短編 ある魔術師の物語 過去話
今回は作風(?)を変え恋愛短編風に書いてみました。
そう、本編にちょこっと名前が出たあの子の話です。
興味のある方はぜひご一読下さいm(_ _)m
「いつまで休んでるのよ。
あなたは犬とか猫とか、いえ、それは犬や猫に失礼ね。彼らは彼らのルールでしっかりやっているのでしょうし、ではゼロ?あなたは人ではない何かなのかしら?それとも家畜とか?働かざるもの食べるべからずとか言うわよね?」
「………………」
…無言、俺はただただ無言。
俺がこの ー黒い月ー に入った時に、このサイスという少女とタッグ(サイスは仕事選定人だ。)を組む事になった。
実際、彼女は見た目金髪碧眼の可愛らしい容姿をしていた。
妹や娘をと接する感じで(記憶喪失の為なんとなくの感じ)接しようとしたのだが、最初の挨拶は
「仕事の時にはこちらから話かけるから、話しかけないでよ。なにその態度腹がたつわ」
だった…
あれから約一年、仕事もそこそここなし、頑張ってきた。
その間にも、仕事仲間として(決して他意はない)サイスとは円満な仲を築きたかったから話しかけ続けた。
そのたびに罵詈雑言を貰ったもののめげずに頑張り
(一応言っとくが俺にそっちの趣味はない。
ここ一年で気づいた性癖はどちらかと言えば苛める方が楽し…)
暫くして、(正確には一時期、仲良くするのを諦めて話しかけないようにしようとしてからは)サイスから話しかけてくれるようにもなった。
きっと俺の熱意が届いたのだと思う。
…会話内容はやっぱり罵詈雑言だったが、
話しかけてこないで
とまで言っていた相手が話かけてくれたのはとても嬉しかった。
俺に居たのかは分からないが、なんとなく家族、友達、悪友、そんな感じの存在が出来たのだと思えたから。
…ただ会話内容をもう少しだけ柔らかくしたい。心からそう思う
んで、冒頭の長たらしい台詞を無表情で一息に言ってのけたはやっぱりサイスで、理由は依頼達成の報告をしたあと、大事な書類を纏めずに寝てしまっていたからだった。
「どうするの?ゼロがやらなかった書類が提出されないばかりに大勢の人が貧困に喘いでいるのよ?」
ってちょっとまて
「まてまてサイス。俺にそんな重要書類回ってくるわけ無いだろう?あの書類は確か新しい魔術のアレンジの仕方を考えたから見てみてくれってやつだったような気が」
「黙りなさいな」
…一蹴された。
「ていうか呼吸音が五月蠅い。なんとかならない?」
「俺に死ねというのか!」
キツい!最近なんかキツい!
何で!?最近なんだか機嫌悪そうだっけど、俺は話かけなかったのに!
「まあいいわ。ゼロが無能なのは分かってたから」
「コラコラ、俺だって頑張って完徹で依頼をこなしたんだぞ?」
流石に鳴きそうになる。
部隊長や仲間内は入隊一年の若輩者の俺の成長を誉めてくれたりしてくれるが、タッグを組んでいるパートナーに此処まで言われると…
言われると…?
「あら、どうして黙るのかしら?今更ながら自分の無能さに気づいたのかしらね?」
「なあ、サイス」
俺は
「なにかしら?」
とっておきの
「今日さ」
復讐を
「だからなに?」
思いついた。
「料理を奢るから、残ってる書類の作成を手伝ってくんないかな?」
…結論から言うと、俺の復讐は成功した。
断られる気がした俺の個室への招待はなぜかあっさりオーケー
俺の書斎で書類の作成の手伝いもしてくれた。
…門題の料理。
そう、そこでとある悲劇が生まれた。
俺は普段散々ぱら言われている復讐にと大量のしかし体に害が無いくらいにある物を混ぜた。
それは……タバスコだ!
