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軍隊島  作者:
8/9

第六戦 崩壊島

やっと最終回ですヾ(´ε`;)ゝ

今回はまあ、好ましくない描写の見本市なので、覚悟して御覧下さい。

[Davis]

「――さて、果たしてどうするか……」

 マイリーから、親友であるアッシュが『安全庁』に逮捕されたと報告を受けてから、『Olive Branch』内は荒れに荒れていた。

 創設者の息子である彼を何としてでも救出すべきだとする意見。

 一人くらい見捨てるべきだという意見。

 いつ『安全庁』が彼を人質に攻撃あるいは強制解散してくるか分からないから、やはり助けておくべきだとする意見。

 いや、それなら自分らが攻めた時に人質にしてくるだろうという意見。

 当然のごとく、最終判断は代表であるデービスが下す事になるわけだが、彼自身も迷っていた。

 というのも、彼も近々『平和省』に攻め込む予定であったが、もう少し力を蓄えて、あるいは向こうの内部で事件が起きた頃を見計らってからのことだと予測していたのだ。

 組織の未来を優先する理性を取るか。

 親友を助けたい感情を取るか。

 もちろん、感情を選択してもろくな事にならないのは承知だ。

 だが、決して心を許せる友人が多いわけではない彼は、その少ない友人を一人として失いたくなかった。

 もうすぐ幹部会議が開かれる。

 既に心の内は決まっていた。

 彼は拳を固く握りしめて集会場へと乗り出した。



[XXXX]

「……なるほど、デヴリンは死んだのか」

「そうですね」

「ふむ。まあ、もうそろそろ使えなくなるとは思っていたんだがな……」

「ええ。その代わり、反逆者は処分できましたから、良しとしましょう」

「――それで、あの連中はどうなったか、情報は入っているか?」

「はい。どうやらこちらへの攻撃を決定したようです」

「なるほど、それが判明していればこちらのものだな」

「そうですね。あの女の服に小型マイクを付けておいて正解でした。……それで、奴はどうします?」

「奴?」

「アッシュ・クロードですよ」

「あー……この間も言ったように、しばらく使えそうだから生かしておく。だが、使った後の扱いは決まっていない」

「…………」

「どうした?」

「いえ、何も……」

「それならいい。では、打ち合わせしたようにやれ」

「畏まりました」



[Ash]

