第四戦 警告島
やっとと言うべきかもうと言うべきか、折り返し地点に来ちゃいました。
これから、この小説の化けの皮が剥がれてきます。
それはそうと、今回の話は、この章のというより、それよりもさらに後の展開のフラグが山積みになったブツなので、最後まで読んでやろうという方が奇跡的にいらっしゃれば、この話はぜひ覚えておいて下さい。
[XXXX]
「――なるほど。あのアッシュ・クロードとかいう男も侮れんようだな」
「はい。さらに『福音庁』によれば妹のマイリー・クロードも島に来るらしいのですが、どうもその娘が相当凶暴なようで」
「……デヴリンは手中に収めたしグウェンは殺害した。しかしまだ二人も残っていたか……。しかもタチの悪い連中が」
「仮にあの男が『Olive Branch』に入団してしまえば厄介でしょう。いえ、可能性は大いにあります。周りは連中ばかりですから」
「うむ。特にデービス・アックスマンが厄介だな」
「……どうします?今度こそニコラス・クロードの子達を全滅させますか」
「……いや、やめておこう。仮にも『平和省』大臣はアメリカ駐在軍の隊長だ。目立ってはいかん」
「それでは様子見ということで……」
「ああ。監視は怠るな。もし怪しい行動があれば即刻逮捕せよ」
「畏まりました」
[Ash]
どういう風の吹き回しか、アメリカ軍とドイツ・イタリア連合軍とが一戦交えることになった。
アッシュはむしろ、カテリーナやエルンストの命ばかり心配していた。
「でも、会ったらどうしようかな。もし近くに仲間がいたら、無視ってわけにはいかないだろうし……」
そうブツブツ言いつつ、2人でないと分かるや否や問答無用でぶっ殺してたりする。
何て奴だ。
「……前から言おうと思っていたんだが、お前、意外にエグイよな……」
「そう?」
ほら、デービスにも言われてるだろ?
「でも、敵が地面に張った紐踏んだらマシンガンの引き金が引かれるなんて装置考えたのはデービスでしょ?ほら、これ」
アッシュの指さす先には、木とマシンガンに括り付けられた紐と、その近くで倒れる兵士。
「あ、ああ……それは認めざるを得ないな……」
……あれ。意外とこいつもノリノリじゃねえか。
「エグイか?これ」
「エグイよ。自分の手は汚さないんだから」
「そんな言い方するなよぉ……」
まあ、仕方ねえわな。
「で、これどうする?放置する?」
「放置プレイする」
「プレイ付けないで。変な意味になる」
と、何だかんだ言って、おなじみロビン・フォレスト探検に出発した。
――あ。また誰か掛かったみたいだな。ま、いっか。
2人で森を歩いていると(この時点で普通の人間ならもう死んでいる)、前から荒い息が聞こえてきた。
アッシュが、装置に自分の銃を使ってしまったデービスの前に入り、警戒する。
イタリア兵のようだ。
「あれ、髪が長いね。女の子かな?」
確かに髪が長い……ってあれ?もしかして……。
「カテリーナ!?」
「アッシュにデービス!!無事だったの!?」
ここにおいて、カテリーナに遭遇した。
「どうしたの?そんなに息切らして」
「エルンストが――」
「こりゃあ酷いな」
草の上に寝転がるエルンストの脇腹から、おびただしい量の鮮血が溢れていた。
「私が見つけた時には既にこんな状態だったの」
「うん。分かった」
と、何を思ったか、アッシュがエルンストを抱いて歩き出した。
「ど、どこ行くんだ?」
「どこって野戦病院に決まってるじゃん」
「ちょっ!!野戦病院ってドイツ軍のキャンプのすぐ近くよ!?」
「いいじゃん。それがどうしたの?襲って来ればあしらえばいいんじゃないの?そんじゃ、行って来るね!」
