2話 悪夢の始まり-リベリオンズ・ソウル-
テスト終わってようやく、小説が書けました・・・。
昨日の一件については、カナは口外しなかった。しかし、いつ自分のしている事がバレるか解ったものではない。ユウは内心、これ以上なくドキドキしていた。
「もう、まだアタシの事信じてないんでしょ?絶対漏らさないから、安心してよ」
カナが隣でユウを説得するが、依然として心は晴れない。
ユウの本来の性格は、他人を信じるよりも疑うというところにある。本人もその性格には気付いていて、何度も直そうと試みるが失敗に終わっている。
「まったく、今ココで記憶制御薬でもありゃ即刻飲ませて、すっからかんにしてやんのに」
「そんな都合のいいの、こんな学校にあるわけないわよ」
ユウはがくっとなって、机に顔面を打ち付ける。その時の音が割りと大きかったので、クラスの皆に余計な心配をさせてしまった。
授業が始まる前に、先生は一人の少年を連れてきた。背は百八十以上もあり、顔もかなりのイケメンだ。一目見ただけで、大半の女子はいとも容易く落とされるだろう。
「皆、今日からこの学校に転校してきた狐部院九児だ。全統模試トップの天才、勉強で行き詰ったら迷わずコイツに聞くんだぞ」
(このべいんきゅうじ・・・、とんでもねぇ名前だな)
ユウはその転校生から、僅かにだが違和感を覚えた。それは目ではなく、鼻で感じた。『院』などの名前は大概、皇族や貴族に付けられていた証みたいなものだ。高貴なものなら普通はしないもの、それがあの転校生からしている。ユウはその日から、転校生に目をつけた。
土曜の正午を少し過ぎた辺り、狐部院がやってきた。遊びに来たのではない、依頼をしにきたのだ。
「あの、楠田さん。依頼があるのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。しかしこの場では、私も話を聞きにくい。あの山で二人きりで話をしましょう、人が来ない場所だから偶然聞かれるなんて事もないですし」
二人の男は山へ向かい、その頂上にある高台に到達した。
楠田の目的は依頼を聞き、解決する事ではない。コイツの正体、狐部院が何者なのかを見定めるために人のいない所に連れ込んだのだ。
「依頼というのは、他でもない。最近、変なヤツがいるそうで。人間のくせに何の力も持たないくせに百年あるかないかの短い寿命のくせに、妖怪を無闇やたら殺している輩がいるんですよ」
「ほう、それはそれは。さぞ不安な事でしょう。解りました、その不安」
楠田は前置きもなく、凶弾を放った。しかし、この弾は凶弾ではない。心臓を迷いなく狙った、威嚇射撃である。
「貴方の死を以って、解決して差し上げましょう」
「カカカ、その程度では、ワシは死なんぞ」
狐部院の心臓に開いた穴が、みるみる再生していく。仮にも楠田の銃は、妖怪に滅法効く特別仕様。そんなものは、蚊にも思わないと言わんばかりだ。
「やっぱ人間じゃなかったのか、オマエ。最初に会った時、獣臭さを感じたんだ。狸は匂いもちゃんと化けれるからな。オマエ狐か?」
狐部院は正体を現し、姿を本来の獣へと戻していく。その大きさはかなりのもので、子鯨並み。ゆうに五メートルは超えていた。
「おいおい、狐ってこんなデカイ生き物でしたっけ?尻尾だけでも二メートルあんぞこりゃ」
ユウは変装を既に解き、臨戦態勢に入っている。化け物はニタニタと笑い、少年に告げた。
「小僧、生意気にも邪悪狩りを六年続けていると聞く。だが、そんな辛い事をせんでも妹の暮らしはワシの力で、一生を薔薇色に染めるというのは造作も無い」
ユウは学校では狐部院とは、口を聞いていない。恐らく、カナが話してしまったのだろう。ユウは気にせず、攻撃を仕掛ける。
「喰らえこの野郎!」
弾丸は再び当たるが、すぐに再生する。
化け物は呆れ顔で溜め息をついた後、ユウに向かってきた。
「そこらの狐と間違えるな、うつけ者!」