「隣、うるさいです」

 ネヴィルとジェヒョンが入ってくるなり、アッシュはそう言った。

「まあ、確かに最近そんな抗議が多いな」

 独房の人間は基本的に缶詰状態なので、他の囚人と交流が無い。

 だから、隣にどんな人間がいるか、互いに知らないのだ。

「ちょっと様子見てみましょうか」

 ジェヒョンはそう言うと、鉄格子を開けてアッシュを拘束した。

「……すぐ隣ですよ?」

「いや、こういう規則なんです。なんでも、昔護送中に拘束を怠って囚人に半殺しにされた保安官がいたらしくて」

「そんな事が……」

「さ、行きましょうか」

 早速、隣の独房に向かう。

 扉はカードキーと、生体認証の中でも一卵性双生児を見分けるほどの高精度と言われる虹彩認証機が搭載された頑丈な代物であった。

「すごいな……」

 感心している間にもジェヒョンは着々と解錠に差し掛かっている。

『カードキーをカードリーダーに挿入して下さい』

 扉の下の床にある青い部分を踏むと、機械的な女性の声が聞こえてきた。

 カードをカードリーダーに入れると、緑色のランプが点いた。

『虹彩認証機の黒い丸に虹彩をかざして下さい』

 言われたとおりにすると、扉がガシャンと音を立てた。

『認証完了です。お入りください』

「合格です。さ、入りましょう」

 いかにも重そうな扉が開いた。

「……あれ?このにおい、もしかして……あの連続殺人鬼の?」

「そうかもしれないですね」

「奴はトレバー・ロギンスっていう連続殺人鬼でな。なんでも、あの連続猟奇殺人鬼の『Apple Seed』の息子らしい」

「えー……」

 中の囚人は、ベッドに寝ていた。

 まだ10代半ばと思しき、黒髪に茶眼の少年だった。

「トレバーさん。最近貴方の部屋がうるさいと抗議が来ているんです。もう少し静かにしていただけませんか?」

 しかし返事が無い。

「おい。聞いているのか?」

 しかしトレバーとかいうらしい少年は、虚ろな目で天井を見上げ、場違いな微笑を浮かべていた。

「……様子がおかしいな。入るぞ」

「一応医者呼んでた方がいいですか?」

「そうだな。頼むぞ」

 鉄格子を開け、中を確認する。

 とりあえず目の前に手をかざしてみる。

 反応なし。

 と、アッシュが首を傾げる。

「――ん?何か言ってますよ?」

 耳をすませる。

「――父さ……母さん……」

 かすかだが、確かにそう聞こえた。

「?もしかして、早くに両親を亡くしたんですかね?」

「その可能性はあるな……」

 と、そこにジェヒョンと医者がやって来た。

 早速診察が始まった。

「……どうですか?」

 医者は弱々しく首を振った。

「どうも幻覚が現れているようです……。精神疾患の可能性が大いにあるので島外での診察・治療が必要です」

「そうですか……」

 ネヴィルもジェヒョンも、複雑そうな表情だった。

 ――しかしアッシュは、ネヴィルのにおいの奥の罪悪感を感じ取っていた。

(あー。なるほど。さてはネヴィルさん思いっきり拷問やってたんだな。……あの子、明らかに心折れかけだったもんな……)

 彼はあくまで冷静そのもので発狂したらしい少年を見ていた。


 昼、アッシュは牢獄の窓から外を見つめていた。

 鉄格子に触れる。

 もしこれをすり抜ける事が出来たら――。

 と、

「――ん?」

 小さい羽音が聞こえた。

 真っ白な、美しい鳩だ。

「綺麗だなあ……」

 思わず見とれていると、鳩は警戒もせずにアッシュの目の前に止まった。

 籠の中の鳥と人間の立場が逆転したような錯覚に陥る。

 あまりに大人しいので、白い翼に触れてみる。

 白鳩は逃げ去るどころか、気持ち良さそうに目を閉じた。

「……鳥を可愛いなんて思ったの久し振りだな……」

 笑みがこぼれた。

 頭を撫でてみる。

 それでも逃げない。

 アッシュに完全に懐いているようだった。

「それじゃあ、ばいばい」

 彼は鳩を両掌に乗せ、飛び立たせた。

 鳩は、美しい翼で大空に羽ばたいた。

 ――が、

 パアアアアアアン……

 銃声が轟いた。

 鳩の白い翼が赤く染まり、血の付着した羽根が宙を舞う。

 ドサ、ともいわず、鳥は地に墜ちた。

 アッシュも呆然とした。

 その予知的な光景に、彼は不安を覚えずにいられなかった。

 『旧約聖書』の、ノアの方舟の説話。

 あれで、オリーブの枝を持ってきたのは、鳩なのだから。


 それは、翌日の事であった。

 アッシュはネヴィルにからかわれ、ジェヒョンに謝られていた。

 どうやら、ネヴィルがどうしても眠れないので、暇潰しにアッシュの安眠を妨害しに来たらしい。

 いつもと変わらない。

 が、時計がちょうど深夜0時を指した、その時だった。

 ズドカアアアアアン!!!