それに追加で以前から嫌いだと言っていたピーマンも混ぜてやった。
サイスは見かけ少女である。
だが、実年齢は17才だと、半年前、入隊直後よりかは、よく話すようになってから教えてくれた。
今でも正直、13才か14才くらいにしか見えないが。
かといって、別にサイスは病気でもなんでもないらしい。
故にサイスの身体的コンプレックスに至った原因は俺はこう踏んだ。
食わず嫌い
俺はそれを矯正してやろう、などと適当な理由を付けて自分を正当化し、オムライスにピーマンをまぜ、ライスにケチャップと共にタバスコを投下し、大きめのスプーンと共に出した。
勿論、俺のは普通のオムライスを作った。
その結果、サイスが泣いた。
もう子供のように。あの無表情のサイスがむせび泣いた。
「サッサイス?!」
正直言おう。俺も泣きたい。
予想外過ぎた。
サイスがあの大きめのスプーンに多めにオムライスを乗っけて、そのあとオムライス半分くらいを一気に、子供みたいに口にかきこんだんだから。
まあ、そんなことすりゃ無事じゃすまないよな。
「ウッ、グス。ひ、どいよゼロ。本当は楽し、みにしてた、のに、こんな、こんな」
もう途切れ途切れに訴えてくる。加虐心が、本当に少しだけ湧いたが、この状態でそんな人として間違ったことは言ってられない。
これから俺がやるべき事はただ一つだった。
ふぅ、と一つ気合いを入れて…
サイスが半分食べたあのタバスコオムライスを俺は一気に喰らった。
食らいつくし、俺の方のタバスコ無しのオムライスをサイスに渡した。
「ゼッゼロ?!」
だが今は喋れない。俺は無言で立ち上がり、キッチンへ向かった。
勿論、用意しておいたのさ。
まさか泣くとは思わなかったけれど、きちんとした料理。
それと…
「サイス、これ。」
舌が痺つつ痛いという訳の分からない状態で上手く喋れない為、多少素っ気なくなってしまったが
「…!」
サイスの鉄面皮が剥がれた。
泣き顔じゃない、吃驚した顔で。
「これ、ケーキ。誕生日って…」
「ああ、まあな。」
舌が未だしびれているがなんとか話す。
「部隊長にさ、聞いてたんだよ。サイスの誕生日、そしたら今日だったからさ。速攻で作ってみた。味は期待するなよ。ケーキ作んのなんて初めてだからな」
一気にまくし立てて俺はそっぽ向いた。
そう、今日は相棒、サイスの誕生日。
でも思い出したのは本当についさっきの事。
部隊長や仲間内では俺の成長を誉めてくれるのに、みたいな所で連動で思い出した。
勿論当日に思い出せばサイスへのプレゼントなんてあるわけが無い。
それ故にタバスコオムライスで復讐の意味も込めた、サプライズをしてから誕生日おめでとさん、てのが俺の筋書きだったんだが。
最初はマジで焦った。
「じゃあ、さっきの…」
サイスもようやく完全に涙を引っ込めてこちらを向いた。
「ん…まあ本当は普段の復讐も多少入ってたんだけどな。サイスが泣いたんで計画を変更した」
「…」
なんか、黙った。
…怖い!
「あ」
「あ?」
すると彼女は…
「あ、ありがとう」
と、頭を下げた。言いにくそうに、しかし照れくさそうに
「あ、ああ。その、お、おめでとう?」
つられて俺もどもっちまったよ!格好悪っ!
でも、ま。いいか。
俺はしっかり見たんだからな、サイス
お前がありがとう、って言ったとき、いつもの無表情じゃなく、微かに笑ったのをさ。
……物語的にはここで終わればまだ綺麗に纏まったのかもしんないけどなー
この後サイスの誕生日を祝おうと探して回っていた部隊長や仲間達、変態考古学者が部屋に突入してきて部屋が半壊したり、魔術戦になったりしたんだけど…
ま、それを語るのはまたいつかって事で。
魔術師ゼロの日記より抜粋
204/10/36
ここまで読んで下さりありがとうございました!
次は本編の次回でお会いいたしましょう( ̄∀ ̄)