「あっ……!」
「おい!アッシュ!!」
制止する2人に微笑み掛けると、彼は茂みの奥へと姿を消した。
[The German Soldiers]
ドイツ軍のキャンプでは、見張りの兵士がピリピリしつつそこら中を歩き回っていた。
そんな時である。
森の奥から、若いアメリカ兵が姿を現した。
その手には、負傷した若いドイツ兵。
ドイツ兵が一斉に色めき立つ。
「ちょっと待ってよ。僕この子を預けに来ただけなんだってば」
兵士は、銃を向けられてもなお笑顔だ。
「この子、僕の友達なんだけど、すごい怪我しちゃったみたいでさ、だから野戦病院に連れて行ってあげてくれないかな?」
まさかあの負傷兵は変装したアメリカ兵ではと思ったが、奇妙な事に、実際に軍にいる青年であった。
「……分かった。この男は預かっておこう」
「うん。ありがとう」
が、次の瞬間、負傷兵を運ぶ男を除いた兵士が笑顔の青年に発砲した。
「おっとっと」
慌てて、青年も発砲する。
と、互いが放った銃弾が、空中で綺麗に合体した。
同時に加速度も相殺され、儚く地面に落ちる。
「ダメじゃん。いきなり撃ってきたら」
「知るか。貴様が敵であることには変わらんから別にいいだろう」
青年が困ったように笑う。
「仕方無いなあ……」
すると、彼は突然男たちに躍りかかり――。
[Ash]
ドイツ兵を伸したアッシュは、うーんと言いつつ腕のストレッチをしていた。
「やっぱり敵にも礼儀は必要だよ、おじさん達。まあ、今日はもう終わりにするから安心してね」
そう言って、彼は何事も無かったようにキャンプを立ち去った。
「――そういえば、エルンスト、すんごい鉄の臭いがしたけど、何でかな?」
その翌日の夜、アッシュとデービスの二人は久しぶりに『Con Fuoco』に行った。
「あ!!久し振り!無事だったんだ!」
冷たい目で迎えられると思いきや、カテリーナは今日も元気だった。
「聞いたよ!アッシュったら、一人でドイツ兵8人も伸びさせたらしいね!」
「うん。少し怖かったけど、そんなに強くなくて良かったよ」
そういえば、どうなったんだ?エルンスト。
「ああ。あんな怪我しといて今じゃピンピンしてるよ」
「どんな人間だよ……つーか本当に人間か?」
いや、ホントデービスの言うとおり。
「元々死ににくい体らしくてね、あの喉撃たれた時だって、首から血出しながら自力で病院まで行ったらしいよ」
むしろターミネーターかよ。
「え。その喉撃った人って誰って言ってた?」
「ニコラス・クロードだって」
『やあ、心配をかけたみたいですまなかったね』
エルンストは手帳を引っ提げて、笑顔で参上した。
「あれ、お前相当でけえ怪我してたろ?もう起きていいのか?」
『うん。僕、傷治るのすごく早いから』
「そういう問題かよ」
「おかえりー!」
一面歓迎ムードの中、アッシュだけ浮かない顔だった。
……なるほど。
予想通り、やがておずおずと切り出した。
「――聞いたよ。父さんがその喉撃ったんだってね……」
『え?その事なら大丈夫だよ?』
しかし、本人はあっけらかんとしていた。
『多分聞いたと思うけどさ。僕、人間よりずっと死ににくいから』
「え、でも……」
『確かにちょっと不便だけど、ちょっと落ち着いてから声帯入れれば何とかなるよ』
「そ、そう……」
――だが、デービスは既に悟っていた。
(――ああ。こいつ、人間じゃないな――)
彼が駐屯地に帰ったのちであった。
「おいアッシュ!電話だとさ!」
友人のマックスが部屋の戸をノックした。
「何々?誰から?」