 外で突然爆発音。

 直後、滅多に使われないスピーカーから、サイレンと共に音声が。

『緊急事態発生。「安全庁」二階西側にて爆発。「Olive Branch」による爆破の可能性大との報告あり。繰り返します。緊急事態発生。「安全庁」二階西側にて爆発。「Olive Branch」による爆破の可能性大との報告あり』

「え……『Olive Branch』!?」

 隊員自身も驚いていた。

 ネヴィルもジェヒョンも、表面は落ち着いて見えるが、手は密かに震えていた。

「先輩、どうします?」

「そうだな……。とりあえず、指示があるまではここで待機しておいたほうが賢明だろう。奴らも、隊員を巻き添えにはしないだろうからな」

 と、

「……俺のだな」

 ネヴィルの業務用ヘッドホン型携帯電話が着信音を立てた。

 通話ボタンを押す。

「はい。こちらアッテンボロー上等巡査。…………はい。……はい。畏まりました。それでは」

 通話が切れた。

 すぐさま、彼がアッシュを振り返る。

「『平和省』直々の命令でな――どうやら総統が貴様に会いたがっているらしい」


 こうして、三人は『平和省』の中枢、『青玉城』へ赴いた。

 青く輝く城『青玉城』の東側には、有刺鉄線付きの高い塀で囲まれた灰色の建物『安全庁強制収容所』と、白い豪華な総統官邸があり、その南には帰還兵に記憶操作を行う『英知庁研究所』がある。西側には立法を行う『正義庁議事堂』と、給与の分配や財政を担当する『平等庁銀行』がある。南には外部と連絡を取る『福音庁通信局』の円形の建物があり、そこら中にパラボラアンテナがあった。

 俗に『Camelot』と呼ばれるこの島の中心部の周りには、高い塀がそびえ立っており、『安全庁』が監視していた。

「すごいね……」

「確か貴方はこれを見るのは初めてでしたね」

 『青玉城』の前にも、2人の保安官がいた。

 ネヴィルが保安官手帳を見せる。

 すると2人は分厚い扉をゆっくりと開けた。

「ようこそ、『青玉城』へ――」


 『青玉城』の管理室には数々のモニターやコンピュータがあり、まるで宇宙船に迷い込んだようであった。

「総統。アッシュ・クロードを連れて参りました」

「――そうか」

 振り向いたのは、オールバックにされた銀髪と淡褐色の目の、提督クラスの軍服を着た眼鏡紳士だった。

 てっきり、総統というのだから、若干ぽっちゃりでちょび髭(おっとっと)な男かと思ったのだが。

 ――しかしその眼光は冷たく、笑顔も貼り付けたようだった。

「どうも。噂は聞いていた。君があのクロード君の息子さんか」

 右手を差し出されたが、例によって腕を拘束されたアッシュは握り返す(すべ)を持っているわけがなかった。

「あの……父の知り合いですか?」

 言おうとした時、彼の鼻に、男のにおいが届いた。

 ハッと、アッシュの顔が青ざめる。

「た……大将閣下……なぜここに……!?」

「――ばれてしまったか……」

 フゥ、と、男は溜め息を吐いた。

「ご名答だ。私は聖ミカエル島駐留米軍総司令官であり『平和省』総統、クリフォード・アンダーアースだ……」

 開いた口が塞がらなかった。

 まさか、そんなに近くに第一の敵がいたなんて。

「ですが、なぜ父の事を――」

「実は私とクロード君とは同期で、かなり親しかったのだ」

「でも、父を殺すように命令したのは貴方ですよね?察するに」

「当然だ。反対勢力が例え友人であっても、関係の無い事だ」

「何でそんな事があっさりと言えるんですか!おかしいで――」

 と、アッシュはちらりと上を見て、凍りついた。

 アンダーアース大将は、冷たい、あまりにも冷たい眼で、部下の眉間に拳銃の銃口を押し付けていた。

「少々声が大きい。静かにしてもらおうか」

 部下が黙りこむと、彼は一番大きいモニターと向き合った。

「……どうやら、『Olive Branch』が攻めてきているらしいではないか」

 すると、モニターに戦いの様子が映し出された。

 間違いない。

 『安全庁』の保安官と、『Olive Branch』メンバーだ。

 総統が、ニヤリと笑った。

「――さて、ハト連中がどんな醜態を晒すか、見てやろうではないか……」



[Hugo]