(くそ、コイツ狐妖術を使ってオレの攻撃を避けてる。弾が心臓に届く直前に術をかけて、ノーダメージに近い状態にしているんだ・・・)
妖術というのはご存知のとおり、妖怪が使う術である。妖怪は多種多様な術を覚えており、人を驚かせたり妖怪同士で闘う時などに使用している。そのうちの一つ、狐妖術は狐独特の印を結び幻を創りだすもの。しかし、心臓に攻撃が届く刹那に術を使用して攻撃を回避するというのは今では不可能とされている神技だ。
ユウは横に避け、宙返りを二、三度して大きく下がった。ヤツの攻撃を避けた時、尻尾に当たらないようにするためだ。
「カカカ、ワシが何者か教えてやる。一度しか言わん、しかと耳に刻め小僧」
その言葉が発せられた瞬間、世界が数秒止まった。
「九尾、白面金毛九尾の狐じゃ」
「は、九尾?九尾はオマエ、殺生石になって今もずっと栃木にあるんじゃ・・・」
そう、九尾はその昔、古代中国を滅ぼした後日本にも上陸し日本も壊滅させようと目論んだが、ある陰陽師に正体を見破られ絶体絶命の危機に陥った時、石になったとされている。その石が、殺生石だ。
九尾は人間の姿になり、ラジオを取り出した。
『緊急速報です、栃木の那須湯元にある観光名所として親しまれてきた殺生石が忽然と姿を消しました。近隣の住民も何がどうなっているのか、解らないそうです』
ユウは愕然とした。最悪の化け物に、単身で立ち向かった自分を心底呪ったのだった。
「流石にヤバイかもな。今までも強くてヤバイ妖怪はゴロゴロいて、全部倒してきたけどコレは酷い」
ユウはそう言いながら、銃口を九尾に向ける。九尾が復活したという事は、人間も妖怪も多大な悪影響を受けてしまうのだから。邪悪狩り-ブラックハント-としては、何としても止めねばならぬ化け物。妹を路頭に迷わせてでも、止めねばならぬ化け物なのだ。
「カカカ、使命感に駆られた愚かしい選択だな。そんな事をしても、死期が近くなるだけだと」
バァン・・・!
「ぬお・・・。小僧、何故ワシの弱点を・・・!」
銃声が響くと同時に、九尾は悶絶していた。弾丸は、九尾の尾のうちの一つに当たっている。ユウは不敵な笑みを浮かべ、こう言った。
「所詮はオマエも狐、狐には致命的過ぎる弱点があるからな。それは尻尾。尻尾はどう足掻いても、術をかける事で守れない部分でしかも、術を使う際に妖気を尻尾から放出している。そこをやられたら、オマエだってタダではすまないハズさ」
ユウの勝利確定の言葉に、九尾はただ呻き声をあげて睨むしかなかった。そのもどかしい怒りは、すぐさま頂点に達する。
「カッカカカカカ!上等だ小僧、ワシが使えるのは今のような狐妖術だけではない事を!その体に、嫌と言うほど刻ませてくれる!!我が第二の尾よ、その姿を変え全てを滅ぼせ!『二の手裏剣』!!」
九尾は九つの尾の一つを、巨大な手裏剣に変え二本足で立ち上がった。当てずっぽうで投げたそれは真っ直ぐに、ユウに向かって突っ込んでくる。
「暗極燦々、権等凡某」
地面に刺さった手裏剣は独りでに動き出し、再びユウに刃を向けた。九尾の呪文はまるで、どこぞの陰陽師のようなものだった。(断じて違うが)
「どうやったら、アイツの口を封じれる?油揚げなんか効果ねぇに決まってるし、尻尾をぶち抜ける可能性は無に等しいし・・・」
結論、ムリです・・・。
もう日が沈みかける頃、戦闘は終わる気配がまったく無く均衡した状態で続いていた。
「カカカカカカ、たかだか齢十六の小僧が!ワシの攻撃をココまでかわしてしまうとは、正直奇跡以上の産物じゃのう!だが、ワシの術はこんなものではないぞ」
九尾がそう言った直後、ユウの体が停止した。何かの罠でも何でもなく、ただ止まったのだ。
ユウは何が何でも抜け出したいところだが、どうやっても解除できない。この金縛りを解く事は、何人たりとも不可能である。何故なら・・・。
(仙術・・・!?まさか、アレは人と妖怪には使えねぇ・・・。つまり九尾は妖怪じゃなくて、仙人って事になんぞ!!)