クレイソンもヒューゴーも直接部屋にこんにちはするし、ミハイルとは大分仲が良くなったが、用があればクレイソンに頼む。カテリーナとエルンストとは散々喋ったし、高野……の可能性はあるか。
つまり、電話してくる人間は心当たり無い。
「誰って?」
「知らね。ネヴィル何たらつってたけど」
その名前に、いつも浮かんだ笑顔が霧散する。
「――代わって」
受話器を取ると、あの低く冷たい声が聞こえた。
『久し振りだな。アッシュ・クロード』
「何の用です?貴方とはもう関わりは無いはずですが」
『ほう……なるほどな……』
あくまで人を小馬鹿にしたその口調に、受話器を置きたい衝動に駆られる。
『それなら貴様は何も知らないわけだ。好都合だ』
「はあ!?」
『……いや、こっちの話だ。……さて、本題なんだが』
ふう、と、息を 吐くのが聞こえた。
怒りと軽蔑と観察対象としての興味以外の表情が見えたのは初めてだった。
『――貴様の命が惜しければ、ヒューゴー・ヒースフィールド、ジョシュア・クレイソン、そしてデービス・アックスマンとはこれ以上関わるな。質問は』
「――嫌だと言ったら?」
『実力行使だ。我ら『安全庁』を甘く見るな』
そして、電話は切れた。
「……ワケわかんない」
翌日、かねてから到着が待ち望まれていた新兵が到着した。
アッシュもデービスも、一番の新兵ということでパシられてきた。
その横には、やはりクレイソンがいた。
「今日もアンダーアース大将閣下のパシリですか?」
「こら。本当かもしれない事を言うな」
やがて、アッシュらが乗ってきた船と同じ物が水平線を滑ってきた。
その甲板には、
「おーい!!兄貴ィ!!」
「え!マイリー!?」
そこには、アッシュの妹のマイリーの姿があった。
金髪碧眼の、小柄だが締まった体つきをした、20歳前後の気の強そうな声の低い美人だ。
さらに、
「アッシュ!久し振りだな!」
「兄さんも!?」
その横から、兄のデヴリンが姿を現した。
アッシュと似た、優しそうな30歳前後らしき大人の男性だ。
船は止まり、乗客が次々降りてくる。
「兄さん!マイリー!どうして……」
「見たら分かんだろ?兄貴。俺らは今日からここで戦わされるってなわけだ」
「あのさ。女の子なんだから、一人称が『俺』ってのはどうかと……」
「んな事知るかよ。誰が誰だかわかりゃいいんだろ?」
「でも兄さんの言う通りだよ?何だかんだ言って、男の人は可愛らしい女の子が好きなんだし」
「男に好かれたいからって素の自分を隠すなんてバカだろうがよ。俺を好きになってくれる奴がいたら万々歳で、いなければほっといたらいいだろうが」
「ま、まあね……」
久し振りに兄弟で仲良くすると思ってたら、なんかみんな妹に押されてるし。
「おい、アッシュ。その人らが前言ってた兄弟か?」
「うん。こっちが兄さんのデヴリンで、こっちが妹のマイリーだよ。……ほら、この子が前話した友達のデービス・アックスマンだよ」
「おう。デービスってーのか。よろしくな」
「こらこら。お前一等兵だろ?……すみませんね。うちの妹が失礼な事を言いまして。何せ、誰に対しても敬語は使わないなんていう厄介なポリシーがあるもんでして。僕は中尉のデヴリン・クロードと申します」
「は、はあ……」
「お二人は、この島は初めてですか?」
「俺は初めてだな」
「僕は二回目らしいですよ」
と、デービスが突然青ざめた。
「どうしたの?」
「いや……」
しかし、デービスの表情は晴れなかった。
「ちょっとこっち来い」
アッシュが首を傾げながらついて行く。
すると、彼はアッシュの耳元でこう囁く。
(……お前、帰還兵がどういう目に遭ってるのか知らねえのか?)
(ん?)
