕方ないから、オレがおぶっていきますよ~~っと!」
ユウは意外と軽い彼の重さに幸を感じて、全速力で目的地へ向かった。
「着いた着いた、この荒れっぷりは相変わらずか・・・。妖怪の妖術修行の総本山、『臨極寺』」
世間には全く知られていない荒れ寺、臨極寺。この寺は法隆寺並みの古さを誇り、かつて納められた数多の宝物が存在する。恐らく宝の数は、世界中の名所に引けをとらないだろう。
「んじゃ呼ぶぞ~~、せぇえええの!」
「『御水様』ァアアア!!冬宮幽真で~~~す!!」
「妹の未貴です~~~!兄の怪我を、治して欲しいんです!!」
二人が叫ぶと目の前に、もやもやとした霧状の何かが現れた。それは徐々に形取り、生き物のような何とも言えない姿になっていく。うまい例えなら、埴輪である。
「ほっほっほ、よぅ来よったわ。ま、上がりんしゃい。中は結構綺麗にしてある」
境内に入ると、綺麗どころではない。完全にリフォームをしている。恐らくこの寺に通う妖怪達が、妖術を使って人間を脅して金を巻き上げたのだろう。本来ならユウの仕事でその者達は消されるハズなのだが、ユウは依頼が無いとしない。他の邪悪狩り-ブラックハント-に比べて、かなり怠け者だ。
「そんで、どれだけ金を巻き上げたんだよクソ爺」
「口の悪さが更に際立っとるな~、何なら作法もサービスってヤツかの?教えてやるわい」
三人は修行中の妖怪達をくぐり、奥の部屋に進む。その前には、綺麗な女の妖怪(完全にモデル型)が立っていた。
「お、オマエらとこのコは初対面か。このコはワシの一万人目の孫、小百合じゃ」
「おお~・・・ごほっ!」
その少女に見惚れていた少年を、妹とその子の祖父が同時に鉄拳制裁を決める。しかしコレが少女と少年を接近させてしまうとは、予想外だった。
「だ、大丈夫ですか!?もう、お祖父ちゃんったらこの人人間なのに加減くらいしなさい!!」
「ご、ごめんよ・・・」
サユリは気の強い少女のようだ。その性格は更に、ユウの興味を惹かせる。そして妖怪なのに人間を嫌う傾向でなく、むしろ近づこうとしている。ユウは妖怪の嫁ならこのコがいいと強く思った。
しかしこの騒動で、ある問題が起こる。
「人間だと!?この妖怪の聖地、臨極寺に人間が紛れ込んでおると言うのか!」
「食おう!頭から、一気にバリバリと!!」
妖怪は人間が憎いうえ、人肉が好物な輩も多い。修行は中断され、ユウとミキを取り囲み襲い掛かろうとした。
「食い殺せ!!頭は俺様、てめーらは爪でも食ってろ!」
「何を!?頭はこのオレが、じっくり味わわせてもらう!!」
「やめい愚か者共!この寺のしきたり、忘れたとは言わせんぞ」
妖怪達を止めたのは他でもない、御水様だった。彼らは大いに恐れ、御水様の前に跪く。中には鬼までいて、全員例外なく片膝を着いていた。
「これオマエ、この寺のしきたり三つ全部言ってみよ」
「ハッ、御水様・・・。一つ!人に仇を為すべからず!二つ!他の妖怪を尊重すべし!三つ!人と妖怪分け隔てなく、差別せず接するべし!」
この寺のモットー、それは『平等』。人間も丁重にもてなし、妖怪は身分差なく接する。そうする事で、人間と妖怪の一線を超える事は絶対とは言えないが確実に無くなっていくと住職は考えているのだ。
「オマエらは一つ目のしきたりを破った、よって罰を与える!百年間の『喜々乃真水』使用禁止!!」
「そ、そんな!」「和尚様、あんまりです~」「修行の疲れが取れないじゃないですか!」
『喜々乃真水』とは、この寺自慢の池の事だ。その池に浸かれば、あらゆる病や怪我が完治し寿命も延びるとされている。(実際御水様は、池に浸かって不死といえるくらいの寿命を得ている。)
「ってかよ、妖怪は並大抵じゃ死なないだろ。再生力も凄まじいし、そんな池必要ないじゃん」
「小僧!あの池に入ったのか、人間の分際でぇ!!」
喚いている妖怪達を他所に、ユウは足早に池に向かった。
ユウは早速服を脱いで、池に浸かった。その池の心地よさ、温度などはまさに絶妙。病や怪我が治ってしまうのも、肯けるというものだ。
「く~~ぅ!この滑らかな水質、とんでもなくよろしい~」
ユウが優雅に浸っている(つもり)ところに、別の人が入ってきた。ココの妖怪は罰で入る事が許されていない、という事は・・・。
「ふ~♪今日は修行で、結構汗かいたな~」
(アレ?この声さっき聞いたな・・・。アレ?アレアレアレ!?待て、コレは何をどう考えても幻聴!幻聴以外に考えられね~、もし幻聴じゃなかったら・・・!?)