仙術とはハッキリ言えば、魔術や妖術の完全な上位交換である。魔術のように詠唱を唱えずとも、妖術のように印を結ばずとも術を行使できる。完全無欠、この言葉以外相応しいものはない。
ユウは何もできず、九尾の放った手裏剣の刃を待つしかなかった。だが、ここで双方が予想もつかないイレギュラーが入った。
「秘技、仙術殺し」
パァン!と、何かが弾ける音がしたと同時にユウの縛りが無くなった。ユウは刃をかわす事に成功。九尾はこの出来事に、驚愕を隠せない。
「なっ、仙術が解けた・・・だと!?そんな馬鹿な事は無い、仙術は如何なる人間や妖怪も解けぬ!!解けるのは本物の『仙人』、それ以外おらんのだぁあ!」
ユウは左に人の気配を感じ、そちらへ向く。そこには面を被った背の低い子供のような人物がいる。
「あ、アンタは・・・?」
「ふふん、気にしなくていいよお兄さん。コレはボクが生まれながらに持っている力、『仙術殺し』っていうんだ。『未完成な』仙術なら、如何なる場合も問答無用で解いてしまうんだよね。九尾のソレは未完成だからね、ボクが力を使えば一秒もしないうちに崩壊するのさ」
声が高い、というより子供だった。その喋り方はねっとりと、癪に障るような感じだ。九尾は激昂して、面の人物に刃を向ける。
「ふふん、ねぇ九尾。キミは妖力が完全じゃない、本来のキミならこの『仙術殺し』なんて安っぽい力なんて、何でもないクズだったろう。ふふん、内心かなり不安じゃない?だって、作れる武器は一つだけだし妖力は空っぽだ。オマケに仙術は『未完成』、どう足掻いてもまともな結末は無い」
「妖力が完全じゃない、って事は・・・!」
九尾は不死ではない、つまり殺せるのだ。完全な状態なら、弱点などというのは存在しない。しかし復活したてのせいで、妖力は空になっているのである。
「カカカ、ワシは完全でないと不死の体になれん・・・・。しかし、いくら妖力が空っぽとはいえ、そこらの妖怪と同じにするなぁああ!!」
膨大な妖気が、全方向に放たれた。前後左右縦横無尽、音速を超えるそれは木々を薙ぎ払い街の方に行って、一部の建物を破壊した。日本三大悪妖怪の一人は、妖気が空に近くても妖怪百人以上の妖力を誇っているのだ。
衝撃は二人を吹き飛ばし、面の人物は高台の先にあるフェンスを破ってそのまま落ちていった。
「ふふん、お兄さんゴメンね~。タイマンで化け物と何も与えないで闘わせるなんてボクも酷だよね。
でもボクはもうすぐ落ちちゃうから、ふふん。葬儀は火葬で、お願いしま~~~す。あ、名前教えてなかったよ。ふふん、ボクはシンってゆーの。宜しくそして、さようなら~~~」
シンは頭から落ち、血を垂れ流して動かなくなった。つまり、『仙術殺し』が消えてしまう。
「カカカ!もう一度受けよ、我が仙術を!!」
九尾は高らかに言い放つ、が、何も起こらない。むしろ九尾は、顔色を悪くした。
「バカな・・・、仙術が発動せんうえ体力が減るだと・・・?」
ユウは九尾を背にして、シンが落ちた所を見る。そこには、血だまりのみがあった。シンは生きている、生きているのだ。
「ふふん、パフォーマンスをやってのけるのは相当辛いよ。さ、お兄さん。その拳銃で九尾の頭、ブチ抜いてくれないかな?ふふん、九尾もコレで終わりだよ~~~」
シンは崖を上り、ユウの目の前に立つ。ユウは驚愕、九尾は唖然。高台と落下地点は、二百近くの標高差がある。頭が当たってしまえば、即死のハズだ。
「・・・そりゃ助かるわな、ヘルメットとコートを何重にも付けてるんだから・・・。コートで衝撃を最小限にして、ヘルメットで頭を守る。後は動かないフリすりゃ、死んだふうに見えるよな」
恐らくあの血はケチャップであろうと、ユウは考えた。九尾は未だ唖然とし、頭を抱え込む。九尾はもう三千年以上生きていて、脳がもうオンボロの火の見櫓だった。
「カカカ、真に面白き二人よ・・・。次の闘いは、互いに全力で向かいたいものじゃ」
「そんな時間、こっちに無ぇっての!」
九尾はユウ達に突進した後、すぐに彼方へと走り去った。ユウが周りを見渡した時、既にシンは消えていた。この僅かな時間に、九尾の攻撃をかわしてユウの前から消えた。
シンはただ者ではない、ユウはそう確信した。
「あの野郎は、敵か味方か・・・。考え様で、どっちともとれちまうぜ」
ユウはフラつきながら、家路に着いた。
ユウは家で、ミキにこっ酷く怒られた。『なんでそんな化け物に単身でいくの!?』やら、『もう少し自分の命の重さを自覚しなさい!』など子供離れした事を延々言われ続けた。
「とりあえず、悪かった・・・。明日はまだ休みだろ、『アイツ』の所へ行って全快すんぞ」
「『アイツ』って・・・、『あの人』って言いなさいよ・・・。『あの人』またかってカンカンになって、そのうち殺されちゃうよお兄ちゃん・・・」
ミキは不安の眼差しで、『あの人』の元へ行こうとしているユウを見た。
九尾の狐はwikipediaじゃ殺された扱いですけど、殆どの本や話では不死とされています。この小説も九尾は不完全ながら不死の力を持っている設定で、これからも書き続けようかと思います。