(――いや。知らないならいい)
そういうデービスの表情は、いかにも苦々しげであった。
(しかし、これから大変になるだろうな……)
夜の帳が降りた。
新入りの兄妹二人はアッシュらの部屋をあてがわれていた。
「――痛っ!」
「大丈夫ですか?」
「はい……」
さっきから、ずっとデヴリンが頭痛を訴えている。
「やっぱり医務室行こうよ」
「いや、島から一回帰ってきてからずっとだから」
「そんなら、片頭痛ってわけでもなさそうだな……」
「でもやっぱり行くべき――」
その時であった。
「――デービス・アックスマン攻撃……了解致しました――」
デヴリンが機械音のように抑揚の全くない調子で呟く。
そして、
「ちょっと!兄さん何でナイフなんて取り出してんの!!?」
「――標的確認、任務開始します――」
再び機械音が聞こえたと思ったら、デヴリンが軍用ナイフを片手に真っすぐ突っ込んだ――デービスに向かって。
「くそっ!!発動しやがったか!!」
しかし、避けるには相手は速過ぎる。
ナイフは、真っすぐ左胸に向かって――
と、
「何やってんだ兄貴」
「ダメだよ。僕の友達刺しちゃ」
ナイフは止まっていた。
マイリーとアッシュに素手で止められていた。
デヴリンは振りほどこうと躍起になっているが、二人に押さえられている事もあってびくともしない。
「――まだ暴れる気満々だね。なら――」
アッシュは苦笑すると、デヴリンの頭目がけてハイキックを食らわせた。
彼は力無く倒れた。
「おかしいな。普通兄さんこんなんじゃ倒れないんだけどねえ」
「長旅で疲れているんだろう。……アッシュ。兄さんの耳をちょっと水に浸けてやってくれないか」
「?いいけど……」
早速洗面器に水を張って実践してみる。
「起きちゃわないかな?」
「いや、それより溺れさせやしないかを心配しろよ」
そんなこんな言ってるうちに、耳から何やら銀色の物が姿を現した。
「細長いね」
「いや、これ動いてねえか?」
やがて、その銀色の物体は、にゅるんと這い出してきた。
「うわっ!!これ生きてるよ!!」
それは、銀色の回虫のような生物であった。
アッシュは完全に怯え、デービスは冷や汗を流して凝視している。
が、マイリーはというと、
「おおっ!!研究材料発見!!」
言うや否や、銀色の回虫をピンセットで捕まえ、試験管に入れてゴム栓をした。
「何やってるんだあんた!!そいつは人間の脳に入り込んで洗脳すると言われている寄生虫だぞ!!」
「大丈夫だって。こう見えても俺スタンフォード大学の医学部行っててさ、そこで寄生虫の研究やってっから扱いは慣れてんだよ。ま、そんなわけでこいつも研究させてもらうぜ」
「あ、ああ……」
マイリーが、すごくたくましく見えた。
翌日、アッシュは久し振りにセリーヌに会った。
「久し振りね。元気だったかしら」
「まあまあです」
「そう?」
やはり3歳年下の癖にオコチャマな新兵にいかれてるようだ。
……ショタコン?
「どう?今日も私の家寄ってく?」
「……何もしないですか?」
「一応話中心だけど、分からないわ」
「……分からないんですか?」
「うん。でもちょっとくらい良いじゃない」
「べ、別に近くに女の人がいなくても――ってちょおおおおおおお!!!」
結局拉致られました(アッシュ終了のお知らせ)。
「もお~!僕姉と妹がいますけど女性には免疫無いんですからね!」
「じゃあ私が免疫つけたげる」
「……何てこったい……」
頭を抱えるアッシュ。
しかし、一方のセリーヌの表情は真剣そのものだった。
「――ねえ、アッシュ君」
「はい」
「貴方、『Olive Branch』って、知ってる?」
「ええ。噂だけは。えっと……確か打倒『平和省』を目指す反戦地下組織だとか……」
「そうよ。それじゃあ、彼らの中にどんな人間がいるか知ってる?」
そこで、彼の勘が作動する。
「もしかして、貴方――」
「そう――」
彼女は、窓の外を見やって口を開く。
「私も、組織の人間よ」
「……他にはどんな人が……」
「まず、カテリーナ・ブロンツァーノ、エルンスト・シュバルツシュミット」
「あの『Con Fuoco』のみんなも!?」
「ええ。マスターも協力者の一人よ。あと、協力者で言えば高野剛かしら。本名は石原だけど」
「え!?」
「それにヒューゴー・ヒースフィールド、グウェン・クロード」
「ヒューゴーさんに姉さんまで!」
「あと……ここまでバラすのは危険かしら……代表は、前任はジョシュア・クレイソン」