(――俺、何でここにいるんだろうな……)

 ヒューゴーは『Olive Branch』の仲間と共に『安全庁』の連中と戦っていた。

(いや、アッシュを助ける為だって事は分かってんだよ。でもみんなで戦うってのは初めてだかんな……。何で俺こいつらの仲間になったんだろうな)

 確か、恩義があるクレイソン――デービスがこの島に来るまでのリーダー――に誘われて、借りを返す為に入ったんだった。

 つまり、本当はクレイソンの為で、それ以外はどうでも良かったはずだ。

 なのに――

(ほだされたか知らねえけど、段々こいつらも大切に思うようになってきてんだよな、俺……)

 かつて、こんな事は無かった。

 もちろん、少年兵時代に戦友はいた。

 だが、戦友よりさらに奥に踏み込んだ仲、つまり大切な人になる、その前にほぼ全員死んだ。

 それに、生き残るのに必死で何も考えてられなかった。

 大人になっても、非戦闘員とは馴染めなかった。

 だから、実際にある頭の傷にかこつけて、自分は狂ってるのだと言い聞かせ、それ相応の行動を取っていた。

 ――しかし、彼らの仲間になって、変わった。

 そして、次第にその気持ちは恩義に代わり、今ここにいる。

(意地でもこいつらの思いを叶えてやる!)

 その思いを拳に乗せて、保安官をぶん殴る。

 武器など、彼にはいらない。

 ヒューゴーは下を、横にいたマイリーとカテリーナを見下ろす。

 彼もマイリーも、拳を敵の鮮血で染めていた。

 カテリーナは、今までぶっ放していたサブマシンガンを杖にしてヒューゴーを見上げていた。

「大丈夫か?」

「こっちは大丈夫だ」

「あたしも。そっちは?」

「俺は大丈夫だ。で、ジョシュアとデービス、エルンスト、ジャクリーヌはどうだ?」

「えー……おぉ、大丈夫どころか元気に暴れてやがるぜ。特にジャクリーヌはすげえぞ。男でもこんな奴いねえよ」

「よかった!だいぶ相手が手薄になってきてるわよ」

「分かった。じゃあ一気に突破するぜ!」

「おうよ!」

「分かった!!」

 三人同時に駆け出し、同時に拳とマシンガンを振るう。

「どけえええええええええ!!!」

「くたばれえええええええ!!!」

「ぶっ飛ばしてやるわああああああ!!!」

 ズガガガガガガガ!!!