ユウは声のする方向へ顔を向ける。そこには・・・、解るね諸君。
「あ、さっきの人どうもです!・・・お名前聞いてませんでしたね・・・。って、どうしたんですか顔をそんなに赤くして」
「あららららららららら!?サユリさんどないしはったんです・・・?オレ、コレでも男なんですけど~!!」
皆様のお察しの通り、そこには美しき女神が人目を気にせず入浴タイムに突入している。コレを見てしまった下僕は、ただ平伏すのみ。ユウは速攻で土下座に入った。
「ああごめんなさい、人間の文化は男女混浴じゃなかったですね。それでそこまで、体が興奮してしまっていたんですか。えへへ、アタシの体ってそこまで欲求が満たされます?」
「興奮って、あ・・・」
ユウは自分の体の一部の激変に気付き、更に顔を赤くした。人間の男として、この場を一刻も離れたい。いつまでも妖怪とはいえ女の子に、自分の醜態を曝してはならないのだ。
「オレ、もう出るよ・・・。傷も治ってるし、何よりも・・・」
「あら、いいじゃないですか!」
サユリはユウを強引に池に引き戻し、ユウは池に背面ダイブした。
ザッバァアン
池の中に入った少年の目には、神々しき女神の姿がこれでもかと映し出されていた。人間にはまずいないであろう、この女体!今、少年は奇跡を見た!
(カワイイ人ですね♪)
サユリは顔を赤くして気絶した彼を、水上にあげて横にさせる。
ユウは目覚めると、自分の姿に驚いた。服を着ている、しかも池ではなく部屋にいる。
「はぁ~あ、あのコに連れて来られて着替えまでさせられたのかよ・・・。服を着させてくれたのは感謝すっけど、見たもんなあのコ~」
「別に、気にする事もないですよ♪」
ユウは飛び上がり、頭から床にぶつかった。サユリはオロオロするが、ユウはすぐ起き上がり顔を赤くした。ユウは大きく深呼吸をした。
「ふ~、今日は変な日だ。河童が夏なのに粋がって倒れるし、ココの住職さんのお孫さんにオレの醜態を見られるし・・・。ま、それはとりあえず無かった事にしようかな」
ユウは何かが切れたような顔で溜め息をつき、サユリを見る。サユリは小さく、笑って返した。
「いろいろとあったから、忘れてたけど・・・。名前、聞いてなかったですね」
「冬宮幽真だ、みんな『ユウ』って呼んでる。サユリもそう呼んでもらえると、いろいろ助かるよ」
二人はしばらく、そこで一緒に並んで座っていた。傍から見れば、かなり発展しているカップル同然である。それも、今にもプロポーズをやってしまいそうな。
「アタシ、最近産まれたんです。平成生まれの妖怪で多分ですけど、一番年上ですよ」
「平成生まれ?オレと同じ、平成生まれなの?妖怪で平成生まれなんて、初めて聞くんだけど。歳が若いヤツでも明治生まれなのに・・・」
「お祖父ちゃんの八千三百五十二人目の奥さんの娘の子供なんですよ、すごすぎですよね」
妖怪の社会は、一夫多妻制である。つまり御水様は、何千何万の女をたぶらかして子供孕ませている事になる。世の男はこう思う、『あのクソ爺』と。
「ところで、九尾復活の話は聞いているかな?」
「ええ、もう日本中の妖怪の話題はそれですから。中国の一部にまで、伝わってるそうです」
九尾の復活は、世界の大半に悪影響を及ぼす。しかし、この化け物の復活で得をする者がいる。
「九尾の復活に合わせて、狐達が各地で暴れ回っているんです。人を山道で迷わせる程度はかわいいんですけど、時にはビルを破壊して中にいる人間を全員生き埋めにしたりなんてするんですよ」