「クレイソンさん!?」
「――そして今はあの伝説的革命家、マーティン・アックスマンの実の息子、デービス・アックスマンよ」
「あのデービスが代表!!?」
偶然か必然か、彼の周りは『Olive Branch』のメンバーだらけだったのだ。
「私達としては、貴方にぜひ仲間になってほしいの。――組織設立の立役者の息子さんにね――」
「……父さんが、組織を?」
むしろ、取り締まる側だと思ってた。
「ええ。死因も、戦死じゃないの。戦争中に『平和省』のスパイに殺されたの」
全身に、熱いものが込み上げてくる。
「みんな、戦ってたんだ……」
「そうよ。みんな、平和を作るために戦ってたのよ」
自然と、口が動いた。
まるで、天啓のように。
「――僕も、戦いたい……」
――そして、歴史は静かに動き出した。
夜になり、アッシュと「ついて行っていいか?」と言ってきたマイリーは、セリーヌに連れられて『Olive Branch』の地下基地に向かった。
決して固まって歩いているように見えないように、しかし嗅覚で確実にセリーヌをとらえて。
やがて、彼女はバーの前で立ち止まった。
『Con Fuoco』だ。
「ここかあ……」
「とりあえず入りましょ」
いつも通り中に入る。
するとセリーヌはマスターに、
「オリンピック下さいますか?」
そんなカクテル売ってないはずなんだが……。
「ええ。どうぞ」
が、マスターは頷くと、天井のファンの電源を切り、逆に回した。
すると、ファンの裏側から階段が降りてきた。
意外にしっかりしてそうだ。
「ありがとう……さ、行くわよ」
セリーヌに導かれ、二人は階段を上がっていった。
ふと、上を見上げると、
「アッシュじゃねえか!!どうしてたんだ?」
「やあ。アッシュ君にマイリー君」
「アッシュー!!そこの可愛い子誰?」
『セリーヌさんお疲れ様です』
「アッシュにマイリーじゃない!」
ヒューゴー、クレイソン、カテリーナ、エルンスト、グウェンがたむろしていた。
セリーヌはクスリと笑う。
「二人も仲間に入りたいんだって」
あちこちから歓声が上がる。
と、
「アッシュ!?なぜここに……」
奥のドアが開き、デービスが現われた。
アッシュの表情はさらに明るくなった。
「デービス!仲間になりに来たよ!」
デービスは複雑そのものだった。
「そうか……あまり巻き込みたくはなかったんだが……でも、仲間になってくれて嬉しいよ……」
「うん!」
彼はあくまでもにっこりとしていた。
――後の運命など、知りもしないで。
深夜、アッシュとセリーヌは近くのレストランにいた。
「普通に下でいるのもいいけど、お酒は美味しいのに食べ物は全然置いてないからね」
「もう少し増やしてもいいと思うんですがねえ……」
アッシュはハンバーグを、セリーヌはミートスパゲッティをつつきながら二人っきり。
「そういえば、セリーヌというのは本名ですか?」
「そんなわけないじゃない。それは源氏名。本名はジャクリーヌ・オリヴィエよ。古臭いでしょ?」
「いえ。良い名前ですよ……」
女性と食事を共にするのは初めてなのか、アッシュはひそかに赤面していた。
「セリ……いえ、ジャクリーヌさん……」
「何?そんなに赤くなっちゃって」
「……意外によく食べますね……」
「なんだとー!!」
おお。人間の頬ってのはこんなに伸びる物なのか。
「いたたたた!!いやいや!!そんなに食べてどうして痩せてるのかっていう……いてっ!!」
「個人的には仕事柄むちっとしてた方がいいの!」
「顔で十分じゃないですかあ……」
「男ってのは欲張りな生き物なの!」
と、いきなり彼女はクスリと笑った。
「こういうの初めてね。ずっと、どうにも貴方私の事苦手そうにしてたじゃない」
「そうですか?」
「分かるわよ。貴方結構純粋だし。単純とも言えるけど」
「ひどいですよ~」
その時、彼は気付いた。
自分が、これまでに無い程心 昂っているという事を。
これが意味する事を、彼はまだ知らない。
何せ、彼が今まで見もしなかったものだから。
人の言葉を借りると――『恋』というものなのだから。
一応これで折り返し地点の話は終了しました。
ここから結構急な展開がガーっと続きますので悪しからず。
こんなにのほほんとしているのは今だけです。
今んとこ、続編の『鋼鉄花』のシナリオに力を注いでおります。
あと、もう一つそれのさらに続きに最終章があるんですが、それの設定はまだやっておりません。
……ラストのシナリオは出来上がったんだけどな……。