 その気迫に、あの悪名高き『安全庁』の保安官さえも慄く。

 そして、ついに彼らは『青玉城』へとたどり着いた。

「『強制収容所』にいなかったんだ、アッシュはきっと城の中にいる!!」

 デービスの鋭い声が皆を奮い立たせる。

 しかし、彼らの前に分厚く青い扉が立ち塞がった。

 それでも、ヒューゴーとマイリーは下がろうとしなかった。

「いけそうか?マイリー」

「だいじょうぶそうだぜ。一気にいくか」

「そうだな」

 二人は拳を構え、じりじりと下がる。

「大丈夫?」

『二人でいける?』

 心配そうなカテリーナとエルンストを振り返って、二人はニコリと笑った。

「「まあ見とけ!!」」

 そして、

「「どりゃあああああああああっ!!!」」

 同時に地面を蹴り、扉に突進した。

 扉はあっさり倒された。

 デービスが皆を振り返って叫んだ。

「よし、皆行くぞ!!」

…「「「おう!!!」」」…


 ――だが、やはり『平和省』の中枢、一筋縄でいくはずがない。

 中にいた警備は、予想以上に強く武器の火力も段違いだった。

 たちまち『Olive Branch』の精鋭は倒れていった。

「デービス!!大丈夫か!?」

「こっちは大丈夫だ!!」

「カテリーナは!?」

「大丈夫!エルンストもこっちにいるわ!」

「ジャクリーヌはどうだ!?」

「絶好調よ!!」

「分かった!!マイリーは……こっちにいるな。ジョシュア――」

 と、彼の表情が凍り付いた。

 クレイソンが、保安官の一人に胸を撃たれていた。

「なっ――!!!」

 ヒューゴーの怒りが爆発した。

「てめええええええ!!!」

 彼は、相手の持つ小銃すら気に留めず、男に殴りかかった。

 もちろん保安官は彼を撃とうと銃を構える。

 しかし、遅かった。

 引き金が引かれる直前、ヒューゴーの拳は男の頭を砕いていた。

 彼はそれを尻目に、クレイソンを抱きかかえる。

「大丈夫か!?」

 腕の中で微笑んだクレイソンの顔は既に青ざめており、死相が現われていた。

「私は……もう、駄目だろう……。別に死体を家族に届けてくれとは言わない……。しかし、これだけでも……」

 そうして彼は、震える手で、『Olive Branch』のバッジを手渡した。

「分かった。約束する」

 ヒューゴーがバッジを受け取ると、クレイソンは薄く笑い――息を引き取った。

「――でも、お前の遺体置いとくわけにはいかねえかんな……」

 彼は体温が冷え切りつつある恩人を担ぎ、立ち上がった。

 カテリーナのマシンガンとマイリーが吠えるのがうっすら聞こえる。

「いっちょ、お前の仇打ちもやってやんよ!!」



[Ash]

 モニターの前、アッシュは膝を着いて泣きじゃくっていた。

 クレイソンも死んだ。

 デービスはある時から画面から消えた。

 その直後、管理室に上層部の人間らしい、『安全庁』の制服の男が現われた。

「総統、デービス・アックスマンを捕らえた模様です」

 アッシュは耳を疑った。

 が、別のモニターに、保安官に身柄を抑えられている親友が映し出されてしまった。

 絶望した。

 このまま、組織も無くなってしまうのではないかと思った。

 しかし、今の彼はただ泣くことしかできなかった。

 と、

「――おい。アッテンボロー、そいつをここから連れ出せ。目障りだ」

 アンダーアースが冷たく言い放った。

(むしろあんたが目障りだ!)

 涙を浮かべて睨み返す。

 珍しく、ネヴィルは戸惑っていた。

「え……ですが総統――」

「人質に使うにもここでは役に立たん。さっさとこいつをここから追い出せ」

 総統は、食い下がる保安官二人をジロリと睨む。

「……承知しました」

 ネヴィルとジェヒョンは、蛇に睨まれた蛙のように縮こまり、アッシュを連れて管理室を出た。


 3人は、青白く光る廊下を歩いていた。

 ジェヒョンが涙を拭いてくれる中、彼は絶望感しか抱けなかった。

 この後自分がどうなるかすら分からない。

 なのに、自分で何も出来ない。

 と、その時であった。

「てめえらああああああ!!アッシュに何してやがんだあああああああ!!!」

 突然、ネヴィルが黒い人影に突進され、倒れた。

 その人影が、こちらを向く。

 色素が無い髪――間違いない。

「ヒューゴーさん!?」

「大丈夫だったか!?」

 正体はヒューゴーだった。

 おぼつかない手つきだが、拘束を解いてくれた。

「デービスは――」

「ああ……助けてやれなかった。ごめんな……」

「…………」

 沈黙が訪れかけたが、それに浸っている時間は無かった。

「貴様!」

 ネヴィルがすかさず起き上がり、拳銃を手にする。

 が、

「まだ生きてやがったかてめえ!!」

 引き金を引く前に、ヒューゴーが彼に飛びかかった。

 ゴッ!!

 ネヴィルの後頭部が、勢いよく壁にぶち当たらされた。

 しかし、敵はそんな事だけで終わらせてくれなかった。

「てめえのこたァよく知ってるぜ!!ずっとむかついてたんだ!!無様なてめえを見てたらせいせいするぜ!!」

 ガン!ガン!ガン!