「そのうち、『九尾従属狐軍団』なんて作られそうだな」
二人の会話に、御水様が割って入ってくる。
「九尾は確かに強い、しかしヤツを殺す方法ならある」
二人は驚愕の表情を隠せずに、御水様の顔を見る。御水様は確かに言ったのだ、『九尾を殺す方法が存在する』と、自分の口から言ったのだ。
「おい爺、冗談が過ぎるとぶん殴るぜ」
「野蛮な小僧め、ホントの事に決まっておるじゃろ・・・。この宝物と『仙術殺し』があれば、九尾は確実に殺せるんじゃよ~」
「『仙術殺し』・・・?」
御水様が取り出したのは、『黒鉄の御札』と呼ばれる札だ。和紙に包まれていて、紙にはハングル文字に近いような文字が書かれている。それの材料の鉄は特殊で、妖怪の妖気を吸って輝きを増す。吸収量と速度が半端ではなく、大抵の妖怪は十秒もしないうちに死んでしまう代物だ。現に御水様はその札に妖気を吸われているのだが、本人はケロッとしている。コレは一つの伝説と言っていいかもしれないだろう。
「コレで九尾の妖気を吸い、『仙術殺し』の力でヤツの仙術を封じる。そして、弱点の尻尾を潰してノックアウトってヤツじゃ!」
「って事は、シンは味方なのか・・・否、断定はしない方がいいな」
ユウの呟きに、サユリは反応した。
「何?ユウの友達なの?」
「違ぇよ、九尾と闘った時に割って入って助けてくれたヤツさ。子供だけど、さっき言ってた『仙術殺し』を使いこなして九尾の仙術を封じていたぜ。シン曰く、『未完成な仙術』にしか効かないんだってさ~」
「そやつをココに呼べるか?」
無理である。シンはあの後姿をくらまし、どこにいるかサッパリなのだ。
「そもそも、九尾はどこで仙術を学んだんだよ?やっぱ中国なのか?仙人に教えてもらったのか?」
「イヤ~、ヤツはどうやら中国の宝物庫から書物を盗み仙術を覚えたようじゃ」
御水様曰く、九尾は元々タダの子狐だったらしく人語を覚え書物の文字を解読し仙術を覚えたんだそうだ。しかし、タダの狐が書物を盗み人語や文字を覚えて仙術を学んだのは異例である。
「シンは敵か味方か解らない、ヤツのオーラは何かこう色がゴチャゴチャになってるようなそんな感じがすんだよ。敵に回すには勿体無い強さだし、いつ本性を現すか解らないヤツを味方につけるのは正直気分悪い」
「そう?ギャンブルで味方につけてみるのも、一つの楽しみだと思うよ。ふふん、久々だねお兄さん。そんな久々でもないけど」
シンは突如姿を見せた。この寺には数多の妖怪がいる。いくら強力な妖術を持っていようと、一人か二人くらいには確実に気付かれる。だが、シンは誰にも気付かれていない。
「他の妖怪さんは皆眠ってます、ボク結構妖術使えるんですよ。『催眠虫の術』は眉間にデコピンすれば解けますから、そんな心配しなくていいですよ」
「オマエ、やっぱり解んねぇぞ・・・。何がやりたいんだ、妖怪の絶滅とか言うんじゃねぇだろうな?それとも何か、ただ暴れたいだけのバカなのかよ!?」
シンは笑って答える。
「ふふん、お兄さんのお察しの通りさ。ボクはタダ暴れたいんだ、この力を・・・最大限に使って!」
シンは戦闘態勢に入る。ユウもすかさず、戦闘態勢に入った。サユリから銃が手渡される。
「オレが勝ったら、味方になれよ」
「ふふん、ボクが勝ったら妹さんの命をちゃっかり取らせてもらいましょう!」
予想外の評価にビビリまくる自分がいる・・・。まだ3話しかあげていないのに、ホントびっくりです。