 頭が思いっきり揺さぶられ、しかもそのたびに後頭部を打ちつけられた。

 少しだけだが、鮮血が垂れる。

 仕舞いには、さすがのネヴィルも気を失い、力無く崩れ落ちた。

「さ、行くぞ」

 アッシュは、少し彼を振り返りながらも、言われるがままにその場を後にした。

 ジェヒョンがすぐに彼に駆け寄り、止血をする。

 勝てないと悟ったのか、追っては来なかった。


 しかし、安心している暇は無かった。

 騒ぎを聞き付けた保安官らが追いかけてきたのだ。

「走れるか!?」

「いけます!」

 何も考えない。

 ただ、走る。

 が、

「……チッ!!行き止まりかよ……!!」

 無情にも、彼らの前に壁が立ちはだかった。

 幸い、近くには窓がある。

 仲間がちょうど通りかかっている。

 ジャクリーヌ、マイリー、カテリーナ、エルンスト……マイリーに担がれたのはクレイソンの遺体だろうか。

 死んだ人間以外は全員揃っている。

 皆心配そうに上を見上げている。

 もしここで二人が飛び降りれば、受け止めてもらえるだろう。

 しかし、言いかえれば、ここで逮捕すれば一網打尽だ。

 だから、二人が足止めも無いまま飛び降りれば、保安官も後に続くだろう。

 ヒューゴーは少し迷うと、手榴弾を取り出した。

 そして、アッシュに告げた。

「いいか。ここは俺があの連中を引きつける。お前は逃げて――『Olive Branch』の奴らを引っ張っていってやってくれ。お前になら出来る。デービスもそれを望んでるだろ」

「でも……」

 アッシュは直感的に気付いていた。

 もしここで頷けば、彼は保安官もろとも自爆するだろうと。

「嫌です!二人で逃げましょうよ!!」

「ダメだ!お前だけでも逃げろ!!」

 そう言うと、彼はアッシュを片手で持ち上げ、窓から投げ落とした。

 下で仲間が受け止める準備をしているのも、目がぼやけて見えない。

 涙が溢れだす。

「ヒューゴーさあああああああん!!!」

 刹那、彼が親指を立てた右手を突き出してニコリと笑うのが見えた。

 そして、

 ズドカアアアアアアアアン!!!

 轟音と共に、『青玉城』の一角が粉々に破壊された。

 アッシュも仲間も、ただ呆然とするしかなかった。

 と、

「?何あれ」

 ずるずると、傷ついた羽を引きずった白い鳩が、アッシュに歩み寄って来た。

 間違いない。あの時の鳩だ。

「!生きてたんだ!!」

 思わず抱き締めた。

 鳩は暴れること無く、大人しく抱かれた。

 さらに、

「?」

 小さい、何やら光る物体が落ちてきた。

 血が付着した『Olive branch』の団員である証、オリーブの形をしたバッジであった。

 そこでようやく、皆涙を流した。

 アッシュはそれも拭かず、バッジを握りしめた。

「――ヒューゴーさん……絶対仇を討ちますから……!!」


 生き残った皆はすぐさま、なぜかフライトスーツを着た石原が運転する車に乗って島の北東にある空港に向かった。

「クレイソンさんの家族とかミハイル君とか、あと姉さんはどうしているんですか?」

「ああ。みんな先に空港に着いてる。飛行機の見張りをしてもらってるよ。……よし、もうすぐだ」

 その言葉の通り、視界が開けてきて、目の前に戦闘機や爆撃機などが見えてきた。

 やがて車は、古びた戦闘機と旧式らしい爆撃機の前で止まった。

「こっちの戦闘機は俺が操縦する。乗るのはジャクリーヌとエルンスト、ミハイル君、クレイソンさんの奥さんと子供さん。グウェンの運転するこっちにはアッシュとマイリー、カテリーナだ。あいつの運転は乱暴だからな。……まあ気にするな。どっちにしろ無理な定員越えだからな」

 そう言ってる間に、グウェン、ミハイル、クレイソンの妻子が戦闘機から降りてきた。

「石原。何とか中を片付けて4人入れるようにしたぞ」

「そうか。すまんな」

 最初にグウェンの異変に気付いたのは、彼女の弟と妹だった。

「……姉貴。口調変じゃねえか?そんな気取った喋り方じゃなかったぞ?」

「そうか?……まあ、そんなことはどうでも良いだろう。早く離陸しないと向こうに主導権を奪われかねない。私としては敵が多い方が暴れ甲斐があるというものだが、君達にとっては不都合だろう」

「まあな。じゃあ、みんな乗るぞ」

 言われるがままに、皆それぞれの航空機に乗り込んだ。

「狭い」

「文句を言うなアッシュ。普通戦闘用の航空機は多くても2人乗りだ」

「はーい……」

「それならいい。では離陸するぞ!」

 轟音が響く。

 直にエンジンのエネルギーを感じる。

 と、

「うわ!保安官の野郎もう来やがった!!しかも軍隊と戦車連れてきてやがる!!」

 マイリーが珍しく冷や汗混じりに叫ぶ。

 しかし、パイロットは慌てないどころか、むしろこの展開を待ち望んでいるかのようだった。

「面白くなってきた!しっかりつかまっていろ!頻繁に急降下するからな!」

「えええええええええ!!?」

 そしてついに、2機は力強く離陸した。

 それに呼応するかのように、『平和省』の軍隊の戦車は砲撃を開始し、戦闘機も迫って来た。

「石原。私は戦車にいく。戦闘機は君に任せる」

『了解。検討を祈る』

 無線の声がしたかと思うと、石原の戦闘機が急旋回し、敵の戦闘機と格闘を始めた。

 砲撃を華麗に交わし、隙を突いて次々を敵を撃墜していくその様は、元エースパイロットだった功績の何よりの証明であった。

「なかなかのものだ。あれほどのパイロットは滅多にいない。よし、私もそろそろ行こう。予告通り急降下するぞ」

 言うや否や、彼女の爆撃機は地面と垂直になり、落下した。

「――!!」

 アッシュは叫んでしまわないように口を塞いで機体につかまった。

 一方のグウェンは、ニヤリと笑って37mm砲のトリガーを連続で起動した。

 ズガアアアアアン!!!

 強大な破壊力が、離れている彼らの元にまで響いた。

 戦車が、軍事マニアでもその強固さに恐怖を覚えずにはいられない戦車が、数台木っ端微塵に破壊されていた。

 予測はしていたが、それでも目の前にすると、ただ口笛で驚愕をごまかすしかなかった。

「よし、まだいけそうだ。続けて行くぞ!」

 また、急降下する。

 再び高度を上げた時には、既に戦車団もまばらになっていた。

「石原。そっちは大丈夫か」

『大丈夫だ。そっちも御苦労さん。おかげで向こうもやる気を無くしたようだ。手間が省けた』

「そうだな。では、そろそろ島ともお別れするか」

 ようやっと、2機は前進を始めた。

 ふとアッシュは、先ほど車の中でエルンストに羽を治療してもらった鳩の頭を撫でつつ、聖ミカエル島を振り返った。

 青く光る『青玉城』が見えた。

「クレイソンさん、デービス……父さん――絶対願いを叶えてあげるからね……」

 そして、再びバッジを固く握りしめた。

「『平和省』め……!!絶対にブッ潰してやる……!!」


 この事件は、ただの序章に過ぎない――それは、彼らですら知る由も無かった――。

一応完結です!!ヤッター!!(゜∀゜)( ゜∀)( ゜)( )(゜ )(∀゜ )(゜∀゜)

次はオマケ+ネタばれ裏話をうpしたら次章『鋼鉄花』にいきます!!


あと、なんか知らん間にアクセス2000超えてました!ありがとうございます!!

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